普通の恋愛がしたいのに、人外美女としかマッチングが成立しない 作:てぃんだーまん
スペイン坂を歩き、ペンギン通りを抜け、そのまま北上して進む。すると遠くに、ケヤキ並木が見え始めた。
「あら、綺麗……!」
「いいですよね。春の今は真緑ですけど、秋になると紅葉したり、冬になるとイルミネーションでライトアップされて、また違った美しさが見られるんですよ」
「そのすべてを、一緒に見られるといいですね」
そう言って彼女は再び、僕の手をそっと握る。花の茎のように細く、しなやかな指の感触が伝わる。
恋愛に疎い僕でもわかるほど、脈アリの反応すぎて辛い。いいのか? こちとら免疫がなくて惚れっぽいんだぞ? 覚悟は出来ているのか?
「あぅ、ちょ、ちょっとお手洗い行ってきてもいいですか!?」
「ええ、おまちしておりますね」
公園に入ってすぐ、逃げるように僕はトイレに向かった。誓って、疚しい何かがあったわけではない。ただひたすらに、感情のオーバーヒートに耐えられなくなっただけである。覚悟ができていないのは僕だった。
用を足して手を洗って、水の冷たさに彼女の手の温度を思い出してドキッとして、それから元の場所に戻ると、彼女の姿が消えていた。
「……氷華さん?」
彼女もお手洗いに行ったのだろうか? しかし先程までの律儀な様子を見るに、そうであれば一言伝えそうなものだ。周囲をうろうろぐるぐると回って、声をかけても返事はなくて、途方に暮れながら公園の入口まで戻ると、すぐ側の路地裏に彼女の銀髪が見えた。
「氷華さ──」
「オネーサン、わざわざ裏路地に着いてきてくれるってことは、そういうことでいいんだよなァ?」
「なっ……」
漏れ聞こえてきた男の声に、思わず壁際に身を隠す。氷華さんを囲むようにして、ガラの悪そうな男たちが数名立っていた。
「巫山戯たことを。そんなはずがないでしょう。貴様らのような下衆に纏わりつかれる姿を、あの方に見せたくなかっただけです」
微かに聞こえてくる会話から見るに、氷華さん自身が望んだ邂逅ではないようである。それならば助けに入りたい──ものの、人数差的に勝ちの目は薄い。通報するか? いやでもそれはダサくないか? いやいや彼女の安全こそが一番だろうが、などと胸中でせめぎ合っている間に状況が動いた。
「舐めたこと抜かしやがって……ッ! 上玉だから優しく遊んで終わらそうかと思ったが、もうどうでもいい。おい、攫って沈めるぞ」
「ちょ──」
話の流れがとてつもなくやばい方向に向かっている。パリピの街・渋谷の治安の悪さを舐めていた。通報などと悠長なことを言っている場合じゃない、今すぐ叫ぶなり何なりして助けを求めなければ──そんな思いは、後頭部に感じた強い衝撃で無に帰した。
「ぐっ……!」
「何覗いてんだよ、見せモンじゃねェぞ?」
目頭が熱くなって、スパークが走るように視界がチカチカする。仰向けに倒れ込むと、人相の悪い男がこちらを見下ろしていた。手に持っているバットは、先端が少し赤くなっている。
「し──獅子雄さん!?」
「なんだ、テメエの男かよ。彼女の前で情けねえなあ?」
「グエッ……!?」
鳩尾をサッカーボールみたいに蹴り上げられる。身体の空気が無理矢理排出させられて、肺が潰れたようにうまく呼吸ができない。
そんな苦しい中でも、こんな異常な状況でも、痛みや苦しさより先に、涼しい顔を動揺や恐怖に歪めた彼女の表情が目に入った。
「ちょうどいいから彼氏くんに眺めててもらおうか、彼女さんの晴れ姿をよォ!」
男の下卑た笑みとともに、その手が彼女の肢体へと伸びる。止めようと伸ばした腕は、虚空しか掴めない。
自分の無力さに泣きそうになった時──不意に、背筋が凍るような冷気を感じた。
それが男たちへの恐怖から来るものでないことは、すぐにわかった。なぜなら彼らの身体もガタガタと震えていたからだ。
「許さない──」
冷気の発生源は──氷華さん。春にも関わらず彼女の背後から、ビュービューと吹雪が吹き荒れてくる。気づけば氷華さんを囲んでいた男たちは皆直立したまま動かなくなり、雪に埋もれて見えなくなった。
そうして──僕は、彼女が人ではないことを知った。
「はっ……! 巻き込んですみません獅子雄さん、大丈夫でしたか?」
差し出された手を取り、支えられながら立ち上がる。まだ冷気が残っているのか、先程手を繋いだときよりもだいぶ冷たい。冷凍庫で冷やした氷みたいだ。
「ゲホッ……まだ痛みますけど、とりあえずは無事です。それよりも氷華さん、貴方は……?」
「おーおー、早速派手にやらかしたなまったく! 後処理するのオレなんだぞ!?」
聞き覚えのある声に思わず振り返る。
そこにいたのは、スラッとした高身長と、天狗かってくらい長い鼻がチャームポイントの見慣れた男。普段通りの調子がいい声音は、目の前の非現実的な光景と対照的で、己の耳を疑った。
「え……暁彦、だよね?」
「おう、お前の大学唯一無二の友達こと暁彦だぜ」
いつも通りの雰囲気の暁彦だが、状況が異常すぎる。何故かいつもと違って、神主みたいなきっちりとした和服だし、それにこの光景を見ても何ら動揺していない。
「それで正解だ」
暁彦は、淡々と
「改めて名乗らせてもらおうか。
「え、猿田彦神社の猿田彦神?」
「飲み込み早いな」
「や、全然飲み込めてないし微塵も信じてないけど」
「信じろや、オレとお前の仲だろ?」
「僕と君の仲だから信じられないんだけど」
一応一ヶ月近く友達をやってきたが、神様らしい要素を何一つ見てきていない。というか浮世離れしてないしめちゃくちゃ現代のノリだしで、普通の陽キャ大学生にしか見えていなかった。
「あー、それはそうだろ。大体の神は世の中に溶け込んでフラフラ生きてるし」
「え、そうなの!?」
「実際そこの氷華ちゃんも雪女だし」
「え、そうだったの!?」
「はい、実はそうなのです」
「それはこの惨状を作り出した辺りで察せや」
えへんと大きな胸を張る氷華さん。だがその背後には、彼女が作り出した巨大荒くれ者アイスが鎮座している。
「オレもなんか神様っぽいことしとこか?」
「いままでのイメージ壊したくないからいいよ。で、なんでその猿田彦神がここにやってきたワケ?」
「その答えは、マッチングアプリにある」
煙で普段通りの服装に戻って、暁彦はこほんと咳払いをした。たぶん長い話が始まるやつだな、と察した。
「そもそもオレって、導きとか、縁結びで有名な神なワケよ。数々の人々がうちの神社で縁を願って、そいつらの仲を適当に結んできたんだけど」
「うん」
「この度、妖怪とか天使とか悪魔とか、何なら神からも縁結びを頼まれて」
「はあ」
「で、オレは思いついたんだ……そうだ、マッチングアプリを作ろうって」
「え、これ君が作ってたの!?」
「ああ。だがオレへのいいねはサクラじゃないからな! 勘違いすんなよ!」
それは正直どうでもよかった。
「で、このアプリ。『愛愛マッチング♡』の紹介だけど」
「改めて聞くと名前ダサっ」
「お猿のアイアイと掛けた、いいネーミングだろ!?」
「アプリを入れた人外の中でも評判は悪いですね、ストアの評価もその一点で下がってます」
「おい! 『愛愛マッチング』を馬鹿にするなよ! 氷華ちゃんもコイツ故の機能に助けられただろうが!」
「そんな変な機能あったっけ?」
「
比較のためにアプリを開くことになった。起動画面を越えると、まずマッチング相手を探せる欄に飛び、そのタブの右にいくごとに『いいね欄』『メッセージ欄』『マイページ』と変遷していく。
「試しに彼女のマイページを覗いてみろ」
言われたとおりにすると、着物を着て微笑む、お見合い写真みたいな姿の氷華さんの写真がトップに出る。次いで丁寧な自己紹介文、趣味や好きなものなどの欄、交際相手に求めることなどがつらつら書かれている。まだあまり覗いていないからわからないものの、標準的なマッチングアプリのプロフィール欄ではなかろうか。
「それがコッチ側から見ると、こうなる」
氷華さんのスマホに表示されているのは、暁彦に撮ってもらった僕のスタイリッシュな横顔と、先程と同じようなプロフィール。だが一つ違うのは、その一番下に『▼詳細分析に飛ぶ』という見知らぬボタンがあることだった。
「……ナニコレ? 女性限定機能?」
「いや、人外限定機能」
タップすると、まず僕に向かって伸びる複数の名前と、デフォルメされた顔写真が出てくる。家族の名前があることから察するに、どうやら家系図らしい。ひいおじいちゃんの名前とか初めて知ったんだけど。
「四親等までの家系図と前前前世までの人間が見られる。課金してプレミアムコースに入ると家系図内からの絞り込み検索だとか、魂の転生履歴と前世の詳細だとか、魔力の量・質の詳細・信仰の有無・性癖辺りまで表示されるぜ」
「僕のプライバシーはどこ?」
「人権の尊重って、人同士の間でしか行われませんからね」
「外宇宙《クトゥルフ》の神々とかに比べれば余程マシだぜ」
まあアイツラもウチのアプリ入れてたけど、とゾッとする情報を吐いてから、暁彦は巨大荒くれ者アイスに触る。すると氷は一瞬で砕け、無事解凍されたチンピラたちが、肩で息をしながら「お、覚えてろ!!」と逃げていった。あんなことされたのに捨て台詞吐く度胸あるんだ。
「そこまでのアレコレはわかったけど、肝心要の暁彦がここに来た理由に繋がらなくない?」
「それはもう、確実に何かが起こると思って尾けてたからだな」
「氷華さんが疑われてた……ってこと?」
「いや、むしろお前。お前が何かのトラブルに巻き込まれると思って」
暁彦は、先程の詳細分析画面に飛ぶ。
「
「え、餌!?!?」
「お前の小学校時代から続くトラウマもそのせいだよ。周りに纏わりついてる人外の気が、周りの女の子を威圧してんの!」
アレはそのせいだったんだ……原因が自分じゃないことを喜びたい気持ちと、どうしようもない複雑な感情があるな。
「だからお前はめっちゃ狙われてるってワケ。いいねとか足跡とかすごかっただろ?」
「うん。やけに美人さんが多いし、やっぱりサクラとか多いんだなって思ってた」
「そんな中で私を選んでいただけた理由、聞いてもいいですか……?」
「えっと……気合の入り方的に、絶対サクラじゃないと思って……」
振袖にファーを巻いて高そうな椅子に座っている、ザ・お見合い写真みたいなプロフ画像が脳裏を過ぎる。氷華さんは喜んでいいのか複雑そうな反応だった。まあそれはそうか。
「一応マッチングアプリの利用規約的に、会員ではない人間を襲えないことと、マッチングが成立した人間にしかアプローチできないことは縛ってるんだけど、そんな口約束破るヤツもいないとは言えないからな」
ちゃんと法とか作って縛ろうと思ったんだけど思いのほか反対が多くて、と暁彦は頭を搔く。それ、破る気満々ですって宣言みたいなもんじゃん。
「だから一番ヤバそうなお前の周りに陣取ることにしたんだよ、感謝しろよ?」
「えー、嬉しいけど複雑だな……」
苦い顔をする僕を他所に、暁彦は現場付近の氷を溶かすなどして痕跡の隠滅を始めた。
「とりあえず一段落したし、オレはこの辺の後処理しとくからお前らはデートに戻ってていいぞ」
「もっとこう、神パワーで派手に原状回復とかじゃないんだ」
「ほっとけ。そういうのは疲れるし目立つから、この程度でいーんだよ」
後から追いつくわ、と手を振る暁彦。いや、ついてくるなよ。
精々気づかないレベルの尾行を続けていてほしい。それだけを願って、僕たちは本来の目的通り、代々木公園をとぼとぼ歩き始めた。
スペイン坂を歩き、ペンギン通りを抜け、そのまま北上して進む。すると遠くに、ケヤキ並木が見え始めた。
「あら、綺麗……!」
「いいですよね。春の今は真緑ですけど、秋になると紅葉したり、冬になるとイルミネーションでライトアップされて、また違った美しさが見られるんですよ」
「そのすべてを、一緒に見られるといいですね」
そう言って彼女は再び、僕の手をそっと握る。花の茎のように細く、しなやかな指の感触が伝わる。
恋愛に疎い僕でもわかるほど、脈アリの反応すぎて辛い。いいのか? こちとら免疫がなくて惚れっぽいんだぞ? 覚悟は出来ているのか?
「あぅ、ちょ、ちょっとお手洗い行ってきてもいいですか!?」
「ええ、おまちしておりますね」
公園に入ってすぐ、逃げるように僕はトイレに向かった。誓って、疚しい何かがあったわけではない。ただひたすらに、感情のオーバーヒートに耐えられなくなっただけである。覚悟ができていないのは僕だった。
用を足して手を洗って、水の冷たさに彼女の手の温度を思い出してドキッとして、それから元の場所に戻ると、彼女の姿が消えていた。
「……氷華さん?」
彼女もお手洗いに行ったのだろうか? しかし先程までの律儀な様子を見るに、そうであれば一言伝えそうなものだ。周囲をうろうろぐるぐると回って、声をかけても返事はなくて、途方に暮れながら公園の入口まで戻ると、すぐ側の路地裏に彼女の銀髪が見えた。
「氷華さ──」
「オネーサン、わざわざ裏路地に着いてきてくれるってことは、そういうことでいいんだよなァ?」
「なっ……」
漏れ聞こえてきた男の声に、思わず壁際に身を隠す。氷華さんを囲むようにして、ガラの悪そうな男たちが数名立っていた。
「巫山戯たことを。そんなはずがないでしょう。貴様らのような下衆に纏わりつかれる姿を、あの方に見せたくなかっただけです」
微かに聞こえてくる会話から見るに、氷華さん自身が望んだ邂逅ではないようである。それならば助けに入りたい──ものの、人数差的に勝ちの目は薄い。通報するか? いやでもそれはダサくないか? いやいや彼女の安全こそが一番だろうが、などと胸中でせめぎ合っている間に状況が動いた。
「舐めたこと抜かしやがって……ッ! 上玉だから優しく遊んで終わらそうかと思ったが、もうどうでもいい。おい、攫って沈めるぞ」
「ちょ──」
話の流れがとてつもなくやばい方向に向かっている。パリピの街・渋谷の治安の悪さを舐めていた。通報などと悠長なことを言っている場合じゃない、今すぐ叫ぶなり何なりして助けを求めなければ──そんな思いは、後頭部に感じた強い衝撃で無に帰した。
「ぐっ……!」
「何覗いてんだよ、見せモンじゃねェぞ?」
目頭が熱くなって、スパークが走るように視界がチカチカする。仰向けに倒れ込むと、人相の悪い男がこちらを見下ろしていた。手に持っているバットは、先端が少し赤くなっている。
「し──獅子雄さん!?」
「なんだ、テメエの男かよ。彼女の前で情けねえなあ?」
「グエッ……!?」
鳩尾をサッカーボールみたいに蹴り上げられる。身体の空気が無理矢理排出させられて、肺が潰れたようにうまく呼吸ができない。
そんな苦しい中でも、こんな異常な状況でも、痛みや苦しさより先に、涼しい顔を動揺や恐怖に歪めた彼女の表情が目に入った。
「ちょうどいいから彼氏くんに眺めててもらおうか、彼女さんの晴れ姿をよォ!」
男の下卑た笑みとともに、その手が彼女の肢体へと伸びる。止めようと伸ばした腕は、虚空しか掴めない。
自分の無力さに泣きそうになった時──不意に、背筋が凍るような冷気を感じた。
それが男たちへの恐怖から来るものでないことは、すぐにわかった。なぜなら彼らの身体もガタガタと震えていたからだ。
「許さない──」
冷気の発生源は──氷華さん。春にも関わらず彼女の背後から、ビュービューと吹雪が吹き荒れてくる。気づけば氷華さんを囲んでいた男たちは皆直立したまま動かなくなり、雪に埋もれて見えなくなった。
そうして──僕は、彼女が人ではないことを知った。
「はっ……! 巻き込んですみません獅子雄さん、大丈夫でしたか?」
差し出された手を取り、支えられながら立ち上がる。まだ冷気が残っているのか、先程手を繋いだときよりもだいぶ冷たい。冷凍庫で冷やした氷みたいだ。
「ゲホッ……まだ痛みますけど、とりあえずは無事です。それよりも氷華さん、貴方は……?」
「おーおー、早速派手にやらかしたなまったく! 後処理するのオレなんだぞ!?」
聞き覚えのある声に思わず振り返る。
そこにいたのは、スラッとした高身長と、天狗かってくらい長い鼻がチャームポイントの見慣れた男。普段通りの調子がいい声音は、目の前の非現実的な光景と対照的で、己の耳を疑った。
「え……暁彦、だよね?」
「おう、お前の大学唯一無二の友達こと暁彦だぜ」
いつも通りの雰囲気の暁彦だが、状況が異常すぎる。何故かいつもと違って、神主みたいなきっちりとした和服だし、それにこの光景を見ても何ら動揺していない。
「それで正解だ」
暁彦は、淡々と
「改めて名乗らせてもらおうか。
「え、猿田彦神社の猿田彦神?」
「飲み込み早いな」
「や、全然飲み込めてないし微塵も信じてないけど」
「信じろや、オレとお前の仲だろ?」
「僕と君の仲だから信じられないんだけど」
一応一ヶ月近く友達をやってきたが、神様らしい要素を何一つ見てきていない。というか浮世離れしてないしめちゃくちゃ現代のノリだしで、普通の陽キャ大学生にしか見えていなかった。
「あー、それはそうだろ。大体の神は世の中に溶け込んでフラフラ生きてるし」
「え、そうなの!?」
「実際そこの氷華ちゃんも雪女だし」
「え、そうだったの!?」
「はい、実はそうなのです」
「それはこの惨状を作り出した辺りで察せや」
えへんと大きな胸を張る氷華さん。だがその背後には、彼女が作り出した巨大荒くれ者アイスが鎮座している。
「オレもなんか神様っぽいことしとこか?」
「いままでのイメージ壊したくないからいいよ。で、なんでその猿田彦神がここにやってきたワケ?」
「その答えは、マッチングアプリにある」
煙で普段通りの服装に戻って、暁彦はこほんと咳払いをした。たぶん長い話が始まるやつだな、と察した。
「そもそもオレって、導きとか、縁結びで有名な神なワケよ。数々の人々がうちの神社で縁を願って、そいつらの仲を適当に結んできたんだけど」
「うん」
「この度、妖怪とか天使とか悪魔とか、何なら神からも縁結びを頼まれて」
「はあ」
「で、オレは思いついたんだ……そうだ、マッチングアプリを作ろうって」
「え、これ君が作ってたの!?」
「ああ。だがオレへのいいねはサクラじゃないからな! 勘違いすんなよ!」
それは正直どうでもよかった。
「で、このアプリ。『愛愛マッチング♡』の紹介だけど」
「改めて聞くと名前ダサっ」
「お猿のアイアイと掛けた、いいネーミングだろ!?」
「アプリを入れた人外の中でも評判は悪いですね、ストアの評価もその一点で下がってます」
「おい! 『愛愛マッチング』を馬鹿にするなよ! 氷華ちゃんもコイツ故の機能に助けられただろうが!」
「そんな変な機能あったっけ?」
「
比較のためにアプリを開くことになった。起動画面を越えると、まずマッチング相手を探せる欄に飛び、そのタブの右にいくごとに『いいね欄』『メッセージ欄』『マイページ』と変遷していく。
「試しに彼女のマイページを覗いてみろ」
言われたとおりにすると、着物を着て微笑む、お見合い写真みたいな姿の氷華さんの写真がトップに出る。次いで丁寧な自己紹介文、趣味や好きなものなどの欄、交際相手に求めることなどがつらつら書かれている。まだあまり覗いていないからわからないものの、標準的なマッチングアプリのプロフィール欄ではなかろうか。
「それがコッチ側から見ると、こうなる」
氷華さんのスマホに表示されているのは、暁彦に撮ってもらった僕のスタイリッシュな横顔と、先程と同じようなプロフィール。だが一つ違うのは、その一番下に『▼詳細分析に飛ぶ』という見知らぬボタンがあることだった。
「……ナニコレ? 女性限定機能?」
「いや、人外限定機能」
タップすると、まず僕に向かって伸びる複数の名前と、デフォルメされた顔写真が出てくる。家族の名前があることから察するに、どうやら家系図らしい。ひいおじいちゃんの名前とか初めて知ったんだけど。
「四親等までの家系図と前前前世までの人間が見られる。課金してプレミアムコースに入ると家系図内からの絞り込み検索だとか、魂の転生履歴と前世の詳細だとか、魔力の量・質の詳細・信仰の有無・性癖辺りまで表示されるぜ」
「僕のプライバシーはどこ?」
「人権の尊重って、人同士の間でしか行われませんからね」
「外宇宙《クトゥルフ》の神々とかに比べれば余程マシだぜ」
まあアイツラもウチのアプリ入れてたけど、とゾッとする情報を吐いてから、暁彦は巨大荒くれ者アイスに触る。すると氷は一瞬で砕け、無事解凍されたチンピラたちが、肩で息をしながら「お、覚えてろ!!」と逃げていった。あんなことされたのに捨て台詞吐く度胸あるんだ。
「そこまでのアレコレはわかったけど、肝心要の暁彦がここに来た理由に繋がらなくない?」
「それはもう、確実に何かが起こると思って尾けてたからだな」
「氷華さんが疑われてた……ってこと?」
「いや、むしろお前。お前が何かのトラブルに巻き込まれると思って」
暁彦は、先程の詳細分析画面に飛ぶ。
「
「え、餌!?!?」
「お前の小学校時代から続くトラウマもそのせいだよ。周りに纏わりついてる人外の気が、周りの女の子を威圧してんの!」
アレはそのせいだったんだ……原因が自分じゃないことを喜びたい気持ちと、どうしようもない複雑な感情があるな。
「だからお前はめっちゃ狙われてるってワケ。いいねとか足跡とかすごかっただろ?」
「うん。やけに美人さんが多いし、やっぱりサクラとか多いんだなって思ってた」
「そんな中で私を選んでいただけた理由、聞いてもいいですか……?」
「えっと……気合の入り方的に、絶対サクラじゃないと思って……」
振袖にファーを巻いて高そうな椅子に座っている、ザ・お見合い写真みたいなプロフ画像が脳裏を過ぎる。氷華さんは喜んでいいのか複雑そうな反応だった。まあそれはそうか。
「一応マッチングアプリの利用規約的に、会員ではない人間を襲えないことと、マッチングが成立した人間にしかアプローチできないことは縛ってるんだけど、そんな口約束破るヤツもいないとは言えないからな」
ちゃんと法とか作って縛ろうと思ったんだけど思いのほか反対が多くて、と暁彦は頭を搔く。それ、破る気満々ですって宣言みたいなもんじゃん。
「だから一番ヤバそうなお前の周りに陣取ることにしたんだよ、感謝しろよ?」
「えー、嬉しいけど複雑だな……」
苦い顔をする僕を他所に、暁彦は現場付近の氷を溶かすなどして痕跡の隠滅を始めた。
「とりあえず一段落したし、オレはこの辺の後処理しとくからお前らはデートに戻ってていいぞ」
「もっとこう、神パワーで派手に原状回復とかじゃないんだ」
「ほっとけ。そういうのは疲れるし目立つから、この程度でいーんだよ」
後から追いつくわ、と手を振る暁彦。いや、ついてくるなよ。
精々気づかないレベルの尾行を続けていてほしい。それだけを願って、僕たちは本来の目的通り、代々木公園をとぼとぼ歩き始めた。