普通の恋愛がしたいのに、人外美女としかマッチングが成立しない 作:てぃんだーまん
「ワクワクしてきた、じゃないんだよな!!」
前日の自分を恨みながら、朝の支度を進める。
メッセージ始めて数時間で翌日会うアポって。手が早すぎる。氷華さんの時の慎重さは何処へ消えたんだ。
メッセージは楽しかったが、あの写真の人に会うと思うとだいぶ緊張する。結構気難しそうな文体だったし、僕自身人見知りだし。気まずくならないだろうか。
っていうか、服とかどうしよう。どういうのが好まれるんだ? 氷華さんの時はプロフの服そのままで行ったけど、ワンチャン『こいつこの服気に入りすぎじゃね?』とか『他に持ってないの?』と思われる恐れに気がついたので、そこに警戒心を抱いてしまう。
「……まあ、学生なのは分かってるはずだし多少カジュアルでも……」
選んだのは白い柄パーカー。ちょっと韓流っぽいヤツ。
カワイイ系のデザインだから、ラキさんにもウケがいい……といいが、たぶん彼女の好きなカワイイはキャラクター路線とかなので、成人男性の服を見たところでどうも思わないだろう。
*
「え、高校生?」
「この学生証が目に入らぬか」
教室の前で遭遇した暁彦と、そんなくだらないやり取りをして、出席を記録するカードリーダーに学生証を翳す。反応したのを確認してから、階段状の教室の後方に並んで座る。
「……やっぱり、ガキっぽく見える?」
「おう。俺が店員なら絶対年確する」
「パーカー、失敗だったか……」
「柄も悪ぃよ。中学生が好きなやつじゃん」
む、それは遺憾である。無数にプリントされた謎の英字や、ペンキぶちまけたみたいなカラフルなデザインはいいセンスだろう、普通に。
「まあ好きならいいけどさあ……その服でアプリの人と会ったりしないよな?」
「ま、まさかそんな〜」
「会うのかよ」
嘆息した暁彦は、馴れた手つきでタブレットを操作する。
「新宿に18時、ね。となると家帰って着替える時間はないか」
「もしかして僕のメッセージ覗かれてる?」
「だってそれの開発者、俺だもん」
まったくもってプライバシーを侵害する理由にはなっていないが。
「今日は俺忙しくて着いていけないから、くれぐれもトラブらないよう気をつけろよ?」
「いや、そもそも着いてくるなよ。保護者か!」
「デートに着いてくる保護者、嫌だろ」
ちょっとズレた返しだった。それはその通りだったが、後ろから着いてくる友人も大概嫌だった。
「でもマジで気をつけろよ。いま新宿、治安悪いから」
「え、そうなの? 大体いつも悪いイメージあるけど」
「
「あんまりありがたみのないエンカウントだなあ」
普段からこうやって会っているので。暁彦も「そりゃそうだ」と肩を竦める。
「まあ上手くいくことを祈ってるぜ」
「うん、ありがとう」
一拍間を置いて、暁彦は教卓を見遣る。
「何を選んでも、後悔のないようにな」
「……それって、どういう」
言葉を遮るように、予鈴が鳴る。「よーし、寝溜めしようかな!」と白昼堂々机に伏せ始めた友人を見て、意味深なこと言うなよな、と嘆息した。
*
ということで、やってきたのは新宿。乗換駅なので来ることには慣れているが、降りて歩き回るのはレアかもしれない。
俗に言う新宿駅ダンジョンに翻弄されないよう、賢い僕は目についた適当な改札から降りて、地上に上がり、〈とりあえず新宿に着きました! 〉とメッセージを送る。送られてきたのはマップの座標。
「どんな店なんだろうな……」
折角ならサプライズ的に楽しもうと、調べずにそのまま進む。
あと本音を言えば、もしパーカーで入れないタイプの店だった場合、言い訳して逃げ帰る恐れがあるので。
「大人っぽい居酒屋とか……?」
新宿といえば大人の街というイメージがある。学生街っぽい渋谷は池袋と比べて、百貨店だとか高級ブランドのお店が立ち並んでて、品のいい人たちや華やかな方々が多い感じ。実際、いまのところすれ違うのは仕事帰りらしいスーツの集団だとか、コスメでも買いに来ただろうお姉さんたちが多かった。
「……ん?」
青い鳥がトレードマークのディスカウントストアを横切った辺りで、何だか空気が変わったことに気づいて顔を上げる。
そこにあるのは煌びやかな夜の世界。正面を向けば店を飾り付けるネオンが輝き、スーツの客引きの脇を、派手な格好の男女が横切っていく。
「もしかして……」
一歩後ろに引いて、頭上の看板を見上げる。そこには『歌舞伎町一番街』の文字がでかでかと刻まれていた。
「初めて来たなあ……」
ずっと東京住みだけど、歌舞伎町には怖いイメージがあったので一度も来たことがなかった。なんか、こう、すぐ攫われそうだし。
ただ、ゲームの中でなら何度も来たことがあるので、地理の予習だけならバッチリである。客引きと観光客の合間を縫うようにすいすい進んで、待ち合わせ場所──店のある場所へ向かう。
キャバ嬢とかホストっぽい人々を見ると、自分が浮いていないか段々不安になってくるな。なんか、めちゃくちゃ視線を感じるし。明らかに客っぽくない見た目だからか?
「ちょっと早く着きすぎたかな」
待ち合わせのビルの前で立ってキョロキョロとしていると、角を曲がった長髪の紅髪が見えた。派手髪が目立たない歌舞伎町においても、彼女の存在は際立っている。
2メートルはあろう長身。高そうな毛皮のショールと、漆黒の長羽織、品と風格を感じさせる豪奢な着物。手足はスラリと伸びていて、スタイルは抜群。特に目を引くのは右目の眼帯と、鋭くこちらを射抜く左眼。
間違いなく美人だというのに『ジロジロ見るな』と視線が語っているせいか、道行く人々はチラりと一瞥して道を空けていく。僕もそうしたかったが、蛇に睨まれた蛙よろしく、一歩も動けなかった──恐ろしさ故か、美しさ故かはわからなかった。
いや、明らかにこっち見てるから目を逸らしづらかったのが一番かも。
「貴様が獅子雄か?」
「ひっ」
情けない声が漏れた。何故ならお姉さんは明らかに僕のことを睨んでいて、鼓膜を震わすハスキーボイスは心なしか怒気を孕んでいたから。
「すまない、野暮用が伸びてしまってな。少し遅れた」
「あっ、いえ全然大丈夫です!! まじでいくらでも待てるんで!!」
オーバーな身振り手振りで否定する。威圧感と丁寧な物腰の落差で、脳がバグっていた。
「えっと、ラキさんで合ってます……よね?」
「ああ。今日は、よろしく頼む」
小さく一礼したラキさんに釣られて、僕も頭を下げた。なんだか武人然とした、綺麗で隙のない動きだと思った。
「では参ろうか」
「は、はい」
話しながら、ビルのエレベーターに乗り込む。階層表示の下に見える各店舗のアイコンは、どれも怪しげか高級そうかの二択であり、めちゃくちゃ怖くなってきた。