普通の恋愛がしたいのに、人外美女としかマッチングが成立しない 作:てぃんだーまん
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「歌舞伎町ってやっぱり怖いですね、早いところこの場を離れましょうか──」
なんて言い掛けたところでようやく、スキンヘッドの視線がこちらに向いていることに気づいた。
「副組長ォ!」
それどころか、めちゃくちゃ叫んできた。
「フククミチョウ……? 隣町の地名か何かだろうか。さて、今日は世話になったな。ああいう恐ろしい輩もいるから、本当に気をつけて帰るんだぞ」
「副組長! お休みのところに押し掛けて大変申し訳ございやせん、ですがこちらも緊急事態でして──」
「人違いだ」
ヒ、と黒服が掠れるような悲鳴を漏らした。隣にいる僕でさえ、シンプルに漏らしそうな圧がラキさんから発されており、それはつまるところ、実質答え合わせみたいなものだった。
「お知り合い……なんですか?」
「知らない人だ」
「いや、隠さなくていいですよ。なんかみなさん困ってそうですし」
大の男数十名があたふたしている様子を見ると、最早見た目の威圧感は飾りになってしまい、不憫の感すら漂っていた。
「で、えーっと……みなさんは何の団体で、彼女は何者なんですか?」
「ハイ! 自分たちは弧鬼抓(こぎつね)組の構成員で、そちらのお方は副組長です!」
「くっ……! 貴様ら、後で覚悟しておけよ……ッ!」
「「「ヒイッ!?!?」」」
「あの、ラキさん。怖いのであまり威圧しないでもらえると……」
「う、面目ない……」
それに話が進まないので。
「ウチは歌舞伎町を根城に活動してるんですが、敵対勢力である
「めっちゃ大事(おおごと)じゃないですか!」
「ただ、お互いまだ死人は出てないんで、ある程度のところで引けるのが理想なんです。そのためには、何としてでも副組長であるラキのアネゴの力が必要でして」
「ラキさん、すごい人だったんですね……」
「すまない、隠していて……」と申し訳なさそうなラキさんに、「言いたくないのもわかりますし、そんなに気にしなくても……」とフォローする。実際、わざわざ言う必要はなかったし、そこに非はない。
「極道の副組長など、かわいさとは対局の存在だからな……」
「それはそうですが、そこですか?」
世間体とかの話かと思った。いや、世間的に見てかわいくないのも間違いないけど。
「まあとにかく、別に責めてるわけじゃないですから大丈夫ですよ。じゃ、お取り込み中みたいですし、僕はこの辺で失礼しますね──」
「待ってくだせえアニキ!」
「まさかとは思いますが、それは僕のことですか?」
にじりよってきたスキンヘッドを含め、ぶんぶん、と黒服たちが頷く。
「ラキのアネゴと一緒にいらっしゃった以上、アニキも危険です。店に入る時にツラは割れてるんで、一人になられると拐われるかも……」
「えっ!?」
「電車やタクシーじゃ足がつくんで、ウチの者が車で送らせて頂きやす」
「──駄目だ」
スキンヘッドの言葉に、ラキさんが小さく首を振った。
「車でも尾行の恐れはある上、獅子雄を守り切れるほどの人員を割く余裕はない。私と関わったせいで危険になるというなら──私が、責任を持って貴様を守る」
「ええっ!?」
ギュッと強く、腕を組まれる。その柔らかで温かな感触にドキッとする間もなく、「ゆくぞ」と黒服を先導し始めたラキさんに連行されて行く。
「い、いや大丈夫なんで! そこまでしていただかなくても、自分の身は自分で守れるっていうか……! むしろこの方が絶対危ないっていうか……!」
「いいや、
凛とした物言いは、僕の中の乙女心をキュンと高鳴らせるには十分だったが、そう言われたところでむしろ恐怖が募るばかりだった。
「でもそれ、今はよくても離れた時やばくないですか? 人質としての価値を知らしめてるようなものですし……」
「……? 離れなければいいのだろう?」
腕の力が強くなる。こちらを見下ろす瞳が据わっている。あっ、これマジのやつだ。
「皆の者! これより輪堕貫組のシマへと進軍する! 死なない程度の報復を決行するぞ!」
「「「オオオオオオオ!!!!」」」
「おー……」
僕はヤケクソ気味に、唯一自由な右手を上げた。
す