普通の恋愛がしたいのに、人外美女としかマッチングが成立しない 作:てぃんだーまん
「し、死ぬかと思った……」
どうにか帰宅して、倒れ込むようにベッドに飛び込む。
ヤクザの抗争って、すごい。目の前で銃弾が飛び交ったり、雄々しい罵声や恫喝が飛び交ったり、映画みたいで笑うしかなかった。
「一番すごかったのはラキさんだけど……」
僕を傍らに置く分で腕一本分のハンデがあるというのに、それをものともしない、鬼神の如き活躍ぶりだった。途中、ラキさんだけでなく僕の方に凶刃が迫った時、ひょいと片腕で僕を抱き抱え、そのまま大立ち回りを繰り広げていたのにはもう、ビビった。
「色んな意味でドキドキしっぱなしだったよ……」
吊り橋効果みたいなアレは、ほとんどなかったけど。でも、ふとした密着とか、動いたときに香る甘い匂いにはしっかりドキドキした──ものの。
「いや、でもなあ……」
ラキさんはいい人だったし、話していて面白かった。でも、やはりお仕事がな……
*
「副組長というのも、形式上の呼び名のようなものでな。用心棒のようなものだ。組長に腕を見込まれて、有事の際だけ出向いているというのが実状だ。勿論、非合法な犯罪などには手を染めていない」
お互いに大量の負傷者を出し、死屍累々(死者はいないけど)といった様相の敵事務所を去った後の別れ際。朝日を背に、彼女はそう言っていた。
「
「え、今日のことですか?」
ああ、とラキさんは首肯した。てっきりこの抗争に僕が巻き込まれ、それによって無数の身体的接触に成功したことを棚ぼただと思ってる? と一瞬ひどい疑いを持ってしまったが、幸いそうではないらしかった。
「下の者の責任を取るという役割も、重要なのだな──さて、改めて先日は、部下たちが世話になった」
「……ん? えーっと、何のお話ですか?」
「先日、代々木公園で迷惑を掛けたと聞いたのだが」
「あ────ー!!」
あの時、僕を蹴り飛ばして氷華さんに凍らされていたヤンキーの人たちか。まさか、ラキさんの部下だったとは。
「正式には部下ではなく、配下と言った方が正しいか。極道も資金繰りが厳しいそうでな。ああいった半グレに名を貸して、上納金を得ているのだが……頭に乗る馬鹿も出てくる、というわけだ。その節は申し訳なかったな」
「いえ、まあ喧嘩両成敗と言いますか、向こうも十分食らってましたから……」
なるほど。それでラキさんは僕にいいねを送ってきたのか。最初のメッセージもナンパの言葉とかじゃなくて、しっかり理由があったとは……それにしては言葉足らず過ぎるけど……
「でも、わざわざアプリを経由するとは。僕とマッチングするとも限らなかったですよね?」
「郷にいっては郷に従え、だ。私も人外である以上、コミュニケーションを取るのはあのアプリしかなかったし、マッチングしなければそれまでだとも思っていた。そも──恋人がいる相手に、粉をかけるのもよろしくないだろう」
「あっ……いや、別に僕と氷華さんは、まだ恋人とかではないです」
「……何?」
そこを勘違いしているとは思わなかった。でもそうか、ヤンキーの人たちから事情を聞いていたならそう思って当然か。
「そうか……そうなのか……」
考え込むように、ラキさんは顎に手を当てた。
「ふむ……たしかに、形式に則って会おうと思っていたのは事実だ。だが、それだけではなく……良き人がいれば巡り会いたいと、そう思っていたのも確かだ」
それは──ダイレクトな、告白だった。
「私は、貴様ともっと一緒にいたいと考えている──すぐに答えを出せとは言わない。だが、よければ考えてほしい」
彼女と別れ、疲れを引きずりながら帰っている時も──別れ際の柔らかな笑顔と言葉が、頭から離れなかった。
*
「嬉しいけど、結局仕事がネックすぎる!!」
危ないし。反社だし。
雇われとは言っていたから、もしかしたら転職の可能性もあるのかもしれないけど、流石に昨日の今日でそこを要求するのは重すぎだろう。僕側にそこまでの覚悟がないし。
話は合っていたけど、まだ打ち解けきれてないし判断材料が少なすぎる。とりあえず保留にするしかない。
「氷華さんのメッセージも、一日返してなかったな……」
デートの誘いって、意外と返信しづらい。受けるにせよ受けないにせよ、相手に良い印象を持たせようと背伸びした文面を考えると、毎回手が止まってしまう。
「まあ……今日はいいか……」
本日は二限から講義があるが、抗争を終え、もうそんな体力などなかった。
初めての自主休講というやつを謳歌しようと、僕は意識を手放した。