環いろはになっちゃった人の話   作:憑依大好き侍

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【前回のあらすじ】
・クロスボウなんて飾りですよ。偉い人にはそれがわからんのです!



まるさん

 

 

 

 こんにちは諸君、ハイパープリティーな魔法少女、環いろはよ!

 今日も月に変わって魔女を成敗成敗!

 

 なんやかんやで魔法少女になって2ヶ月が経った。脳内マミパイセンの甲斐あって、ケープブレード(仮称)の練度もそれなりになってきたと思う。

 駄菓子菓子、ここにきて新たな問題が発生。

 

 街に!魔女が!どこにも!いねぇ!ドンッ!!

 

 ヌ、ヌンデ…

 こんなの絶対おかしいよ!私はただ毎日魔法の実験台にしながら嬉々として魔女を殲滅してただけなのに!

 いや本当、マジでいないんだよね。丸一日街中這いずり回っても奴らの残穢すら見つからん。どうしてなんだろうねー。

 

 …はいまぁ、私のせいですよね多分。

 というのも、ここ最近の私の魔女殲滅ペースは結構なものだった。

 学業以外の時間を全て魔女退治に当てて、市内を駆けずり回り、舐めるように魔力感知で索敵、一日10体以上のモルm…、魔女を狩る日々。高まる魔力の練度。積み上がるグリーフシード。

 戦うたびに新しい発見と成長があるので、最近では魔女の気配を感じた瞬間に口角が上がるのを抑えられないくらいだ。昼夜問わず現れ、笑顔で魔女を狩り尽くす姿は魔女よりも魔女なことだったろう。

 

 で、その結果この辺りの魔女はすっかり私を恐れて近づかなくなってしまい、宝崎市は完全に魔女過疎化地域となってしまったというわけである。

 

 

 ………ま、まままま不味いノーネ!

 このままじゃ魔女化不可避ザウルス!

 

 いやグリーフシードには余裕はあるからしばらくは大丈夫なんだけど!それでもこのまま魔女が出なくなるのは不味い!

 日課にしてた魔女退治ができないというのも死活問題だ!私は生き残るために一刻も早く強くならなくてはならないというのに!

 具体的にはワルプルを一撃でノックアウトできるくらいには!

 

 ってゆーかんな建前どうでも良くて、私は魔女を狩りたい!!

 ここ2ヶ月ですっかり私の心は在りし日の不良時代に戻っちまってるんだ!!血に飢えてるんだよ私は!!バーサーカーいろはちゃんだぞ!!

 最近はもう発作的なアレで夜も眠れないんだからね…!こうなっちゃったのは貴女たち(魔女)のせいなんだから…、責任…とってよね…!

 

 ムッ!僅かに感じる魔女の気配!

 しかしこの方向と距離、おそらく隣街…。

 

 ヒャア!もう我慢できねぇ!餌を前に待てなんざできるかぁ!カチコミじゃあオラァ!

 この際ナワバリなんて知ったこっちゃねぇ!!どうせこっちに魔女が来なくなった分他に分散されてっだろ!オラッ、隣街到着!

 

 ムワアァ〜(濃密な魔女の気配)

 

 す、素晴らしい…!街中が魔女で溢れてやがる…!!

 これだよこれ!失われていたものが戻ってくる感覚がするよ!全く、食べ放題じゃないか!

 

 よし、手頃なやつから行くぜ!

 ダイナミックお邪魔します!!階層ぶち抜いてぇ!魔女発見!!

 

「えっ!?」

 

「だ、誰!?」

 

 ドーモ、マジョ=サン。イロハ・タマキデス。

 くらえぃ!魔女殲滅神剣奥義!ヘル・ウィッチ・スマッシャーッ!!

 

 説明しよう!ヘル・ウィッチ・スマッシャーとはケープをドリル状にして拳と共に敵の肉を抉り出すいろはの必殺技なのだ!

 

 魔女に風穴!!

 ン爆発!!

 イヤーッ!!

 

 はぁー、降り注ぐ魔女の血肉が私を癒している…!

 あ、グリーフシードだ。ラッキー。

 

「た、倒しちゃった…」

 

「あんなに私たち苦戦してたのに…」

 

 ん、おや、どうやら先客がいたようですな。

 ちわーっす。ちょっと隣町からお邪魔しちゃってまーす。超絶ぷりちーな環家長女グレートマジカル☆いろはちゃんだよー。獲物横取りしてごめんねー。

 

「い、いえ、私たちも危なかったですし助かりました…」

 

「ホントありがとー!」

 

 ほむ、元気っ子と真面目っ子のペアチームかぁ。歳は私と同じくらいかな?

 なんていうか2人とも、こう、ぴこぴこしててワドルディ的な可愛さがある。つい甘やかしたくなっちゃうっていうか、老婆心がくすぐられるっていうか…。

 ほーら、グリーフシードだえ。仲良く使うんだよ。

 

「わぁ、やったぁ!ちょうど穢れが溜まってたんだよねー!」

 

「す、すみません何から何まで…」

 

 ええんやで。

 それに謝るのこっちだしね!ほら私って余所者だし、横取りもしちゃったし。

 

「気にしませんよ。それに今の状況は私たちの手にも余っていて…」

 

「あのねあのね!最近この街すっごく魔女増えててね!この辺の魔法少女だけじゃ全然追いついてないの!」

 

 うーむ、これは完全に宝崎の過疎化の皺寄せがきてますね…。

 この調子じゃ他の隣接してる街も似たような感じじゃないかな?オイオイオイ、バイキング祭りじゃないか!やったね!

 こうしちゃいられん!次の魔女殲滅に行くわよ!私のフードが血に飢えてるんでな!

 

「あ、待ってください!その、良ければなんですけど…」

 

「一緒に魔女退治しよー!人手多い方がいいでしょー?」

 

 え、ホント?

 キャーッ!初めて他の魔法少女からお誘いされちゃったー!どうしよー!

 ていうかなんだかんだで、他の魔法少女と会って会話するのも今回が初めてだわ。

 ホント宝崎魔法少女いなさすぎ!

 キュゥべぇちゃんと仕事しろ。いややっぱりするな。

 

「やったー!じゃあ今日から私たち一緒のチームだね!」

 

「こら!一応この人は他所の魔法少女なんですから、そんな軽率に…」

 

 おっけーね!じゃあ早速行こう!

 

「いや軽い!一応私たち他所の魔法少女ですよ!良いんですか!?」

 

 いやむしろ許可もらうの私の方だし。そっちが良いなら私は全然大丈夫だよん。

 

「いやそれはそうですけど…」

 

 よし!そうと決まればGOだ!魔女は待ってくれないからね!

 できればタフな魔女がいいなー。まだまだ試したい必殺技があるんだから!

 

「なんでこの人魔女退治でこんなにテンション高いんでしょうか…」

 

「面白い人だね!」

 

 そんなわけで丸一日かけて出てくる魔女を片っ端から血祭りに上げた。

 するとなんということでしょう。先ほどまで草むらから飛び出してくるポケモン並みにエンカウントしていた魔女たちが今やその気配のカケラすら感じないではありませんか。

 これが劇的ビフォーアフターですか。環境整備は気持ちいいゾイ!

 

「ひーっ、ひーっ、し、死ぬ…!もう無理…」

 

「動けないー」

 

 完全にグロッキーですね。

 まぁ無理もなし。魔女を撃退!グリーフシードで回復!これを十回くらい繰り返してたからね。穢れが取れてジェムが健康になっても疲労は取れないし。

 

「に、20以上は倒しましたよね…、初めてですよ一日でこんなに魔女を倒したのは…」

 

「殆どいろはちゃんが倒してたけどねー…」

 

 よし、じゃあそろそろ私帰ろっかな!この辺りじゃ暫くは魔女でないだろうしね。

 

 あ、あとはいこれ。グリーフシード。この街のやつだしあげるね。

 困ってた別の魔法少女たちに半分くらいあげちゃって数は減ったけど、それでもこの数なら何もしなかったら一年くらい持つんじゃないかな?

 

「えっ!いいんですか倒したのはいろはさんなのに…」

 

 いーのいーの!ぶっちゃけ今は手持ちには困ってないし、私としては魔女を殲滅できただけで大変満足!

 

「…変わってますね。魔女と戦うのが好きなんて」

 

 いずれワルプルギスを消し炭にするためには必要ですのでね!

 さーて、もう良い時間だし帰ろっかなー。今日はラーメンでも食べて帰るかー。

 

「ねーねーいろはちゃん!今日泊まっていかない?」

 

 んぇ?まぁ良いけど。どうせ家に今日親いないし。

 なーんかウチの親両親揃って出張行くこと多いんだよねー。1週間に一回顔合わせれればラッキーみたいなかんじ。

 全く、病気が治ったからって病院にいる我が妹に碌に顔を見せんとは何事か!許さんぞ。今度引きずってでも連れてってやる!

 でどこ泊まるの?2人の家?

 

「ああ、それは…」

 

「ふふーん、実は私は魔法で自分だけの秘密基地を作れちゃうのだ!そこに案内してあげる!」

 

 え、なにその超便利魔法。裏山なんですけど。

 

「本当は私たち2人しか入れないんだけど、いろはちゃんはチームになったから特別!はいこれ!」

 

 何これ鍵?

 まどマギらしくだいぶファンシーな見た目だ。キングダムハーツ思い出す。

 

「私の基地に入れる鍵だよー。これが仲間の証!これからよろしくね!いろはちゃん!」

 

 テッテレーン!野良魔法少女2人と仲間になった!

 

 …な、なんか図らずも同僚と仲良くなれたんすけど。

 というか冷静になって考えてみれば他の街に殴り込みで魔女狩りとか限界☆魔法少女☆バトル不可避な状況じゃん!

 在りし日の青春に夢中で完全に失念していた…!まどマギ世界においての魔法少女の死亡率は魔女なんかよりも魔法少女同士の諍いやら内ゲバやらの方が圧倒的に多いということを!

 

 でもこれで魔法少女コミュニティを結成することができた!宝崎に他の同僚がいないと知った時はどうしようかと思ったが、これで私の生存率は鰻登りのはず!

 あとはマミパイセンよろしく「何も怖くない!」状態にならないよう気をつければ良いだけ!慣れた時ほど油断しやすいもの。警戒せねば…

 

「ねーねーいろはちゃん!また後で戦い方とか色々教えてよー。私たち契約してからそんなに時間経ってないからわかんないこと多いんだよねー!」

 

「…その、できれば私も。チームになる以上、足手纏いにはなりたくないので」

 

 もーしょうがないなー!そんなに頼んじゃうなら仕方ない!いろはお姉ちゃん頑張っちゃうぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらこっちよ!」

 

 魔女の結界内を1人の少女が駆ける。

 それを追うように追従する魔女。結界内のオブジェがその巨体によって破壊され、次々と倒壊する。

 少女はそれを軽々と回避し、さらに奥へと突き進んでいく。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎ーーッ』

 

 魔女から無数の光が放たれる。光は結界内に当たると鏡に当たったかのように無数に反射し、空間を破壊していく。

 

「!」

 

 少女は手に持った大鎌を振るい、光の線を捌いていく。しかし徐々に対応が追いつかなくなる。

 

「ちょ、これ軌道が読めな…!」

 

 そうして体勢が崩れた瞬間、狙い澄ましたかのように一気に全方向から光の線が迫る。

 が、それらは全て少女に届く直前、無数の銃声と共に消しとばされた。

 

「げっ、チサト…!」

 

「げっとは何よ。別に感謝しろとは言わないけど、久々の魔女退治だからって勘が鈍ってるんじゃないの?亜里紗」

 

「う、うるさいわね!ちょっと躓いただけよ!そういうチサトこそ足引っ張ったら容赦しないんだから!」

 

「わかってるよっと!」

 

 同時に2人は飛び、魔女の攻撃を回避する。

 なかなか攻撃が当たらず魔女はご立腹だ。完全に2人を標的にして、無数の手足を動かしながら迫る。対する2人は魔女と距離を保ちながら結界の奥へ奥へと逃げていく。

 しかしそれは永遠には続かない。2人は結界の端にまで追い込まれる。

 

「っと、どん詰まりね」

 

『⬛︎⬛︎⬛︎ーーーッ!!』

 

「何よ、もしかして追い込んだと思って喜んでる?」

 

 無数の手足が2人に向けられる。この距離、この数。2人にこれを避け切る実力はない。

 

「残念、追い込まれたのはアンタの方よ!」

 

 2人だけならば。

 魔女の背後から影が飛び上がった。両腕をめいいっぱい振りかぶり、渾身の掌底を魔女の無防備な背中に叩き込む。

 

「てやぁ!」

 

 魔女の身体に衝撃が走る。

 身体の内部を丸ごとひっくり返されたような感覚に襲われ、魔女は思わず悶え苦しむ。

 

「よしっ!」

 

 大きなダメージを受けた魔女だったが、それでもまだ倒れない。

 魔女は最後の手段に出た。自身の身体を肥大化させ、蛙を思わせる大口から光が溢れる。

 自身も巻き込んだ無差別攻撃。これで周りにいる羽虫を全て焼き殺す算段だ。

 

「そうはさせないわ」

 

 ぐらり、と魔女の体勢が崩れる。うまく立ち上がれず、口内に溜めていたエネルギーも散っていく。

 毒?いや違う。力が乱れる。結界の1番奥にいる黄色い少女に意識を奪われて。

 

「この結界の隅に来た時点で私の魅了の魔法の範囲内よ。残念だったわね」

 

「ナイスよマツリ!ハルカ!」

 

 弱りきり、動くことができない魔女。これならば隙の大きな大きな一撃も確実に叩き込める。

 

 燃えるような強い魔力が辺りを支配する。

 何が起きるをかを察した魔女は、なけなしの力で行った手足による防御を取る。しかしそれらは千里の銃撃に全て撃ち抜かれ、あっさりと無力化された。

 

「これでも、喰らえッ!!」

 

 肉体を最大まで強化した亜里紗の必殺の一撃が魔女を真っ二つにした。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「みんなおつかれー」

 

「今回もラクショーだったわね!」

 

「囮役の時ちょっとヤバかったくせに。だから私も行こうかって言ったのにさ」

 

「あれは偶々よ偶々!本当ならあの程度の魔女アタシ1人ででも倒せたんだから!」

 

「泣いて撤退してくるのが目に見えるわね…」

 

「なんですってー!」

 

 顔を真っ赤にして怒る亜里紗を千里が適当にあしらう。それを茉莉と遥香が温かい顔で見ている。

 

「そんな調子じゃいつか足元掬われそうで私は不安だよ。最近はここも魔女が増えてきたし」

 

「そのせいなのかわからないけど、危ない噂も流れ始めてるもんね」

 

 噂?

 茉莉の言葉に亜里紗は疑問の声を漏らす。

 

「あー、なんか最近多いもんね不審死とか行方不明だとかみたいな話」

 

「不審死ってアレだよね、キリサキさん」

 

「そうそう、この辺りじゃまだ被害が出たって話は無いけど、遠くの街じゃかなりヤバいらしいわね」

 

「ええ、同じ手口で殺された被害者が何人もいる…。しかも狙われたのは少女ばかり」

 

 おまけに報道では被害者は皆一様に身体に巨大な刃物で切り裂かれたような跡があった。テレビの中の専門家は皆人力で出せる傷ではないと結論づけている。

 

 少女。人間離れ。殺人。

 4人もそれなりの期間魔法少女をやってきた身だ。何が起きたのかを推察するのは難しい話ではなかった。

 仮にこの周辺でも被害が起きた場合は自分たちも事を構える覚悟をしなければならない。そんな雰囲気を読み取ったのか千里が話題を変える。

 

「あともう一つあるでしょ。魔法少女の間で話題のやつ」

 

「え、何かあったっけ」

 

「あ、オルビスってやつでしょ〜?魔法少女の間じゃ知る人ぞ知る秘密組織」

 

「…私も、耳に入れたことはありますね。あくまで都市伝説という感じでしたが」

 

「知らないの私だけ!?」

 

 自分だけが知らないという状況に亜里紗は焦りを感じる。そういう疎外感を気にするお年頃なのだ。

 

「魔法少女を救済してくれる組織だそうです」

 

「救いを求めてる人の前に現れるんだよ。でも逆にそうじゃない魔法少女の前には現れないの」

 

「…ま、私らは見たことないけどね」

 

「…なにそれ、信憑性ゼロじゃん」

 

「そう、だから都市伝説。でも話題にしてる人は多い、不思議な存在よ」

 

 なにもわからない以上、これ以上話しようもない。彼女たちは世間話から解散ムードに変わっていく。

 

「じゃあ私帰るね。そろそろ塾だし」

 

「マツリも。今日友達の家に遊びにいくの。早くしないと電車に乗り遅れちゃう」

 

「私もこのあと習い事が…」

 

「なによ、みんなで打ち上げでもするかと思ったのに。…まぁ私も今日は早く帰れって言われてるんだけど」

 

 空が赤焼けになっていく中、少女たちはそれぞれ違う方向へと帰路へ就いていく。

 ここはホオズキ市。なんの変哲もない、普通に人がいて、普通に魔女がいて、普通に命懸けで魔法少女が戦っている。この世界では普遍的でありふれた街。

 

 

 

「……そういえばマツリって市外に友人なんていたかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 電車から降りてすぐにホームを飛び出し、街中を駆ける茉莉。

 帰宅ラッシュが落ち着いた路地を走り、一軒のカフェにたどり着く。中に入り、店員に予約票を見せる。するとそのままカフェの中にある個室へと案内された。

 扉を開けた先は、こじんまりとしながらも、整い清潔感のあるアンティークな一室だった。そして置かれたテーブルの向かいに座っている2人の少女。

 

「ま、間に合ったーっ」

 

「残念。3分遅刻ね」

 

 そう言葉を発したのは茉莉から見て右側の席にいる清楚な少女だった。

 クリーム色の髪をサイドテールで纏めた少女。その見惚れてしまいそうなほどの悠然とした高貴な佇まいは彼女の育ちの良さを考えさせられる。

 ただ一つ奇妙なことを言うのならば、隣にいる黒髪の少女をまるで愛犬のように膝上で撫でていることだろう。

 撫でられていた少女は茉莉の存在に気がつくと体を上げて茉莉を不快そうに睨みつけた。

 

「お前、織莉子と約束した時間に来ないなんて彼女を馬鹿にしてるのか?」

 

「そ、そんなことないよっ。ただ、みんなとの魔女退治がちょっと長引いちゃっただけで…」

 

「織莉子は大事な話があるってお前を呼び出したんだぞ。織莉子は忙しいんだ。最近は特に。なのにお前はこうして織莉子がわざわざ作った時間を無碍にするなんて、許せることじゃあ…!」

 

「落ち着きなさいキリカ」

 

「ん…」

 

 織莉子と呼ばれた少女はキリカの頭を優しく撫でる。すると先程までの激情に囚われかけていた表情は消え失せ、飼い主にたでられた犬のようにおとなしくなった。

 

「ごめんなさいね、うちのキリカが。さ、座ってちょうだい。今回は貴女に幾つか話しておかないといけないことがあるの」

 

「う、うん」

 

 催促され2人の向かいの席に座る。

 自分の目の前に置かれていたココアはまだ暖かい。

 

「まずは、今日は無理な呼び出しに応じてくれたことに感謝するわ。でも貴女にとっては大事な話になるから」

 

「そう言われてこないマツリはいないよ」

 

「ふふ、ありがとう。…さて、報告事項だけれど、小さいものから順番に話そうかしら」

 

「はいっ」

 

「まずは、今度うちに新人が入ることになったわ」

 

「えっ、本当!?」

 

「ええ、先日いつもの巡回帰りにあの人が連れて来たのよ」

 

「はえー…、それでどんな子だったの?いい子だった?」

 

「ええ。けれど魔法少女になってまだ日も浅いみたいでね、魔法少女として少し力不足は否めないわ。先ずは最低限戦える力を身につけてもらうところからかしら」

 

「ちょっと顔合わせたけど、来た頃のあんたそっくりだったよ。おどおどして何すれば良いのかわかんないって顔してた」

 

「な、なんか恥ずかしいね…」

 

「そこでお願いなのだけれど、あの子に戦い方を含めての教育をお願いしたいの。立場としても日向さんが1番彼女と接しやすいと思うの。構わないかしら」

 

「うん、マツリに任せてよ!ばっちり仲良くなってくるから!」

 

「ふふ、ありがとう。助かるわ。じゃあそれにあたって日向さん、貴女にもこれを渡しておくわね」

 

 そう言ってテーブルに置かれたのは銀の鍵だった。女の子らしい可愛らしい造形がとても印象的だ。

 

「あ、これっていつもキリカが使ってた鍵!」

 

「ええ、これを使えばあの場所に自由に出入りができるわ。指導の不便もこれで解消できるはずよ」

 

「えへへ、ありがとうオリコ」

 

「はぁ、これで私がわざわざ迎えに行く必要も無くなったってわけだ。せいせいするね」

 

「うん、キリカもこれまでありがとうね」

 

「ふん、全部織莉子とあの人のためだ」

 

 素直にお礼を言う茉莉と、表面上は悪態をつくがわずかな照れ臭さを滲ませているキリカ。案外この2人の相性は悪くないのかもしれない、

 そんな2人を横目に織莉子はテーブルにあるコーヒーを一口含むと次の話に移る。

 

「…さて次の話だけど、日向さん。貴女にとっては朗報よ」

 

「朗報?」

 

「貴女のお姉さんが見つかったわ」

 

 それを聞いた瞬間、茉莉の目の色が変わる。

 

「本当ッ!?」

 

「ええ。この人で間違い無いかしら」

 

 そうテーブルに置かれた写真には、紫の髪をした茉莉に瓜二つの少女が映っていた。

 

「…ッ、華々莉!」

 

「…どうやら本当に貴女の探しているお姉さんみたいね」

 

「今華々莉はどこにいるの!?」

 

 席に乗り出して織莉子に問う。

 長年探していた双子の姉。ようやく見つかった手がかりを逃すわけにはいかなかった。

 かつて無いほどに必死な彼女の目を見た織莉子は落ち着いてと茉莉を席に座らせる。

 

「…気持ちはわかるけれど、少し問題があってね。少なくとも大人しくついて来てくれる状態じゃないわ」

 

「それじゃあ、お姉ちゃんはやっぱり…」

 

 その言葉に対して織莉子は難しい表情を返すばかりだ。それは茉莉の姉が想像以上に厄介な存在であったことに対する複雑な感情でもあった。

 

「……詳しいことはまた別で話すわ。ただ貴女のお姉さんは今魔女と変わらない存在になっている。いつ被害が爆発的に増えてもおかしくないほどのね」

 

「……」

 

「魔法少女にも明確に被害が出ているわ。これ以上は正直目に余る。近いうちに手を打つつもりよ」

 

 手を打つ。織莉子がそう言った相手は無事で済んだ試しが無い。

 茉莉は反射的に声を上げた。

 

「だったら私がやる!!」

 

「…今の彼女は妄執と復讐心で動いている存在よ。最悪命を奪うことにもなるかもしれない。それでも良いの?」

 

「…ッ」

 

 その言葉に茉莉は一瞬言葉を詰める。

 

「それに相手もかなりの手だれよ。はっきり言って今の貴女では実力不足。大人しく待っていた方が賢明な選択と言えると思うけれど」

 

「……それでも、行くよ。お姉ちゃんには聞きたいことが山ほどあるんだから!!」

 

 織莉子と茉莉の視線が交わる。

 強い決意だった。元々彼女がここにいるのはまさにその話に出ている姉を探し出すため。この件は茉莉にとって決して譲れない点だった。

 

「…そう、決意は固いみたいね。ならそう話を通しておくわ」

 

「ありがとう〜オリコ〜!」

 

 強い緊張から解放された茉莉は決壊した感情のまま織莉子に抱きついた。織莉子は困ったような表情を浮かべる。真っ先に反応したのは当然キリカだった。

 

「コラ!織莉子にベタつくな!織莉子の服が汚れたらどうするつもりだ!」

 

「いいのよキリカ。…ほら日向さん、ココアでも飲んで落ち着いて」

 

「うん…」

 

 ずず…とココアを口に含む。

 優しく暖かい甘さが口に広がり、表情が柔らかくなる。

 

「うぅ…、ごめんなさいオリコ…」

 

「いいのよ。…さて、最後の話に移るけれど、その前に一つ質問よ」

 

 カップを手に持ちながら織莉子は話を進める。

 先程よりも少し張り詰めたような部屋の空気。何かが織莉子の中で切り替わったことを茉莉は察する。

 

「貴女は私たちの目的を覚えているかしら」

 

「…魔法少女をみんな救うこと、だよね」

 

「そう、あの人の理想を叶えること。それが最終目標」

 

 カチャリ、とカップを置く。

 

「私たちオルビスのね」

 

 美国織莉子。呉キリカ。日向茉莉。

 この場にいる3人は、都市伝説とばかり噂されている組織、『オルビス』の一員だ。教主たる環いろはに手を差し伸ばされ、希望を持ってその手を取った少女たち。

 故に彼女たちは教主が夢見る魔法少女にとっての楽園を探し出すことこそが至上命題なのだ。

 

「けれどその為にはコトワリを見つける必要があったわ」

 

「【円環の理】…だよね」

 

「ええ、けれどこの2年以上の調査でも私の魔法を除いてその存在を確認する術すら無い状態だった」

 

 これまでのオルビスはただ絶望しかけている魔法少女を助けるだけの組織だった。

 勿論それも必要な活動ではあるが、全ての魔法少女を救うと謳っている組織としてはあまりに慎まやしかだ。それに最終目標としている事に関しては組織結成以来一切進んでいない現状があった。

 

「けれど先日状況が変わったわ」

 

「変わった…?」

 

「私も聞いてないぞ織莉子」

 

「円環の理を観測したの。今度は私の魔法じゃない、実際にこの目でね」

 

 え、と茉莉とキリカの2人から抜けた声が出る。

 

「以前から調査を進めていた場所でね。前々から可能性は高い場所だった。けれどようやく足掛かりを掴んだわ」

 

「えっ!?本当!?本当に見つけたの!?コトワリ!」

 

「ええ。気になるなら今度プレイアデスたちに聞いてみなさい。彼女たちが持っていた映像機器にも記録が残っているはずよ」

 

「流石だ織莉子!これで私たちの楽園に一歩近づいた!きっと教主様も喜ぶ!!」

 

「うんうん!教主さん、ずっと探してたもんね!」

 

 目を輝かせ興奮する2人。

 当然と言える。手がかりは僅か。実在するかもわからないものを、織莉子含めたオルビスたちは探し当ててみせた。教主を慕う者として喜ばしくないわけがない。

 

「当然まだ問題もたくさんあるけれど、かの存在の実在を確認できたのはとても大きな一歩よ」

 

 織莉子は優しくカップの淵を指でなぞる。

 そう、焦る必要はない。今は円環の理の実在を確かめられた。それだけで十分だ。

 これでようやく自分たちの至上命題を果たすことができるのだから。

 

「コトワリを見つけた以上、私たちも本格的に動かなければならないわ。あの人の望みの通りに、魔法少女を楽園に導くためにも、私たちはその地に行かなければならないわ」

 

「その通りだよ織莉子!すぐ動こうすぐ行こう!!私はいつでも行ける!」

 

「あわわ、旅行の準備しなきゃ…!あと休学届けも…」

 

「全ての魔法少女は導かれる未来にあるわ。【円環の理】にね」

 

「そう!私たちの望んだ楽園はすぐそこにあるんだ!!私たちなら不可能はない!!」

 

「これでお姉ちゃんもホオズキ市のみんなも、楽園で幸せになれるんだね!」

 

「その通りよ。だから拠点も近いうちにそこへ移すわ。──かのコトワリがある地」

 

 

「神浜に」

 

 

 

 

 







環いろは(偽):マジョ=スレイヤーとしての素質を開花させつつある人。舐めるように魔女を探知してるうちに索敵能力がメキメキ伸びてる。アイサツはマホウショウジョのキホン!古事記にもそう書いてある!

モブ魔法少女A:通称エーコちゃん。真面目でしっかり者な11歳。魔法少女歴は3ヶ月。願い事はなくした宝物を見つけたい。

モブ魔法少女B:通称ビイコちゃん。純粋でなんでも感情的に表現する。ポジティブシンキング。魔法少女歴は半年。願いは自分だけの世界が欲しい。
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