進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……(リメイク版) 作:感謝君
夜の帳が降りた巨大樹の森は、昼間とは打って変わって重苦しい静寂と、どこか神聖な空気に包まれていた。
俺が用意した『焚き火』、といっても、十五メートルの俺に合わせて積み上げた、ちょっとした家一軒分はある巨大な薪の山が、パチパチとはぜる音を立てて夜空に火の粉を散らしている。
その炎に照らされて、青白く輝く俺の頑丈な皮膚と、地面にちょこんと座る小さなリーシェの影が、巨大な幹に長く伸びていた。
ふと、俺は胸の内にあった素朴な疑問を口にした。
「……リーシェ。君はどうして、わざわざ死に急ぐような『調査兵団』なんて場所を選んだんだ?」
重低音が静寂を揺らす。
百六十と少し程の彼女にとって、俺の問いかけは空の上から降ってくる天啓のような響きだったかもしれない。
リーシェは膝を抱え、揺らめく炎をじっと見つめながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私はね、壁の内側の……ごく普通の町で育ったわ」
彼女の瞳に、オレンジ色の火光が映り込む。
「親からも、先生からも、壁に囲まれていることが『平和』なんだって教えられてきた。この百年、人類は壁のおかげで安全なんだって。でも……どこかでずっと、喉の奥に小骨が刺さっているような違和感があったの」
彼女は一度言葉を切り、遠くを見つめるような目をした。
「そんなある日、壁外調査から帰還した調査兵団の隊列を、町の広場で見たことがあったの。……それはもう、凄惨なものだったわ。仲間を失い、血に汚れ、ボロボロになって……町の人たちは彼らを『税金の無駄遣い』とか『狂人』とか、そんな風に蔑んでいた」
「……」
「でも、私は気付いちゃったの。彼らの瞳には、壁の中でぬくぬくと『平和』を享受している人たちには絶対にない、何かが宿っていた。……死を間近にして、それでも何かに抗おうとする、鋭い光。それが……恐ろしいと思ったのと同時に、どうしようもなく『羨ましい』と思ってしまったの」
リーシェは自嘲気味に、でも誇らしげに口元を綻ばせた。
「与えられた偽物の平和に甘んじて死ぬより、自分の足で、自分の眼で、この世界の外側を見てみたい。そう思ったときには、もう入団届を出していたわ」
一拍置いて。
「……これまでの五年間、訓練も壁外調査も、文字通りの地獄だったわよ」
彼女は自分の細い腕を見つめた。
そこには兵士として生き抜いてきた証である、無数の微細な傷跡があるのだろう。
「何度も仲間を失って、何度も自分が巨人に喰われる夢を見て飛び起きた。でもね……。今、こうして『知性を持った巨人』と出会い、火を囲んで話をしているこの光景は、もしあの時私が『壁の中の平和』を選んでいたら、決して辿り着けなかった景色だわ」
リーシェは顔を上げ、十五メートルの俺の瞳を真っ直ぐに見上げた。そこにはもう、出会った時の絶望は微塵も残っていなかった。
「今なら、胸を張って言える。あの時の私の選択は、間違ってなかったって。ありがとう、アトラス。あなたのおかげで、私の五年間が報われた気がするわ」
「……そうか」
俺は短く答え、夜空を見上げた。
前世の記憶では、調査兵団の多くの兵士たちは、世界の真実を知る前に、報われることもなく巨人の胃袋に消えていった。
けれど今、目の前の一人の女性は、俺という『理外の存在』との遭遇を、自分の人生の肯定だと言ってくれた。
(……救いたいな)
改めて、その思いを強くする。
この残酷な世界に、これほどまでに真っ直ぐな意志を持った人間がいるのなら。
俺が二年間、肉体を破壊し続けて手に入れたこの規格外の力は、彼女のような人間が、壁の外の自由を本気で笑える未来を作るためにあるべきだ。
焚き火の温もりと、名付け親の温かい言葉。
巨人と一人の人間。そんな奇妙な組み合わせの夜は、静かに、けれど熱く更けていった。