進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……(リメイク版)   作:感謝君

61 / 61
第六十一話

 

 

駐屯兵団司令部、最上階に位置する司令官執務室。

 

 

重厚なマホガニーのデスクと、微かに漂う安酒の匂い。

 

 

本来ならば壁内防衛の要である厳格な空間のはずだが、現在この室内には、どう控えめに表現しても「奇妙」としか言いようがない、極限まで張り詰めた異常な空気が流れていた。

 

 

室内に立つのは、俺、リーシェ、エルヴィン団長。

 

 

そしてデスクの向こう側に座る駐屯兵団のトップ、ドット・ピクシス司令と、壁際に控える数名の屈強な護衛の駐屯兵たちだ。

 

 

俺は未だにあの恥ずかしいヴィクトリアン風メイド服を着せられたまま、リーシェに指を絡められ、恋人つなぎでしっかりホールドされている。

 

 

重苦しい沈黙を破り、まずはエルヴィン団長が一歩前へ出て、右手の拳を左胸に当てる完璧な敬礼と共に口を開いた。

 

 

「報告いたします。第二十二回壁外調査において、当兵団約三百名……死者、負傷者、行方不明者、共に0名。全軍、誰一人欠けることなく無事に帰還いたしました」

 

 

その報告が執務室に響いた瞬間。

 

 

「……は?」

 

 

壁際で直立不動の姿勢をとっていた護衛の駐屯兵たちが、軍規を忘れたように信じられないものを見る目で大きく目を見開いた。

 

 

無理もない。壁外調査において「死傷者ゼロ」など、人類が巨人に支配されてからの百年間、ただの一度も達成されたことのない完全なるお伽話だ。

 

 

彼らはエルヴィンが過労で狂ったのかと疑うような視線を向けている。

 

 

しかし、その歴史的な大偉業の報告を受けたピクシス司令は、驚くでもなく、手元のスキットルから酒をあおり、ひたすらに俺の全身。特に、メイド服の過剰なフリルによって強調された胸元の谷間を、エロオヤジ全開のねっとりとした目つきで凝視していた。

 

 

「ほう……それよりエルヴィン、そこの嬢ちゃんのおっp───」

 

 

ギチィィィィィィィィィッッ!!!!

 

 

ピクシス司令がその単語を最後まで発音する、コンマ一秒前のことだった。

 

 

俺の隣で、ただひたすらに機嫌良くニコニコと俺の指を握っていたリーシェから、凡そ「人間」という生物から発せられるとは思えない、絶対零度の『殺気の波動』が執務室全体を暴力的に包み込んだのだ。

 

 

「ヒッ……!?」

 

 

駐屯兵の何人かが、見えない巨大な手に喉を掴まれたように呻き声を上げ、膝から崩れ落ちそうになる。

 

 

心なしか、いや、気のせいではない。執務室の分厚い窓ガラスが、急激な気圧の変化と殺気の圧力に耐えかねて、ピシッ、ミシッ……と不気味な軋み音を立ててひび割れ始めた。

 

 

リーシェの顔は依然として微笑みを浮かべているが、そのアイスブルーの瞳の奥には、「次の一音でも発すれば、この部屋にいるすべての生命体を一瞬で肉塊に変える」という、確固たる破壊の意思が渦巻いていた。

 

 

(や、やめろリーシェ!! ピクシス司令は壁内南部の最高責任者だぞ!? ここで殺したら俺たちが反逆罪でお尋ね者になる!!)

 

 

俺は心の中で絶叫しながら、彼女の殺気を少しでも和らげようと、繋いでいる手をギュッと強く握り返し、すがるような上目遣いで彼女を見つめた。

 

 

一方、歴戦の将であるピクシス司令も、自身の踏み抜いた地雷が「壁内人類の滅亡」に直結するレベルの超弩級兵器であったことを、その老練な直感で即座に悟ったのだろう。

 

 

顔を紙のように真っ青にし、額から滝のような冷や汗を流しながら、彼は信じられない速度でスキットルをデスクに置き、わざとらしく「ゴホンッ!!」と大きな咳払いをした。

 

 

「……此度の快挙、誠に見事であった。駐屯兵団司令として、調査兵団の諸君に心から敬意を表する……!」

 

 

一切の冗談を排した、軍のトップに相応しいシリアスで威厳に満ちた表情。

 

 

数秒前までセクハラ発言をかまそうとしていたスケベ親父の面影は微塵もなく、ただ純粋に彼らの功績を褒め称える『名将ドット・ピクシス』がそこにいた。

 

 

見事なまでの手のひら返し、あるいは生存本能のなせる業である。

 

 

「…………ありがとうございます……」

 

 

背後で荒れ狂う歩く災害のプレッシャーと、胃を突き破らんばかりの激痛に耐えかね、気絶寸前になりながらも、エルヴィン団長は絞り出すような声で何とかそれに答えた。

 

 

彼からすれば、壁外の無垢の巨人などよりも、今のこの執務室の空気の方がよほど寿命が縮む思いだろう。

 

 

「して……エルヴィンよ」

 

 

ピクシス司令は、視線を絶対に俺の首から下へ向けないよう細心の注意を払いながら、話題を本題へと切り替えた。

 

 

「そちらの、ひときわ目を引く美しい嬢ちゃんは……壁外から連れ帰ってきたと聞いたが。それが此度の作戦の『真の目的』ということで相違ないか?」

 

 

「はい」

 

 

エルヴィン団長が頷く。

 

 

「彼女の存在は、人類の希望そのものです。しかし、壁内の戸籍を持たない彼女をこのまま王政府や憲兵団に見つかれば、無用な混乱と弾圧を招くことは明白。

……どうか司令のお力で、彼女の『身分』を保証していただきたい」

 

 

エルヴィン団長の言葉に、ピクシス司令は自身の禿頭を撫でながら思案顔になった。

 

 

本来であれば、素性も知れない、しかも明らかに異常な力を持つリーシェが溺愛している人間を壁内に匿うなど、反逆行為に等しい。

 

 

だが、ピクシス司令は生粋のギャンブラーであり、何よりこの異常な状況が壁内の硬直した体制を打ち破る「劇薬」になることを本能で嗅ぎ取っていた。

 

 

「……よかろう。儂が手を回して、適当な戸籍をでっち上げてやろう。ウォール・マリア南端の集落の身寄りのない無戸籍者……といったところか。憲兵団の詮索は儂がすべて撥ね退ける」

 

 

「恩に着ます、司令」

 

 

「それで、名前と素性はどうする? 誰かの親戚ということにした方が、手続き上は不自然ではないが……」

 

 

ピクシス司令の問いかけに、エルヴィンが口を開くより早く、俺の隣で殺気を完全に収めて花のように微笑んでいたリーシェが、弾むような声で即答した。

 

 

「私の『妹』です。名前は、アトラス・ベニア」

 

 

「……は?」

 

 

俺は思わず、すっとんきょうな声を漏らしてリーシェの横顔を見つめた。

 

 

「ちょっと、リーシェ……妹って……!」

 

 

(なんで急に家族の、それも妹のポジションに収められようとしてるの!?)

 

 

俺がパニックになりかけて抗議しようとすると、リーシェは繋いだ手をグイッと引き寄せ、俺の腰に腕を回して耳元で甘く囁いた。

 

 

「だって、夫婦の籍を入れるにはまだ手続きが面倒だし、教会も通さなきゃいけないでしょ? 妹として私の戸籍に入れちゃえば、誰にも文句を言われずに、ずっと同じ部屋で暮らせるじゃない」

 

 

「なっ……!?」

 

 

(同じ部屋で暮らす!? いや、森でもずっと一緒だったけど、壁内でそれやったら完全に俺の逃げ場がなくなるじゃねぇか!!)

 

 

「……というわけですので、司令。アトラスは私の大切な、本当に大切な『妹』です。手出しをする不届き者がいれば、憲兵団だろうが王族だろうが、私が相手の九族まで遡って一匹残らず解体しますので、その旨も併せて上層部にお伝えください」

 

 

極上の笑顔で放たれた、国家転覆すら辞さない恐るべき脅迫宣言。

 

 

ピクシス司令は再び額の汗を拭いながら、「あ、あぁ……承知した。ベニア班長の……妹、だな。手続きは至急進めさせよう」と引きつった笑みで頷くしかなかった。

 

 

こうして、俺の壁内における身分は、人類最強にして最凶の鬼神リーシェ・ベニアの『妹』という、誰一人として絶対に手出しができない最強にして最悪の不可侵領域へと固定されてしまったのである。

 

 

俺は、己の運命が彼女の掌の上で完全に絡め取られていくのを感じながら、ただメイド服のスカートの裾を力なく握りしめることしかできなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……(作者:感謝君)(原作:進撃の巨人)

信じられないと思うが聞いてくれ ▼俺は昨日までしがない大学生としてベッドに転がりながらいつも通り動画を見て惰眠を貪っていたんだ▼別にトラックに轢かれたとか、手違いで殺しちゃったから転生させるね!おじいさんにあった訳でもない▼気付けば俺はだだっ広い平原の真ん中で全裸で突っ立っていて▼鋼のような肉体に転生していたんだ▼……進撃の巨人の世界に……▼【リメイク版】…


総合評価:5923/評価:7.34/連載:258話/更新日時:2026年10月25日(日) 18:00 小説情報

転生したらTSメイドさんだった件(作者:砂入ばけつ)(原作:転生したらスライムだった件)

ごく普通の社会人、多田野名斗は通り魔に刺されて死んでしまう!しかし、目を覚ますとそこは仄暗い洞窟の中だった!▼体はメイド服を着た美少女になってるし、近くにいるのは謎のスライムだけ、一体どうなってしまうのか! ▼作者はアニメ勢です初投稿なので色々拙いですが微笑ましい目で見てください


総合評価:328/評価:7.5/連載:16話/更新日時:2026年08月06日(木) 05:16 小説情報

ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない(作者:なはた)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼フィジカルよわよわなTS銀髪魔法少女がクール系敵幹部を必死に装いながら魔法少女達と戦うお話。


総合評価:3811/評価:8.51/連載:15話/更新日時:2026年10月28日(水) 11:09 小説情報

【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】(作者:佐東)(原作:進撃の巨人)

目が覚めたら進撃の巨人世界で無垢の巨人になってた。▼「オ゙エ゙ア゙ア゙!ガオガオ!」▼(俺は敵じゃない!善良な巨人なんだ!)▼何とか人類の味方になったり人間に戻ったりしたい男の話。▼↓なんとなくのイメージ図を載せてみたり。▼【挿絵表示】▼心優しい化け物になる人外転生が好きなので自給自足しました。誰か書いてください。▼☆カニ・バ・リズム☆様からイオリのファンア…


総合評価:13079/評価:8.43/連載:40話/更新日時:2026年05月12日(火) 18:00 小説情報

個性図書館によるヒーローアカデミア(作者:ヨガマスター)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒロアカを見ながらLibrary of ruinaをやってたら死んだっぽい。▼そしたらなんかヒロアカの世界に転生した。▼しかも個性図書館。▼……どうしよ?▼ヒロアカ世界で図書館の機能を使えるように拡大解釈と強化が施されてるのでそこで無理になった人は素直に見るのをやめましょう。▼あと作者は割とヒロアカのにわかだから設定に矛盾があったらごめん▼ちなみに個性図書館…


総合評価:3282/評価:7.93/連載:33話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>