褪せ人 Ramo と Saki の物語   作:Skinny Slaver

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傭兵団『石の腕』の構成員二名がストームヴィル城の地下へと押し入った。団長 Gatz は友人 Ramo の助けを得て追跡を開始する。

Ramo を差し置いて Gatz が活躍する回。苦労人なので、こんな見せ場があってもいいかなと。



褪せ人 Ramo と誘う根

ガタのきた扉を押し開けると、霧が室内に流れ込んできた。冷えた空気を肌に感じながら外へ出る。白い紗を掛けられたかのような光景。その中で、疎らに設置された篝火の光だけが静かに揺らめいていた。

「また一段と冷え込んだな。」

断崖から吹き上がる風に運ばれた海霧に満たされた、壺村の朝。傭兵団『石の腕』の長である Gatz は、近付く足音を感じてそちらに目を向ける。霞を分けて歩いてきたのは魔術師 Ender だった。

「よかった。もう起きていらしたのですね。」

冷静沈着で通る彼のその顔に、かすかだが焦りの色が見える。何か厄介事が起きたな──と Gatz は直感した。

「どうした?」

意識してゆっくりと問いかける。ここで上役たる自分が慌ててみせても良い事はない。

「ケネス殿の遣いが来ました。我が団の構成員二名が、ストームヴィル城の地下に押し入ったそうです。」

なんだと!?──という怒声をぎりぎりのところで呑み込む。平静を保て。しかし鷹揚に構えていられる事態でもないようだ。

「すぐに行く。」

Gatz の言葉に、Ender は首を横に振る。

「もう帰られました。団長は直ちに参上せよとの仰せを置いて。」

「中で詳しく聞かせてくれ。」

頭の中で伝えるべき内容をまとめていると思しき Ender を伴い、Gatz は再び家の中へと入っていった。

 

事件発生は昨夜遅く。急ぎの伝言を携えているとして、二人の男がリエーニエ方面部隊の長に面会を求めてきたのだという。『石の団』は既に幾度かの作戦を経てストームヴィル軍からの信頼を得ているため、彼らはすぐに城内へ通された。案内に従い歩いていた彼らはしかし、「昇降機側の部屋」の前に差し掛かったところで突然武器を抜く。先導の兵と室内の見張りを倒し、奪った鍵で扉を開けて地下へと逃れたとのことだった。一滴の汗が、Gatz の額を伝い落ちる。

「まず確認したいんだが、──殺したのか?」

「襲われた兵たちは手当てを受けているとは聞きましたが、生死までは。」

これはかなり深刻だ。戦場でもないところで、しかも依頼者の身内に手を掛けたとなれば、重い懲罰ペナルティは免れない。何より、彼らの同僚や家族にどう顔向けすればよいのか。

「誰だ? そんなことを仕出かした大馬鹿野郎どもは。」

「事情を聞いて直ちに確認しました。Favner と Jack の姿がありません。」

Ender が上げた名を聞き、Gatz は深く溜息を吐く。

「やはりそうか。Jack はともかく、Favner については、話を聞いている段から既にあいつの顔が見えてたくらいだ。」

「十人が聞けば九人まではそう思うでしょう。」

「連中はまだ制圧されていないんだな?」

「地下へと姿を消し、戻ってくる気配はないとのこと。軍は兵を集めて地下への出入り口を固めているそうです。」

城は今なお厳戒態勢。出頭の途中で捕縛されるかもしれない。

 

「それで、連中の目的は何だ?」

その問いに、Ender は肩を竦めてみせた。

「皆目見当がつきません。聞き及ぶ限り、ストームヴィルの地下はゴドリックの代あるいはさらにそれ以前から封鎖されており、如何なる用途でも使われていなかったはずです。」

確かにな──と Gatz は思った。傭兵家業の習いで、彼は城や砦などの軍事施設に入ると無意識のうちにその構造を観察・推測してしまう。人や物が動くならば、誰が意図せずとも自然に動線が出来上がるものだ。まるで獣道のように。しかし、あの城には地下へのそれがなかった。そこへ Ender が口を挟む。

「これはまったくの憶測ですが、出入りしている女たちの中の誰かから斡旋されたのかも知れません。」

「それは──、あり得るな。」

『石の腕』の構成員は男に限られていた。導きから外れた褪せ人には女も多いので、ゆくゆくは受け入れの体制を整えていきたいと考えている。しかし、現状では男女混成の部隊などとても管理しきれない。とは言え、拠点から女性を完全に締め出すこともまた不可能だった。傭兵団を相手に商いをしようと女たちが引きも切らずに訪れるのだ。持ち込まれる商品は多岐に渡る。食料、酒、衣服といった物品に始まり、洗濯や繕い等のサービス、果ては──自分自身。とりわけ問題なのが、団を通さず個人に持ち込まれる依頼──多くは後ろ暗い、ときに非合法なもの──だった。規律が乱れるため厳しく取り締まってはいるものの、完全な排除には至らないのが実情だ。

 

「今それを考えても仕方ないか。とにかく、俺はすぐに城へ向かうよ。」

そう言って立ち上がった Gatz だったが、すぐに動きを止め Ender に向き直った。

「悪いが、Stenvar を呼んでくれないか。」

「お連れになるのですか? 同行なら私が。」

彼が訝しがるのも無理はない。Stenvar は腕利きの戦士ではあるが、交渉の場に伴うならば団の人員や資産についての具体的な数字を頭に入れている Ender の方が明らかに適任だ。

「そうじゃない。今日は先約があったんだが、この状況ではとても向かえそうにないんで、代行を頼もうと思ってな。」

そういえば、そんなことを仰っていましたね──と懐から取り出した帳面をめくりながら Ender が言う。

「いつもなら依頼の割り振りは私の仕事なのに、と不思議に思っていたところです。それほどに機密性の高い任務で?」

「いかにも、団長の最高機密である。いい女と待ち合わせだったんだが、ああ残念だ。」

呆れの表情を浮かべながらも同行を申し出た部下を押し留め、Gatz は一人、支度を始める。──ここは格好の付け処。責めを受けるのは総領だけでいい。

 

 

ストームヴィル城──城壁の塔。Ramo は調香師 Vienna に呼び出されてこの場所へと赴いていた。風に乗り輪を描いて飛ぶ鷹たちの影が時折通り過ぎていく。

「ローデイルで黄金樹の調査に専念しているものと思っていたが。」

「中間報告の提出を機に休暇を願い出た。こちらの診療所も気になっていたし。」

鴉羽色の髪をなびかせながら、Vienna は微笑んだ。経緯を承知した Ramo は、いまひとつの疑問の方を見遣る。

「魔術師殿もおいでとは。此度の用向き、一層に気に掛かかるな。」

水を向けられたのは濃紺のローブに身を包んだ瘦身の男。Secret Fire は Ramo と同じ褪せ人であるが、狭間の地を巡ることなく、ケネスに仕えてリムグレイブに腰を落ち着けていた。

「今回の調査では、こき使われたからな。顛末を見届けねば気が済まん。」

この二人が共同で取り組んでいるとなれば、余程に重要な事柄に違いない。その予測に違わず、Vienna はこの件は他言無用に願うと前置きしてから、本題を切り出した。曰く、黄金樹が汲み上げるルーンの量に減少が見られるという。

「承知のことかもしれないけれど、改めて。ここ狭間の地において、動植物の別なくすべての生命は、黄金樹が落とす葉からルーンを直接間接に摂取して活動している。そして生命が終わるとき、その肉体はルーンに還元され、黄金樹の根を通じて汲み上げられ、やがて再び葉として地上へと落とされる。この生命の循環機構こそがエルデンリングの主要な機能だと考えられる。」

そのため、エルデンリングの砕けはすべての生命に有害な変調を齎した。現在は半神デミゴットの一柱たるモーゴットがローデイル王としてこれを補っているため、周辺に住まう民の精神は一応の安定を取り戻したが、それとて未だ完全ではない。

「根が死者から吸い取ったルーンは長い時間をかけて幹の中を上昇し、樹幹へと至る。その途中で "神" による干渉を受けているようだけど詳細は不明。もしかしたら、幾らかは別の用途に割かれているのかもしれないけど、現時点でそれを知る術はない。」

「ルーンの減少とは、具体的に如何程のものか?」

そう問われ、彼女は隣の SecretFire に目を向ける。察するに、測定の実施は彼に負うところが大きかったようだ。魔術師は腕組みをして話し始めた。

「日や場所によって変動はあるが、平均およそ 0.06 パーセント。全体からすればごく僅かな割合でしかないが、元の流量が莫大なだけに、絶対量はとんでもない大きさになる。」

それに続けて Vienna が補足する。

「それだけのルーンが何に使われているのか、正直見当もつかない。人の身に貯め込むことなど到底できないほどの量。だけど、使い切れず放流すれば、すぐに黄金樹の根から回収されるはず。なのに、それは起きていない。」

つまり、莫大なルーンが何者かによって、そして何らかの目的を持って横流しされているということか。

 

「黄金樹が汲み上げるというルーンの量はどのようにして測ったのか。対象があれだけの大きさなれば、尋常な方法でないことは想像に難くないが。」

Ramo の問いに、SecretFire が口の橋を上げた。

「そこに気が回るとは、さすがだな。実はルーンが移動するとき、その方向と垂直な平面上に力場が形成される。だが、極微の効果であるため、通常我々が取り扱う規模のルーンでは観測にかからない。それこそ黄金樹、或いは各地にある小黄金樹が汲み上げるほどの量になって初めて測定可能となる。ちなみに力場の大きさは距離に反比例し、係数は──」

魔術師は早口で捲し立てるが、聞いている方の理解はまったく追いつかない。瞬きの量だけを徒に増やす Ramo を見かね、Vienna が割って入る。

「細かい理論は本筋じゃない。ざっくり言えば、幹の周りに特別な加工をした糸を巡らせて、そこに生じる力──俗に "聖属性" と呼ばれるエネルギーの量を測定する。黄金樹では大きすぎて囲むことはできないから、近くに置いた輪の、ルーン流に近い側と遠い側で差を見ている。この方法だと若干精度が落ちるのが悩み。」

説明を遮られ憮然としていた SecretFire だったが、すぐに気を取り直して先を引き取った。

「莫大なルーンを横取りしているのが何処の誰かは未だ知れないが、真っ当な動機でやっているのではあるまい。放っておけば取り返しのつかぬ事態に至る可能性は大きい。その前に手を打つ必要がある。」

それが真実とすれば、事はあまりにも重大。自分一人どころか、この三人の手にも余る問題だ。

「ケネス殿あるいはモーゴット殿には、既に相談を?」

訪ねられて、Vienna は困ったように眉を寄せる。

「動揺させてしまうのが怖くて、モーゴット殿には未だ話せていない。ケネス殿には、昨日。」

「彼は何と?」

SecretFire と視線を交わしてから、彼女は首を傾けつつ答えた。

「まずは貴方の意見を聞くように、と指示された。」

それはさすがに無茶振りが過ぎぬだろうか。一介の褪せ人には荷が重すぎる。呆然とする Ramo の傍ら、SecretFire が不敵に笑う。

「と、いうわけだ。妙案を期待しているぞ、お侍殿。」

 


 

有難いことに、Gatz の訪問は円滑に取り次がれた。しかし応対に出たケネスの表情は、かつて見たことがないほどに険しい。事の次第を考えれば当然である。何を措いても、まず誠心に詫びる他ない。

「まことに申し訳ない。事態収拾のため、何なりとお申し付けを。」

伏して謝する彼を前に、宰相は無言のまま暫く室内を歩き回った。沙汰を決めかねているのか。激して怒鳴りつけるようなことは決してせぬ男だけに、この沈黙は却って恐ろしい。長い思案の末、ケネスはついに口を開いた。

「此度の件、王は大変遺憾に存じている。むろん、私も同様に。」

話し始めても、彼の足は止まらない。応接室の一角から、その隣の隅へ、そしてそのまた隣の隅──と所在なさげに壁際を巡っている。

「幸いなことに、負傷した兵は両名とも一命を取り留めた。よって、狼藉を働いた者たちをこれ以上の被害を出さずに捕縛できたならば、貴団に対する処罰は最小限のものに留めよ──というのがネフェリ殿の意向だ。」

人死が出なかったことを知り、Gatz は胸の内で安堵の息を漏らす。だが、まだ姿勢を変えるわけにはいかない。

「無論、本件に至る経緯の調査に対する無条件の協力が絶対の条件となるが。」

「ネフェリ王の寛大な処置に感謝を。」

そこで漸くケネスの足が止まる。同時に、これまで呼吸を止めていたのかと思えるほどに大きな溜息が室内に響いた。

「そろそろ顔おもてを上げてはもらえぬだろうか。実を申せば、我が軍は貴公を責めることのできる立場にないのだ。」

訝りながら立ち上がった Gatz を見上げる彼の顔は、変わらず厳しい。

「この襲撃は、城の者の手引きによって為されたのだ。」

 

「それは──どういうことで?」

「この城には数名の鍛冶屋が専属として雇い入れられている。そこで下働きをしている者の中に、Dorothy という娘がいる。いや──居た、というのが正確か。」

鍛冶場で女が働くというのは珍しい──と感じたものの、公平を旨とするケネスが仕切る城らしいとも言えるなと Gatz は思い直した。

「槌を振るっていたわけではないが、掃除に始まり、石炭運び、水汲み、そして装具の回収に配達と多岐にわたる業務を担っていた。働きぶりは良く、鍛冶師たちからの評判も高い。しかし、暇を見ては城の見取り図を作っているらしいとの報告が上がってきていた。地下へと続く扉のある『昇降機側の部屋』も訪れていた、と。出会った兵には道に迷ったと言い訳をしていたそうだが。」

「それは──見過ごせませんな。」

ケネスは頷き、先を続ける。

「即刻追い出すという選択肢もあったが、背後関係を明かすため泳がせることにした。しかし、Dorothy は我々の予想を超えて優秀だったらしい。監視に気付いたのか見取り図が完成したのか定かではないが、彼女は三日前に忽然と姿を消した。」

そして、壺村へ商いに来る女たちに紛れて、Favner と Jack を雇ったというわけか。

「Dorothy の追跡も重要だが、目下の問題は地下へ降りた二人だ。兵を送り込むことも考えたが、敵の能力が知れぬままに戦うのは分が悪い。そこで貴公の到着を待っていた、というのが本当のところだ。」

賢明な判断であると同時に、傭兵団の面子を保つ上でも有難い対応だった。裏切り者の始末は、自分たちの手でつけなければ。

「承知した。では一度戻り、部下を連れてきます。」

そう言いながら早くも頭の中で人選を始めた Gatz だったが、ケネスはそれを制した。

「これ以上、事情を知る人間を増やしたくない。申し訳ないが、貴公の部下であっても、だ。」

厳しい要求だったが、団員が起こした事件だけに反論のしようもない。とは言え、単身で二人を捕らえろというのは相当な無理難題だ。そんな胸の内を見通してか、ケネスが言葉を継ぐ。

「だが、我々は運が良い。実は先ほど、Ramo 殿がこの城を訪ねてきたところなのだ。」

始終引き結ばれていた二人の口元が、ここへ来てようやく緩んだ。

 

 

「ときに今日は城内が騒がしいようだが、何かあったのか。」

Ramo は立ち上がり、中庭を見下ろした。眼下の通路や中庭を行き交う多数の兵。その動きにも緊張感がある。

「そうね。あそこには貨物運搬用の昇降機リフトがあったと記憶しているけど。」

Vienna が指したのは、奥に見える建物──その地階部分に設けられた通用口だった。人が絶えず出入りしているが、何かと戦っている、という感じではない。となれば、事故だろうか。例えば、床が抜けて誰か落ちた、といった類の。

「まあ、あれだけ兵がいるんだ。連中がなんとかするだろう。」

SecretFire は頭の後ろで手を組み我関せずといった態度を決め込むが、その楽観はすぐに否定された。

「そうもいかないみたい。」

「うん?」

Vienna の指す先へ視線を落とす魔術師。つられて胸壁から身を乗り出すと、こちらへ歩いてくるケネスの姿が見えた。向こうもこちらに気付いて顔を上げる。表情から、我々のいずれかに用があるのは明らかだ。

「連れているのは、二人のお友達じゃないかしら?」

ケネスの後ろを歩く大男が、腕を伸ばしてこちらへ拳を突き出している。それを見た二人の褪せ人は互いを指差し、そして同時に首を傾げた。

 

 

空を切る音と共に、白骨が弾け飛ぶ。Gatz の振るう『グレートソード』は、襲い来る骸骨スケルトンを次々と薙ぎ倒していった。Ramo はその後を歩きながら、散り散りになった部分を引き寄せて再び立ち上がろうとする亡者たちにとどめの一撃を入れていく。こうしないと、彼ら「死に生きる者」たちは幾度でも復活してくるからだ。「死の根」に囚われた者は、安らかに眠ることもできない。

「なるほど。こんなのがうろついているんじゃ、厳重に封鎖するしかないよなあ。」

「確かに。今まで潜ったどの地下墓よりも数が多い。」

ここへ降りてくる前にケネスから次第は聞かされていたが、目の前の事態は想像以上に深刻だった。

「あいつら、この骨野郎どもをブッとばすだけで放置して進んでやがる。」

普段は床の上に横たわっているはずの骸骨たちが、ここでは既に立ち上がった状態で行く手に現れる。追手を足止めするために敢えてそうしているのならば、なかなかの上策と言えた。勢い気に掛かるのは、それを為した者たちのことだ。

「かの慮外者たちは何故にこの場所へ?」

「そいつは俺も知りたいところだ。目的もわからないが、それ以上に連中がどういう計画を立てたのかが気になる。」

その通りだ──と Ramo は思う。ケネスによればこの先は行き止まりとなっており、最奥にはただ死の根が作った巨大な「顔」があるのみだという。どこかへ抜けられるわけでもない。彼らは如何にして地上へ戻るつもりなのか。

「出口を固められるのは、考えなくても分かる。それを二人で突破するのが不可能なことも。」

これがゴッドウィンの再誕──即ち死の回帰を待ち望む者の行動であれば、まだ理解はできる。崇拝する死王子の膝元で朽ち果てることに希望を見出す、といったことはあるかもれない。

「此度の標的は、如何な人物か?」

「一人は Jack という褪せ人で、投げナイフの名手。もうは一人 Favner という男で、こいつは元僧兵だ。」

 

狭間の地において、僧兵といえば「滅びの火」の監視者を指す。彼らはローデイルの更に北に位置する巨人たちの山嶺に砦を構え、道を封じているのだという。黄金樹の禁忌が、永遠に持ち出されることのないように。

「然様な者が何故『石の腕』に?」

誰もが抱く疑問だろう。当然にそれを予期していたらしい Gatz が首を回しながら答える。

「性格に少々──いや、かなりの難があってな。あれで僧が務まるわけない。追い出されたのか、自分から抜けたのかは知らんが。」

そんな厄介者を引き入れたのは間違いだったのでは。そんな胸中を見透かしたように Gatz は弁明を口にした。

「短慮で忍耐に欠け、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛ける。そんな奴を野放しにしておく方がマズいと思ったんだ。荒くれ揃いの傭兵団の中でなら、少々の暴力沙汰は問題にならない。」

そんな配慮も、Favner なるその男には響かなかったらしい。

「半月ほど前、食堂で揉めて同僚三人を半殺しにしやがってな。さすがに見過ごせない。叩きのめして取り押さえ、五日ほど独房にブチ込んでやった。」

「なるほど。其奴が Dorothy なる女の依頼に乗ったのは貴公への意趣返しか。」

まあそんなところだ、と Gatz は苦笑いする。

「まったく、儘ならんもんだぜ。」

彼が溜息交じりに漏らした言葉に、Ramo は心底同情する。人を束ねる立場の苦労は、察するに余りあった。

「して──、始末するつもりか。」

「向こうの出方次第だな。背後関係を吐かせるためにも生け捕りが望ましいが、簡単じゃあないだろう。」

侵入者との戦いと異なり、この相手は生身の人間だ。生かして事を収むるは、殺して仕舞うよりなお難い。

 


 

ずん、と腹に響く衝撃。Ramo と Gatz は顔を見合わせた。

「近いな。」

「あいつらか?」

足を速めて遺構を抜け、二人は最奥の空洞へ。不意に開けた視界に、件の巨大な「顔」が飛び込んでくる。しかしその手前──差し込む光の中に、より強く目を引くものがあった。地を染める鮮やかな赤の溜まり。

「おい、まさか──」

それと認識した途端に、すべてが鮮明に像を結ぶ。血に染め上げられていく白のドレス、捻じ曲がった腕、折れて骨が突き出た脚、崩れた背骨、砕けた顎。片側の眼球は破れ、もう一方は在るべき場所になかった。見上げた先には礼拝堂。落差は優に50メートル。あそこから落ちたのだとすれば、助かる道理はない。次の瞬間、Ramo は殺意を感じて身を翻した。同時に抜刀し、前方に視える「軌道」へ向ける。一瞬遅れて打音。火花が散った。

「嘘だろ!? タイミングは完璧だったぞ。」

横手の暗がりから男の声。Ramo は視界の隅で地面に落ちた『毒投げナイフ』を捉えた。こいつが Jack か。もう一人は何処だ。

「不意打ちから入るやり方、変わんねえな。」

見れば Gatz も既に手甲を付けた左腕を上げて防御の構えを取っていた。咄嗟に彼を狙った攻撃を弾いたが、どうやら要らぬ世話だったらしい。暗色の装束に身を包んだその褪せ人は、甲高い声で嘲るように応じる。

「騎士様じゃねえんだ。正々堂々なんてクソ喰らえよ。」

「そうかい。相棒の方はそうでもないらしいが。」

「相棒じゃねえ。そんなチキン野郎と一緒にしてくれんな。」

反対側から低い声と共に男がゆっくりと歩み出てきた。存外に若いな──と Ramo は思う。元僧兵というだけあって、遠目にもそうと判る鍛え上げられた体躯。肩に担いだ『獣人の大曲刀』にも、その膂力への自信が伺える。腰まで伸ばした黒髪を頭の後ろで束ねているのだけは、それらしくないと感じられたが。

「手前てめえと決着ケリつけるために待ってたんだ。が、その前に──おい。」

Favnar が顎で女──の死体を指す。それに応じて Jack は道具入れから素焼きの円筒を取り出した。

「身投げだけはするもんじゃねえな。せっかくの別嬪が台無しだ。」

突き落とされたわけではなく、自死だというのか。顔見知りということは、「それ」が Dorothy なのだろう。事態把握のために推測を重ねる Ramo を余所に、Jack は筒の上部を外して中の水を捨て、浸されていた30センチメートルほどの黒い釘のようなものを取り出した。

「何だ、そりゃあ?」

「よくは知らん。自分はここで死ぬから、心臓にこいつを刺せと言われた。」

「余計なことを喋るな。さっさと済ませろ。」

ドスの利いた制止を「へいへい」と流し、Jack は手にした釘を Dorothy の胸に突き込む。それは湿った音を立てながら、女の体内へと潜り込んでいった。その様を見届けた Favner が Gatz に向き直る。

「これで依頼事項は完了だ。さあ──始めようぜ、団長殿。」

 

 

飛来する刃を鎬で弾く。右、前、そして──左後方。Jack が使う投擲武器は、これまでに見たことのないものだった。高速の回転を与えられた薄く軽い刃は、大きな弧を描いて標的に襲いかかる。それはときに投手の反対──つまり此方の背後からも飛んできた。施された黒い塗装で周囲の闇に溶け込むため、視認も極めて困難。しかし、Ramo は先に得た「殺気を視る」能力を以てその軌道を把握し、すべての攻撃を躱し続けていた。

「くそ、なんで当たんねえんだ!?」

Jack は苛立った声を上げる。先述の薄刃の曲線軌道に放射状に拡がって飛ぶ『扇投暗器』を織り交ぜた波状攻撃を完全に回避するのは、どう考えても不可能だ。にも拘らず、目の前の男がそれをやってのけている──という事実を受け入れられずにいるらしかった。さて──と Ramo は考える。距離を詰めて『打刀』による反撃に出ることは容易い。早く仕留めることができれば、Gatz の加勢に回ることができるだろう。しかし、相手はまだ「奥の手」を隠しているという予感があった。それを見極めぬまま不用意に踏み込むのは得策ではない。

 

「其方の攻撃は既に見切った。次は、此方から参る。」

そう宣して、Ramo は駆け出した。迫る薄刃を叩き落としながら間合いを縮めていく。およそ二十歩。十八──、十六──。

「舐めるな、小童こわっぱ!」

軽量の刃ではこちらの突進を止められないと悟った Jack は、二つの投擲壺を進路上に叩き付けた。高温のガスと毒霧が行く手を阻む。これを突っ切るのはさすがに厳しい。地を蹴って踏み留まる。その一瞬を狙い、Jack が奥の手を繰り出した。左右それぞれに手挟んだ三枚の薄刃を同時に投擲。すべてが個別の軌道だ。来る方向も着弾のタイミングも異なるはず。武器自体の殺傷力は低いとは言え、ひとつでも身に受ければ刃に仕込まれた毒が命を脅かすだろう。──しかし、Ramo は回避行動を取らなかった。その場に立ったまま微動だにしない。最初の攻撃が、側方から右腕を掠めて地面に食い込む。続けて後方からの一発が顔の横を音を立てて過ぎ去った。

「なっ──!?」

Jack が呻く。残りの四つも、すべてが標的周囲の空間を切り裂くのみに終わった。

「見事な制御。慌てて逃れようとすれば、どちらへ動こうとも当たるようになっている。」

両手を使ったため、敵はすぐに次の武器を放つことはできない。Ramo は地を蹴り、残りの間合いを二歩で駆け抜けた。その勢いのままに繰り出された『貫通突き』が標的の胸を穿つ。

「こおっ──!」

くぐもった奇声を吐き出して崩れ落ちる凶手。鳩尾に受けた衝撃により、瞬時に意識を失ったようだ。引き戻された Ramo の右手は空。『打刀』は後方へ置き去られた左手に握られていた。

 

 

続けざまの衝突音。特大剣と大曲刀が打ち合わされるたび、二人の足元で礫が弾け飛ぶ。

「懲りねえ奴だ。この間、俺に一発も入れられずに伸のされたのをもう忘れたのか。」

「素手喧嘩ステゴロで勝ったくらいでいい気になるんじゃねえ。」

Favner が蹴りを放った。Gatz は難なくこれを防いだが、相手は反動を利用して後方へ跳び、こちらとの距離を空ける。

「見せてやるよ、実力ってやつをな!」

叫ぶと同時に Favner は切先を足元に突き立て、抉るように曲刀を振り上げた。地面から炎の渦が巻き上がり、Gatz に襲いかかる。予想外の攻撃。回避は間に合わないと判断し、Gatz は防御姿勢を取った。分厚い鉄板でもある『グレートソード』は、盾として使用しても高い防御性能を発揮する。完全な遮蔽は不可能だが、ダメージは最小に抑えられるはずだ。特大剣はその期待に応えて、持ち主を護った。

「鬱陶しい。そのナマクラごとブッ飛ばしてやるぜ。」

Favner が返す刀で二発目、そして三発目を放つ。これは戦技『嵐の刃』に、僧兵が使う火の祈祷を重ねたものだろう。地面を噛ませることで速度も向上している。

「牽制には便利な技だろうが、こう軽くちゃあ戦士の生命タマにはちと届かんな。」

挑発の言葉を投げ掛けながら、Gatz は胸の内で溜息を吐いた。戦技と祈祷を同時に発動できる者などそうはいない。技能もセンスも抜群だが、精神なかみがそれに追いついていないのが惜しまれる。

「防ぐのに手一杯の様 ザマで、偉そうにほざいてんじゃねえ。」

Favner が四発目を放つため得物を突き立てた。そのタイミングを見計らい Gatz は突進する。この技──仮に『火の刃』とでも呼ぼうか──の威力はそれほど高くない。一撃ならば『踏み込み』で耐えらえるだろう。覚悟を決め、地を走る炎を突っ切れば、奴はもう──すぐそこだ。

「満足したかい?」

驚愕の表情を浮かべる Favner に向け、Gatz は戦技『回転薙ぎ』を放った。ただし、ガラ空きの胴でなく、振り上げの頂点で静止した得物を狙って。

 

弾かれた『獣人の大曲刀』は回転しながら宙を走り、横手方向およそ20メートルの位置に着地。そこからさらに慣性で跳ね飛び、暗がりの奥へと消えた。

「勝負あり──か?」

グレートソードを担ぎ直し、Favner を睨む。投降すれば命までは取らんぞ、という最大の譲歩。だが、この狂犬のような男はここに至ってなお屈することを拒んだ。

「馬鹿を言え。あんな鉄クズがなくても、俺は戦える。」

握りしめた右手に重なるように紋章が浮かび上がる。これは──基地で同僚の戦士たちを昏倒させた技だ。

「砕けろ!」

炎を纏った渾身の拳打。武器を介さぬ技だけに出が速く、グレートソードによる防御は間に合わない。咄嗟に左腕で払ったが、掠めただけでも熱によるダメージを受ける。

「どうした、『竜殺し』の力はその程度か?」

後退する標的を追って執拗に繰り出される Favner の拳。受けても逸らしても、徐々に体力が削られていく。仕方ねえ──。格闘に専念するため、Gatz も武器を放した。

「さっき、拳闘は不得手と言わなかったか?」

「そっちが武器なしじゃ心細かろうと思っただけだ。」

反撃に出たいところではあるが、一撃の重さは向こうが格段に上。まともに喰らえば致命傷になる。なんとかして奴の動きを止められないか。窮余の一策として足払いを出してみたが、当然のように往なされてしまう。まあ、そうだ。この状況では当然にそれを警戒する。

「見苦しい。潔くくたばれよ。」

左のジャブで牽制しつつ、Favner が右腕を大きく引く。──そいつだ! 機を捉えた Gatz が左足で踏み込み、繰り出される直前の拳をがっちりと掴み止めた。

「手前てめえ!」

さすがの Favner もこれには驚いたようだ。懸命に振りほどこうとするが、単純な力比べなら負けやしない。ならば、と繰り出された左の拳も同様に捉えて動きを封じた。蹴りを出したくなる状況だが、互いを全力で押さえつけている今、そんなことをすればたちまちに組み伏せられてしまうだろう。

「やっぱり、格闘は下手じゃねえか!」

力負けを感じて冷や汗を流す相手の顔面に、Gatz は渾身の頭突きを叩き込んだ。

 


 

文字通りにその鼻っ柱を叩き折られた Favner を見下ろして、Gatz は大きく息を吐いた。屈強なこの男といえど、しばらくは動けないだろう。

「まったく、とんだ手間取らせやがって。」

両腕を縛るため、道具入れインベントリから『縄』を取り出しつつ、Ramo の方を見遣る。向こうはとうに決着していたらしく、Jack は跪いて戦意のないことを示していた。見る限り、両者共に大きな傷を負ってはいない。やはり、旦那には叶わんな──と思ったところで、Gatz は突然の揺れに襲われた。咄嗟に片膝を着いて転倒は免れたものの、とても立っていられない。Ramo と Jack も姿勢を低くして辺りを見回している。

「Gatz 殿、大事ないか!?」

「ああ、こっちは心配要らねえ!」

気を失っている Favner の身体を引き寄せてはみたものの、この揺れの中では動くこともできない。上からは小石が降り注ぎ、巻き上がる砂煙が辺りに立ち込める。いったい何が──と振り返った Gatz は視界を横切る巨大な影を見た。滑るように移動するそれは、石壁の手前でも速度を落とす気配を見せない。衝撃、そして崩壊。自分が回転していることを自覚すると同時に、上下の感覚が消えた。地面はどっちだ──!?

 

気付けば揺れは収まっていた。──もう大丈夫か? 伏せた姿勢から顔を上げた Gatz は、辺りの眩しさに思わず手で顔を覆う。暗闇に慣れた目にこの光はキツい。慣れるまでに十数秒。ようやく戻った視力はしかし、彼に信じ難い光景を見せた。青い空と、白い雲。

「──ここ、地下だったよな?」

Gatz は立ち上がり、光の差す方へと歩いた。先には既に Ramo と Jack の姿があったが、二人とも無言で彼方を見つめている。

「どうなっているんだ、これ?」

その声に我に返ったらしい Ramo が、足元を指差す。断崖の遥か下方には青く輝く水面が見えた。

「海に面しているということは、こちらは城の西側。あそこに礼拝堂が見える。」

視線を上げた先には、断崖の上に立つ建造物。『王を待つ礼拝堂』──狭間の地において、褪せ人が目覚める場所だ。と、いうことは──。

「城壁がブチ抜かれたのか。」

ようやく状況が呑み込めてきた。見上げれば、互いに食い込んだ積み石。壁全体が崩れなかったのは幸運だったと言えるだろう。

「けど、どうしたらこんなことができる。並大抵の力じゃないぞ。」

「おそらくは、『死王子』の仕業だろう。」

Ramo は今度は南側──地下空間の最奥だった方向を指す。そちらに目を向けた Gatz は、またしても驚愕することになった。先刻までそこにあったはずの「顔」が──それに連なる身体まで含め跡形もなく消えていたからだ。

「あれが──動いて? 壁を崩して出て行った? だが、この高さだぞ?」

「下は海だ。上手く着水できれば、泳ぎ去ることもできよう。人の身には能わぬことかもしれぬが、あれは神の成れ果て。」

事の次第を理解しようと苦戦する Gatz の傍らで、所在無げに佇んでいた Jack がぽつりと呟いた。

「あの女、ふざけやがって。脱出路を作ると言っていたが、こんなところ降りていけるもんか。」

 

 

四人はケネスが手配した吊り篭で城へ戻った。引き上げられた先は、正門向かって左手に設けられた郭の上部。最初からこれで降ろしてくれれば良かったのにと思う Gatz だったが、不満を口にできる立場でないことを思い出す。後に彼はこの疑問を Ramo に話し、標的が我々に感づいて入口──兵が固める「昇降機側の部屋」へ引き返せばそちらで戦闘が発生する懸念があった、と説かれて大いに納得することになる。ともかく、二人の咎人 Favner と Jack をストームヴィルに引き渡し、監獄に収めたことを以て事件は一応の解決を見た。

 

「多大なる貢献に感謝する。ストームヴィルは必ずや、両名の信義に報いるだろう。」

謁見の間でネフェリ──そしてケネスは、協力者である Ramo はもとより、本来ならば責められて然るべき Gatz に対しても深謝の意を示して彼を驚かせた。結局のところ「石の団」の二人は単なる雇われに過ぎず、死王子と共に姿を消した Dorothy こそが本件の首謀者であった、という判断によるものだろう。

「取り調べの手を緩めるつもりはないが、あの二人を締め上げたとて有用な情報は出てこないだろう。」

とケネスは語った。

 

 

「この一件が Uriela の企図に基づくものだとすれば──」

地下での出来事を聞き取った SecretFire は、しばらく考え込んだ後、Ramo と Vienna に次のように語った。

「目的は、死王子──死の根が作り出した構造物の回収だろう。用途まではわからぬが、彼女──いや、"彼女ら" というべきか──は、まとまった量の資材を必要としているのだと思う。」

魔術師はそこで言葉を切り、傍らの調香師へと視線を投げる。Vienna は頷き、後を引き取った。

「そしてそれは、黄金樹が吸い上げるルーンの減少とも関連している。」

死の根とはゴッドウィンの遺体から生じたもの──つまりは彼の肉片だ。それに加えて、人には扱い切れぬほどの莫大なルーン。その両方を必要とする事柄とは何か。ここまでくれば、学者でない Ramo にも凡その見当は付く。

「フィアによるゴッドウィンの再誕が近い、と。」

おそらくは、と Vienna は首肯する。しかし、彼女の表情は未だ疑問に曇っていた。

「けれども、ひとつ重大な問題がある。ゴッドウィンの魂は陰謀の夜に失われ、戻ることはない。では、死の根とルーンで作り上げた肉体に "再誕" するのは、いったい誰の魂なのか。」

「並の──いや、偉大な英雄であっても、人の魂は半神という器を満たすには矮小に過ぎる。考えようによっては、そちらの調達の方が難題だ。」

容易ならざる謎であるが、手をこまねいていばかりもいられない。

「その件については、心当たりがある。近く、何らかの情報を持ち帰れるだろう。その間、二人にはケネス殿そしてモーゴット殿に話を通しておいてもらいたいのだが。」

唐突な Ramo の言に二人の学者は顔を見合わせるた、すぐに己の為すべきことを把握したようだった。

「休暇は切り上げね。ローデイルに戻らなくては。」

「宰相殿には俺から伝えておこう。」

 

 

静まり返る深夜のストームヴィル橋。月明かりの中を歩きながら、Ramo は考える。陰謀の夜に死したもう人柱の半神──魔女ラニ。彼女からならば、フィアの企みに抗するための知恵を引き出すことができるだろう。問題は、こちらから対価として差し出せるものがあるか、ということだ。『指殺しの刃』の取引は既に完結している。大いなる意思の手を逃れて己の道を行かんとする孤独な半神は、未だに何かを欲するだろうか。彼はそこで、幼き頃に聞いた師の言葉を思い出す。

「相容れぬ者をこそ信ぜねばならぬ、か。」

損得でなく、是非でもなく。思うところを率直に打ち上げて、助力を乞うてみるのはどうだろう。己の案の単純さに、笑みが込み上げてくる。昔から言うではないか。正直は最善の策。そして──困ったときの神頼み、と。




第28話『褪せ人 Saki と燻りの娘』投稿予定: 2026-10-16 朝
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