褪せ人 Ramo と Saki の物語 作:Skinny Slaver
ミケラの行方を追い、Ramo とラニは聖樹にマレニアを訪ねる。しかし彼女には先客があり……。
戦闘シーン多めの回ですが、真の見所はラニ様の煽り芸。
魔力を帯びた刃が、弧を描いて飛ぶ。地表すれすれからの跳ね上げ。さらに、横薙ぎ気味の振り下ろし。これらを紙一重で躱した Ramo は、勢いのままに駆け抜ける銀装の騎馬を追って身を翻す。傍らを5本の輝剣──魔力で形成された短剣型の弾丸──が走り、そのいずれもが標的を捉えることなく虚空へと消えていった。敵は十間ほど離れたところで馬首を巡らせこちらへ向き直ったが、再び仕掛けてくる気配はない。斧槍の切っ先をこちらへ向けたまま、回り込むように馬を歩かせている。近接と射撃──必中を見込んだ同時攻撃が外れたことを警戒し、その理由を考えているのだろう。その流れの行き着く先は──。
敵が再び輝剣を展開した。しかも、今度は9本。そう、反撃のないことから、此方の回避能力の底が見えたと考えるはずだ。ならば手数を増やし、さらに熾烈な攻撃を仕掛ければ──と考えるのは当然。馬上の騎士はさらに、4本の矢を番えた大弓を引き絞る。通常の弓でそのようなことをすれば推力が分散し、矢は幾らも飛ばぬだろう。だが、あれはあくまで魔術。魔力によって生じた弓も矢も、武芸の力学には従わない。上下左右に分けて放たれた矢が、取り囲むような軌道でこちらへ飛来する。その後方には既に飛び出した輝剣の群れ。避けることはもとより、盾で受けることすら叶わぬ圧倒的な火力。仮にこれを凌いだとしても、そこへ斧槍の斬撃が飛び込んでくるのだ。
だが、Ramo には迫り来る弾雨の軌道が「視え」ていた。自分を確実に仕留めんとする不退転の決意から生じる殺意を、彼は明確な筋道として感じ取る。地を蹴り、白く光る曲線の連なりの中へ。殺到する魔力の矢そして短剣は、示し合わせたように標的の近傍を掠めて流れ過ぎていく。対手が被弾し動けなくなったところへ止めを刺すつもりで飛び込んだ騎士は、目論見が外れたことに驚愕したことだろう。だが、そこは卓越した武人。得物を振るう手が緩むことはない。青い輝きを放つ刃が、裂帛の気合と共に Ramo 目掛けて振り抜かれた。
石床を打った斧槍の頭部が、その勢いのままに遠方へと跳ね飛んでいく。狙いすました『打刀』の一閃により、騎士の得物は両断されていた。両者は見合ったまま動かない。このまま続ければどうなるか、双方の予測が一致したためだ。
「それまで。いずれも見事な戦いぶりであった。」
静寂を破ったのは、離れた位置から一部始終を見守っていたラニの声だった。傍らに控えていた半狼の戦士ブライヴを伴い、舞台の中央へゆっくりと歩いてくる。おそらくは、Ramo と騎士の内に燻る戦いの熱を冷ます時間を取るためだろう。
「私を止めること能わぬと、分かってもらえたかな。元親衛騎士、ローレッタ殿?」
その言葉に騎士は下馬し、兜を脱いだ。明るい栗色の髪が零れ、銀鉄の胸甲に流れる。彼女はかつてカーリア家に仕え、後にミケラを追って出奔したという。以前の主君──正確にはその子女──を前に瞳を震わせるものは畏怖か悔恨か。
「慙愧に耐えかねております。聖樹の守りを自らに任じておきながら、不甲斐なきこと夥しく。」
ローレッタはラニの前に膝を折り、恭しく首を垂れた。
「斯くなる上は、かつての主君の慈悲に縋るより他にありません。この不忠の徒の伏しての願い、何卒お聞き届けください。」
ローレッタによれば、数日前マレー・マレーという男がミケラの聖樹を訪れたという。無論、ここはそう簡単にたどり着ける場所ではない。禁域に隠された秘路を通り、広大な聖別雪原を抜けた者だけが、この聖樹を目にすることができる。幹へ近づくには、そこからさらに目も眩む高さに繁る枝の上を伝っていかねばならない。踏み外せば一巻の終わり、という難所である。Ramo たち一行も、幹に据え付けられたこの大舞台にたどり着くまでに少なからぬ苦難を乗り越えてきた。
「何者だ?」
「アルター高原にある日陰城の主だそうです。マレニア様の信徒であり、腐敗によって失われた彼女の手足を補う義肢を提供した人物だとか。破砕戦争の終局──エオニアの戦いの際には、撤退するマレニア様の兵を自分の城に匿ったとも。私がカーリア家を去る前のことなので、古参の者たちに聞きました。」
その男の名には聞き覚えがあった。日陰城は先日、とある死霊術師の襲撃を受けて壊滅している。行方不明となった城主は連れ去られたものと考えられていたが、その先がこの聖樹だったとは。
「それで、通したのか?」
「はい。今ほど申しました通り貢献著しき人物ゆえ、マレニア様も無下にできなかったようです。」
ならばそれは当然、彼を拉致した者らの指図だろう。
「マレー殿は病弱と聞いている。供をする者があったのでは。」
不意に挟まれた Ramo の問いにローレッタは驚いた様子を見せたが、ラニの目配せに応じて頷いた。
「護衛の魔術師と、世話係を連れておりました。いずれも女です。」
間違いない。死霊術師 Uriela と、死衾の乙女フィアだ。だが、彼女らの目的はゴッドウィンの再誕であったはず。それが何故、マレニアを訪ねるのか。二柱はいずれもマリカの子──即ち半神──であるが、父を異にする。ゴッドウィンは最初の王ゴッドフレイ、マレニアは英雄ラダゴン。
「マレニア様は彼らと共に最下層へ向かわれました。会談が終わるまで近寄るなと言い置いて。それから既に三度の夜を数えておりますが、未だ戻られません。」
「その間、様子を見にも行かなかったのか?」
呆れた様子で尋ねたラニに、ローレッタは肩を落とす。
「側仕えの者らが何度か、言いつけに背いて最下層へと足を運びました。しかし結界が施されており、根に立ち入れなくなっているのです。報を受け、自身でも確かめて参りました。」
その結界を施したのはマレニアか、はたまたフィアの側か。いずれにせよ、好ましくない事態が進行しているのは間違いない。
「我らに聖樹の根へ向えというのだな。」
「不敗の半神と称された御方です。人如きに害されるとは考えておりませんが、不測の事態が生じているのもまた事実。」
振り返り「どうだ?」という視線を投げるラニに、Ramo とブライヴは同時に頷いた。
「それでは、案内役を喚びます。」
ローレッタが小さな箱を取り出し、もう一方の手で鈴を鳴らした。周囲に淡い光が生じ、人の形を成す。
「貴腐騎士フィンレイ。マレニア様をエオニアからこの聖樹へ連れ帰った英雄です。彼女の先導があれば、警護の兵たちに阻まれることなく最下層まで行くことができるでしょう。」
フィンレイの遺灰はラニに手渡された。
「破砕戦争の英雄に率いられて聖樹見物とは、なかなかに乙な趣向だ。ときに、おまえ──いや、貴公は同行せぬのか?」
その問いに、ローレッタの顔が歪む。今にも泣きだしそうな表情に見えた。
「聖樹を守れず、許しも得ずに外部の者を通すのです。マレニア様に合わせる顔がありません。」
「事情が事情だ。次第を聞けば、彼女も責めはすまい。」
確かにその通りだ、と Ramo は思う。現在マレニアが苦境に陥っているのならば、状況打開の手引きをしたローレッタは賞賛さえされるかもしれない。しかし、彼女は力なく首を横に振るだけで何も答えなかった。ラニは小さく溜息を吐く。
「承知した。だが、貴公には事の顛末を見届ける責任がある。勝手に己が行く末を定めること勿れ──と釘を刺しておこう。」
「ミケラの聖樹」は狭間の地の北のはずれ、海上に聳える巨木である。ローデイルの黄金樹と比較すると、高さにして四分の一ほどではあるが、それでも並外れた大きさであることに変わりはない。また、黄金樹の幹が完全に直立しているのに対し、聖樹の幹は大きく捻じれ、北西に向かって傾いでいた。現在 Ramo たちが歩いている『エブレフェール』はこれを支え倒壊を防ぐために作られた構造物だという。一行はその最も内側、右手に海を見下ろす円形の通路を進んでいる。
「ローデイルの城壁も馬鹿げた大きさだと思ったが、こいつはそれ以上だ。」
「まったく。どのようにして建てたのか、想像もできぬ。」
驚嘆の声を上げるブライヴに Ramo が同意を示す。それ自体が大きな街でもあるエブレフェールは、幹を取り囲む壁とそこから放射状に延びる飛び梁を主体としていた。飛び梁とは、建物の壁が外側へ倒れるのを防ぐために設けられる構造物である。狭間の地では、リエーニエなどで見ることができるが、無論ここまで長くはない。なにしろエブレフェールのそれは、壁との接点から300メートルほど低い海面付近まで伸びているのだ。梁の途中あるいは終端で重量を支える役割を果たす柱も、「塔」と呼ぶ方が相応しい大きさとなっている。しかし、この壮大な「街」にも終末の気配は色濃く漂っていた。床といわず壁といわず街の随所を覆っている黴は、聖樹そのものが朱い腐敗に深く浸食されていることを示している。現世にあっては、神の造物すらもいつか朽ちる。永遠とは人々の──あるいは神々の──幻想にすぎない。
先を行くフィンレイの霊体はゆっくりと進んでくれているため、一行は話しながら歩くことができた。話題は自然とマレニアと彼女を訪ねた者たちへと移る。
「しかし解せぬな。ミケラの行方を追う我らが、何故にかの者共と鉢合わせる?」
フィアと Uriela について、既にラニには話してあった。ただそれは、あくまでゴッドウィン再誕を目論む不穏な動きとしてである。よもや、この聖樹探索に関わってこようとは思ってもいなかった。
「奴らも我々と同じく、ミケラの行方を追っているというのか?」
「その公算は小さいと考えている。マレー殿を拉致・利用していることからも、近づかんとする先はマレニアの方ではないかと。」
しかし、やはり背景が見えてこない。こちらの予測では、連中はゴッドウィンの遺体が埋葬されたという黄金樹の根本──つまり王都の地下深くにいるはずだった。そこでブライヴが思いついたように尋ねる。
「ところでラニは、ミケラやマレニアと面識があるのか? ──あるいは、ゴッドウィンと。」
現在の狭間の地で、彼らを直接に知る者は少ない。破砕戦争においてローデイル陣営の一角ではあったものの、ミケラは早い段階で行方不明となっている。そしてマレニアもエオニアでラダーンと相討った後はこの聖樹に戻り、爾来外へ出ていないと聞く。
「ゴッドウィンの方とは──な。ラダゴンがマリカの伴侶となったことで、我ら兄弟は黄金の一族の外戚として半神の格を得たことは知っておろう。当時はそれについての儀礼やら祝賀やらのため、幾度もローデイルへ足を運ぶことになってな。そうなれば、嫌でも顔を合わせることになる。」
その出会いが、後に「陰謀の夜」の要因になったのでは──との想像もしたが、それに触れることはできない。暗黙の協定が、そこに踏み入ることのできない一線を引いているからだ。
「そうか。そのときには未だ "天賦の双子" は生まれていなかったんだな。」
「その後まもなく、狭間の地は破砕戦争に突入した。そうなれば、身内も敵。会うも話すも叶わぬまま今に至る、というわけだ。」
気付くと、通路の行き当たりでフィンレイが立ち止まってこちらを見ている。自分たちを待っているようだ。三人が急ぎ近くへ寄ると、周囲2メートル四方の床がゆっくりと下降を始めた。
初めて見える義妹に、これまた会ったこともない義弟の居所を尋ねる。此度の用向きは、そもそもが極めつけの難題だった。そこへ敵対する勢力の介入があるとなれば、達成の見通しは限りなく小さくなる。──いや、そうとも限らぬか。
「仔細は不明なれど、奴らとマレニアの交渉が上手くいっていないことは明らか。実力行使に至るも互いに決め手なく膠着している、という状況も考えられる。」
「もしそうなら、マレニアに加勢することで貸しを作ることができる──というわけだ。」
不敵に微笑むラニ。先回る思考の速さに息を呑む。──否、そうではない。彼女はそれを数ある可能性のひとつとして演繹していたにすぎない。遠回りしてようやくたどり着いた自分を、頬杖ついて待っていたのだ。ブライヴが腕を組み、首を傾げる。
「だがローレッタも言っていた通り、マレニアは無双の遣い手だ。それを相手に千日手
その点も、不可解ではあった。日陰城で Uriela が傀儡として操ったエレメールは確かに手強かった。だが、あの程度で最強格の半神に太刀打ちできるとは思えない。より強力な手駒を手に入れたのか、或いは数を揃えたか。
「そう案ずることもなかろう。双方の戦力が拮抗しているのであれば、外からの一押しが勝敗を決する。それに──」
両手の指先をぴたりと合わせる独特の仕草と共に、ラニが上目遣いで Ramo とブライヴを見遣る。
「こちらには一流の剣士が二人もいるのだ。気に入らねばいっそ、双方を斬り伏せてしまうという手もある。」
無論冗談であろうが、士気を高める手管としては悪くない。そんなことを考えているうちに、床の動きが止まった。
下降していた時間からすると、既に海面近い高さまで降りてきたはず。再び歩き始めたフィンレイについて階段を下り、突き当りを左へ。さらに一段低くなった通路は、薄青色に輝く壁によって塞がれていた。これが件の結界か。ラニがその表面に手をかざす。何かを調べているようだが、魔術に疎いため正確なところはわからない。
「破るぞ。──よいな?」
ラニはこちらを見て尋ねたが、それは形ばかりのこと。返事を待たず、指先を光の中に突き入れる。結界は霧が風に散るように音もなく消え去った。
「マレニアの施したものではなさそうだ。──並外れて結界術が下手だというなら別だが。」
通路の先には、根に囲まれた広大な《ruby》樹洞《rt》うろ。上から陽光が射し込んでおり、巨木の内部とは思えぬほどに明るい。Ramo が進み出て、根の中へと踏みこんでいく。足元には浅く水が溜まっており、音を立てずに進むのは難しい。
「静かすぎるな。」
ラニの声が洞の内に反響する。彼女はブライヴと共に、結界のあった場所に留まっていた。何故誰もいない? 立ち去ったのか? だとすれば、それはいつだ? 三日前、ここへ入った直後か。或いは、我らの来訪を察して急いだか。──そのとき、Ramo の目が前方に異物を捉えた。根の際にぽつんと置かれた一脚の椅子。甲冑を身に付けた人物が、そこに座している。いや、寄りかかっていると言う方が近いかもしれない。長い赤髪の──おそらくは女。ということは、これがマレニアだろうか。しかし、様子がおかしい。目の前の人物は天を仰いだまま、まったく動かない。それどころか、生き物としての気配──具体的には呼吸、脈拍、発汗、筋肉の収縮などから生じる揺らぎ──が感じられなかった。これほどに近づくまで気付けなかったのもそのためだ。振り返り、ラニとの距離を確かめる。50メートル弱。ブライヴも傍らに控えている。仮にこの瞬間に襲いかかられても、彼女を退避させることは可能。そう判断し、Ramo は眼前の人物に呼びかけた。
「──マレニア殿。」
静寂。既に5分は待ったように感ぜられたが、実際のところ20秒も経ってはいないだろう。焦れる視界の中、マレニアの口が動いた。何らかの言葉が発せられるものと期待しさらに待つが、すぐにそれが錯覚で会ったことに気付く。半開きになった唇の間から姿を現したのは一匹の蝶。それはゆっくりと顔を這い上り、鼻先まで達したところで薄紅色の羽を広げて光の中へ飛び去った。やはり、生きてはおらぬのか。いま少し近くで──。Ramo が意を決して踏み出したその時、マレニアを中心として地面に円形の紋章が浮かび上がった。罠か! 反射的に後方へ飛び退るが、爆発などは起きなかった。直接の殺傷を狙ったものではないらしい。
「下がれ!」
後方からラニの声。指示に従って後退しつつ、彼女の方を見遣る。
「今、何かの魂がその中に入った。本人のものではないようだが、動き出すはずだ。」
驚き、再び視線を前へ。ラニの言葉通り、それまで死んだように動かなかったマレニアがこちらに顔を向けていた。腕に力が込められているのが分かる。立ち上がるつもりだ。
「私の知るものとは少々異なるが、──死霊術だ。」
苦悶の咆哮が樹洞の淀んだ空気を振るわせる。それを放ったマレニアの口内に、明滅する赤い光が見えた。
抜刀し、さらに二歩退がる。マレニアはまだ構えてもいないが、こちらを敵と認識したことが知れた。放たれる強烈な殺意。しかしその軌道は同時にぼやけてもおり、明瞭な線を描いていない。以前ルーンベアや老獅子を相手取ったときに、このようなものを見た。もしや、獣の類を放り込んだのか。半神の器は人の魂で満たすには大きすぎると聞いたが、そもそも魂の大きさがどのように定まるのかを Ramo は知らない。この狭間の地では矮小なるはそれのみを以て蔑まれるそうだが、或いは──。その時、殺意の軌道が収束した。こちらの胸元を貫く直線。咄嗟に打刀を前に出す。衝撃と火花。二間余りの距離を瞬きの内に詰めたこの刺突は条件反射で往なすことができたが、次も同じように凌げるとは限らない。理性なき獣でないことは、今の一撃で証明された。敵は、動作を起こす直前まで太刀筋を確定させず揺らがせておくことができるのだ。その心の置き方に達することのできる者が、どれだけいるだろうか。
「おまえは──誰だ?」
マレニアの肉体を得た何者かは誰何に答ることなく横薙ぎの斬撃を放った。備えていたことで先程より幾分余裕をもって躱すことができものの、その振りは迅く鋭い。収束する殺意の軌道を「視て」から反応したのでは到底間に合わぬだろう。エレメールなどとは格の違う相手であることは確かだった。
しかし、この強敵を前にしても Ramo は臆していなかった。「殺気を視る」能力は降って湧いたようなもので、実力の内に入らない。頼りがひとつ消えたのは不利ではあるが、それは元々のこと。連撃を弾き、側面へ回り込もうとするマレニアを追って跳ぶ。距離が離れると相手の打ち筋が広がり、却って危険であるためだ。無論こちらの行動も制限されるが、守りに徹する限りにおいては敵よりも有利といえる。突きを潜って避けところで好機が訪れた。無防備となった横腹へ柄頭を叩き込む。手応えはあった──が、相手の動きは些かも鈍らない。それどころか、跳び退りながらの反撃に浅くではあるが右腕を斬られてしまった。エレメールと同様、痛覚は機能していないらしい。なれば、削り合いでは勝ち目がない。
「文字通りに死兵とはな。」
思いついたまま口にした諧謔に、Ramo は自ら苦笑する。言い回しの妙よりも、己の不謹慎さが滑稽だった。
「くそっ、なんで倒れないんだコイツは!?」
ブライヴは突如現れた敵──白狼の鬣をあしらった兜を着け、螺旋状に捻じれた刃を持つ特大剣を振るう戦士──と戦っていた。技量は凡庸。だが、打たれ強さが常軌を逸している。既に四度ほど『王家のグレートソード』を叩き込んでいるのだが、相手は意に介する様子もない。こちらの攻撃が入っても構わず剣を振りきってくるため、ブライヴの方も予想外の手傷を受けていた。こんな奴に時間を取られるわけにはいかないのだが──。執拗に突進を繰り返す戦士を蹴り飛ばし、少し離れたところにいるラニの様子を窺う。彼女が相手取っているのは、珍妙な被り物と臙脂のローブを身に着けた男。振るう杖の先から魔力弾を連射しているが、それらはすべてラニの手前で見えない障壁に弾き返されていた。誰が相手であれ、こと魔術においてラニが遅れを取るとは思っていない。だが従者としては、主を敵前に晒しているという状況そのものが許し難い。さらに気に入らないのは、この二人を率いる女が戦いに加わることなく高みの見物を決め込んでいることだった。
「狼には狼、魔術師には魔術師。意図したものはないが、実に愉快な構図となったものだ。」
眼前の戦いを余裕の表情で見下すその女に向け、ラニが声を発する。
「おまえのことは聞いているぞ、死霊術師 Uriela よ。遠き地で帝位を巡る争いに敗れ、この狭間へ流れてきたとか。」
この女が、マレニアを尋ねてきた二人の片割れか。そうと知り、目の前の戦士が倒れぬことにも合点がいく。こいつらは、既に死体なのだ。間断なく投射される魔力弾を事も無げにあしらいつつ、ラニは続ける。
「さても愚かなことだ。屍の軍勢を率いて戦に勝ったところで民は従うまい。それとも、死者に傅かれて皇帝を気取るつもりだったのか。」
何かしら狙いあっての挑発なのだろうが、ブライヴは気が気ではなかった。Uriela が戦いに加わってきたら、ラニの身はいよいよ危うい。
一層の力を込めて、グレートソードを戦士の下腿に叩きつける。殺すのが無理なら、せめて動けぬようにできないか。焦るブライヴを余所に、女たちの遣り取りは続く。
「痴れ言を。その土塊の躰は、外法に手を染めた証。貴様とて禁を犯しているではないか。」
「さて、どうかな。いずれにせよ、私はおまえの傀儡ほどに鈍くはないぞ。」
魔術師の連射が途切れた隙を狙い、ラニが指先から輝剣を放つ。青い光の尾を引いて飛ぶそれは過たず敵を打ち据えた。痛みを知らぬ屍とて、頭部への衝撃にはさすがに怯むようだ。
「斯様な弱卒にマレニアが敗れたとは信じがたい。──が、勝負は水物。たまには番狂わせもあろう。」
「ヴィルヘルム、腑抜けた働きをするなら死体に戻すぞ。」
叱責されたことを理解したかは定かではないが、魔術師は撃つ手をさらに速めた。しかし、当のラニはそちらへ顔を向けることもなく雨霰と浴びせられる連弾を不可視の障壁で防ぎ続けている。
「だが、どうやってマレニアの肉体を操っている? 此奴らを動かしている死霊程度では、半神の器を満たすには足りぬだろう。まさか、複数の魂を捏ね合わせて一塊にしたわけでもあるまい。」
問われた Uriela が顔に嘲笑を浮かべる。
「育ちの良い小娘は知らぬだろうが、大なる魂を持つのは神族ばかりではない。竜もまたそうなのだ。古き時代にはおそらく彼らが神であったのだろう。」
「なるほど、竜か。」
ラニは何事か得心しているようだが、こちらはそれどころではない。振り下ろされる刃を躱し、戦技『狼の襲撃』を繰り出す。狙いは勿論、頭。鋭い打音。残念なことに悪趣味な兜は割れなかったが、敵の足は止まった。床に突き立った切先を引き抜きながら、武器に込められた魔力を解放。冷気が噴出し、周囲のすべてを凍てつかせる──はずだったが、相手は地を蹴り爆風を逃れていた。ブライヴは心の中で舌打ちする。ムカつくくらい、タフな野郎だ。
「おっと、早合点するなよ。飛竜とかいう羽を生やした蜥蜴とも、人が竜餐によって成れ果てる土竜とも違う。古竜と呼ばれる、言わば真の竜だ。」
「講義ご苦労。知りたきことは全て得た故、もう失せてよいぞ。」
言うなりラニは左右の手で、目の前の魔術師とブライヴが相手取る戦士をそれぞれに指差す。迸る閃光に貫かれた死の従徒たちの全身から白煙が吹き上がった。
「腕の立つ者らを素体としたようだが、芯まで凍ってはさすがに動かせまい?」
見れば二人は隈なく霜に覆われ、さながら氷像の様相を呈している。凍傷を与えて動きを鈍らせることは自分も考えてはいたが、完全に無力化するとは。
「バルグラム! ヴィルヘルムも駄目か! ──ええい、この役立たず共め!」
Uriela の態度からは、先刻までの余裕が失われていた。機を逃さず、ラニが追い打ちをかける。
「命に従い斃れた部下を役立たず呼ばわりとは。死霊術に傾倒したのは人望なき故か?」
「貴様、ただの魔術師ではないな。──名を聞いておこうか。」
「カーリアの王女、ラニ。この地で覇権を得んとするならば最低限、現存する王家について押さえておくことだ。」
こんな厄介な相手に、馬鹿正直に名乗らずとも──とブライヴは嘆息する。一方、Uriela の顔には驚愕の色が浮かんでいた。
「魔女ラニか。破砕戦争以降行方が知れぬと聞いていたが、斯様に出歩いているとは思わなんだ。」
虚空に暗黒が生じ、凍り付いたままの手下を呑み込んで消え失せた。撤退するつもりか。
「おや、帰るのか。ならば向こうで暴れている女神様を停めてからにしてもらいたいのだが。」
「今退くのは、口喧しき相方より貴様には手を出すなと言われているからだ。」
苦々し気に吐き捨てた Uriela はしかし、マレニアと戦う Ramo の方を見遣って口の端を上げる。
「それに、あの男はできればこの場で仕留めておきたい。二柱の半神から肩入れされているとなれば尚更にな。」
「横暴の上に吝嗇ときたか。これが帝位に就くとなれば、いよいよ世も末だ。」
挑発に憤怒の表情を浮かべた死霊術師はしかし、言い返すことなく闇に包まれてその場を去った。駆け寄るブライヴに、ラニがぽつりと呟く。
「可能な限り手札を切らせようと煽ってみたが、鮮やかな引き際だ。思ったよりも厄介な相手かもしれんな。」
腕に灼けるような痛みが走った。刹那の予兆を感じて左へ跳躍。同時に走り抜ける剣閃。最前まで Ramo は「マレニア」と互角の技量を以て斬り結んでいたが、相手が不意に繰り出した戦技によって状況は一変した。彼女が得物を振るうたび、刀身が帯びる赤雷が10メートル近い刃渡りの斬撃となって飛び来る。その間合いの長さ故に全てを避けることは不可能だった。刀で受ける度、雷撃が柄を伝わり握力を奪っていく。これまで二度。次を受ければ得物が手を離れるのは間違いない。全力を尽くした上での苦境なれば、脱するには奇策が必要となる。無いか、雷撃に抗することのできる策は。
「雷って防がれにくいんですけど、魔力による防御とは相性悪いんですよ。」
雷という言葉を反芻していた Ramo は、不意に知己たる褪せ人を思い出した。王宮の食堂で聞いた、魔術を使う騎士の話だ。『魔力の盾』で直剣を強化し、彼女が投げつけた『雷の槍』を受けてみせたとか。盾に施す魔術を武器に用いる──単純であるが優れた発想だ、と感心したことを憶えている。
「兵は詭道なり──か。」
無論、自分に魔術は使えない。後方へ移動して敵の猛攻を避けつつ、Ramo は道具入れをまさぐった。取り出したるは『盾脂』。使う当てなく仕舞いこんでいた品だ。刀身に押し当て、滑らせて塗り付ける。これで多少は絶縁ができただろうが、それでも耐えて一撃。反撃を仕損じればいよいよ後がない。突きを躱し、左へ跳躍。相手から見れば右。この位置取りならば、間違いなく横薙ぎを放ってくるはず。目に映る殺気の軌道はまだ収束していないが、敵の行動は既に読めている。次の瞬間、思った通り雷光の斬撃が胸の高さへ飛んできた。掻い潜り、前へ。標的まで五歩。その距離を詰める前に、返す刀が左から迫る。待っていたのはこれだ。鎬に当て、思い切り弾き飛ばす。盾脂が効いているかどうかなど、考える暇はなかった。
葦の地にいた頃、Ramo は道場にて「魂の座は那辺にありや」という議論に巻き込まれたことがある。構図としては、「心の臓」派と「脳」派の対立だった。胸を突くのと首を刎ねるのとではどちらが殺生の本質に近いかという生臭くも観念的な討論──今にして思えば、戦場を知らぬ若造どもらしい空論──が熱を帯びた結果、そのような言い争いへと発展したらしい。Ramo は特段の意見もなく、目立たぬよう後方に控えて解散を待った。その後寺へ向かい、住職に意見を求めた。彼は僧であると同時に医家でもあったからだ。住職は書院から持ち出した本を開き、人体の構造図を示しながら次のように語った。心の臓とは血液を躰の隅々まで届けるための動力であり、生命にとって重要なものではあるが、「見る」「聞く」「話す」といった精神的な活動には直接関与していない。一方、脳については精神活動に関係していると考えられる事例が記録されている。頭部に損傷を受けた者の中には、自分の名を思い出せなくなったり、言葉を発せなくなったりする者がいるという。それを聞き、Ramo は魂の座が脳にあるという確信へ至った。しかし、皆の前で受け売りの知識を披露するのは躊躇われる。そこでいずれの派にも与することなく沈黙を保っていたところ、ひと月も経たぬうちに皆は議論に飽き、そのような諍いがあったことさえ忘れられた。
──遠い昔のことを思い出したのは、次の一撃で狙う箇所を定める必要があったからだ。同じく Uriela が傀儡としたエレメールは斬首の後に蘇ったというが、そこには留意すべき点がある。彼は頭部を失ったまま活動していたわけではない。死の根が生やす茨によって落ちた首は胴に戻されていた。つまり、頭部はなんとしても剣を振るう身体に繋いでおく必要があったのだと考えられる。そして、「マレニア」の口内に見えた赤い光──あれは雷ではなく、死霊から発せられたものではないのか。右腕を刀ごと跳ね返され、敵の胸部ががら空きとなる。
「済まぬ──そして、然らばだ。」
此方の手にも既に感覚はない。それがまだ打刀を握っていることを願い、Ramo は全霊を込めて右腕を振り払った。刃が閃き、マレニアの首が宙を舞う。彼女の頭部は赤髪をなびかせながら落下し、鈍い音を立てて地面に転がった。同時に、立ち尽くしたままの胴部は瞬間的に無数の蝶へと変じ、射し込む光の中へ溶け込むように散っていった。
結局、ローレッタは Ramo たちが戦った樹洞へと呼び出されることとなった。マレニアが居なくなった今、彼女を措いてこのエブレフェールの行く末を決められる者がいないためだ。
「あの者らは、いったい何のためにマレニア様を──?」
誰もがそれを考えているが答は出ない。例えばこの聖樹の奪取を企てていたというならば──それでも動機が不明だが──、そのための直接的な行動として理解はできる。しかし彼女らは、ただマレニアを害して立ち去った。
「結界を施したのは逃げる時間を稼ぐためであろうか。マレニア殿を倒せるほどの戦力があれば、脱出もそう難しいことではないと思えるが。」
「マレニアの躰を使って従徒を作っていたことも気に懸かる。いや、死霊術に耽溺するあの女の戯れと考えるべきか。」
ラニの前へ進み出てたローレッタが、再び膝を折り首を垂れる。
「刺客を通した私は大罪人なれば、この聖樹を離れることはできません。厚かましき願いであることは重々承知ですが、どうかマレニア様の仇を討ってください。何卒──何卒。」
全身の戦慄きを押さえての請願。葦の地では「主君を失った侍ほどの無惨はなし」と言われるが、その点は騎士も同じであるようだ。しかしラニにとってのマレニアは、兄ラダーンを腐敗に沈めた仇でもある。心境は複雑だろう。そんな読みを裏切って、ラニは伏すローレッタの傍らに跪き、穏やかな声を掛ける。
「言われずとも、だ。斯様な無法が咎められぬ道理はない。」
ローレッタが差配した多くの兵に見送られ、Ramo たちは聖樹を後にした。高枝の先からラニの転移魔術で聖別雪原へ。そこからロルドの大昇降機までは歩く必要がある。転移魔術は水平方向の距離もさることながら、高低差に関して制限が厳しいためだ。
「ところで、マレニアを動かすのに使われた魂について、心当たりがある。」
ブライヴの肩に担がれたラニが、傍らで雪を漕ぐ Ramo に話しかける。
「確証はないが、おそらくはフォルサクスであろう。ゴッドウィンの友であった古竜だ。」
「その名には聞き覚えなけれど、古竜であることは推測していた。あの赤き雷は、彼らに特有のもの故。」
古竜信仰の祈祷が放つ雷は金色である。人の用に供するに際して調節された結果だろう。Ramo が持つ、古竜の武器から削り出したとされる槍『グランサクスの雷』が放つのは赤雷だった。──取り回しが難しいため、モーゴットから贈呈されて以来数えるほどしか使っていないのだが。
「ゴッドウィンが死王子となった後、フォルサクスは彼の内で死に抗っているという。フィアたちが黄金樹の根元に埋葬された遺体へ近づいたというならば、遭遇は不可避だ。」
フォルサクスがゴッドウィン再誕の障害としてフィアに排除されたことは想像できる。再度生まれるためには、一度死ななければならないからだ。それも、正しい在り方で。そして、肉体を滅ぼされたフォルサクスの魂は Uriela の死霊術に供された。彼女が語ったところに拠れば、古竜の魂は半神の器を満たすに足る大きさだという。逆に言えば、その魂を活用するには半神の器──つまり肉体が必要だということだ。
「まさか──その実験のためにマレニアを殺したというのか?」
だとすれば、余りにも常軌を逸している。
「おまえから聞いた話だけでも相当だったが、実際に会ってみて確信した。あの女は、完全にイカれている。」
狂人のすることは読めず、だからこそ恐ろしい。そう言って、ラニは肩を竦めてみせた。
「差し出がましいことを言うようだが──」
話に区切りがつくのを待っていたらしいブライヴが、肩の上のラニを見上げて切り出した。
「ローレッタに、士官を勧めてもよかったんじゃないか? 聖樹に残っても仕える主はおらず、ただ針の筵に座り続けるようなものだ。」
問われたラニは黙っているが、無視を決め込んだわけではない。何事か思案していることは表情で判る。10秒ほどの間をおいて、彼女は口を開いた。
「無論、私もそれを考えてはいた。男ばかりでむさ苦しい我が一党も、彼女を加えれば少しは華やぐのではないかともな。しかし、本人の意思はどうであろう。」
ラニはそこで不意に Ramo へと視線を向ける。
「そこで、騎士と立場を近くするお侍殿に伺いたい。彼女にとって、以前の主家からの誘いは喜ばしいものであろうか。」
さても難しき問いを投げ掛けらたものだ。ブライヴも興味津々といった目でこちらを見ている。雪原の冷えた空気を深く吸い込んで、Ramo は考えをまとめにかかった。
「あくまで某個人の感覚に基づいての回答と断った上で、私見を述べさせて頂く。結論から簡潔に申さば、有難迷惑──ということになろうかと。」
提案を否定されて困惑の表情を見せるブライヴに代わり、ラニが「その心は?」と水を向ける。話の流れを作るのが苦手な自分としては、そうした心配りは有難い。
「事実の確認から始めよう。まず、彼女は以前にカーリアを見限っている。具体的な不満があったわけではないかもしれないが、いずれにせよ主家への忠誠よりも重き何かを見出したからこそ出奔という仕儀に至ったのであろう。」
口を斜めにするブライヴと、目を閉じて頷くラニ。対照的な反応だ。
「そして此度の一件。あの結末がローレッタ殿の選択によって変わり得えたかは知りようもなし。ただ、彼女が通した者たちが主マレニアを害したという結果だけが残された。さて、ここでブライヴ殿に問おう。ローレッタ殿は今、具体的に何を悔やんでいるだろうか?」
「何ってそりゃ──、マレニアの殺害を阻止できなかったことだろう?」
そんな当たり前のことを、と言わんばかりの声音。無論、それが普通の感覚ではあるのだが。
「間違いではない。されど、正鵠を射てもおらず。あの次第において武人が悔やむのは、主を守ると誓った過去の己を裏切ったことなれば。」
「難しいことを言うな。どこが違うんだ?」
ラニが指先で、不満げに息を漏らすブライヴの鼻を撫でる。
「奇妙に聞こえるかもしれぬが、武人にとっての忠義とは結果でなく過程なのだ。志した道を外れずに歩けているか──それが、自身に対する評価の軸となる。カーリアを離れた件についても同様だろう。裏切りの相手は主君ではなく、『この主に終生仕えると定めた己』ということになる。」
古人はその規範意識を「誉れ」と呼んだ。今や、その言葉が使われることは稀であるが。
「なれば、かつての主君に再び仕えるは重ねての裏切りに他ならない。己を責め詰り、それでも遂には許した過去の自分に申し訳が立たぬ、と感ずるのだ。」
しばしの沈黙。充分な説明ができたか甚だ疑問ではあるが、他の表現も思いつかない。自分自身、ずっとそれが普通の考え方であると思って生きてきた。それが他者には極めて異質なものに見えることを知ったのは、狭間の地へ来てから──それも、随分経ってからのことだ。続く言葉のないことを察し、ラニが流れを引き取ってくれた。
「ムーングラムはおまえも知っておろう? 委細は異なるが、かつての彼も概ね同じことを語っていた。諸々を勘案した結果、ローレッタに声を掛けるのはやめておいたのだ。」
「駄目だ、わからん。」
ブライヴが頭を振る動作に合わせて、肩の上でラニが左右に揺れる。
「おまえは、それでいい。周りをこんな面倒な連中で固められては、肩が凝ってかなわん。」
月明かりの雪原。長く刻まれた二つの足跡は、吹きすさぶ風に浚われてすぐに見えなくなった。