ブルーアーカイブ ゲヘナ食堂いらっしゃいませ! 〜人型パンちゃんに転生した私、ゲヘナ給食部でパンちゃんたちを従えて無双…?〜 作:Di Gi O
ゲヘナでの1日目の生活を終え、ジュリの部屋にて給食部の二人と共にお泊まりをしたニロ。
起きて早々ジュリとヌメヌメしたり、フウカの特製トーストを食べたりしつつ登校、フウカとジュリからゲヘナでの生活について説明を受ける。
そして食堂へたどり着き、改めて部員として給食作りを手伝い始めたニロ。
数百kgの材料の下処理に苦戦するが、なんとジュリの生み出したキャベちゃんの献身的(物理)な働きによってあっという間に野菜のカットが完了してしまった。
さらに餌も野菜くずで良いというあまりに都合のいい生態に興奮したフウカに詰め寄られる一幕もありつつ、カレー作りは続くのだった。
「止めないでジュリ!!給食部の人手不足を解消するにはもはやこれしかないわ!!」
「開幕から騒がしいね??」
「いけませんフウカ先輩!孫の顔はたしかに見たいですけど、父親が早く子供を作れなんて言うのは今の時代たとえ親子でもハラスメントですよ!」
「そういう問題じゃないと思うんだけど。というか別にエッチして産んでる訳じゃないからね?」
ニロにパンちゃんの増産を頼もうとするフウカと、親として(?)ニロの意思を尊重しようとするジュリ。
うず高く積まれた野菜の前でよく分からない論争が繰り広げられる。
「あの〜お二方?とりあえずカレー作りません?あと2時間ですし……。」
そっと二人の間に割って入るニロ。
フウカははっとして我に返る。
「……はっ!わ、私としたことが……あまりに理想的な人員過ぎて我を失ってたわ……。」
「フウカ先輩がボケるの珍しかったですね。」
「ボケてた訳じゃないから!大真面目よ!」
「うふふ、ニロちゃんの子供の事はまたゆっくり考えましょうね♡」
「まぁ、前と同じなら多分カレー完成して食べたら新しい子が産めるでしょうし、先に仕事を終わらせちゃいましょう。」
「そうね……それじゃあ、続きをしましょうか。」
「よし!野菜はカットまで完璧に終わらせてくれてるみたいだし、次は炒めて煮込んでいきましょうか。」
フウカの指示の元、次の工程に入る3人。
フウカの持ってきた牛肉と野菜を鍋の前に持っていくのだが。
「うわぁ!給食のおばちゃんが使ってるめちゃくちゃデカイ鍋だ!初めて見た!」
「家庭用サイズじゃ絶対時間に間に合わないからね。」
その鍋はニロたちの身長と変わらない程の大きさであり、容積はなんと500L。単純計算で2000〜2500人前分のカレーを作れる巨大サイズである。
「それじゃあ、切れた材料を全部鍋に入れてくれる?量は半分ね。」
「了解です!」
フウカの指示のもと、ボウルに山積みの野菜たちを鍋へと入れていく。
ゴトゴトと音を立てて鍋に注がれていく具材たち。
そこに牛肉も投入する。
「ジュリ、油と火お願い!」
「はーい♪」
そこにサラダ油を軽く注ぎ、火にかける。
鍋が大きい分、コンロも相応の大きさをしているためすぐに熱が入り始める。
パチパチ……
「よし、そしたらニロ、これでかき混ぜて炒め合わせてちょうだい。」
「わかりまし……うわデカっ。」
フウカから手渡されたのは150cmほどある巨大な木べら。
木製のそれは見た目より重く、長さもあるためかき混ぜるのは重労働である。
「底を焦がさないように手早くね。でも早すぎるとかえって火の通りが悪くなるから、丁度いいスピードで。……難しいかしら?」
「いや、やってみます!」
ニロは鍋の前に立ち腕で木べらを動かす。
しかしやはり混ぜにくい上なかなかしんどい。
「ふぅ……やっぱり私の場合って腕より触手の方が何かと上手くいくのかな……。」
試しに触手4本で木べらを持ってみる。
するとやはり腕よりやりやすい。触手は伸縮自在である上、吸盤でしっかりと木べらをホールドできるので力も入れやすいのである。
「おぉ……。……便利だけど、やっぱり私って人外なんだなぁ……。」
しみじみと自分が人間から逸脱した存在であることを認識しつつ、ニロは鍋を混ぜ続けるのだった。
「……そろそろいいかな。」
やがて、鍋の中の具材は油をまとい、肉と玉ねぎは焼き目のついたいい色となっていた。
「フウカ先輩!こんなもんでいいですかね?」
「どれどれ……うん、いい感じね。それじゃあ水を入れましょうか。」
フウカのGOサインも出たので次の工程へ。
具材がしっかりと浸るくらいの水を入れていく。
蒸発する分も考慮して多めにしてあるようだ。
「ふぅ……うわぁ、すっごい湯気。」
「これでOKね……あとはお昼まで煮込んでカレールーを入れたら完成よ。さ、サイドメニューとお米の準備をしましょうか。」
「うふふ、みんな大好きなカレー、楽しみですね♪」
その後、3人は同時並行で作っていたもうひとつのカレーの鍋の様子を確認して、一旦カレーの調理は完了となった。
食堂の椅子に座り、休憩する3人。
お茶を飲んで一息つきつつ雑談する。
「ちなみにサイドメニューってどんなのがあるんです?」
「冷凍の揚げ物とパンですね。ただ……。」
「ただ?」
口を濁すジュリに首をかしげるニロ。
するとフウカがため息混じりに繋いでくれる。
「まぁもう察してると思うけど、今まで私たちって二人で給食部を回してきたのよ。毎日2人だけで何千人分って量の給食を作るとなると、当然だけどクオリティも量も、種類も妥協しないといけない。で、結果的に行き着いたのが……。」
「……冷凍食品と、既製品のパン類って事ですか……。」
「悔しいけどね……私だって本当は美味しい出来たてを作ってあげたいから。」
苦笑するフウカ。
元より料理のモチベーションの比重の多くが奉仕の心の少女なのだ。
さぞ無念だろう。
「あと普通に万魔殿のさじ加減で予算減らされるから節約せざるを得ないのよ。」
「あまりに不憫!!」
「ま、今はニロが入ってくれたから。これから見返してあげて、予算を増やしてもらえばいいのよ。……それに、さっきみたいにパンちゃんが今後色んな作業ができるようになるなら、温泉開発部だって越える規模の部活にするのも夢じゃないわ!」
「……パンちゃんって部員として数えていいんですかね?」
「ニロちゃんがいいなら良いはずですよ♪」
「良いのかなぁ……。」
「さ、休憩終わりよ。私はお米の準備するから、二人で揚げ物をお願い。やけどしないよう気をつけてね。」
「わかりました!さ、頑張りましょうねニロちゃん♪」
「うん、ママ。」
3人は椅子から立ち上がり、それぞれの仕事を始めた。
ジュリに案内され、フライヤーの前に来たニロ。
「これがフライヤーです!油は基本2日に1回変えて、その時に全体の掃除をするんですけど、まぁそれはまた掃除のタイミングに教えますね!とりあえず、調理を始めましょうか!」
「はーい!」
ジュリは説明しながらフライヤーの電源をつけ、油を熱していく。
「冷凍の揚げ物はフライヤーの真後ろの冷凍庫にまとめてあります!ここがポテトフライ、ここがコロッケ、ここがトンカツ、ここが唐揚げ、ここがアジフライ……たまに業者さんの品切れとかで配置も変わるんですけど、毎日出る基本の揚げ物はこれくらいですね!ここのストックが切れたら裏の大きい冷凍庫にダンボールで入ってるので、そこから補充してくださいね♪」
「なるほど……分かった!」
「それじゃあ実際に揚げてみましょうか?やけどしないよう、手で挟んで……滑らせるように斜めに入れてください!」
ジュリに見守られながら、冷凍のトンカツを油に投入する。
シュワァァァァァ……
「おぉ……。」
「うんうん、上手ですよ!その調子であと9枚くらい入れちゃいましょうか!それ以上入れちゃうと油の温度が下がっちゃって、中に火が通らなかったり、逆に衣が焦げ付いたりしちゃうので!」
「OK!」
ニロは指示通り次々とトンカツを放り込んでいく。
フライヤー内の油の表面はトンカツでいっぱいとなった。
「カンペキです!それじゃあ6分くらい待ちましょうか!」
「わかった。……なんかホントに親子で料理してるみたいだね。」
「ホントも何も、私たちは親子でしょう♡」
「ジュリママがそれでいいなら私もそれでいいか!」
「……そろそろですかね?よし、引きあげましょうか!ニロちゃん、こことここの持ち手を掴んで引きあげてくれますか?」
「はぁい!」
ジュリの指示通り、フライヤーの端っこについている2つの持ち手を掴んで持ち上げる。
すると、フライヤーの中に入っていたトンカツが全て網に掬われ油から上がった。
「おぉ!これマ〇クで見たことあるやつだ!ポテト一気に引き上げるザル!」
「ポテトバスケットって言うんですよ♪」
美しい茶色に揚がったトンカツをフライヤーの隣のスペースに置き、暫く油を切る。
「トンカツは出す直前に切って出すので、それまではこの温蔵庫に入れておきましょうね!」
「うわ!これも見たことあるやつ!コンビニのホットスナック入ってるやつのでかい版だ!」
「新鮮な反応でかわいい♪」
次々とお出しされる業務用ツールに興奮するニロ。
さながらキッザ〇アに来た小学生のような反応にほっこりするジュリだった。
「よぉし、それじゃあママもやってみましょうか!」
「……え、やるの?」
「はい♪ニロちゃんにばっかりさせられませんから♪」
ジュリは意気揚々と冷凍唐揚げの袋を開く。
しかし読者諸君もご存知のように、ジュリが本格的な調理に関わった料理はほとんどの確率で触手の生えた怪物『パンちゃん』と化すのだ。
「ママ、私がや……」
止めようとするニロ。
しかしニロに電流走る。
(もしかしたらこれで産まれる新しい揚げ物のパンちゃんは、揚げる料理が得意なパンちゃんかもしれない!)
元はただのキャベツの千切りだったキャベちゃんが、ヘリアン〇ス型みたいな回転ノコギリの如き調理を見せてくれたのだ。
ジュリが調理して生まれたトンカツ型パンちゃんなら、高温の油に強かったりするかもしれない。
「よしママ、どんと行こう!さぁ!!」
「はい!どんと行きますよ♪」
便利な子分が増えるくらいの感覚で、ニロもジュリを応援することにした。
ジュリはテンポよく次々と冷凍トンカツを油に投入していく。
ジュワァァァァ……
「さぁ、どんなのが産まれるかな〜。」
「そうですね、美味しく揚がってくれたら……って、もしかしてニロちゃん、パンちゃんが産まれて欲しいって思ってません!?」
「ヤダナーソンナコトナイヨー。」
「そ、そうですよね!きっと今回こそ、美味しい普通のトンカツが揚がるはずです!」
ニロの棒読みを信じる純粋さを見せつつ、しばらくフライヤーの中で踊るトンカツを見守る2人。
3分。5分。特に変化は起きない。爆発もしないし、触手も生えない。
「……あれ?……変わらないね?」
「ほら!今度こそちゃんと出来たんですよぉ!引き上げちゃいますよ!」
ニロが何も起きない様子を訝しむなか、ジュリは今度こそ上手くいったと喜びながらフライヤーの取っ手を持つ。
フライヤーの隣に引き上げたカゴを乗せ、油を切る。
……何も起きない。
「……もしかして本当に何も起きない?」
「そう言ってるじゃないですか!えへへ、ついに私もまともな料理ができるようになったんです!」
ジュリは喜んで油を切ったトンカツをまな板に移す。
包丁を取り出し、ザクザクと6等分して皿に移す。
「完璧です……!さぁニロちゃん、ママの特製トンカツですよ!味見させてあげます♡」
ジュリはとてもいい笑顔を浮かべながら切ったトンカツにソースをかけ、箸で持ち上げてニロの口に持っていく。
「えぇ?……ま、まぁ確かに何も起きてないし……じゃ、じゃあ頂きます。あ〜……」
ニロは恐る恐るではあるが目を閉じ口を開ける。
「あ〜ジュププ…くぁw背drftgyふじこlp;@:……」
「うふふ、美味しいですかニロちゃ……ニロちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!?!?」
なんと、ジュリがニロの口に持っていった1切れのトンカツから突然触手が生え、ニロの口の中にねじ込まれて行った。
「
「なんて言いました!?と、とりあえず抜かないと!う、うーん!えぇいっ!」
ヌポンッ!
ジュリは慌ててニロの口内へ潜り込もうとする触手つきトンカツを掴んで引っこ抜く。
ヌポンと音を立てて抜けたトンカツはそのまま宙を舞い、まな板の上の切られたトンカツの隣に着地した。
ジュブジュブ……
さらに、6等分されたトンカツ全てから触手が生え、横並びとなって身を寄せ合い始めた。
6切れのトンカツは断面をくっつけ合い元の1枚のトンカツのような姿となる。
「ゲホッ……ふぅ、刺激的な味だった……。」
「大丈夫ですかニロちゃん!ごめんなさい、まさか食べる直前に変異するなんて……。」
「あーいや、大丈夫だよママ……それより、やっぱり新しい子が産まれたんだ……。」
ジュリとニロはまな板の上を見る。
そこにいたのは触手の生えた1枚のトンカツ。
その触手は揚げられたタコのようにカリカリと硬質化しており、本体のトンカツ部分には茶色ではなく紫と緑が混ざったようなソース状の液体を纏っている。
「トンカツの、パンちゃんですね……あうぅ、やっぱり失敗しちゃいました……。」
「よしよし、仕方ないよママ。……それにほら、私ってパンちゃんと意思疎通できるから、もしかしたらキャベちゃんみたいに料理を手伝ってくれるかもしれないよ!」
「うぅ、ニロちゃぁん……」
ニロはジュリを慰めながら、そのトンカツ型パンちゃんに意思疎通を試みる。
「えっと……私の言葉、分かるかな……?」
すると、ニロの脳内に言葉が流れ込む。
チェケラッチョ。
「あ、ファンキーな感じなのね……。」
そのパンちゃんは触手を絡めて腕を組むようなポーズを取りつつニロを見上げる。
少なくとも敵意は無さそうである。
「なんだかサングラスとかが似合いそうな感じですね♪」
「あー、言われてみると確かに……?うーん、とりあえずなんて呼ぼうかな……。」
「トンカツ……カッちゃんはどうでしょう?」
「なんかバンダイナ〇コとかヒロ〇カファンの方に怒られそうだからやめといた方が……。」
「そうですか?……うーん、では性格からDJトンカツちゃんにしましょうか!」
「DJが必要はともかく……それが1番分かりやすいね。よし、命名!『DJトンカツ』!よろしくね!」
\シャァ。/
いいぜメーン。
「なんかエアプラッパー感すごいね君?」
こうして思わぬ事故のような形で受け入れられたトンカツ型パンちゃん、『DJトンカツ』。
ニロとジュリは気を取り直して調理を続けることに。
「さて……私の想像が合ってたら、この子は油とか熱に強そうなんだけど……えっと、トンカツちゃん?この冷凍のトンカツを揚げてもらったりすることって……できる?」
ニロは冷凍トンカツの袋を指さしながら、DJトンカツにお願いしてみる。
\シャッシャァーッ。/
任せなブラザー。
「おぉ……なんか自信満々っぽいよ。」
「うふふ、頼もしいですね。それじゃあやってもらいましょうか?」
ジュリに翻訳内容を伝えつつ、ニロはDJトンカツの目の前に袋を置く。
するとDJトンカツは触手を伸ばして自らの身体とほぼ変わらない大きさの冷凍トンカツを持ち上げる。
そしてなんと……。
「あ、運んで油に入れてくれr……」
ピョンッ。
パシャンッ!ジュワァァァァ……
「いや身投げスタイル!?」
なんとDJトンカツは持ち上げた冷凍トンカツごと自らの身体を油の中へと投じた。
飛沫を上げる油。
そして冷凍トンカツと共にDJトンカツの身体も表面へと浮き上がってくる。
\シュイィィ……/
アゲアゲだぜ。
「……大丈夫なのかな……。なんか気持ちよさそうだし……。」
「うーん、いいお湯……いや油加減なんでしょうか?何にせよ、この子が油と熱に強いことは分かりましたね♪」
「なんて献身的な料理法……えっと、トンカツちゃん。そしたら5分か6分くらい経って色が変わったら、このトンカツを引き揚げて置いてくれるかな?あと、この唐揚げとかポテトもいっぱい揚げてこの容器に入れて置いてくれると助かる。……できる?」
\シャァ。/
任せとけメーン。
「大丈夫っぽい。」
「よぉし、それじゃあ揚げ物はトンカツちゃんに任せて、私たちは配膳の準備をしましょうか!」
「はーい。……あ、でも流石に揚げ物の油を放置していくのってまずいんじゃ……」
\シュィァ。/
共有するぜベイベー。
「ん?……あ、そういえば私ってパンちゃんと動きとか同期できたんだっけ。……視界共有とか……あ、できる。うわ油の表面視点って凄いへんな感覚……」
初めてパンちゃんと会った時に使用した共感能力を思い出すニロ。
どうやら動きだけでなく視界などもリンクできるようだ。
「とりあえずこれなら様子見しながらできるかな。よし、それじゃあ揚げ物は任せたよ。」
「うふふ、ニロちゃんはなんでも出来ますね♪」
「都合いい能力がありすぎて我ながら代償とかありそうで心配だなぁ……。」
こうして2人は揚げ物をDJトンカツへ丸投げし、昼営業の為の配膳準備へと移るのだった。
「ふぅ、とりあえず2000人前くらいのお米の準備完了と……ニロ、ジュリ、どう?揚げ物は……って、あれ?誰もいない……もう!揚げ物をする時は近くに誰かいないと火事になったら危ないでしょう!後で叱らないと……」
そこに戻ってきたのはフウカ。
2人の安全意識の低さにぷんぷんと怒りながらフライヤーに近寄る。
「まったく……揚げてるのはトンカツに唐揚げにポテト……焦げてはないみたいね。とりあえずもう火は通ってそうだし上げないと……」
フウカはバスケットの取っ手を持ち上げる。
ヌチャッ。
「ん?ヌチャ?」
フウカは持ち上げたバスケットの中から聞こえた揚げ物からするはずのない音に違和感を感じ中身を見る。
\シュァ?/
「……。」
「い、い、異物混入ゥウウゥゥウウゥ!!!!!!!!」
バスケットの中からフウカを見上げて触手をゆらめかせるトンカツの姿に、彼女は白目を剥きながら叫ぶのだった。
「まず何か言うことは?」
「部員が増えて良かったですねフウカ先輩。」
「トンカツちゃん、可愛いですよね♪」
「あなたたちを揚げてあげましょうか?」
「「ごめんなさい……。」」
叫び声を聞きつけ戻ってきた二人を正座させ説教するフウカ。
残念でもなければ当然である。
「はぁ……ニロが感覚共有で見張ってたのはわかったし、あのパンちゃんに敵意が無いのも分かったけど……だとしてもまず先に私に許可を取りなさいよ!一応部長なんだけど!」
「おっしゃる通りで……。」
「うぅ、悪いのは私なんです、ニロちゃんは意思疎通を図ってくれただけで……。」
「そ、そんな落ち込まなくても……とりあえずあの子が揚げてくれた揚げ物が本当に何も問題ないのか調べないと流石に給食で出せないわ。それさえ問題ないなら人手がが増えて私としても嬉しい話だけど……。」
「うーん、とりあえず、食べてみます?」
「……えぇ……?いや、確かに食べないと分からない話ではあるけど……。」
「私が食べましょうか?」
「いや、ニロってなんというか、多分私たちと生態とか違うと思うから、やっぱり私がジュリが食べないと……。」
「わ、私が食べます!可愛いニロちゃんとトンカツちゃんの作った料理ですし、ママが食べない訳には!」
「いや、冷凍食品揚げただけだからそんな気にしてくれなくても……。」
「うーん、それなら頼むけど……もし変な味がしたりしたらすぐ吐き出しなさいよ?」
「そんな!娘と孫の料理を吐き出せなんて!」
「いや貴方の身を案じてるんだけど!?というか娘と孫!?」
「ま、まぁまぁ……別にヤバかったら吐いていいから、とりあえず食べてみて?」
心配するフウカに対し、驚愕を返すジュリ。
ニロが窘めつつ、今しがたDJトンカツが揚げたトンカツ、唐揚げ、ポテトをジュリに差し出す。
「それじゃあ、頂きます。」
ジュリは特段躊躇う様子もなく、ソースのかかった1切れのトンカツを口に運ぶ。
ザクッ!
「……ど、どう?」
「大丈夫……?」
心配するフウカとニロ。
しかし。
「……うん……美味しいです。いつも食べてる、揚げたてのトンカツの味です!」
「ほ、本当?あの紫色の液体っぽい変な味とかしない?」
「いえ、まったく!ジューシーなお肉とサクサクの衣の味です!」
笑顔で感想を話すジュリ。
少なくとも食べてすぐは何ともないらしい。
「唐揚げとポテトは……?あむっ。……うん、こっちも普通の美味しさです!」
「……ほ、本当に大丈夫なのね……。」
「これでトンカツちゃんも正式な戦力ってことになりますよね?」
「え、えぇ。この後も何も起きなかったらの話だけど。……よ、よし!それじゃあそのトンカツちゃんにはどんどん揚げ物をやってもらって!今の時間は……10:30!もう少しで営業時間よ、私たちは配膳と開店の準備!」
「「はい!」」
正式にDJトンカツ雇用の許可を出されたニロとジュリは、忙しなく営業準備を進めるのだった。
ゲヘナ学園の食堂の周りが、少しずつ騒がしくなる。
未曾有の治安の悪化や美食研究会の活動によりただでさえ少ないゲヘナ自治区のまともな飲食店は次々と臨時休業したり、爆破され跡形もなくなったりしている。
そうなれば当然、そこへ向かうはずだった客は別の場所へと足を運ぶこととなる。
つまり、未だなんとか営業を続けられている給食部ただ1箇所である。
そんな状況では当然、営業開始直前の給食部周辺は……。
「飯はまだかァァァァ!」
「カレー!!!!!」
「おい!押すな!私が先に並んでたんだ!」
「飯食うってレベルじゃねぇぞこれ!」
生徒たちがひしめき合い、大喧嘩を繰り広げる地獄と化していた。
その様子を食堂、厨房内部からガラス越しに見ていた3人。
「……え、あれは全員お客さんなんです?」
「……そうよ。」
「ゾンビパニック映画撮影のエキストラとかではなく?」
「残念ながら、客よ。」
「嘘だと言ってよバー〇ィ……。」
「ニロちゃん、落ち込んじゃダメですよ!3人力を合わせれば、きっとなんとかなります!」
「まぁ、何とかするしかないからね……さぁ、営業中の看板を立てるわよ。準備はいい?」
「……よし、腹括ります!」
「はい、バッチリです!」
「それじゃ……行くわよ。」
フウカが厨房を出て、入口付近の壁に吊り下げてある『準備中』の立て札をひっくり返す。
表側に来た『営業中』の文字。
そして。
ドタドタドタドタドタッ!!!
「私が先だァァァ!!!」
「うわっ!まだ食券を買ってる途中でしょうがァァァ!!!」
フウカは札を返した瞬間即座に入口横にステップ回避。
なだれ込む生徒たちに巻き込まれないようそのまま全力ダッシュで厨房へ。
「ジュリ!いつも通り食券の回収と配膳、洗い物よろしく!ニロは追加分の揚げ物とカレーの調理、ジュリのアシスト!」
「は、はい!」「はーい!」
フウカの流れるような指示で、2人も動き出す。
「カツカレー定食チーズトッピング1つ!」
「はい!」
「はいお待たせしました、カツカレー定食チーズトッピングです!ごゆっくり!……次の方食券どうぞ!……カレー定食ご飯大盛り、温玉トッピング1つ!」
「はぁい!……あ、フウカ先輩!温玉これで切れます!」
「了解!余裕あったら生卵10パック取ってきて!」
「分かりました!」
「はいお待たせしました、カレー定食のご飯大盛り、温玉トッピングです!ごゆっくり!」
ジュリが受付で食券を受け取り、ニロが盛り付けてまたジュリにパス。
足りなくなったカレーやご飯などは常にフウカが作り足していく。
そして食堂の席がいっぱいになって新規注文が止まる数分の隙に、ジュリは洗い物、ニロは揚げ物を全力で進める。
「いただきま〜……ん?なんかこのキャベツ動いてね?」
「はぁ?何言ってんだお前?そんなわけ……」
ジュブッ……
\シャ?/
「おわぁぁぁぁ!?キャベツの千切りが動いてるゥゥゥゥゥ!?」
「あれぇ!?キャベちゃん、そんな所で何を!?」
配膳をしていたジュリが慌てて皿の上で千切りキャベツに擬態していたキャベちゃんを回収しに走る。
「お、おい!なんなんだそれ!!なんでキャベツが動いてんだよ!!」
被害に遭った生徒がジュリに叫びながら怒る。
「ち、違うんですこれは!その、えーっと!」
「活きのいいキャベツで!!!」
「え、キャベツの活きが!!?」
「はい!!!!」
「……なら仕方ないか。」
「ふぅ、素直な生徒さんで助かりました!」
「ねぇフウカ先輩、ゲヘナってあんなのばっかりなんです?」
「気にしないで仕事しなさい。あんなのいちいち気にしてたら何も出来ないわよ。」
厨房からニロがその様子を見て突っ込む中、フウカはいつもの顔( 눈_눈)で流し見ながら仕事を続けていた。
「ごちそうさん。なんか今日のカレーは冷めてなくて美味かったわ!……あれ?誰あんた?」
しばらくそうしていると、返却口に食器を返しに来た一般生徒が厨房の中のニロに話しかけてくる。
「あ、どうもー!えっと、新入部員のニロです!」
「へー、あの給食部に新人が入るなんてな。ま、人手が増えたなら味が良くなるのも納得だわ。んじゃ頑張ってねー。」
「はーい!また来てくださーい!」
手を振りながら帰っていく生徒に笑顔で手を振り返すニロ。
「……なんか、思ってたよりも治安いいのかな?」
ニロは喧嘩や大騒ぎは起きつつも、なんだかんだ料理を食べて素直に帰っていく生徒たちの姿に、自分の想像よりゲヘナは平和なのかもしれないと考える。
「ニロ、どうしたの?」
「……あ、フウカ先輩。なんか、自分が考えてたよりみんなちゃんとしてるなって。食い逃げとか爆発騒ぎとかにならないし。」
「あぁ、まぁ最近は治安の悪化が目に余るからって風紀委員の人達も本腰入れてパトロールしてるみたいだし、ここに食べに来てる子達もここに何かあったらもうまともにご飯を食べられなくなるから自重してるんでしょうね。」
「へぇ……ってことは、やっぱり普段はもっと酷い騒ぎになるんですか?」
「面白半分でセルフサービスの水のピッチャーに山海経産の若返りの秘薬を混ぜられて、客がみんな幼女になったことがあったわ。」
「そんな面白そうな事が!?」
「何が面白いの!?」
「ニロちゃんが幼女に!?」
「言ってないわよ!?」
そんな会話を挟みながら、昼営業の時間は過ぎていった。
「ごちそうさーん!」
「はーい、また来てくださいね〜!」
ジュリが最後の客を笑顔で見送る。
「準備中……っと。……よし、これでお昼営業は終わりね。2人とも、お疲れ様。」
フウカが看板を回転させながら、後ろの2人に微笑みかける。
「ふぅ……疲れたけど、意外となんとかなるものですね!」
ニロが息をつきながらも笑顔で話す。
「そうね。壁も吹き飛ばなかったし、味にケチつけられて食券機を破壊されもしなかったし。平和な営業ができて良かったわ。」
「不憫でならないんですけど?」
「日常茶飯事でしたもんねぇ……。」
「ゲヘナで給食部するって凄いんだね……。」
ニロが遠い目をするフウカとジュリを見て色々と察する。
つくづくゲヘナに向いていない善性の二人である。
「……ま、これで仕事は一旦終わりよ。私達もお昼にして、片付けをしたら自由時間にしましょうか。」
「はーい!」
「うふふ、特製カレーの味、楽しみですね?」
3人は自分たちの分のご飯とカレーをよそって食べようとする。
そんな時、足音が聞こえてきた。
ガラガラガラ……
「……?誰か来たの?もう営業時間は過ぎたけど……。」
「あ、私が出てきます。」
「あぁニロちゃん、私も行きますよ!」
フウカが首を傾げるなか、ニロとジュリが厨房から出て入口へ向かう。
「すみませーん、もう今日の営業終わっちゃって……て……」
ニロが申し訳なさそうに入口の方へ顔を向ける。
するとそこには。
「離しなさいイオリ!!私はここにいる触手の変態に話をつけなければいけません!!」
「落ち着けってアコちゃん!!!ここにはご飯食べに来ただけだろ!!?」
「食べる!??私の委員長が誰に食べられたですって!!?キィイイィィ!!!!」
「耳どうなってるんだアンタは!!?」
「……。」
「……はぁ。……お邪魔するわ……。」
「ふ、風紀委員会の方々です!?」
「しかも幹部勢揃い……?」
怒り狂う天雨アコとそれを抑える銀鏡イオリ、その後ろで呆れる火宮チナツと空崎ヒナが来ていたのだった。
[パンちゃん図鑑 No.005]【DJトンカツ】
危険度:D→B
6等分されたトンカツから触手が生えたような見た目のパンちゃん。
通常時は6切れの身体がひとつとなり4本の触手と紫色と緑色の混ざったソースを身体にまとっている。
6切れの身体はそれぞれ自由に別行動をさせる事が可能だが、パワー、スピードは集合時より劣る上、食べられようとする本能的な行動しかできない。
逆に集合時は高い知能とアツアツの衣に含んだ油分を活かし、外敵に自らの肉汁と油を発射し攻撃する。
高熱に対し高い耐性を持つ為、その気になればゲヘナのヒノム火山内部の溶岩を遊泳できる。
逆に弱点は低温と油不足であり、定期的に適温の油で遊泳し自らの衣に温度と油分を蓄えないと、みるみるうちに肉汁と衣の油分がカスカスになり、生命活動を停止する。
主食はカツ系の揚げ物を揚げた後の油に浮いているパン粉のクズ。
性格は個体差もあるが概ね陽気でウェイ系。
たまにクラブハウスに出没し、ターンテーブルや電子楽器を使いこなして同族と一緒に踊っているらしい。