ブルーアーカイブ ゲヘナ食堂いらっしゃいませ! 〜人型パンちゃんに転生した私、ゲヘナ給食部でパンちゃんたちを従えて無双…?〜 作:Di Gi O
未曾有の治安悪化の対応に追われていた風紀委員会。
ようやくそれぞれ出張していた幹部たちが仕事を終え帰還し、多少は仕事が落ち着く。
それぞれ出張先で出会った変な生徒の報告もそこそこに休憩に入る中、ヒナはアコから給食部と共に行動する謎の少女についての情報を得る。
監視カメラの映像なども確認した上で、少なくとも万魔殿が存在を認知していることを察したヒナは静観を決定。
しかしヒナは警戒も怠らないよう気を引きしめる事にした。
一方万魔殿議長、羽沼マコトから高品質なプリンの納品をニロの編入試験と称して命令された給食部たち。
様々なトラブルを起こしながらも無事に特製プリンアラモードを完成させ実食。
美味しさに大満足する。
しかしどういう訳かニロが突然腹痛を訴えたかと思えば、なんと生えている触手の根元、総排泄腔のような穴から新たなパンちゃんが産まれた。
そのパンちゃんは直前にジュリが産み出したプリン型パンちゃんと同様『プリちゃん』と名付けられひとまず給食部預かりに。
カオスな展開が続く中、改めて給食部たちは納品のために万魔殿へ向かうのだった。
「フン…約束の時間まであと10分を切っているぞ!ヤツら、15分前行動も知らないのか!?やはり私の見込み違いだったようだな!キキキ!」
万魔殿本部、議長席にて足を机の上に上げふんぞり返るマコト。
制限時間切れまでマコトの言う通り10分を切っていた。
「え?10分前行動じゃないんですか?」
「ですよね!私も10分前行動って習いました!」
「あら?私達は15分前行動って習ったわよ?」
「えー?イブキ、5分前行動しか聞いたことないよ〜?」
仕事をしたりサボっていたり遊んでいたりした万魔殿メンバーが次々と口走る。
「何ィ!?せ、世代を追うごとにどんどんと緩くなって行っているのか!?こ、これがゆとり世代というものか…!」
「マコト先輩、今の時代そうやって自分ルールや価値観を押し付けたらすぐハラスメントになりますよ?」
「フン、知ったことか!そもそもこちらに頼み事をしてきているのは向こう側なのだ!その程度の誠意は見せて当然だろう!」
「珍しく正論ではありますけど…。」
イロハはため息を着く。
「うーん…イブキ、難しいことは分からないけど、先に決めた時間に遅れちゃってないなら、そんなに厳しく言わなくてもいいんじゃないかなぁ?時間より早く来るって、来る人の心がけだと思うの!だから来てもらう側の人が決めた時間より早く来ることを無理に求めるのは、あんまり良くない気がする!」
「イブキがそう言うならその通りだな!!仕方ない、もし時間内に来たならこのマコト様が寛大な心で許してやろう!」
「手のひらインパクトドライバくらい回転してますね。」
「イブキちゃん、すごい達観した価値観なのね…。」
「さすがは飛び級で高校入りした天才児イブキちゃん、ですね!」
あまりにも末っ子に甘い万魔殿。
この論争において正解というものはない気がするが、結局は誠意と行動の問題なのだろう。
そんな雑談をしていると。
「議長、給食部の方々が到着されました。」
「フン、ようやくか!時間は…残り7分。まぁ、イブキもああ言っていたのだ。ひとまず制限時間については合格としてやろう。入れ!」
「かしこまりました。…開門!」
ギイィィィィ…
ゆっくりと大きな扉が開かれる。
そして開いた扉から入ってくるのは3人の少女。
「お待たせしました、議長。」
「すみません、ちょっとトラブルがあって遅くなりました!」
「うふふ、ちょっと孫の顔を見てまして…♡」
「ジュリ、お願いだから今はややこしいこと言わないでね???」
給食部のフウカ、ジュリ、仮部員のニロだった。
フウカの手にはクーラーボックスが握られている。
「キキキ、面倒な前置きは省略するとしよう!さぁ、約束の物を献上するがいい!」
「はいはい…こちらです。」
フウカは歩み出て、クーラーボックスの蓋を開く。
その中から出てきたのは。
「わぁぁぁ…!プリンだぁ!しかも、なんだかいっぱい乗ってる!」
イブキがクーラーボックスを覗き込み、目を輝かせる。
中に入っていたのは器に美しく盛られた5つのプリンアラモードだった。
「これは…プリンアラモードね?たった3時間で、随分手の込んだものを作ってくれたのね。」
「おぉ…!ゲヘナの名スイーツ店に勝るとも劣らないビジュアルです!このままメニューの参考画像に採用できますよ!」
サツキとチアキもその出来に感心しているようだ。
「ふむ…見た目は中々だな!及第点としてやろう!キキキ、しかし問題は味だ!早速実食とさせてもらうぞ?」
「はい、保存料も入れてませんし、早めに食べてもらった方が私たちとしてもありがたいので。」
フウカはニコリと微笑む。
「それじゃあ、失礼しますね。」
イロハは特に指示もされていないのにクーラーボックスからプリンを丁寧に取り出し、それぞれの席に配膳して行く。
「…日頃から思ってたけど、イロハっていつもめんどくさいって口では言いながらもこういう時は率先して動くわよね。」
「…別にしたくてしてる訳じゃありません。ただ…。」
「私以外がやると基本ろくなことにならなそうなのでまだ私がやった方がマシかなと…。」
「あぁ…。」
「い、イロハ先輩とフウカ先輩が同じ顔に…。」
「フウカ先輩以外もあの顔( 눈_눈)できたんだ…。」
苦労人の顔をするフウカとイロハに少し同情するジュリとニロ。
「…まぁ、とりあえず頂きましょうか。」
イロハも自分の分を机に置き、席につく。
「それじゃあ、頂きm「ちょっと待ったァァァ!」うるさ。何ですかマコト先輩。」
イロハの頂きますの号令を全力で遮るマコト。
「何ですかではないわ!!なぜ誰もツッコまない!?」
「なぜ私のプリンにだけ得体の知れない化け物のオブジェが乗っかっているんだァ!?」
マコトの言う通り、マコトの机に配られたプリンにだけ何故かパンちゃん型のシュガークラフトが載っていた。
ちなみにシュガークラフトとは店で買うケーキの上にのってる食べられるサンタさんの飾りとかの事である。
実はメレンゲと砂糖で作れるが難易度は高い。
「得体の知れない化け物だなんて失礼な!それはパンちゃんです!」
ジュリがほっぺを膨らませながら抗議する。
「いやこれは化け物だろう!?何故これをプリンに載せた!?どう考えても食欲が湧かない見た目だろうが!」
「酷い!ニロちゃんが頑張って手作りしたのに!」
「お前か麦焼ニロ!?」
「え、えへへ…つい悪ノリしちゃったというか…。」
ニロは触手をゆらめかせながら頭を搔く。
「あなたいつの間にシュガークラフトなんて作ってたの?」
「いやぁ、フウカ先輩に本物のパンちゃんのせるのは止められたじゃないですか?」
「本物!?本物をのせようとしていたのか!?」
「いや、流石にマコト議長専用ですよ?イブキちゃん達にあんなの食べさせられませんよ!」
「私にも配慮せんかァ!」
「まぁともかく、さすがにいくらマコト議長でもそれは可哀想かなと思って、バニラアイス作った時に余った卵白を見て試しにやってみたら思いのほか上手く行って。それでマコト先輩のやつにヒョイと。」
「ヒョイと。じゃないわァ!だったら何で可愛いイブキのシュガークラフトとかにしなかった!?何でよりによって牛牧の産み出す化け物にした!?」
「うーん…まぁ、給食部のマスコットだし?」
「勝手にマスコットにしないで?私は認めてないわよ?」
「え〜?折角だし公認マスコットにしませんか?ほら、ニロちゃんも産まれて私たちとパンちゃんの関係も深まったわけですし♡」
「ニロを普通のパンちゃんの枠組みでカウントしていいの?というかそもそもパンちゃんの存在は普通じゃないと思うけど。」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか♪」
「あなたねぇ……。」
フウカはいつもの顔でツッコミを入れるがジュリはまるで気にも止めていないようだ。
「それにしても、すごいクオリティね?小さいから乾燥は1時間くらいで出来そうだけど、だとしても料理の余り時間でどうやって作ったの?」
サツキは素直に感心しながらニロに質問する。
「え?あぁ、それならこの触手でちょちょいっと。」
ニロは腰から生えた触手を試しに動かす。
シュバババババババ!
「え、すご…。」
さながらスタープラ〇ナのラッシュみたいな触手の動きにちょっと引くサツキ。
「パワー、スピード、精密動作性はAあると思います。」
「才能の塊じゃないの……。」
「うふふ、うちのニロちゃんは凄いでしょう?」
「凄いんだけどその能力をなんでこれに活かしたのか困惑してるわ……。」
「えぇ〜?イブキは可愛いと思うけどなぁ。ねぇマコト先輩、いらないなら貰っていーい?」
「なっ!?ま、まさかイブキ、私が嫌がっているのを見て身代わりに……!?」
「いや普通に気に入っただけなんじゃないですか?ほら、モモフレンズでしたっけ?あれも好きみたいですし。」
「凄いです!ビジュアルの独創性、この精巧な作り!ワイルドハント芸術学院なら特待生も狙えそうです!」
それぞれ個性的な反応を見せる万魔殿メンバーたち。マコト以外には少なくとも素直に称賛してくれているようだ。
「はいはい、騒ぐのはそこまでにしましょう。折角作りたてを持ってきて下さってるんですから。」
イロハが音頭を取ってくれる。
やはり口ではサボりたいと言いつつ、出来る子である。
「うるさいですよ、地の文。」
え、こちらを認識している!?
「ルール説明〜ッ!!」
「うるさ。」
改めて席に座ったマコトが高らかな声で宣言する。
「ではイロハ、説明するがいい。」
「宣言だけして結局ですか。浜ちゃんならちゃんと説明までしてくれますよ。……まぁ良いですけど。」
「イロハ……たまには断ってもいいと思うわよ……?」
結局ちゃんと説明してくれるつもりのイロハに苦笑するフウカ。
「もういつもの事ですし慣れましたよ……。という事で、ルール説明です。」
(1)審査員は万魔殿幹部生徒の5人。5人はそれぞれ料理の味、見た目、香りなどを10点満点の得点式で採点する。
(2)50点満点中30点以上で合格とする。
(3)得点典発表は5人全員の実食が終わった後、一斉開票にて発表する。
「……という感じです。」
「おぉ……。」
「……なんと言うか、バラエティ番組みたいね?」
「えへへ、実はイブキが提案したんだ!前にクロノスの番組でこんな感じの事をやっててね!イブキもやってみたーいって!」
「キキキ、お前たちは麦焼ニロの入部のチャンスを得、我々はイブキを喜ばせることが出来る!正にWinWinという訳だ!」
「まぁ、イブキちゃんが楽しいなら良いですけど……。」
胸を張りふんぞり返るマコトに苦笑するフウカ。
「……さぁ、前置きも無駄に長くなりましたね。それでは今度こそ……。」
イロハが手を合わせ、他の4人もそれに倣う。
「「「「「頂きます(。)(!)」」」」」
一斉にスプーンを手に取り食べ始める5人。
給食部たちは緊張しながら静かにその姿を見守っていた。
「……これは……。」
「……ふむ……。」
「ん〜!おいし……あっ、まだ言っちゃだめなのかな?」
「別にそれくらいは良いと思いますよイブキちゃん!」
「……うん。なるほど……。」
食べ進めながら言葉をこぼす5人。
今のところ高評価なようだ。
そして、実食が終わる。
「「「「「ご馳走様でした(!)(。)」」」」」
「はい、お粗末さまでした。」
「うふふ、この反応!間違いなく合格ですよね、ニロちゃん!」
「ど、どうかな……イブキちゃんとかイロハ先輩は良い感じだったけど、サツキ先輩とマコト先輩はまだ分からないや……。」
いい食べっぷりに笑顔のフウカ、合格を確信するジュリ、緊張するニロ。
三者三様の反応を見せる中、イロハが話し出す。
「……さて、皆さん得点は決定しましたか?」
「キキキ、万全だ。」
「問題ないわ。」
「はい!バッチリです!」
「イブキも書けたよーっ!」
「……この机の全面にモニター付いてるやつ、クイズ番組でしか見たことないんだけど。どうやって用意したの?」
「……マコト先輩が今季削った風紀委員会の予算でミレニアムに依頼しまして……。」
「……風紀委員会に何か料理でも差し入れしようかしら……不憫すぎて言葉が出ないわ……。」
「そうしてあげてください……コホン、それでは得点発表です。」
イロハとフウカの雑談もそこそこに、ついに発表される得点。3人は息を飲む。
「では一斉に、開票です。どうぞ。」
「……という事で。給食部の皆さん、おめでとうございます。編入試験、合格です。」
イロハがうっすらと笑みを浮かべながら宣言する。
「やったぁぁぁぁぁ!」
「ふぅ……何とかなったわね。」
ジュリとニロは手を取り合って飛び跳ね、フウカは額を拭いながら微笑んだ。
「さて、それでは審査員からの講評です。まずは議長から。」
イロハは流れるように講評コメントへと移る。
「キキキ、まずはおめでとうと言ってやろう。3時間で良くここまでのクオリティの物を出したものだ。プリンの口当たりも良くフルーツも新鮮で盛り付けも美しい。味については間違いなく10点満点だ。」
マコトは上から目線ながらも珍しいべた褒めをする。
「だからこそ解せん!!!何故!!何故あの化け物のシュガークラフトを載せた!?あれが無ければ文句なく10点を付けたものを!!!」
「まぁ……シェフのこだわりですので……。」
「要らぬこだわりは蛇足だろうが!!」
「むぅ……ニロちゃん、次はパンちゃんじゃなくてキャベちゃんにしておきましょうか?」
「待て!!キャベちゃんとはなんだ!!アレ以外にも化け物を飼っているのか!?」
「化け物じゃありません!うちの子です♡」
「うちの子ォ!?」
「あーはいはい、進まないので次に行きますよ〜。サツキ先輩、どうぞ。」
イロハは長くなりそうな論争を無理やり中断させ、サツキへとバトンタッチする。
「うふふ……私もマコトちゃんと概ね同じ意見よ。盛り付けは綺麗だし、味のバランスも取れていてその辺は満点。ただ、生クリームの配分が多いのか、少し胃もたれしたわね。この辺りは個人の味の好みや消化能力の差もあるから一概に悪いとは言えないけど、あくまで私の基準として8点にさせてもらったわ。」
「なるほど……確かに今回は生クリーム多めで作りましたもんね。」
「イブキちゃん向けに甘みとコクを意識したけど、ちょっと裏目に出ちゃったかしら?」
サツキの建設的意見に耳を傾けるニロとフウカ。
「あとはあんまり甘くて美味しいから、虫歯になっちゃいそうで怖いわ!虫歯、なったことはないけどきっと物凄く痛いんでしょう?」
「それはもう自分で歯磨きをちゃんとしてとしか……。」
見た目に反し痛みや恐怖に敏感なサツキ。
可愛らしいものである。
「最後はともかく、マトモなコメントありがとうございます。では次に私ですね……。正直なところ、私個人の評価としては間違いなく10点満点です。」
「え?それならなんで8点を……?」
「こんな美味しいものを出されてイブキが毎日食べたいと言い出しでもしたら、栄養失調や肥満になってしまうかもしれないじゃないですか。」
「当たり前みたいに私情を挟まないで!?」
「冗談です、半分。」
「半分は本気なの!? 」
「ま、適当なコメントはさておき……次はチアキですね。」
「はぁいっ!そうですねぇ、私としてはフルーツにプリン、バニラアイスと甘味盛りだったので、もう少しカラメルの量が欲しかったですね!もしくはチョコソースなど味にメリハリを付けるためのトッピングがあればさらに高得点でした!でもとっても美味しかったですよ!」
チアキはニコニコといい笑顔で素直な感想を口にする。
「なるほど……次は付け合わせのアイスをチョコアイスにしてみるのもいいかも?」
「おおっ!素晴らしい提案です!もし給食の新メニューで採用されたら毎日通います!」
「ありがとう。普段から来てくれたら嬉しいんだけどね……。」
「さて。それでは最後にイブキ、お願いします。」
「はーい!」
イブキは萌え袖を振りながら笑顔で返事する。
「えっとね、イブキね、甘いお菓子、特にプリンが大好きなの!だからアイスも果物ものってるおっきなプリン食べられて、とってもうれしい!それに、お姉ちゃんたちが私たちのために一生懸命作ってくれたんだもん!だから絶対満点だよ!」
「イブキちゃん……。」
フウカは慈愛に満ちた顔でイブキを見つめる。
この純真無垢な性格、優しい心。まさしくゲヘナの宝である。
「「HEEEEYYYY!!!!」」
「え、エシデ〇シ!?」
一方ニロとジュリは感動のあまり号泣していた。
「私……こうやってお礼なんて言われるの初めてかもしれません……グスッ……。」
「良かったですね、ニロちゃん……!うぅ、ママは誇らしいです……!」
「よしよしお姉ちゃん、泣かないで?」
駆け寄って2人を撫でるイブキ。
「クッ、羨ましい……!私もイブキによしよしされたいッ!」
「今この感動シーンでよくそんなこと言えますね?」
「別にマコトちゃんなら頼んだら撫でてくれると思うけど?」
「上級生の私がイブキに撫でて欲しいなど言えるわけが無いだろう!」
「今言ったじゃないですか。」
「あはは……。」
万魔殿メンバーとフウカは、しばらく微笑みながら3人を見つめていた。
「さて、では改めてになるが、麦焼ニロ!」
「は、はい!」
ニロは背筋と触手をピシッと伸ばして返事をする。
「編入試験を突破したこと、褒めてやる。その褒美にこのマコト様の名のもとに、貴様の入学を認めよう!キキキッ、ようこそ、我がゲヘナ学園へ!」
マコトは手を広げながら高らかに宣言する。
「おぉ……!ついに入学……!あ、ありがとうございます!」
ニロは素直に頭を下げた。
「ゲヘナ生になったからには我が下僕も同然!馬車馬の如く働くがいい!」
「一般生徒相手になんて事言ってるんですか。いくら生徒会長でもそんな権限はありませんよ。」
「黙っていろイロハァ!元来この入学は特例なのだ、何か見返りが無ければ不平等と言うものだろう!」
「それは……そうかもしれませんが……。」
イロハはため息をつく。
しかしマコトが言っていることも一応筋は通ってはいる。
一切身元不明かつ人間かどうかも不明瞭な少女をこのような流れで生徒として受け入れるのはキヴォトス広しと言えどゲヘナくらいだろう。
「見返り……馬車馬の如く働くって、具体的には何すればいいんですか?」
ニロが触手をゆらめかせながら質問する。
同じ労働でもまともな報酬や休息があるのかないのかで話は変わってくる。
ニロとしては別にちゃんとした仕事ならやぶさかでもないのだ。
「キキキ、それはもちろん……ふむ……」
「……。」
「思いつかん!!」
「どないやねん!!」
ビシッ!と触手とともに手で突っ込むニロ。
「まぁアレだ、愛清もお前が給食部に加入すれば料理のクオリティや提供スピードも上がると言っていたような気がするし、お前自身もそうしたいのだろう?なら給食部で精々腕を振るうがいい!」
「まぁ、それなら良いんですけど……。まぁ、お世話になりますし変なお願いじゃなかったら全然聞くので。」
「うふふ、ニロちゃんは優しいですね?」
「別にそれは構わないけど、あんまりヤバいお願いは受けないでね?」
褒めたり心配したりするジュリとフウカ。
「ふむ、中々殊勝な心がけだ!褒めてやろう!」
マコトは機嫌が良さそうにキキキと笑う。
「もうマコト先輩の扱いを分かっているようで何よりです。」
「何か言ったかイロハ?」
「いえ、何も。……コホン、それでは編入用の書類はこちらです。お手数かけますが、ここで書いて貰えますか?」
イロハはテキパキと編入用の書類を取り出す。
「あ、ありがとうございます!」
ニロは笑顔でペンと書類を受け取る。
「いつのまに準備してくれてたのね?」
「プリンを作って下さっている間に、一応準備しておきました。フウカさんがついているならまずいものはまずできないと思っていましたので、まぁ合格するだろうと。」
「相変わらず本当に優秀ね……。」
フウカはイロハの段取りの良さに舌を巻く。
「よし、それじゃあ名前と、……名前……と……。」
意気揚々と書類に記入を始めたニロ。
しかし重要なことに気づく。
「……あの、イロハさん?」
「?どうされました?」
「……名前以外、どう書けばいいんでしょうか。」
「……あ〜。」
イロハはポンと手のひらを叩く。
そう、ニロはジュリが作った料理から突如発生した謎の生命体であり、住所はおろかありとあらゆる個人情報がそもそも存在しないのである。
「家族関係はとりあえず牛牧家の養子にしましょうか♡」
「面倒なことになるから却下で。」
「ひどい!?」
すかさず提案するジュリを抑えるフウカ。
「ねぇねぇ、これって書き方次第でニロお姉ちゃんにほんとのお姉ちゃんになってもらえるの?」
「イブキ、可能ではありますがダメですよ。また倫理というものについて教えてあげますからね。」
「?わかった、ダメなことはダメだもんね!」
「やだもう天使すぎ……。」
素直にイロハの言うことを聞くイブキの純真さに口を抑えるニロ。
「出身は……給食部部室……は流石にダメでしょうね……。」
「ハイハイ!ブラックマーケットの出身にすれば足がつかないのでは!」
「うーん、それだとゲヘナで預かるには予後が悪いのよね……。」
ジュリ、チアキ、フウカも首を捻って考える。
するとサツキが提案。
「普通にゲヘナの産婦人科医院の出生記録を偽造すればいいんじゃないの?」
「いやぁ、流石に万魔殿の権力でもそこまでは……。」
「連邦生徒会はなんだか今混乱してるみたいだし、情報部の方でいくらでも改ざんできると思うわよ?」
「今更ですけどサツキ先輩のとこの情報部優秀すぎません?」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
サラッととんでもない解決策を持ち出すサツキ。
情報関連の面倒事は大抵ヴェリタスやシャーレの権限で解決するのがブルアカあるあるだが、ゲヘナ情報部も大概チートである。
「ま、そういう事だから貴方の個人情報をでっち上げるのは私に任せなさい♪美味しいプリンのお礼と、後輩へのサービスだと思ってくれればいいわ。」
「ありがとうございます!」
笑顔で宣言するサツキ。
ニロたちは感謝の言葉を述べる。
「キキキ、これぞ万魔殿の力!平服するがいいぞ!」
「今回に至ってはサツキ先輩の手柄でしょうに……。」
「これでニロお姉ちゃんはゲヘナに入れるの?」
「そうだぞイブキ!また我々と同じ道を歩む下僕が1人増えたという訳だ!」
「イブキに変なこと教えないでもらえます?」
「しもべ?はよく分からないけど、これでお友達になれるんだね!ニロお姉ちゃん、これからよろしくね!」
「うん、よろしくねイブキちゃん!」
ニロは少しかがんでイブキと握手する。
「……さて、それでは書類もこれで問題なさそうですし、学生証や制服はできるだけ早く渡します。あとは当面の住む場所や銃ですが……。」
「住居なら学生寮を使えば良いだろう。愛清と牛牧の寮に空き部屋はないのか?」
「あ、それなら丁度私の隣の部屋が空いてるはずです!」
「キキキ、それなら話は早いな!そこに住むがいい!」
ジュリが提案し、承諾するマコト。
しかし、フウカが口を挟む。
「その空き部屋ってジュリがパンちゃんを自分の部屋で産んじゃって壁を突き破って大騒ぎになったから住んでた子が別の部屋に逃げて出来たやつでしょ?」
「何やってるんだ貴様は!?」
「……てへっ♪」
「てへっ♪じゃないわ!!自室は基本自由だが隣に迷惑をかけるんじゃない!!」
「珍しくものすごいマトモな事言ってますね。」
「ま、まぁとにかく!今は空き部屋ですし、給食部に来るなら部員同士の部屋が近いのは好都合じゃないですか!ニロちゃんもそうでしょ!」
ニロに助けを求めるジュリ。
「あ、あはは……まぁ、私はパンちゃんに嫌悪感はないし……というか推定同族だし……。壁を突き破って来ないなら大丈夫だよ……。」
「良かった〜!それならこれで決まりですね!」
「麦焼がそれで良いなら構わんが……。まぁいい。ならそれで決まりとしよう。」
「ではそのように手続きをしておきます。……では、これで話は終わりですね。明日中に支給品の受け渡しと授業カリキュラムや校則の説明をするので、校内放送で呼び出します。お昼過ぎくらいになると思うのでそれまでには準備をお願いします。」
「分かりました!ありがとうございます!」
「それでは、今日はお疲れ様でした。寮の部屋は今日から使ってもらっても構いませんが、水道や電気はもしかしたら来てないかもしれないので、ジュリさんかフウカさんに泊めてもらう方がいいかもしれませんね。」
「それなら今日は給食部でお泊まり会ですね♪」
「えぇ……?まぁ、私はいいけど……。」
ジュリの提案になんだかんだ乗り気なフウカ。
「じゃあ、そうしましょうか!」
「決まりですね♪うふふ、今日頑張ったおふたりに私が手料理を振る舞います♪」
「さっきマコト先輩に言われたこともう忘れたの?」
「ひぃん……。」
フウカからのダメ出しに残念そうに竦むジュリ。
「あ、あはは……。」
「それでは、さらばだ給食部たち。次見える時には更に味に磨きをかけた献上品を期待しているぞ?」
「また来てちょうだいね、特にニロちゃん!私の催眠術が効くか試させて!」
「明日はともかく、今後は無理に来なくて良いですからね〜。仕事が増えるのはごめんなので。」
「も〜イロハちゃん、折角イブキちゃんと仲良くなってくれたんですからそんなこと言っちゃダメですよ!次は取材させてくださいね〜!」
「お姉ちゃんたち、美味しいプリンありがとー!また来てね〜!」
万魔殿幹部たちに見送られる給食部。
「ありがとうございました〜!」
「また来ますね〜!」
「お世話になりました〜!」
3人はそれぞれ別れの言葉を告げながら万魔殿から帰って行った。
「……プリン、美味かったな……。」
「……給食部の予算、増やしてあげます?」
「……考えておこう。」
回収した食器を給食部で洗い片付けた後、3人は食堂で座っていた。
「ふぅ……とりあえずこれでニロの学籍問題は解決ね。住む場所も決まったようなものだし、あとは銃ね。」
フウカが次の目標を立てた。
「銃……銃かぁ……。」
ニロは何とも言えない顔をする。
ご存知の通りニロは一応現代からの転生者。
ブルアカの世界において銃撃戦は現実ほど命の危険がないのは分かっているとはいえ、ついこの間ショットガンをぶち込まれる激痛を経験した身としては簡単に使いたいとは思えないものである。
「私はショットガンで、フウカ先輩はサブマシンガンですし、一緒に戦うなら中距離か遠距離の銃がいいですかね?」
ジュリが自分のショットガンをカチャリと机の上に起きながら言う。
「うーん……いまいち銃についての知識がないのでなんとも……。」
「まぁ、確かに好みとか能力の問題もあるしね。スナイパーライフルとかライトマシンガンなんかは重いし取り回しも悪いから技術と筋力がないと難しいから、無理にとは言わないわ。」
フウカがフォローに回ってくれる。
「そうね……今は……5時前か……晩御飯にはまだ早いし、折角だからガンショップに行ってみましょうか?」
「あら!それなら私たちが一緒に選んであげますね!」
「え?でもお金は……。」
「いいのいいの、それくらい最初は払うわよ。給食部でまた手伝いもしてもらうと思うし、気にしないで。」
「うぅ……ありがとうママ……パパ……。」
「あーはいはい、パパよパパ……はぁ……。」
「うふふ、ママとパパに任せてくださいね♡」
げんなりしつつもパパ呼びを受け入れるフウカと嬉しそうなジュリ。
他人が見ていなくて良かった。
「よし、それじゃあ目指すはガンショップですよ!」
「おー!」
「元気ねぇ……。」
3人はゲヘナ自治区内のガンショップへと出かけていくのだった。
[パンちゃん図鑑 No.003]【プリちゃん】
危険度:E
プリンから生成されたパンちゃん。
胴体はプリンそのものの見た目で、下からはクラゲのような乳白色の触手が生え、カラメルソースとともにホイップクリームが王冠のように乗っている見た目。
また、プリン型の胴体からはカットフルーツが棘のように突き出ている。
個体差もあるが基本的に性格は傲慢かつ唯我独尊。
自らをパンちゃんの王と思い込んでおり、主人たるニロやジュリにも不遜な態度を取る。
味は作られて数時間、かつ適切な温度で保存されていれば本来のプリンの味そのまま。
しかし賞味期限を過ぎたり温度が適切でないと全身が凄まじい速度で腐り激マズに。
戦闘性能は控えめ。
耐久力もプリン並みでありカットフルーツは適切な場所に生息していないと腐って消滅。
全身が生モノな為寿命も短く基本的に涼しい場所でないと数日の命。
王とは孤高にして誇り高く、故に孤独で儚いものである。