戦が終わっても、死者の数を数えることは終わらない。
吉良惨蔵瞑徳(きら さんぞう めいとく)は、そのことをよく知っていた。
滅却師との長い戦はようやく終息した。瀞霊廷は勝利を掲げている。
だがその旗の下にも、始末をつけねばならないものは山のように残されていた。
戦場に散った死神の骸。そして、戦後という新しい秩序に馴染めなかった者達。
平和とは、そうした残骸の上に敷かれた薄い布切れのようなものだと、惨蔵は思っている。
中でも扱いに困るのが、強大な霊子を宿した罪人達だった。
本来ならば、処刑するなり、獄へ繋ぐなり、断界へ放逐するなり、片付けようはいくらでもある。
だが、滅却師との大戦によって膨大な魂魄が失われた今、三界の均衡は大きく揺らいでいる。
そのためだろう。戦後、そうした罪人の一部を処刑せず、虚圏へ送り込む措置が採られることになった。尸魂界から虚圏へ霊子を移し、崩れた均衡を少しでも戻すためのものだと、惨蔵は聞いている。
細かな理屈までは知らない。山本元柳斎重國が必要と判断したのであれば、惨蔵にとってはそれで充分だった。
表舞台に名を残す気もない。功も、誉れも要らない。
山本が正面から敵を焼き尽くす炎であるならば、惨蔵はその炎が生む影の中を這い回る者でいい。
そして戦が終わった今、その影には多くの者が取り残されていた。
戦うことしか知らぬ者。戦の中で膨れ上がった憎悪を捨てられぬ者。平時であれば決して許されぬ狂気を、戦功という名のもとに黙認されてきた者。
戦が長く続けば、そういう者は必ず生まれる。
その中には、斬魄刀の真打へ至った者さえいた。
それは『己の真を打つ』ことを意味する。のちの世に『卍解』と呼ばれることになる、斬魄刀の最終解放である。
魂の最も深いところにある本質を、斬魄刀を介して現実へと剥き出しにする境地。
そこへ至る道は決して一つではない。
長い年月をかけ、刀と向き合い続けた研鑽の果てに辿り着く者もいる。
一方で、常軌を逸した執着や憎悪、戦への渇望によって、人として踏み込んではならぬ形でその境地へ縋りつく者もいた。
どちらも化物には違いない。
そして惨蔵自身もまた、その一人だった。
だからこそ、分かる。
戦が終われば、彼らは戦場という居場所を失う。だが、その力も、魂に刻まれた狂気も、戦と共に消えてなくなるわけではない。
戦後の平穏の中には、そうして行き場を失った者達が、今なお数多く取り残されている。
それらを見つけ、必要とあらば刈り取り、始末をつける。山本の炎が照らすことのない場所で、惨蔵という影が担う役目だった。
その日、惨蔵が向かったのは流魂街の外れだった。
戦の爪痕がまだ生々しく残る一角には、血の匂いが濃く漂っている。
数人の死神が地に伏している。
死者はいない。だが、内臓を揺さぶるような打撃と異質な霊圧に当てられ、指一本動かせず悶絶している。まだ立っている者達の刃も一様に震え、もはや防戦一方だった。
その中心に、一人の少年がいる。
燃えるような赤髪が、返り血と汗に濡れて額や頬へ張り付いていた。
幼さの残る、中性的ともいえる顔立ち。だが、そこに浮かぶ表情はひどく薄い。
周囲を取り囲む死神達から向けられる殺気も怒号も、まるで自分とは関係のない出来事であるかのように受け流している。凪いだ双眸だけが、血の匂いに満ちたその場で不釣り合いなほど静かだった。
手首には、血の滲んだ包帯が幾重にも巻かれている。
纏う黒い着物は擦り切れ、もはやぼろ布の塊と大差ない。泥と砂埃に汚れた裸足にも、大小いくつもの傷が刻まれていた。
その少年を捕らえるため、瀞霊廷から差し向けられた死神は一人二人ではない。
すでに幾度も投降を呼びかけている。
それでも少年は逃げるでも従うでもなく、一振りの刀を握っていた。
柄元から、血脈を思わせる赤い霊圧が浮かび上がっている。
それは握り込んだ指から掌へ、さらに腕へと這い上がり、皮膚の下へ食い込むように脈打っていた。
まるで刀と少年の肉体とが、無数の血管によって繋がれているかのようだった。
そして、その足元にはさらに無数の刀が転がっている。
先の戦で主人を亡くした浅打だった。
「いい加減にしろ!」
取り囲む死神の一人が、苛立ちを露わに声を張り上げた。
「貴様にはすでに捕縛命令が出ている! これ以上抵抗を重ねるな!」
少年は答えない。
「その刀もだ! 主なき斬魄刀は瀞霊廷が回収する! すべて置いて投降しろ!」
そこで初めて、少年の眉が僅かに動いた。
足元へ散らばった刀を一度見下ろし、ぽつりと言う。
「嫌じゃ」
「……何?」
「全部わしが拾った。わしのもんじゃ」
「貴様……ッ!」
死神が地を蹴った。
少年も迎え撃つ。二つの刃が噛み合い、甲高い音を立てる。
まともに打ち合えば、技量の差は誰の目にも明らかだった。
少年の剣筋は荒い。構えも足運びも我流そのもの。死神として鍛えられた者の洗練された剣術とは比べるべくもない。
死神が少年の刀を押し込み、そのまま一歩踏み込んだ。
少年は力に押されて後ろへ下がり――裸足で、地面に転がっていた別の刀を踏みつける。
その足裏から、赤い脈が走った。
「『飛昏(ひぐらし)』」
刀が姿を変えた。
太く重い柄の先に、鉄塊を思わせる槌が膨れ上がる。
少年は踏みつけていた足を、そのまま横へ振り抜いた。
蹴り飛ばされた『飛昏』が地を離れる。直後、その軌道が不自然に折れた。
死神が目で追うより早く、槌は凄まじい勢いで側面へ回り込む。
「な――」
槌が脇腹を打ち据えた。
身体が宙へ浮き、そのまま数間先まで弾き飛ばされる。
だが、飛昏は止まらない。大きく弧を描いて少年のもとへ戻ると、少年は振り返りもせず左手を伸ばし、飛来した柄をその掌へ収めた。
「まただ! 囲め、一人で行くな!」
残った死神達が左右へ散り、一斉に少年を取り囲む。
一人が正面から斬り込んだ。
少年は飛昏を振るって刀を受け止める。重い金属音と共に相手の腕が弾かれたが、その時にはすでに背後から別の一人が迫っている。
少年は右手に持っていた刀を腰紐へ差し込み、足元へ手を伸ばした。
転がっていた別の一振りを拾い上げる。
柄を握った掌から、また赤い脈が走った。
「『べっこう飴』」
刀身が溶けるように歪み、不定形にうねる。
振り返りざまに振るえば、柔らかな刃が背後から迫っていた死神の刀へ巻きついた。
少年が腕を引く。
刀ごと体勢を崩されたところへ、左手の飛昏が叩き込まれた。
「ぐっ!」
槌をまともに受け、死神が地面を転がる。
その様子を見た少年の口元が、初めて楽しげに吊り上がった。
左腕を大きく振り抜き、飛昏を再び放つ。
低い唸りを上げて飛来した槌を、二人の死神が左右へ散ってかわす。だが、飛昏はその間を通り抜けてもなお止まらず、獲物を追うように宙で軌道を変えた。
少年は、もうそちらを見ていない。
右手のべっこう飴を地面へ向けて振るう。
しなる刀身が長く伸び、その先に転がっていた新たな一振りへ絡みついた。
べっこう飴を走っていた赤い脈が、接触した刀へさらに伸びていく。
「『癇癇だたら(かんかんだたら)』」
絡め取られた刀が形を変えた。
じゃらり、と太い鎖が地を擦る。
その先に、人の倍以上もの長さと幅を持つ巨大な大鋸が姿を現した。
少年がべっこう飴を振り下ろす。
鎖に引かれた大鋸が大地へ叩きつけられ、轟音と共に地面が陥没した。
次の瞬間、衝撃が地を走る。
「うおっ――!」
足元をまとめて薙ぎ払われた死神達が、崩れた土砂と共に宙へ跳ね上げられた。
そこへ、先ほど投げ放たれた飛昏が戻ってくる。
衝撃に足を取られた一人の横合いへ槌が叩き込まれた。防ぐ暇もなく吹き飛ばされた身体が地面を転がり、そのまま動かなくなる。
飛昏は再び大きく弧を描き、少年の左手へ収まった。
右手にはべっこう飴。その先には、赤い脈で繋がれた癇癇だたら。左手には飛昏。
三振りの異なる斬魄刀を同時に繋ぎながら、少年はようやく年相応にも見える笑みを浮かべていた。
惨蔵は少し離れた場所から、その一部始終を見ていた。
刀そのものを操っているわけではない。
あの赤い脈だ。
手で握る。足で踏む。あるいは、すでに繋がった刀を別の刀へ接触させる。
赤い脈が新たな斬魄刀へ繋がった途端、まるで眠りから呼び起こされたように刀が姿を変える。
剣の腕だけならば、ここにいる死神達の方が上だろう。
だが、一振りだけを相手にしているつもりで踏み込めば、足元に転がる刀が目を覚ます。
そちらへ意識を取られれば別の刀を手に取り、そこからさらに次の一振りへと脈が伸びる。
これでは数人で囲んだところで、どこから何が飛んでくるか分からない。
「……何なんだ、こいつ」
死神の一人が漏らした呟きを聞きながら、惨蔵は足を進めた。
「退け」
低い声が、張り詰めた空気へ割って入る。
死神達が振り返り、すぐさま道を空けた。
その間を、長い黒髪を無造作に流した男がゆっくりと歩いていく。
歳を重ねた顔には深い皺と無数の刀傷が刻まれ、纏うものは死覇装の黒一色。隊長羽織のように、立場を示すものは何一つ身につけていない。
それでも、居合わせた死神達が何も問わず道を譲った。
少年が惨蔵を見る。
先ほどまで周囲の死神達へ向けられていた意識が、一瞬でこちらへ移った。
その目が、惨蔵の全身を遠慮なく巡る。
顔。手。立ち方。
そして最後に、腰へ差された一振りの斬魄刀でぴたりと止まった。
血と泥に汚れた顔の上で、口元がゆっくりと吊り上がる。
少年の目はほとんど惨蔵自身を見ていなかった。
その腰にある、まだ名も知らぬ刀だけを見ている。
惨蔵は倒れ伏す死神達を一瞥し、改めて少年へ視線を戻した。
全身は傷だらけで、すでに相当な血を流している。それでも足取りに衰えはない。噴き出す霊圧は、離れていても肌をひりつかせるほど鋭かった。
死神としてまともに鍛えられた形跡は薄い。
それなのに、新しい刀を前にした途端、その意識だけが一層研ぎ澄まされている。
「刀を置け」
「断る」
即答だった。
惨蔵はそれ以上の問答を重ねず、腰の刀へ静かに手をかける。
「数えよ、『九ツ(ここのつ)』」
低く落ちた声と共に、惨蔵の霊圧が沈んだ。
膨れ上がったのではない。
威圧するように押しつけられたわけでもない。
それまで確かにそこにあった気配が足元へ落ち込み、そのまま大地の底へ吸い込まれていく。
周囲の死神達が息を呑む中、惨蔵の影が揺らいだ。
人の輪郭を象っていた黒が崩れ、細く伸びながら地を這っていく。
一筋だった影はすぐに幾つにも枝分かれした。
倒れた死神へ。
崩れた家屋へ。
散乱する斬魄刀へ。
触れた先に落ちる影を次々と取り込みながら、黒はその範囲を広げていく。
少年の双眸が、歓喜に細められた。
「ははぁ、『九ツ』。……影かぁ」
右手のべっこう飴がしなる。
癇癇だたらとの接続を解いた刀身が壁へ伸びて絡みつき、少年の身体を一気に引き上げた。
直後、先ほどまで足のあった場所をどす黒い影が覆う。
捕らえようと迫る影を警戒しながらも、少年の目はそこから離れない。
逃げるために観察しているというより、その正体を知りたくて仕方がない。
好奇心。惨蔵にはそう見えた。
やがて地面を覆った無数の影が境目を失い、一つの巨大な黒として繋がった。
惨蔵は『九ツ』を逆手に持ち替える。
切っ先を自らの影へ突き立てると、刀身は黒い水面へ差し入れるように音もなく沈んでいった。
鍔までが闇に呑まれたところで、惨蔵は口を開く。
「真打」
得体の知れぬ者を相手に、出し惜しみをするほど吉良惨蔵に甘さはない。
その言葉を聞いた瞬間、少年の目が爛々と輝いた。
口角が不気味なほど吊り上がる。
右手に握ったべっこう飴を走っていた血のような赤が、さらに色を深めた。
どくん、と脈打つ。
そして少年は、もはや堪えきれないとばかりに刀を振り上げた。
「――真打!」
二つの真打が、ほぼ同時に解き放たれた。
頭上には、まだ太陽がある。
それなのに、辺りを照らしていた光だけが急速に痩せていった。
雲に隠れたわけでもなければ、夕刻を迎えたわけでもない。
昼という時間から、明るさだけを抜き取っていくように、世界が刻一刻と暗さを増していく。
「――『九ツ・落陽常夜(ここのつ・らくようとこよ)』」
建物の影が伸びる。
先ほどまで別々の場所に落ちていた黒が境目を失い、それらは惨蔵の足元から広がる常夜へと繋がっていく。
光の残る場所が、少しずつ狭められていった。
一方、少年の手にあるべっこう飴からは、琥珀色の粘液が溢れ出していた。
それは柄を握る指を呑み込み、手首から腕へ、肩へ、胸へと這い上がる。
やがて全身を覆い尽くすと、人の形を保っていた身体そのものが内側から崩れた。
粘度の高い琥珀の塊となった少年の身体が、壁から地面へ落ちる。
液状の肉体が大きく広がった。
飛昏を呑み込み、癇癇だたらを呑み込み、さらに周囲へ散乱していた斬魄刀達へ覆い被さっていく。
一振り。
また一振り。
琥珀へ沈むたび、その接触点から血のような赤い脈が走った。
先ほどまで手や足、刀を介して繋いでいたものを、今度は肉体そのもので行っている。
「『千歳琥珀之飴姫(ちとせこはくのあめひめ)』」
琥珀の中へ沈んだ斬魄刀達が、それぞれ異なる霊圧を放ちながら次々と姿を変えていく。
「……化け物め」
惨蔵の口から、低い声が漏れた。
だが、すぐに一つの違和感を覚える。
少年自身の霊圧は粗い。若い。
それに対し、琥珀の中から立ち上る霊圧には、長い年月を刀と共に過ごした者の深みがある。
惨蔵は目を細めた。
――こいつの真打ではない。
死者の刀を拾い、その極地まで呼び起こしている。
呑み込んだ刀の数だけ真打を使えるのかまでは分からない。
だが、厄介極まることに変わりはなかった。
「どっちがじゃ」
琥珀のどこからともなく、少年の声が響いた。
直後、不定形の身体が惨蔵へ向かって押し寄せる。
琥珀色の濁流が地を這い、波打ちながら距離を詰めた。
その表面から、抱え込んだ斬魄刀が次々と突き出してくる。
長刀。短刀。曲刀。槍のような歪な刃。
飛昏の槌も、癇癇だたらの巨大な鋸刃も、その中に混じっていた。
一人の少年が、一個の軍勢へと姿を変えている。
正面から迫った一振りを、惨蔵は『九ツ』で受け流した。
だが、その脇から二振り目が伸びる。
身をずらした先には、三振り目が待ち構えていた。
惨蔵がそれを踏み越えると、今度は地を這う琥珀が足元へ回り込み、その中から別の刃が突き上がる。
「ははっ!」
どこに口があるのかも分からない身体から、少年の笑い声が響く。
惨蔵は一振りを叩き落とし、半身をずらして次をかわす。
続けて横合いから迫った刃を受け、その反動を利用して後方へ下がった。
その退路へ、さらに別の切っ先が死角から伸びてくる。
喉元へ迫る刃。
皮膚へ届く、その直前だった。
すべてが止まった。
「……んあ?」
刀も、琥珀のうねりも、喉を裂く寸前まで迫っていた切っ先さえも、その場に縫い止められている。
そこで初めて、少年は周囲の変化に気づいた。
もう、どこにも光がない。
刀の影も、流れ込んだ琥珀の影も、人の形を失った少年自身の影も。
影を落とすための光そのものが失われたことで境界をなくし、すべてが惨蔵の足元から広がる常夜の一部となっていた。
地を満たす黒が盛り上がる。
琥珀の肉体へ食い込み、広がった身体を絡め取り、振り上げられていた刃を闇へ沈める。
そこへ繋がる赤い脈ごと、押さえ込んでいった。
「ぬ、ぐ……っ!」
少年の呻きを聞きながら、惨蔵は喉元で止まった切っ先を一瞥した。
「陽の失せたところに、貴様の影などない。ここは某の領域だ。――神妙にしろ」
広がっていた琥珀が、一か所へと押し戻されていく。
不定形だった塊が縮み、やがて少年の輪郭を再構築した。
人の姿へ戻った少年は両膝を地につき、べっこう飴を握っていた指からも力を失っていた。
柄が掌から離れる。
そこへ伸びていた赤い脈が途切れ、刀は元の姿へ戻って乾いた音を立てた。
琥珀の肉体から解放された他の斬魄刀達も、一振り、また一振りと姿を戻し、次々に沈黙していく。
それでも少年の視線は、己の敗北にも、惨蔵の刃にも向いていなかった。
自分を押さえ込んでいる影を、食い入るように見つめている。
「……おい、すげえな、それ」
惨蔵の眉が僅かに動いた。
「影に触れてるとこが動かん。感覚もねえ。自分が全部奪われたみたいじゃな。はは。なぁ、どこまでできるんじゃ? まだ喋れるし目も見えるが、それも塞いだらなくなるんか? わしで試していいぞ、旦那」
まだ続けようとする少年の口元へ、影が這い上がった。
「むぐ――」
そのまま口を覆い、ようやく声が止まる。
惨蔵は静かになった少年をしばらく見下ろしていた。
手数こそ多いが、雑が過ぎる。だからこそ能力の正体さえ掴めば、制圧すること自体は難しくなかった。
惨蔵の目を引いたのは、少年の在り方だった。
負けたことを悔しがる様子がない。
命を握られているというのに、怯えもしない。
今なおその目に宿っているのは、自分を完全に封じた『九ツ』をもっと知りたいという、底の見えない欲求だけだった。
何者なのか。
他人の斬魄刀を呼び起こせる力。
借り物ではない少年自身の真打。
分からぬことばかりだ。
だが、ここで考えていても仕方がない。
「縛につけ」
命令を受けた死神達が少年の拘束に取りかかる。
その一方で、別の者達が散らばった斬魄刀を回収しようと動いた。
「よい。触れるな」
惨蔵が制すると、死神達はその場で足を止めた。
地を覆う影が静かに広がり、散らばった浅打の下へ入り込んでいく。
刀は音もなく黒へ沈み、その姿を消していった。
惨蔵はそれを見届けると踵を返した。
背後では、拘束された少年が口元を塞ぐ影をどうにか振りほどこうと、指先一つ動かせない身体でもがいている。
得体の知れない少年――赫錆鬼蜘蛛(あかさび おにぐも)は、こうして戦後の影で、瀞霊廷の罪人に身を落とした。