爛熟の迷宮 ~祝福の果実に身体も心も変えられていく三十人の少女たち~   作:これはR-15の範囲内なのか

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初投稿です。

R15指定しか無かったのでタグに入れてませんがR17ほどになる予定です。
苦手な方はブラウザバック。運営に怒られたら移動or削除します。

数日に1回投稿予定。文字数は(少し)多め予定。

名前付きキャラが出てきた時にAI挿絵でどんなキャラかのイメージ図がありますので、補完にご利用下さい。AI挿絵が苦手な方はご注意下さい。

書くのに忙しくて感想返信できないかもしれませんが、感想は随時大歓迎です。

そこまで長くはならない予定なんですが連載でいいのかな? 短編ってどれくらいの文字数なんでしょう……。


第一話『囚われの教室と赤い果実』

 私立聖華女子学院、三年B組。

 

 推薦入試を控えた早朝補習と、朝練前の雑談。担任の教師が朝の職員会議で席を外していたその十数分間が、彼女たち三十人にとって、現世で過ごした最後の日常となった。

 

 キィン、と耳を劈くような高周波の金属音が響いた。

 

「……きゃっ!?」

 

「なに、今の音……?」

 

 誰かが悲鳴を上げ、ざわめきが広がった瞬間、教室の床一面に青白い幾何学模様が浮かび上がった。

 

 線と円が複雑に絡み合う巨大な魔方陣。足元から溢れ出す冷たい燐光が机や椅子を呑み込み、朝の教室を、眼を灼くような白昼へと塗り替えていく。

 

「ちょ、ちょっとこれ何!?」「きゃああっ!」

 

 逃げ出そうとした生徒の足が、光の奔流に縫い止められる。

 

 剣道部の竹刀袋を抱えていた神崎蛍(かんざき ほたる)が、眼鏡の奥の目を丸くして身構えた時には、すでに遅かった。視界が真っ白に弾け、重力の感覚がふっと足元から消失した。

 

【挿絵表示】

 

 ――どれほどの時間が経ったのか。

 

「……う、ん……」

 

 冷たい床の感触に、蛍は顔を上げた。

 

 痛む頭を押さえながら眼鏡を直すと、周囲では同じように倒れ込んでいたクラスメイトたちが、呻き声を上げながら身を起こしているところだった。

 

「蛍……無事……?」

 

 隣で声をかけてきたのは、陸上部の幼馴染である東葵(ひがし あおい)だ。スポーティーなショートカットを揺らし、心配そうに蛍の顔を覗き込んでいる。

 

【挿絵表示】

 

「うん、怪我はないみたいだけど……ここ、どこ……?」

 

 見渡した風景は、一見すると見慣れた三年B組の教室だった。三十人分の机と椅子、黒板、ロッカー。散らばった教科書や筆箱までもがそのまま残されている。だが、決定的な違和感が空間全体を支配していた。

 

 窓が、ない。

 

 朝の光やグラウンドが見えるはずの場所は、継ぎ目のない冷たい灰色の石壁に置き換わっていた。天井の蛍光灯も消え、代わりに青白く光る鉱石のようなものが四隅から薄暗い明かりを落としている。

 

「嘘……スマホ、圏外なんだけど!?」

 

「ドアが開かない! 外から鍵かかってるの!?」

 

「先生は!? 誰か助けてよ!」

 

 パニックの波が一瞬で三十人を飲み込んだ。

 

 そんな中、冷静に教室の後方を確認していた学級委員長の橘香奈恵(たちばな かなえ)が、硬い声でクラスメイトたちを制した。

 

【挿絵表示】

 

「みんな、落ち着いて! 出口を探すのが先よ。後ろを見て!」

 

 香奈恵が指し示した教室の後方には、普段の教室には決して存在しない「二つの異様な扉」がそびえ立っていた。

 

 一つは、素朴な木の引き戸。その上には『大浴場』と彫られた木札が下がっている。もう一つは、冷徹な漆黒の鉄で鍛え上げられた巨大な両開きの扉。

 

「お風呂……? こっちから出られるのかな!」

 

 一人の生徒がすがるように木の引き戸に手をかけ、カラカラと音を立てて引いた。引き戸はあっさりと開いた。だが――

 

「きゃっ!?」

 

 足を踏み入れようとした生徒の身体が、見えないゴムの壁にぶつかったかのようにボヨンと弾き返され、尻餅をついた。扉の向こうには、湯気が立ち上る清潔な脱衣所と、奥に広がる巨大な浴槽が確かに見えている。しかし、入り口の空間には薄い硝子のような、触れると波紋が広がる透明な結界がぴたりと張り巡らされていた。

 

「な、何これ!? 入れない……! 叩いてもビクともしないよ!」

 

「嘘でしょ……? じゃあ、あっちの黒い扉は!?」

 

 生徒たちの視線が、もう一つの重厚な鉄扉へと集中した。竹刀袋を握りしめた蛍が前に進み出て、両手で冷たい鉄の閂(かんぬき)を押し上げる。ズシリと重い金属音が響き、ゆっくりと鉄扉を押し開いた。

 

 途端に、教室の中へひんやりとした湿った地下の冷気が吹き込んできた。

 

「……っ、冷た……」

 

 扉の向こうに広がっていたのは、学校の廊下などでは断じてなかった。荒々しく削り出された灰色の岩壁、どこか遠くまで続く苔むした下り階段、そして壁に掛けられた松明の炎がゆらゆらと闇を照らし出す、果てしない地下洞窟。

 

 空気の匂い、漂う魔力のような気配、冷酷な静寂。そのすべてが、フィクションの世界でしか見たことのない光景だった。鉄扉のすぐ脇の壁には、古代文字のようなフォントで、はっきりとこう刻まれていた。

 

『奈落の迷宮――生きて最深部に至る者に、一度の願いを』

 

「……嘘でしょ……?」

 

 葵が引きつった笑みを浮かべ、後ずさった。

 

「階段の奥、真っ暗だよ……? これって、つまり……ダンジョン……?」

 

「ダンジョンって……ゲームの? 冗談でしょ、こんなのありえない……!」

 

 生徒たちの間に、底知れぬ絶望と恐怖が満ちていく。

 

 大浴場には入れず、唯一開く扉の先は、得体の知れない怪物が潜んでいそうな本物の迷宮。外に出る手段はなく、水筒の水も底をつき、水道の蛇口を捻っても赤茶けた錆が出るだけ。

 

 そんな極限の空気の中、ふわりと、あまりにも甘美な匂いが教壇の前から漂ってきた。

 

 引き寄せられるように視線を向けたクラスのトップ、雑誌のグラビアでも活動している篠宮麗華(しのみや れいか)が、息を呑んで立ち止まる。

 

【挿絵表示】

 

 教壇の真横――床の石を突き破るようにして、一本の奇妙な低木が生えていた。

 

 盆栽ほどの背丈しかないその木には、まるで宝石のように瑞々しく、滴るような深紅の果実が鈴なりに実っている。部屋の空気を満たしているのは、嗅ぐだけで喉の奥が激しく渇くような濃厚な甘い香りだった。

 

「……何、これ。リンゴ……?」

 

 麗華が、吸い寄せられるように恐る恐る手を伸ばす。手入れの行き届いた細い指先が、艶やかな果皮に触れようとした、その瞬間だった。

 

 木の根元に置かれていた小さな石板の表面が、燐光を帯びて微かに脈打った。彫り込まれた文字が淡い光を放ち、少女たちの網膜へと直接意味を焼き付けるように浮かび上がる。

 

『祝福の果実。一つ食せば飢えも渇きも癒え、美しき肉体と活力を保たん。日々に一つ、健やかに育まれよ』

 

「……飢えも、渇きも……?」

 

 誰かが喉を鳴らした。教室の時計の針は午前八時半を少し回っていたが、異常事態への極度の緊張とストレスが、少女たちの体力を容赦なく削っていた。

 

「麗華さん、待って! 毒があるかもしれないわ!」

 

 香奈恵が叫んだが、麗華は震える手で果実をもぎ取った。

 

「……でも、水もないのよ? あんな不気味な迷宮に突っ込む勇気もないのに、ここで飢えて死ぬのを待てって言うの?」

 

 麗華は意を決したように、薄桃色の唇を開いて果肉を小さくかじった。

 

 シャクッ、と瑞々しい咀嚼音が静まり返った石室に響く。

 

「っ……あ……!」

 

 麗華の瞳が大きく見開かれ、頬がぽっと薔薇色に染まった。喉を通った瞬間、果汁は温かな魔力の奔流となって全身を駆け巡り、一瞬で胃の腑を満たし、疲労を吹き飛ばしたのだ。肌が目に見えて透き通るような輝きを帯びていく。

 

「すごい……美味しい……っ! お腹の痛いのが、全部消えちゃった……!」

 

 その劇的な変化を見た生徒たちの我慢が、音を立てて決壊した。

 

「私も!」「喉カラカラなの!」

 

 飢えと恐怖から逃れるように、少女たちは競い合うように木へと群がり、紅い果実をもぎ取って口へと運んでいく。蛍も葵に促され、渋々ながら実を口にした。とろけるような美味と、身体の芯からみなぎる信じがたい活力。

 

 そして――果実を飲み干した麗華が、ふと、先ほど弾き返された『大浴場』の扉に近づいた時だった。

 

「……あれ?」

 

 麗華がおずおずと伸ばした指先が、先ほどまで彼女たちを阻んでいた透明な障壁を、まるで水面を分けるようにすんなりと通り抜けたのだ。

 

「みんな、見て……! 入れる……入れるよ!」

 

「本当だ……! さっきは弾かれたのに!」

 

 生徒たちから歓声が上がる。まだ果実を食べていなかった数人が慌てて木に駆け寄り、赤い実を貪るように飲み込むと、彼女たちもまた何の問題もなく大浴場へと足を踏み入れることができた。

 

「この果実を食べた人しか、通れないようになってるんだ……」

 

 蛍は眼鏡のブリッジを押し上げながら、得体の知れない悪寒を覚えていた。

 

 空腹を満たし、活力を与え、安全な入浴を許可する魔法の果実。一見すれば、迷い込んだ哀れな少女たちに対する迷宮の「慈悲」のようにも思える。

 

 けれど、なぜ。

 

 見知らぬ怪物が潜む危険な迷宮と、至れり尽くせりの衣食住が、一枚の壁を隔てて隣り合っているのか。まるで、安全な鳥かごの中に閉じ込めて、何かを待っているかのような――名状しがたい薄気味悪さが、蛍の胸の奥に冷たい澱となって沈んでいった。

 

 大浴場の結界を抜けた先には、異常なほど豪華な設備が整っていた。湯煙が立ち込める脱衣所には、人数分の清潔なバスタオルと、伸縮性のある薄手で柔らかな無地の部屋着――シンプルなロングTシャツとハーフパンツが整然と積まれている。

 

 奥の浴室の扉を開けると、そこは高級旅館の大浴場を思わせる贅沢な空間だった。岩造りの巨大な湯船には、乳白色の湯が滾々と湧き出しており、微かに甘い花の蜜のような香りが漂っている。

 

「すごい……お湯、温かいよ……!」

 

「シャンプーもボディーソープもある!」

 

 極限の恐怖と混乱に晒されていた少女たちにとって、その温もりはあまりにも甘美な救いに見えた。衣服を脱ぎ捨て、湯船に浸かったクラスメイトたちから、次々と安堵のため息が漏れ出す。果実によって空腹が満たされたこともあり、教室を支配していたパニックは急速に霧散していった。

 

 だが、蛍だけは湯船の縁に腰掛け、肩まで浸かるのを躊躇っていた。つま先をお湯に浸した瞬間、蛍は違和感を感じたのだ。ただ温かいだけではない。とろみのある湯が肌に吸い付くように絡みつき、じんわりと毛細血管を開かせて、胸の芯と下腹の奥へ、甘く重い熱を送り込んでくるような感覚。

 

「……このお湯、何か入ってる……?」

 

「蛍も早く入りなよー、気持ちいいよ?」

 

 すでに首まで浸かっていた葵が、悪戯っぽく笑いながら湯を跳ねさせてきた。

 

「葵ちゃん……警戒心なさすぎだよ。まだここがどこかも分かってないのに」

 

「だって、お腹いっぱいだし、お風呂もあるし……。あっちの怖い階段に行くより、ずっといいじゃん」

 

 湯気に濡れた葵の肌は、先ほど食べた果実の効果なのか、まるで磨き上げた陶器のように白く艶めいていた。それは葵だけでなく、湯船に身を寄せ合う三十人全員がそうだった。元の容姿の差を埋めるように、誰もが発光するような美しさを帯び始めている。

 

「……ねえ、橘さん」

 

 クラスの中央で、胸元まで湯に浸かっていた篠宮麗華が、髪をかき上げながら委員長の香奈恵に声をかけた。

 

「明日はどうするの? やっぱり、あの黒い扉……行かなきゃダメ?」

 

 香奈恵は湯船の中で腕を組み、眉をひそめていた。

 

「……食料と安全な寝床があるとはいえ、ここにずっと留まるわけにはいかないわ。あの石碑にあった『最深部に至る者に、一度の願いを』という言葉が本当なら、そこに行かなければ元の世界へ帰る方法はないはずよ」

 

「でも、武器もないし、怪物とかいたら……」

 

「だから、全員で行く必要はないわ。まずは戦えそうな有志で、浅い階層を偵察するべきよ」

 

 香奈恵の視線が、湯船の端にいた蛍に向けられた。蛍は中学から剣道を続けており、全国大会にも出場した腕前がある。隣の葵も、県大会入賞レベルのスプリンターだ。

 

「神崎さん、東さん。明日、最初の偵察を頼めるかしら? もちろん、私も行くわ」

 

「……うん。状況を確かめないことには、始まらないしね」

 

 蛍は小さく頷いた。竹刀一本でどこまで通用するかは分からないが、このまま温い湯に浸かって飼い殺されるような不気味さよりは、自らの足で出口を探す方がずっとマシに思えた。

 

 その日、少女たちは外へ繋がる手がかりを求めて石室や大浴場を隈なく調べたが、結局何も見つからなかった。寝る準備をするために床にタオルを敷く。見張りを立てるという提案もあったが、果実と湯の心地よい疲労感に抗えず、消灯する間もなく全員が深い泥のような眠りへと引きずり込まれていった。

 

 ――深夜。

 

 静まり返った教室で、蛍は胸元の奇妙な違和感に目を覚ました。痛みではない。ただ、シャツの下がじりじりと熱く、まるで皮膚の内側で小さな心臓がもう二つ、トクトクと脈打っているような感覚。

 

「……ん……なに、これ……?」

 

 寝ぼけ眼のまま、蛍はブレザーの隙間から胸元に手を滑り込ませた。普段の彼女の胸は、本人が「まな板」と自嘲するほど平坦で、スポーツブラの上から触れても、手のひらには肋骨の硬い感触がそのまま伝わるはずだった。

 

 だが――指先が触れたのは、骨の硬さではなかった。

 

「……え……?」

 

 一気に眠気が吹き飛んだ。

 

 恐る恐る、ブラジャーの内側へと指を滑り込ませる。いつもなら運動中もパカパカと浮き、身体を動かすたびに空洞ができていたはずの布地。それが今、わずかな隙間すらなく、しっとりと肌に張り付いていた。わずか数ミリ、厚みが増しただけ。他人が見れば「ただの気のせい」で片付けられる程度の差かもしれない。

 

 けれど、指先を押し込むと、いつもならすぐにぶつかる肋骨のゴツゴツとした硬さが、新雪のような薄い柔肉の膜に遮られて届かない。手のひらの下で、生まれたての小さな核が、トクトクと確かな熱を持って自己主張していた。

 

 見た目には、まだ他人が気づくほどの変化ではないかもしれない。けれど、自分の身体の平らさを誰よりも知っている蛍にとって、骨と皮だけだった胸元に「確かな柔らかい肉」が芽吹いているという事実は、あまりにも異様で、底知れぬ悪寒を呼び起こした。

 

「……うそ……なに、これ……?」

 

 暗闇の中、隣で寝息を立てていた葵が、わずかに身悶えした。

 

「ん……ぅ……」

 

 葵の手もまた、無意識に自らの胸元へと伸び、スポーツブラのアンダーゴムを落ち着かなさそうに指で引っ張っていた。元から少し膨らみのあった葵の胸もまた、昨日までより確実に布地を押し上げ、熱っぽい気配を漂わせている。

 

 少女たちが眠りに落ちたその最初の夜から、誰一人例外なく、確実に身体を作り変える歯車が回り始めていた。

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