「あぁどうしようどうしよう!!ねぇ服これでいいかな!?大丈夫?変じゃない?」
ヤチヨに酒寄さんが来ると伝えてから20分、ずっとこんな調子でソワソワしている。
まぁ無理もないだろう。8000年、8000年だ。
それだけ長い間ずっと一途に思い続けてきたんだ。そりゃ落ち着きの一つや二つ無くすよな
「取り敢えず髪の毛だけでも変えちゃいな。ヤチヨだってバレたくないんだろ?」
「あっそうだった!!えっとえっと……」
「ちょっと落ち着きなさい。そして落ち着いてもう一度自分の服を見てみなさい」
「………普通だね」
「そっか……」
今ヤチヨが手に取ってる服は黒Tにパンケ〜キという文字と絵が印刷された、まぁ、珍妙……いや味、があるというか、何というか
いや言葉選ばずに言うわ。クソダセェ
こいつどうしちゃったんだよ!?ツクヨミの中とかだとあんなにセンスある衣装だったでしょうが!?何でこんな惨状になっちゃってんのよ!?
これは、相棒として止めてやるべきだろうか、はたまたこのまま酒寄さんの前に差し出して嘲笑うべきだろうか
……とりあえず写真撮ったろ
パシャっ
「ん?松陽何で写真撮ったの?」
「いや〜何というか。そう!お前の格好が似合っていたから目だけじゃなくフィルムにも焼き付けておこうと思ってな!」
「や、やだ〜松陽ったら!そんなに私のことを……」
「うん、そうそうハハハッ」
「そんな訳ないでしょ、松陽が何の打算もなく私のこと褒める訳ないから。本当のこと言いなさい」
「ハイッ……」
急にスイッチ入るよな、コイツ。
やめろ!!ハイライトの消えた目で見るな!!こっちを見るな!!怖いんだよっ!!
「ふむふむ、なるほど。松陽は私の服がクソダサい見るに耐えない醜態だと思ったんだ。そんでそんな状態で彩葉の前に出してほくそ笑むつもりだったんだ。ふ〜〜ん……」
「そこまで言ってないだろ!そりゃ黙ってた俺も悪いけどお前のセンスにも問題はある!!何だありゃ!ツッコんでくださいって言ってるようなもんじゃねぇか!!」
「は〜〜?逆ギレ!?もとはといえば松陽がもっと早くに言わないから!!」
「あ、あの〜〜」
店の入り口ら辺からヤチヨじゃない女性の声が聞こえた。その瞬間ヤチヨの首がものすごいスピードで回転した
そして振り返った先にいたのは黒髪で涙ぼくろの似合う美少女、そう、今日バイトの面接に来るはずだった子だった
「あの〜お取り込み中すみません。面接に来た酒寄です」
「あ、あ…あ…」
その姿を見た瞬間ヤチヨの顔面が見たことない色になってた。
何だその顔は、恥ずかしいのか青ざめるのかどっちかにしなさい。
そんな状態でしばらく震えていると
「8000年ぶりの生彩葉……あびゃびゃびゃびゃ……あひゅん……」
「あっちょっと……!」
ヤチヨは何やらあびゃびゃという奇声を上げた後、そのまま気を失って地面に倒れた
おい、8000年ぶりの再会それで良いのか!?酒寄さんも困惑でフリーズしちゃってるじゃん!!
俺はひとまず面接を始めるべくコホンと咳払いをして口を開いた
「すみません、酒寄さんですよね。お待ちしてました。その子はちょっと感情が暴走しちゃっただけなんでそっとしといてあげて下さい」
「あっそうですか。わかりました!よろしくお願いします!!」
そうして、酒寄さんとの面接が始まった。すまんなヤチヨ、お前の犠牲は無駄にしない
まぁでも、面接といっても結果は決まってるんだけどね。何がどうなっても採用だ
「じゃぁまずは自己紹介から。初めまして、吉田松陽といいます。よろしくね」
「はい!酒寄彩葉、高校2年生です。よろしくお願いします!!」
「うんうん、じゃあまずは週どれくらいシフト入れそうですか?」
「はい!週6でも7でも入れます!!」
「はいはい、週7ね……え、?」
「あっ他にも深夜までの残業も手当が出るなら喜んで!でも11時以降はちょっと……」
「それは一体何の地獄のことを言っているんだい?」
「え?いやでも、今のバイト先ではこれくらいは当たり前だったので……」
「よーし、採用だ。じゃあ時給は一万でいいかな?」
「え?ちょ、え?」
「あとついでに店の商品も好きなだけ持って帰りなさい。成長期なんだからいっぱい食べないといけないよ」
俺はこの瞬間心に固く誓った。この少女は俺が守護らねばいかん
何だ、高校生で週七労働って!ブラック企業も真っ青だよ!!
こんな、え〜、こんな、ダメだヤバすぎて言葉が出てこない。それによく見れば目の下にものごっつい隈あるし、多分あんまり寝れてないのだろう
「ちょ、ちょっと待ってください!!いくら何でもそこまでしてもらう訳には……」
「いいや、若者の青春を守るのが大人の勤めです。
貴方はまだ若い。お節介かもしれませんが貴方の成長を助けるお手伝いをさせてくれませんか?」
「で、でも……」
「でももだってもありません。それにこっちからバイトに勧誘したんですから人間らしい生活くらいは保証しますよ」
「う、うぅん。じ、じゃあせめて時給だけでも何とかしましょう!」
「上げますか?」
「これ以上増えたら全国のサラリーマンが泣きますよ!?」
この後、酒寄さんの交渉により時給は2000円、そして週5回労働に落ち着いた
2000円でも高い高いと言っていたがそれでもここは譲らなかった。だってすっごいいい子だったんだもん!!
あんないい子がひもじい思いをするなんて俺は辛い!!耐えられない!!
「では来週からよろしくお願いします!」
「はい、さようなら……。ふぅ……ヤチヨ、終わったぞ〜!」
「う、うぅ……」
面接が無事終わった後、俺は部屋の隅っこでこの世の終わりのような顔をして項垂れているヤチヨに目を向けた
「何をそんなに項垂れているんだ。別にいいじゃないか、あの服も味があって」
「そうそう、あんな姿見られてもう生きてけない……って、そうだけどそうじゃない!!……久しぶりに彩葉に会えたのにあんな、あんな!あぁ〜〜彩葉の前ではお淑やかなお姉さんでいこうと思ってたのに!!」
「まぁまぁ、お前にお淑やかなお姉さんは似合わない。そんでどうだった?8000年ぶりの酒寄さんは」
「最っ高!!何あれ可愛すぎ!!国宝として国が保護してないのが不思議なんだけど!?」
「……ふ〜ん。よかったじゃん」
……何だろうこの感情は
今までコイツには俺しかいなかったのに急に横から好感度カンストしてる奴が出てくるとなんか、こう…胸の奥がモゾモゾするな
いや、別に俺はヤチヨのことを相棒としか思ってないけど?でもまぁここまで面倒見てきたし、もうちょっと相手のこと知りたいなってだけだし?
「あ〜!もしかして松陽、彩葉にヤキモチ妬いてる?」
「は?そんなことないし?ただヤチヨが酒寄さんに会えて良かったって思ってるだけだし」
「も〜!素直じゃないんだから。でもヤッチョはちゃ〜んとわかってるから。──大丈夫。ヤッチョは彩葉も松陽も、どっちも大好きだから。取られると思ってたんなら安心してね!」
「……そうか」
「うん」
コイツはよくもまぁこんなに恥ずかしいことを平然と言えるな。
まぉでも……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ?嬉しかった……かも
「ねぇねぇ松陽は?松陽から私への愛の言葉をくれてもいいんだよ?」
「は〜?何馬鹿なこと言ってんだ。……パンケーキ焼いてやるから待ってろ」
「パンケーキ!?やったーー!!」
そう言って子供のように喜ぶヤチヨを横目に俺はエプロンの用意をする
本当にコイツは昔から根っこは何も変わってないな。チョロい
しかし、これまでコイツは人の綺麗なところ、汚いところ、醜いところ、色々見てきたはずだ
なのに、俺と違って人の醜さを知って尚、こんなに人の美しさを信じ、光の道を歩いてる
それに俺は救われている
「まぁ、そうだな。俺もここまで、お前がいてくれて良かったよ。お前がいなきゃ、この8000年を超えられなかったと思う。だから、まぁこれからもよろしくな」
「!?っFUSHI!!大変!松陽が私にデレた!!」
「マジか!?明日は雨だな」
「お前らなぁ〜〜」
───────────────────
時は戦国の世
今、俺の手には血に濡れた刃を持った男の首が掴まれている
「玄哉もうやめて!!それ以上は死んじゃう!」
「何で?」
玄哉の口から現代からは想像もつかないほど淡白で、冷たい言葉が出てくる
「っ何でって……」
「コイツは俺を殺そうとした。だから殺す。それ以上でも以下でもない」
「や、やめ……助け……」
そう、男は命乞いをしてくる。……醜いな。
コイツは金欲しさに俺の喉元を突き刺した。俺を殺そうとしたのだから自身が殺される覚悟をしなければならない
俺が過去に飛ばされてから数千年。もう、疲れた。
何度も喉を刺した。でも死なない。
何度も心臓を突いた。でも死なない
何度も殺された。でも死なない。
何度も石を投げられた。何度も焼かれた。でも死なない
何度も殺した。そしたら何度も死んだ
俺はそれが羨ましかった
「何をためらう必要がある。お前も見てきたはずだ。人間の醜さを。人間の愚かさを、人間の、恐ろしさを……」
「そう、だけど。──でも、玄哉は、玄哉は強いじゃん!なら別に殺さないってことも──」
「───あ?おい、お前。今なんて言った、かぐや」
「え?」
「俺が強いから?俺が死なないから?だから何をされても笑って受け流せって、お前はそう言うのか?」
「っふざけるな!!ここまでくるのだって簡単なんかじゃなかった!!お前を守ってお前の足になって、俺はお前のために動いてきた!!何が不満だ!?何が足りない!?お前はいいよな!!見てるだけで、口を出すだけで!!自分は何もしないくせに!!」
「い、いや……そんな、つもりじゃ……」
「じゃあなんだ!?お前は俺が今まで心から笑って生きてきたと本気で思っているのか?──そんな訳ねぇだろ!!お前には見えないようにやって来たが人だってたくさん殺した!!俺だってたくさん殺された!!俺は、俺を、たくさん殺した!!もう、うんざりなんだよ……」
あぁ、違う。かぐやは何も悪くない。これは俺のただの癇癪だ。
これ以上は言ってはいけない。わかっているんだ。わかっているけど、吐き出さずにはいられない
吐き出しでもしないと、自分が壊れてしまうから
「痛いのも、苦しいのも、生きるのももう嫌になったんだ!!お前とこの力を捨てて元の時代に戻れるっていうなら喜んでそうしてやるぜ!!この数千年は、俺にとって……地獄だったよ……っ!」
あぁ言ってしまった。
違う、本当はそんなこと思っていないんだ。ごめん、かぐやに、そんな顔をさせてしまった。
───醜いな、俺
「あ…あぁ…っご、ごめ──むぐっ!?」
「……っ!!」
俺は咄嗟にかぐやの口を塞いだ。この先を聞いたら自分がもう立てなくなる、折れてしまう。そんな気がしたから
「もう、いいんだ。わかってるから。お前は何も悪くない。悪いのは全部俺だ。俺は、俺を生かす力も、殺す力もない。……俺がもっと強かったら、俺がもっと賢かったら、もう少しお前のためになれたのかもな……」
そう絞り出すように、蚊が鳴くような声で俺は言った
「違う!!」
この時、かぐやの見た目からは思えないほどの力強い、この数千年で初めて聞く声だった
「かぐやは、かぐやは玄哉がいてくれて良かったって思ってるよ?いっぱい我儘言っちゃったし、いっぱい迷惑かけた。それで玄哉がどう思ってるのかも考えずに……本当にごめん、……ごめんなさいっ」
やめろ、やめてくれ
謝らないでくれ、俺が悪いんだ。全部全部俺が悪い、そう思ったら少しは気持ちが楽になった気がしたから
「やめろ……やめろやめろやめろ!!」
「玄哉……?」
「もうやめてくれ。俺が悪いんだ。お前は悪くない。それでいいじゃないか!!なんで、何でお前は……っ」
俺を諦めてくれないんだ
そう口から出ようとした言葉を噛み殺した
もう分かってるんだ。俺が罪から逃げてるって。自分が悪いと、自分がダメだと、自分で勝手に見切りをつけて罪と向き合っているフリをして
「お前がどんなに俺に白くあることを望んだって、俺の罪がそれを許さない!いつだって俺の背には俺を恨む人間の声が張り付いて離れない!俺を地獄へ堕とそうと足を掴んでいる。もう俺は、日の下を歩けない。……お前と同じ道を、もう歩けない」
そう言い終えた後、俺はかぐやに背を向けてその場から去ろうとした。
その時
「なら!!なら、その罪が薄くなるくらい、人を助けよう。その人たちが許さなくたってかぐやが許すよ」
背からかぐやの声が聞こえた。それを聞いた俺は首だけかぐやの方へ向けて言った
「……お前が許してどうなるってんだよ。何が変わる、何が為せる?」
「何も変わらないかもしれない。何も出来ないかもしれない。でも、私だけは玄哉の味方でいられる」
「……ははっ、何だよ、それ……。みんな、離れていくかもしれないぞ」
「いいよ。玄哉がいるなら。そんで、玄哉にも、かぐやが居る」
「っ!!お前はそんな簡単に……!俺は……俺はっ……!」
「玄哉が人を、自分を信じられないなら、かぐやを信じて。かぐやは何があっても、玄哉の味方だから。もし背負う罪の重さに押しつぶされそうなら、かぐやが一緒に持ってあげる。だから、もう苦しまないで。かぐやと一緒に歩こう?」
「どうか、私と一緒に踊ってくれる?」
そう、かぐやは目に涙をいっぱいに溜めながら微笑み、言った
「っ………」
その後、どのくらい経っただろうか、しばらく俺は声にならない声をあげて涙を流した
この日初めて俺は吉田松陽になった
─────────────────
「ちょっと!松陽聞いてる?なんかニヤニヤしてるけど」
「ん?あぁごめん聞いてなかった。ちょっと昔のこと思い出しててな」
「もぅ〜〜!今日の晩ご飯パンケーキとホットケーキどっちがいいか聞いてたのに!」
「それどっちも一緒じゃねぇか!!」
ヤチヨはてへっと舌を出して頭をコツンと叩いた
全く、本当にこいつは変わらないな
でも、お前が誰を好きでも、誰を愛していても、俺の一番は少なくとも、あの日からずっと決まってる
この事件が起きてからヤチヨのヤンデレに磨きがかかりました。ヤチヨと松陽は互いに互いのことをチョロいと思っています