彩葉side
「松陽先生、ここはどうするんですか?」
「ここはね、この公式を使うと……」
「なるほど!ありがとうございます!」
「いえいえ、また何か分からないことがあれば言ってください」
私がこの百貨店で働き始めて早1年、私の生活は一変した
お客さんがあまり来ないからと暇な時間は勉強させてもらえるし、何なら松陽先生が教えてくれる。
それもすっごい分かりやすい
特に歴史は絶対に教科書には載っていないような事をまるで自分の目で見てきたかのように教えてくれる
……本当にこの人何者なんだろう。この前東大の赤本持って行ったけど余裕で理三の合格点超えてたし
そして、大して働いてもいないのにバイトとしては高すぎる給料に、店の商品をまかないとしていくらでも持って帰っていいと言うのだ
これのせいで前まで食べていたパンケーキが食べられなくなった。
……今思えばよく私あんなの食べて生きていけてたな。それに睡眠だって毎日5時間弱くらいはとれるようになった
最初はホワイト過ぎて逆に黒だと思って警戒してたけど普通にただ果てしなく白すぎるだけの店だった
でも、やっぱりあんまり儲けはないみたいだ
こんなに教えるのが上手いなら塾でも開けばいいのに、とも思ったがどうやら松陽先生はお金にあまり執着がないらしい
それ以上にお客さんの笑顔を見るのが何よりも好きらしい。自分の店で喜んでいる人を見ている時、先生はすっごい優しい顔をする
私もそんな先生やお客さんの顔を見るのが好きだ
まぁ、ここまで聞くと完璧な人格者だと思うだろう。そう、ここだけなら
「いいですか、光の通り道が横から見える事をチンダル現象と言います。……フッ……この由来はジョン・チンダルと言う偉人が由来です。……ブッフ!……ち、チンダル……っ!チンダルて……!どんな名前してんだよっ……!チンダル……ブフォッ!」
「………」
「すみません……っ!でも、……でもチンダルですよ!!ブッフォっ……!ハ〜〜……ハ〜〜!腹いてぇ!!」
そう、思考が中学生で止まっているのだ
何なの?普段はちゃんと落ち着きもあって大人っぽいのに何で笑いのツボが男子中学生なの?
こんな感じでたまにセクハラで訴えれるレベルの下ネタを挟んでくる
……まぁ、でもこんなので好感度が一切揺らがないくらい恩があるから何も言えないのが現実である
「ちょっと松陽!彩葉困っちゃってるじゃん!下ネタ言うのはヤチだけにしてっていつも言ってるでしょ!!」
こう言う時にいつも助けてくれるのは、松陽先生とこの店の恒例夫婦漫才を見せてくれる
海を思うような深い青の綺麗な髪と瞳をした、本当にこの世の人なのか信じられないくらい綺麗な人だ
しかし
「うるせぇお前には言われたくねぇよ!お前だってこの前チンチン列車で腹抱えて笑ってただろうが!」
「あっ!ちょっと!!彩葉の前でそれ言わないでよ!!彩葉、違うの!これは……」
「はは……」
しかし、この人もちゃんと松陽族の一員である
この二人はどちらか片方だけなら問題はないのだ。しかし、この二人が揃った途端にIQがダチョウ並に急落する
そして、この二人の息のあった漫才は常連さんの中では恒例のイベントになっている
しかし、これだけお似合いなのに別に結婚してる訳でも付き合ってる訳でもないと言うのだ。世の中不思議なこともあったものである
「おっと、もうこんな時間ですか。酒寄さん、もう上がって大丈夫ですよ」
「あっはい!今日もありがとうございました!」
気がつけば窓の外が暗くなっていた。にしても、とうとう明日から待ちに待った三連休!!
何しよっかな〜!まずは模試の対策して、それからヤチヨの配信見て〜、そんで毎日6時間はねれる!!
「もう外は暗いですし、送りますから駐車場に来てください」
「はい、ありがとうございます!」
「お疲れ様〜!じゃあ彩葉!また来週ね!!」
「はい、さようなら!」
そう言って毎回ヤチさんは私が帰る時大袈裟なくらい手を振って少し悲しそうな顔をする
この顔を見るたびに帰るのが申し訳なくなるが、すまぬ。私とて帰らねばならぬ家があるのだ
「は〜い。着きましたよ」
「はい!送ってくれてありがとうございました。」
「いえいえ、女子高校生がこんな時間に一人で外に出ることの方が問題です!では、私は店に戻ります。ちゃんと寝る前に歯を磨くのですよ」
「分かってますって。子供扱いしないでください。」
こんな感じで先生はたまに私のことを小さい子供のような扱いをしてくる。
私だってもう高校生なのだ。そんなに子供扱いされるのはやっぱり恥ずかしい
「私からすれば貴女もまだまだ赤ん坊みたいなものです。何か困ったことがあったら迷わず頼ってくださいね。では、これで」
「もう、大袈裟ですよ。でもありがとうございます。さようなら!」
先生はたまにこんな感じで年齢に関しては認識がおかしい感じがある。
先生だって見たとこ30も行ってないだろうに、何歳のつもりなのだろうか
その後、私は先生の車が角を曲がって見えなくなるのを見送ってから私は住んでいるマンションへと足を運んだ
その時
ペッカ〜〜!!
「へ?」
何やら七色にペカっているゲーミング電柱があるではありませんか
それを見た女子高生の反応は
逃げ出しちゃう?腰を抜かす?警察に通報する?
ノンノン!ここで彩葉のとった行動は……
「はは、何だ幻覚か……」
何と言うことでしょう。華の女子高生がまるで日常的に幻覚を見ているような反応をしたじゃありませんか
松陽のもとで働くようになってから改善はされたがそれでもヤチヨへの貢ぐ量が増えたり勉強量が増えたりしただけでそこまで生活は変わっていないのであった
そして
プシュー
という音と共に電柱が開き始めました
「フンッ!!」
何と言うことでしょうpart2
彩葉は自身の持ちうる力全てを使い電柱の扉を押し戻した
しばしの格闘の末に、電柱のとった行動は──
「結局力ずくかい……」
そう、彩葉は力無く呟いた
最近松陽から貰ったものやヤチヨの料理が美味し過ぎてつい食べ過ぎてしまい、ちょっと肉付きが良くなったことを気にしているとはいえ女子高生の細腕では抑えきれず開くことを許してしまった
そして中から出てきたのは
「ふぇっふぇっ!!かっぺっ!!」
「ふぇ?」
中には何と可愛らしい赤ん坊があるではありませんか
何やら彩葉に唾を吐きかけた太々しい赤ん坊を前にしばしのフリーズの後彩葉が出した結論は──
「すまん!!しかし私手一杯ですので!!」
秒で見捨てたのであった
───────────────────
「ふぅ、ただいま」
「おかえり〜!晩御飯はもうちょっと待っててね〜!今日は腕によりをかけたフルコース!!──前菜はアスパラガスのブラマンジェ、生ハムとトリュフをアクセントに。次にコンソメドゥーブル季節の野菜の──────」
「はいはい、楽しみ楽しみ」
また始まった。ヤチヨは料理に対するこだわりがとんでもないのだ
何やら酒寄さんの胃袋を掴めたことが嬉しくてそこから料理も好きになったみたいだ
でもマジでうまそうな匂いするな。まぁヤチヨの作ったものなら何でも美味いんだろうけど
そんなことを考えていると俺のスマホに一通の電話がかかってきた
「ん?酒寄さん?ヤチヨ!ちょっと電話出るぞ」
「はいよ!旦那!じゃああっしはしばしの間口を閉じていますぜ!」
ヤチヨの謎の口調は置いといてひとまず電話に出る
酒寄さんがこんな時間に電話をかけて来るなんて珍しいので何だろうと思っていると
「あ、もしも──」
「あっ松陽先生!!赤ちゃんの名前って何がいいですか!?」
「何を言っているんだ?」
「先生さっき言いましたよね!?責任とってください!!」
「おい!やめろ!落ち着け!深呼吸だ!ほらひっひっふー!」
マジでどうしちまったんだよ酒寄さん。とうとう勉強のし過ぎでどこかおかしくなったのだろうか
……まぁ冗談はさておき、大体の目星はついている
おそらく原因はかぐやだ。
かぐやが地球に来たのは三連休前の夏だと聞いている。今日はその条件に当てはまる
だから今言っている赤ん坊もかぐやだろu──
「松陽、とうとう彩葉に手出しちゃったんだ。それにもう赤ちゃん作っちゃうくらいの関係なんだ。そっか」
「oh……ジーザス」
俺はもう、生きて帰れないかもしれない
彩葉の台詞の真意は
「先生(困ったときは頼れって)言いましたよね!?(言葉の)責任とってください」
です。
焦っちゃってすんごい誤解されるような言葉になってますね