シリカさんと二人、彼女のおススメする銃販店に到着して、物色を始めます。
店員さんにフランクに話しかけて事情を説明している様子を見るに、馴染みの店と言うのは嘘ではないのでしょう。それにしては話が長い気がしますが、シリカさんが外の方と話しているのをただ待っているのも勿体ないため、店内を一人歩き回ります。
買い替えだと言ってしまった手前、以前の武器を問われると思うのですが、今日は心機一転いろんな武器を見に来たのだと言ってしまいましょう。以前の武器がないなんて言うといろいろ勘繰られてしまいそうですし。
しかし、制服を着ている状態を見て感じる以上にこの身体は華奢で壊れてしまいそうです。重ための武器は流石に支えられるか不安になりますね。重機関銃やショットガンは反動も相まって物理的に厳しそうな気配がします。
そうなると、ハンドガンかサブマシンガン、あるいは小さ目のアサルトライフルが候補に入ってくるでしょうか。本格的な戦闘の予定はないので、自衛用にはハンドガンで事足りるような気もしますが、ちょうどいいのはあるでしょうか。
「どう? なんか欲しいのあった?」
ガンショップに来た記念に何枚かピースピースと写真を撮っていると、突然後ろから声を掛けられて、私は思わず飛び上がりそうになりました。
いえ、別に驚いたからではありません。写真を確認している最中に息がかかりそうなほど、というか実際に首筋に息が掛かるぐらい近くにシリカさんが近づいておりまして、うなじの辺りがくすぐったかったのです。
振り返ると金緑が間近にあって、互いの呼吸がわかってしまいそうなほどの距離感。私にとってはちょっとばかし心臓に悪い彼我の数センチは、その甘い香りに引き寄せられてしまいそうで恐ろしくもありました。
こちらを見上げるシリカさんの
私が見ていたのはPDWと呼ばれる小さめの種類の銃です。Personal Defense Weaponの略で、護身用銃や個人防衛火器と呼ばれる類のものになりますが、その特徴はやはりサブマシンガンよりも火力が高いというところになるでしょうか。
「PDWか。確かにイナちゃんの細腕だとこっちの方が良いかもね」
近い。近すぎます。私とショーケースの間に身体をねじ込んでこないでください。
思わず一歩足を引いたところに、それ幸いと背中を預けてくるシリカさんにどぎまぎしてしまう私は、もしかしたら懸念していた通りぼったくられてしまうのかもしれません。
ですが店頭の表示価格自体は私に知識として残っている常識からするとそこまで法外な値段のようには思えません。どちらかと言えば良心的な価格とまで言えそうなほど。
となると、オプションをたくさん買わせようという魂胆なのでしょうか。さっさと本体を選ばせてしまってから、サイレンサーやデコレーションでがっぽり設けるスタイルの店なのかもしれません。こうして私と距離を近付けてきたのはあらかじめ私が買おうとしている銃を店員に伝えてそのカスタマイズ品の準備を進めさせ――
「でも、PDWは銃弾が専用のになっちゃって、結構調達がめんどくさいよ? コンビニではあんまり売ってないし、元々の銃がPDWで弾も余ってるならいいと思うけど、同じ小さめのならPCCとかの方がおススメかな」
コテンと首だけ上げてこちらを見ながら、シリカさんがそんなことを言います。
半分ぐらい頭に話が入ってきていませんが、ひとまずおススメされていないことはわかりましたので、そのままシリカさんを抱えたままショーケースをスライドしていきます。
……違います。別に確保していません。彼女の収まりがよかったので肩の上から腕を降ろしただけです。捕まえた形になったのは……そう、成り行きです。別に他の意図はないのです。誘惑に負けたとか、魔が差したとか、そういう理由は何もないのです。それに、このぐらいの距離感は我々ぐらいの年齢ならばそうおかしな話でもありません。シリカさんも何も言っていませんし、やはりこれは普通なのですよ。
そうしてスライドした先は、とあるブランドのPCCと呼ばれる種類の銃が並んでおりました。
このブランドではPCC・SMGという形で、PCCだけどサブマシンガンの運用ができるということで高い評価を集めています。有名な映画で使われたモデルでもあるので、人気も高いイメージがありますね。
比較的長めのロングバレルのものがよく使われていたイメージですが、予想していた大きさよりももっと小さいモデルもあるみたいです。
「むむ」
小さいモデルのうち片方、黒くてスマートな見た目の方から少し嫌な気配を感じました。
いえ、別に銃自体に問題はないのですが、なんとなく近付き難い雰囲気がありまして。先程シリカさんの出身がゲヘナだと聞いた時と似たような感覚になったのです。いえ、シリカさんが嫌いなわけではありません。本当です。
そんな葛藤から目を背けるように視線を滑らせた先、先程の黒いモデルよりもさらに小さいモデルが飛び込んできて、その可愛らしいデザインに目が奪われます。
この大きさならばジャケットなどを羽織るだけで隠せそうで、秘匿携帯に向いていそうですね。頑張ればスカートの中に隠す、のは流石に厳しいかもしれませんが。
「気になるなら、試してみる?」
「良いのですか?」
「そりゃあね。銃を試し撃ちもせずに買うなんて、試供品を使わずに化粧品を買うようなものでしょ?」
そんなわけで店の奥にある射撃場にて、先程の銃を触らせていただけることになりました。
近しい大きさのハンドガンやサブマシンガンも持ってきてくださったようなので、そこと比べて使用感はどうかというのを比べることに神経を注ぎます。
さすがのシリカさんも射撃場に来てまで張り付いているわけではないらしく――射撃場に来る道中はくっついていた気はしますが――大人しく離れた後ろから見守ってくれています。
まずはハンドガンから。今回選んだPCCと同じ銃弾を使うタイプのもので、片手で持つには少し反動がキツイ気はしますが、もう少しご飯の量を増やせば大丈夫な気がします。両手で持つ分には不足なしですね。命中精度は私の筋力も相まってお察しなので、練習は必要ですが。
次に本命のPCCです。こちらは元々両手で持つように設計されているのですが、流石にコンパクト過ぎてちょっと持つのが難しいです。上手くコツがわかりませんね。ロングバレルならば銃身を持ってあげればいいのでわかりやすいのですが。
そんなことを考えながら撃ったらほぼ片手撃ちみたいになって反動に振り回されながら銃口がどんどん上へと跳ねていき、私は尻餅をついてしまいます。
「大丈夫?」
「はい、問題ありません」
ちょっとびっくりしてしまっただけなので。
そして今度はサブマシンガン。別のブランドの通常モデルを持ってきてくれたみたいですね。持ちやすくて、今度こそ両手でちゃんと抱えられます。反動もありますが両手、ひいては体全体を使って支えられるので、ハンドガンよりも安定している気がします。
よし、確かめたいことはちゃんと満たせましたし、決めました。
「この子にします」
そう言って私は先程思いっきり暴発させたPCCを指さしました。
サブマシンガンを撃ち終わって満足げに振り向いた私を見て、店員さんもシリカさんもサブマシンガンにすると思っていたのでしょう。
一瞬だけ何を言われたのか理解できない様子で固まって、ワンテンポ遅れて立ち上がります。
何でと言われましても、気に入ったからとしか言いようがありません。ほら、結構あるじゃないですか。上手く行かないけど触っているだけで楽しいゲームとか、ミスばっかりだけど身体を動かしているだけで楽しいスポーツとか。私は記憶喪失なのでどれもやった記憶はありませんけども。
好きこそものの上手なれ、とも言いますし、好きなものを使うのがやっぱり一番だと思うんですよね。なんだろう、暴発はするけど愛嬌があるといいますか。なんだか安心するんです。意思があるような言い方をしつつ、暴発させているのは私なんですが。
「あばばばば」
再び本命の方を持って撃ちますが、やはり上手く行きません。
抱え方が悪いんですかね。気が付いたら天井を仰いでいます。
これ以上試し撃ちをすると店を壊してしまうような心配があったので、試し撃ちはここまでにして会計をお願いしますと床に伸びたまま店員さんにお伝えします。
正気を疑われましたが正気も正気です。こんなに相性がいい銃を使わない方がおかしいというものです。
さて、会計をしなければならないという場面にあって、そういえば私の支払い能力はどうなっているのだったかと今更ながらに思いました。
スマホ決済が主流のキヴォトスではタッチで自動的に口座から引かれていくシステムが多いので、スマホの中にも自身の口座を確認できるアプリが入っているはず。最初の確認ではちゃんと見ていなかったアプリの中から銀行アプリっぽいものを探してみると、どうやら二つの銀行アプリが入っているようでした。
一つは大手企業のもので、もう一つはよく知らない銀行のもの。
大手企業の方を開くと生体認証を要求されるタイプのもので、何をやればいいのかと迷っているうちに勝手に認証開始という表示が出てきます。流行りのヘイロー認証というやつでしょうか。この流行の知識を私がどこから引っ張ってきたのか、私もいまいち把握していませんが。
そんなことを考えていると、バイブレーションと共に認証が拒否されます。
「どうかしたの?」
「あ……いえ、ヘイロー認証がどうも通らなかったようで」
「そんなことあるんだ。残高がわかんない感じ?」
「はい。もう一つ銀行のアプリがあるみたいなので、そちらも確認してみます」
いつの間にか近付いて来ていたシリカさんが今度は横にピッタリとくっついてスマホの画面をのぞき込んできます。
大手のアプリの方がダメだったのでもう一つの銀行のアプリを開きますが、こちらは生体認証だったのかあっさりと突破して、アプリのホーム画面が表示されました。
ホーム画面に口座残高が表示されるタイプのアプリで、その金額は。
「えと、イナちゃん。これ、桁あってる?」
「奇遇ですね、シリカさん。私も同じことを訊こうと思っていました」
二人で顔を見合わせて、普通に暮らしていれば目にすることのない金額が入っている残高に目を疑います。
怖いもの見たさで入出金履歴を確認しますが、確認出来る限りでは知らない名前のところから入金があるだけで、一度も出金の履歴がありません。この大金をどこにも移動せず、そして使いすらしていないという事実に、余計に後ろ暗いものを感じてしまいます。
私とシリカさんは頷き合って、この口座を見なかったことにすることに決定します。
恐らく大手銀行の方が学校標準の銀行だと思いますので、残高が残っていることに期待しつつ、エイヤで決済をしたら何とか通りました。銃弾の方も問題なく購入できまして、ついでに肩掛け用の紐と以前より予定していた学生証ケースも購入できました。
少し私の過去が心配になりましたが、ひとまず銃の調達は完了しました。
シリカさんの借りている場所までの間に服屋さんもあるようなので、お次は服の調達に参りましょう。
「……まだ逃げれてなかったんだね。イナちゃん」