Fate/ Grand Order ーSecond Repeatー   作:FGOキッズ

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不定期更新ですが頑張ります。


炎上汚染都市冬木ーReincarnation Carryoverー
その思い出は、元より吾のもので無く


吐き出す息に色はなく、流れる血に魂は無く。

されど、未だ星の息吹は潰えず故に我は振るい立つ。

人知未踏の天蓋は高く聳え、地表の焔など取るに足らぬと見下ろしていた。

燃やし尽くされた人の帯。愛を以た逆行運河/創世光年。全ては白紙に回帰する時に、往生際の悪い、衆生の生き汚さが真っ向から異を唱える。

 

もはや、何も記憶に残っていないが、足を動かすモチベーションくらいは残っている。

 

──なら、頑張れるはずだ。

其は星見。其は報復。星を背負う七天。抑止の輪より来たりし代行者。

嘲笑う灼熱が映る金色。再びゆっくりと歩を進め出した。

傾けられた天秤に再び調和を取り戻すために。

 

ーーー

 

「はぁぁーー!」

押し寄せる骸骨(むくろぼね)の大群。二つの生命を背負う少女は鉄の塊を振るい、一つ一つを解体していった。

周囲は燃え盛り、瓦礫の中には怨念が渦巻いている。まさに地獄の具現。閻魔大王もかくやの閉所煉獄。幸い、地獄ともいえるのがビジュアルのみで、立ちふさがる狂骨共にそこまでの強さは無い。数による圧倒的な経戦能力を除けば、であるが。

「マシュ、強化するから周囲事を吹き飛ばして一旦退こう!数が多すぎるよ!」

後方から声が響くと腕にはち切れんばかり魔力と司令(オーダー)が投入される。湧き溢れる力に脳を焼き切れそうになる。それを発散し振り払うように、前方5メートル先にいる骨の塊たちに力任せに叩きつける。瞬間的爆発力が前面に放出される。怨念の魔力で縫合された肉体(骨)も、神秘の突風と10トンの殴打を前にしちゃ、なんて弱い塵芥なことか。

とりあえずの危機は脱した。恐怖に怯えて(それも仕方のないことだが)、我先にと駆ける魔術師に先導されて、つつくべき場所を間違えたサーヴァントとマスターはこの場を去っていく。

ここは冬木大橋周辺。炎上する朱の鉄塊が自然と都市の境界を繋ぐ道。その成れの果て。彼らはそのうち都市側にいた。神秘が淘汰され、人のテクスチャが広がる文化圏に。最も、そのテクスチャごと燃やされているのだが。

「まずはお疲れ様です。マスター」

「それはこちらも同じだよ、マシュ」

焔が燃え移っていない箇所を見つけて腰を据えた二人の男女。そこに、若干不機嫌の女性が加わる。

「とりあえず、周りに危険はないわ。あの骨相手にどこまで効果があるかわからないけど──気休め程度の人目隠しの結界も張ったし。それで藤丸、マシュ。説明の続きをしようじゃないの」

眉間に皴が寄り、頬が紅潮する女性──オルガマリー・アニムスフィア。もとい、人理保障機関フィニス・カルデアの若き所長が語りだす。

「ありがとうございます……オルガマリー、さん?」

良く言えば困り顔、悪く言えば少し怯えたような表情の男──藤丸立香は伺うようにオルガマリーを見上げた。

「オルガマリー所長って言いなさい。全くもう。まぁいいわ。時間も無いから進めないと。マシュ、どこまで言ったか復唱!」

「は、はい!」

そう、声を上げたのは先ほどまで総重量10トン超えの鉄の塊──実際は黒鉄の盾──を振るっていた少女、マシュ・キリエライトだ。この場で唯一といってよいほど戦闘力となるデミ・サーヴァント。彼女は先ほどまでオルガマリーが説明していた、藤丸にとっては未知の、他二人にとっては既知の機関”カルデア”という組織について復唱した。

──カルデア。正式名称は人理保障機関フィニス・カルデア。人類史をより長く、強く存在させるために設立された魔術機関。魔術協会にいる十二人の君主(ロード)の一人、天体科(アニムスフィア)の君主(ロード)であるマリスビリー・アニムスフィアが設立した星見の天文台。同じく人類の継続を至上の命題とする禁忌の穴倉アトラス院と別のアプローチで人理の守り手を買って出たもの。魔術と科学を区別せず、人類の致命的な破滅を防ぐために使用する特務機関。それがカルデアだ。現在の所長はオルガマリー・アニムスフィアになっているが、それは3年前に先代(初代)所長にして実父マリスビリーが原因不明の死を遂げたことによる影響だ。そのせいで所長の座は幼き彼女のものとなった。いずれは魔術協会の天体科を背負う十二の君主(ロード)へと成長していくことだろう。

そんな栄光あるアニムスフィアの御令嬢は現在、彼女らにとって数時間前に生じた爆発事故を受け特異点の最前線に吐き出されてしまったが。

「十分ね。マスター藤丸にとっては全く縁のない話でしょうけど、これは全て現実よ。この世界には科学だけでなく魔術も存在する。魔法は……現存する”5つ”を除けば存在しないと言っても構わないかもしれないけど。私たちカルデアはその魔術、神秘を扱い、人類を守るために活動している。その手段として、サーヴァントを使用するの。例えば聖剣の担い手、イングランドの伝説的君主──アーサー王とか」

「魔法使いとか、魔術師とか、サーヴァントとか……正直未だに話が呑み込めていないです。某不二子Fのタイムパトロールって認識で良いですか?」

頭を抱えた状態にある藤丸の考えも無理は無いだろう。彼はそもそもごく普通の一般人だ。致命的に不運なことがあるとすれば、生まれながらにして魔術を扱うための最低限度の素養、魔術回路を持っていたことと、彼らがここ、炎上する冬木市に飛ばされる原因であり手段でもあるレイシフトに対する優れた適性を持っていたくらいだ。

「私、その作品知らないのだけれど。そうね……時間を監視する警察(タイムパトロール)ってのはあながち間違いでもないんじゃない?正直、これから長い時間をかけて知識はつけてもらうつもりだし、この特異点を攻略する、治療するためにはマスターである貴方と、サーヴァントであるマシュが必要不可欠ってことさえわかっていれば十分だわ。あんまり詳しくなっても、この人理修復が終われば貴方は元の日常へと帰るわけだし。給料はたくさん出るから、そこは少し考える必要あるけど」

藤丸立香はなかば強制的に連れてこられた身だ。正式な雇用であり、一般人が扱いきれない額を渡されることを除けば命がけもいいところの極悪ブラック企業に売り飛ばされたも同然の状態だが。にも関わらず、なんというべきか、取り乱さないのは彼の生まれながらの図太さの賜物かもしれない。その後数分に欠けて彼女の口から多くが語られるのだが──その量は余りに多く、ここに掲載しきれるものではないことは先に伝えておこう。

「とにもかくにも、”生き残らなくちゃ”いけないっとことでいいですか」

「そうよ。今回はそこに加えてこの冬木市で何が起きて、何が人類の未来を脅かしているのか調べなくちゃいけないしね。そこさえクリアできれば後はもっと適性もあって、より強力なマスターを起こして任務に当たらせます。お父様が声をかけた7人は特に化物揃いらしいし、そうなれば貴方は御役御免。カルデアの隅で震えているか、そうでないならカルデアスタッフとして最低限の雑務のサポートをしてもらうだけで十分よ」

「オルガマリー所長、先輩。そろそろ移動しましょう。未だ結果は効力を発揮できているようですが、おそらく時間の問題です。周囲に敵性反応が増えています」

彼女が占めすモニターには、半径十数メートルの地形とそこで活動している魔力反応(今回はその骸骨)の数が映し出されている。徐々に数を増やし、自分たちのいる空白地帯を取り囲みつつある。

「わかったわ。次は冬木教会にでも行きましょうか。何が残っているかなんて想像できないけど、あそこは聖堂教会の管理下にある場所だし」

そういって席を立つ。まずの行き先は決まった。

「人払いを移動式に改訂……。これで余計なことをしなければバレにくいはずよ」

 

──燃え盛る街並み。跋扈する赤骨の怨霊たち。息をひそめながら、消耗を抑えて進む。

進んだ先に崩壊した聖堂が見えた。炎に包まれた祈りの場。死徒が恐れ、真祖が忌避した世界に最も広がる神秘体系。その一端は儚くも崩れ去っていた。天井は赤い泥のような空があるのみ。ここに、主は影は存在しない。あるのは主さえ憐れまぬ悲しき魂の残滓だけ。

「当てが外れた……ってわけでもないけど、酷い有様ね。これが本当にあの冬木市?別にそこまで詳しいわけじゃないけど……」

「生存者は確認できません。見渡す限り、焼け野原です」

このようなことはよほどのことでもない限りは怒りようがない、とオルガマリーは歯噛みする。それでも起きてしまったのが特異点という現象だ。けれど、特異点とは”歴史の歪みが起きようとしている”ところに介入し、正常に向かわせるものである。起こった後という出来事自体が、ありえないのではないか?完全な人為的事故または自然現象による悲惨な被害は世界中で過去何度も起きてきた。しかしそこに特異点の性質は見いだされない。なら特異点は何を以て特異点たらしめるのか。それは神秘だ。神秘によって、本来のあるべき姿を大きく外れる時、その切除点として特異点は観測される。大きくはずれる前に、元に戻すのだ。

「ここで何が起きたのかはわからない。でもその結果が巡り巡ってカルデアスが灰色に染まるにまで甚大な被害を与えるに至った……。おかしな話ね、それなら普通は抑止力が働くはずなのに」

「僭越ながら所長。抑止力が働かないからこうなったと考えるべきです。正しく働いていれば、そもそもこうならなかった、と」

考察は無意味ではないが、現在において必要な話でもない。特に、今この瞬間は。

通信が解放され、観測者の助言を受けて休憩しだす3人。マシュから手渡された携帯食料を藤丸が手に取ろうとした時。

鉄の鎖が降ってきた。破壊力は数トンにも及ぶ。ソニックブーム一歩手前の衝撃が丸腰の人間3人に直撃する。

「まずい!まずいぞマシュ!これは──」

ブレブレの映像。その先で声を上げるノイズから特大の危機が発せられる。

深い森の奥からやってくる。楔を手に、長髪の、泥にまみれ、黒く変色した怪物がやってくる。この特異点で4人目の反応。言葉を使う、怪物モドキの怪物が。

「あれは──サーヴァントだーーー!」

瞳が光り輝く。一瞬見ただけで体が凍り付きそうになる──いや、本当に凍りだしている!厳密には石になって動けない!一人だけならいざ知らず。この場にいる3人が、乱入者に注目したせいで同じ石化を始めている。現れたのはライダーのサーヴァント。ゴルゴーンの女怪。真名を、メデューサ。被害者でありながら加害者として暴れ、大英雄ペルセウスに撃ち取られし、石化の魔眼!

「ーーーっ」

命運ここに尽きた。三人は目を離せず、視線は石化によって固定化される。既に意識が飛びかけ。サーヴァントとして付与されたクラススキル、対魔力が辛うじてマシュの石化を防いでいた。けれど、相手の魔眼はその上をいく。

ライダーは獲物を狩ろうと、二つの杭剣を構えながらじり、じりとにじり寄る。

祈りは無意味。主は君たちを見捨てた。崩れ去った聖堂のように、人の希望は霧散する。

だが、天は滅びを受け入れても。人は滅びに抗う。その絶対の想いこそ、”彼”をこの地に誘った。

迫りくる鉄の鎖。《怪力》を以て放たれる音速の衝撃が、盾の乙女に飛翔する。なんと合理的な判断か。死を前に、一周まわって冷静に分析するマシュの意識は、しかし潰えること無く。

「二人を抱えて走れ!今の君じゃ、何もできない──!」

その、初めて聞く声に突き動かされながら、まだ完全に凍り付いていない二人を抱えて走りだしていた。坂を下り、街を抜けて。息を切らしてもなお。

何も考えていなかった。ただ無心だった。死ぬと思った直前に、迫る鉄に、光る何かが差し込まれ、上に弾かれていたことだけはわかっていた。

走り出して十数分。限界を迎えてマシュは転ぶ。腕から外れた二人の石は砕けることなく地面にごつんと音を立てて投げ出される。

「っはーー!死ぬかと思った。何!?今の!?」

先に声を上げたのは藤丸だった。続けて悲鳴を上げながらオルガマリーが肉体を取り戻す。

「わかりません……!あわや全滅の危機って時に誰かに助けられて……」

「何その話。マシュが助けてくれたんじゃなくて?」

え、と声が詰まる。

「いえ、私もあの目によって石化させられました。でも、あの視線を払ったのは私ではなく──」

次の言葉が出ない。視界に赤の飛沫が飛んだ。腹部に熱せられた鉄を押し付けられたような気がした。取り囲む二人がぎょっとした目で駆け寄ってくる。手でそれを静止し、力を込めて咄嗟に飛び退く。鋼鉄のプレートを嘲笑うように血が流れていた。一閃切り裂かれて、視界が明滅する。サーヴァントとして新たに成立された肉体が死を防いでいるだけでーーー

「ああ……敵性、反応……です!マスター!逃げてください」

声を振り絞って行動を促す。腹部の傷から血は流れ続ける。でも死はまだ遠い。

「己よりも、主君を優先するとは良い判断だ。だが、我々サーヴァントへの対抗手段を持たぬものを先に行かせるのは軽率だと言える」

声が響き、続くように暗黒が実態を作り出す。今受けたのは奇襲の一撃。《遮断された気配》が彼女にダメージを与えた。襤褸布を纏いダガーを握りしめた男が声を上げる。顔には、白い面が張り付いている。

「して、盾のサーヴァント。貴様はここで私と戦うのか?」

「当然です。貴方を今すぐ倒して……私は先輩と所長を助けに向かいます!」

息を整えながら力を貯める。その盾は持ち主の意志が砕けぬ限り、決して破壊されないのだから。

「なるほど。それは良い判断だ。だが──アサシン(わたし)だけがここに来たわけではないことを除けば、であるが」

振り返り、彼らの背中の先に表れた影を凝視する。背中に数多武器を背負う巨漢が立ちはだかる。隙も生じぬ挟み撃ち。二人を守ろうにも、アサシンの攻撃をかわしながら俊足の英霊たるランサーを相手どろうなんて蛮勇は不可能にもほどがあろう。

「聖杯戦争は共闘無くして勝ち目無し。誰もが知る常とう手段だ。別に卑怯なんて言わねぇよ。でもよ──俺が助けに入ったところで文句も無ェよなァ!」

どこから火球が飛んでくる。アサシンもランサーも直撃を避け、彼らが数秒前いたところにはルーンの文字が刻まれ赤く燃え盛る。燃えカスとなった地面に黒い”ᚨ”の文字。

「さっきからなんなのよーーー!」

オルガマリーの悲鳴もやむなし。けれど、これは間違いなくの助け舟。響いた声は明るく、気持ちよく、そして力に満ちた陽気な音。ランサーの前に降り立つ青の外套。ルーンが刻まれた杖を携え現れたのは。

「キャスター!何故今になって動く!何故彼らの肩を持つ!」

「ンなもん、テメェラよりマシだから以外の理由があるかよ。そもそも”所属”が違うじゃねーか。お前らは今は”汚染された聖杯”に属しているが俺は正真正銘、フリーのサーヴァントさ。セイバーに叩っ斬られて、あまつさえ泥被って自分を見失っている連中と俺がどうして仲良しこよしできるか教えてもらいたいねェ!」

杖を構える北欧の英雄。本人の意思か別の因果によるものか、本人は魔術師に置き換わり、その実趣味嗜好までは変わることなく。魔術を行使するための出力装置(つえ)を、槍のように扱わんとしている。

「ったく、泥被っても頭冴えてる割にはこういう見落としはなんで減らんのか。おい、そこの坊主!」

は、はいい!っといきなり声をかけられて驚くマスターの青年。彼の手に刻まれた赤の刻印が強く輝く。熱く、痛く、焼き付いていくマスターの証明。

「お前マスターだろ?そこのお嬢さんと一緒にこいつらを倒すためにしばし仮契約させてくれや。何そんな魔力は吸い上げねぇよ。言っちゃ悪いが、現状お前の味方だっつー証明程度に思ってくれ」

泥に冒された影法師が取り囲む。アサシンは盾を、ランサーを杖を打ち砕かんと構える。対してシールダーはダガーを、キャスターは薙刀を警戒し、カウンターを狙う。緊張が張り詰める。キャスターにとってはいざ知らず、マシュにとっては初めてのまともなサーヴァント戦。

「協力ありがとうございます!キャスターさん!二度も助けてもらって!」

律儀に先ほどの礼を言うマシュに「そういう態度の奴は嫌いじゃない、むしろ好きだ」と返すキャスター。曰く、何言っても皮肉ばかり返す野郎ばかりのせいで素直に礼は心に染みるそうだ。

「盾のサーヴァントに、静観していたキャスターも加わり、こちらと同じく2対2。相手にとって不足はない、といったところですな、アサシン殿」

「如何にも。シールダーもキャスターもそのうちにある手札がわからぬ以上、慎重にかつ効果的戦いましょうか」

 

焔の音が気にならなくなるほどの緊張が葉を支配する。数秒後には人類では比肩することもできない超常存在による戦いが始まることを意味していた。まるで西部開拓地で見たガンマン同士による決闘だ。野次馬も開始を告げる審判もいないが。だから戦いの始まりは全員が最善と判断できる瞬間に始まる。

2秒後、4人は一斉に前方の敵へと立ち向かっていった。最善を図った結果、全員が同じ時間(こたえ)に行きついた。

黒鉄と黒鉄が交差する。長物と長物がぶつかり合う。一瞬の中で幾度も致命の一撃が衝突する。

「嬢ちゃん、場所を俺が合図をしたら相手を交換だ」

戦いの中でキャスターはマシュに耳打ちする。相手にバレないように、こっそりと。この会話は二人にしか共有されない。マシュの鎧に刻まれたルーンによって彼女は聞こえていると錯覚している。

──その盾は守るためのもの。技量は元の霊基から引き継いでんだろうが、テクニックを駆使できる程の練度を嬢ちゃん自体が持っていない。なら、アサシンより、ランサーのほうが適切だろうよ──。

キャスターの指摘通り、実際マシュは攻めに転じることができていない。アサシンは素早く、常に視界に捉え続けなければ簡単にその影を見落としてしまう。冬木大橋の近く、開けた場所で戦いを始めたがどうしてなかなか連中も跳ねて隠れて場を翻弄する。

藤丸はマシュに強化を施し、傷ついた肉体を癒しているが、このままではらちが明かないと感じているのは確かだった。オルガマリーも多少攻撃系の魔術を使うが、サーヴァントにとっては目くらましにもなりはしない。

時間が経過する。戦闘開始から5分。若干有利に進むアサシンがマシュを押すが、キャスターはランサーを相手に有利に立ち回る。そして、アサシンとランサーが決めるべく距離を取ったと同時にマシュとキャスターもまた背中を合わせる。遂にその時がやってきた。

「宝具────」

拘束する襤褸がちぎれ、朱い腕が露出する。悪魔シャイターンの腕が獲物を求めて飛び掛かる。

妄想心音(ザバー・ニーヤ)──!」

魔腕が煉獄を駆け巡る。狙いは円卓携えし戦乙女!心臓を破壊する必殺の一撃で勝負を決めにかかる。同刻、ランサーもまた首を狙って薙刀を走らせる。

「今だ!」

背中合わせで入れ替わる。呪いはキャスターの領分。物理はシールダーの領分。維持された分水嶺を崩す要因は、皮肉にも彼らが自らの”技”に賭けたが故に起きてしまった。

「”あん時”は世話になったな。だがもう、同じ手は喰らわねぇよ!来い、右手!!」

心臓へと伸ばす手に、燃え盛る木の腕が邪魔をする。否、握りつぶす。魔腕を破壊する破魔の腕。

「な、にぃっーーーー」

「宝具限定使用──”矮小幻想(スケールダウン)灼き尽くす焔の腕(ウィッカーマン)”!」

地面から伸び生える木々の腕。勝利を謳うように拳を突きあげ、握り込んだ腕と、それを根本たるアサシン諸共地面に叩きつけ、泥に塗れた霊核を破壊する。手慣れのアサシンも不意を打たれれば不覚を取るのだ。

 

この決着数秒前に、もう二つの影が火花を散らしていた。大盾が槍の直撃を防ぐ。相殺しきれぬ威力が双方に跳ね返り、得物が上に衝撃を逃がす。どちらも後方へと転びそうになる。

「はぁぁぁーーーーー!!」

後退する足を強引に地面に縫い付ける。そこに全力を込めて態勢をキープする。それは向こうとて同じ。両者一斉に、がら空きになった胴へ武器を振り抜く。

全ては同時。《速度》も同じ。ならば着弾も同じ。これは双方相打ちという結末を意味する。サーヴァントは死者であり、デミ・サーヴァントは生者である。同じ死という結果によって支払う代償は、しかしマシュに大きく傾いている。

その運命を覆すには、他者の介入無くては意味がない。

礼装が起動する。縫い込まれた魔術の励起。行使された力は《瞬間強化》。

突きだす盾の速度が倍加する。あの時大勢の骸に向けられた暴力が、此度はたった一人に向けて放たれる。

「これで──終わりにします……!」

──確かな感触があった。肉を貫く気持ちの悪い感触と、そのあとに悟る吐き気を催す泥の手触りが。マシュ・キリエライトが初めて感じる勝ちの実感。

「────見事!」

全てが互角であるのなら、あとは気合と協力者の有無が勝敗を決定する。どぷんと泥へ変える音がする。首筋に刃はせまり、残念ながら少女の命を穿つには後刹那が足りなかった。あるいは、どちらも武人を称賛するという人の矜持を、泥に犯されながらも持ち続けたが故に勝利であったか。

「……なんと勝利です」

敵の消滅を見届け、初めての強者を乗り越えたマシュはようやく深呼吸をした。炎上する都市の空気もそれ以上に白熱した戦いの後では涼しいものでしかない。

「それより、二度に渡り助けていただきありがとうございます!キャスターさん!」

「おう、お疲れさん。そんなの礼にも及ばねぇよ、盾の嬢ちゃん。もっと自信を持った方がいいぜ?筋も悪くねぇし、なよなよしているのがもったいないってもんだ」

勝利の宴とはいかず、代わりに会話に花を咲かせる。一方でオルガマリーと藤丸は突如現れた味方に困惑している。やれセクハラオヤジだの、味方かもしれないだの。

「でもキャスターさんも凄い方です。先ほどのはルーン魔術ですよね!?あと最初に助けてもらった時の光の剣もサーヴァントの能力なのでしょうか?」

彼女の奥底に眠る知的好奇心と、信頼できる大人の登場により感情の栓が揺らいで色々と話をする。話題の一つで登場した一度目の話題に対してキャスターは先ほどの顔を一変させて冷静に告げた。

「光の剣?待てよ嬢ちゃん。お前さんがさっきから言ってる一度目っていつだ?俺は最初にアサシン、ランサーに横やりを入れた時だと勝手に思っていたが──その話しぶりじゃ違うようだな」

「え────」

緊張が再び場を支配する。全く想定の無かった回答でマシュは面食らう。

「この特異点にいるのは俺を含めて七騎だ。キャスター、ライダー、アサシン、ランサー、バーサーカー、アーチャー。そしてセイバー。アサシンとランサーは先ほど倒したから残るのは俺を含めて5基。だがその中に、光り輝く剣は知らねぇよ。厳密には知っているんだが……そいつらはお前さんたちを助けるのではなく、むしろ殺そうとするだろう。まさかとは思うが──いるのか?八騎目。あるいは、抑止力から派遣されたこの袋小路の解決者がよ」

通常、聖杯戦争において八騎が召喚されることはまずない。聖杯戦争の仕組みが著しく崩壊するような、致命的なバグでも起きない限りは。そして、 この致命的なバグを解決するのは基本的には裁定者のクラス──ルーラーの仕事だ。しかし、ルーラーは解決者故にどの陣営に肩入れすることもなく、問題のみを解決するために動く。既にルーラーが召喚されたとして、おそらく最もこの特異点の解決者側たるキャスターと接触が無いのは些かな変な話である。とはいえ、これはおそらくキャスターも含めて誰も知らぬ仕様だ。

「仮説を訂正する必要があるみたいね」

薄ら寒いものを感じ出した会話にオルガマリーが割って入る。

「私も最初、この惨状を見て抑止力が持つ現象の行使──サーヴァントの派遣が無いと思ったわ。憶測で物を言いたくはないけれど……キャスター(貴方)、特異点成立前から召喚されているタイプでしょ?」

「お。話の分かるやつがいるじゃねぇか。正解、その通りだよ。前後の記憶が曖昧なのは許してほしいが、俺は別のクラスのサーヴァントとして召喚され、今とは別のメンツで聖杯戦争をしていた。具体的には、俺は元ランサーだ。少なくともライダー、バーサーカー、セイバー、そしてアーチャーも同じメンツだったな。他は確証が持てん。で、気が付いたら一夜で人は消えてサーヴァントとあの骨共が跋扈する地獄に切り替わっていた。そしてたらセイバーの野郎が聖杯戦争を再開して、俺除いたサーヴァントを倒した。まあアーチャーは倒したっていうか、従えたって感じだがな。元からアイツの信奉者みてぇな野郎だから倒されること無く自ら汚染されたんだろうよ。今の俺はキャスターだが、正直霊基もごっちゃごちゃしていてランサーとして一部スキルも引き継いじまっている。運がいいのか、水を得た魚の如く暴れまわるセイバーやアーチャーと引き分けながら、今まで過ごすことができたってわけだ」

キャスターになったせいで槍じゃなくて杖を使わなくちゃならねぇよ!と悔しそうに語るキャスター。ほどなくしてカルデアの通信が再開し、現状把握が進む。とりあえず、セイバーの打倒で話がまとまった。聖杯戦争の終結が特異点の原因なら……といったところだ。目指す先は大聖杯。この冬木市が全ての聖杯戦争の起源とされる決定的な要因。冬木の御三家たるマキリ、遠坂、そして第三魔法の使い手アインツベルンが作り上げた根源への扉が眠る地下空洞。

「道すがら八騎目のサーヴァントも捜索しましょう。抑止力から派遣された存在であれば、私達カルデアの協力者になってくれるはずです」

オルガマリーの言葉で方針が定まった。

「とりあえず、大聖杯の入口に向かわなくちゃいけないんだがな、あの橋が鬼門だ」

キャスターが指を指す。川に跨る鉄の端。炎に包まれてもなお、剝がれることも無い鋼鉄の人工物。

「ノーガードで行くとあの橋を守るアーチャーにハチの巣にされる。俺は生まれつき飛び道具が通じないからある程度自由に出入りできるが……流石にねーちゃんとマスターを守りながら突破するのは至難の業だ。近接戦が十八番が癖に、狙撃の腕も確かなもんだ」

と語る。タイマンであれば負ける気はしないが、防戦を前提にされると質が悪いらしい。

「近接戦が十八番のアーチャー、とは……」

「坊主もそう思うだろう?元からいけ好かねぇ野郎だが、汚染されてからはより顕著だ。あ、そうだ。さっきから汚染されているっつーが、なんでか知らんがココの大聖杯は汚染されていてな。その聖杯の魔力を浴びると性質が、悪になる──って言うのは語弊があるがわかりやすさ重視で良い。とにかく面倒くさくなるんだよ。おまけに聖杯と繋がるせいで魔力使い放題だ」

バーサーカーなんて無暗に手を出さないなら動くつもりもねぇし脅威じゃねぇよと付け加える。今は石化の魔眼を使うライダーと、橋の門番たるアーチャーが当面の脅威になる。ライダーをこちらから捕捉するのは難しいのでとりあえず向こう岸に渡ることになった。そんな移動中に藤丸がふと話題を振る。

「マシュを助けてくれたサーヴァントってどんな人だったの?俺、石化途中で良く見えてなかったんだ」

「はい、そうですね……」

彼にそう言われ思案する。けれど脳裏に浮かぶは一瞬だけ輝いて見えた光の束と、逃げろと言う声だけ。しかも不思議なことに声が記憶に残っていない。ただ、言われたと言う事実が残るのみ。

「記憶にも残っていないんだ……。となるとヒントは光の剣だけ?なんかそれっぽいサーヴァントとかいるのかなぁ」

「一応一部のサーヴァントには自身の真名を隠す能力を持つものもいる、と考えられています。サーヴァントは人類史に名を遺した英雄の影法師ですから、例えば名を偽ってバレなかった、変装によって姿を偽装した、等の逸話を持つ英霊であればそれを宝具やスキルとして使用できるという可能性もあると思います。今回は声を偽装したことのあるサーヴァントになるのでしょうか?キャスターさんはどう思いますか?」

「そうさねぇ……。今俺らが倒す必要のあるアーチャーの真名は考察するだけ無駄だろうってのは間違いない。アイツに関しては考えても無駄だからな。光の剣ってのもヒントが少なすぎる。聖剣、魔剣、妖剣。セイバーのクラスなら、”そういう宝具”を持つ奴なんてごまんといる。大聖杯を守るセイバーも変色しているが──聖剣の担い手だからな。最もアイツが放つのは変色前はいざ知らず、今は黒色の斬撃だ。話的に黒ってよりは黄金、黄色の類だろ?」

そうです!と肯定される。

「なら間違いなく俺の知っているセイバーじゃねぇな。この特異点によるカウンターで変色前のセイバーが召喚された可能性に賭けるのが良いかもな!ってかそんなんだったらもっと早い段階で合流できているはずだろうさ。そんなことより、着いたぜ?」

目の前には向こう岸へと渡る道。周囲を取り囲む赤の鋼鉄。アーチャーが守る冬木大橋へとやってきた。マシュが盾を構え、キャスターがルーン魔術を用いて警戒をする。その二人に守られるように藤丸とオルガマリーが後ろを歩く。おっかなびっくり慎重に進む4人。ちょうど橋の真ん中に差し掛かった頃に。

「マシュ、盾を構えろ!!」

キャスターが叫んだ。とっさに掲げられた大盾に亜音速の一撃が炸裂する。

「ついにお出ましだよ。どこにでもいる嫌味な野郎だ。特にこの召喚においては、最悪の出会いだぜ。おお、気味が悪いってェの!」

キャスターが睨む視線の先には、男がいる。

赤の聖骸布を纏い、剣を射出するもの。クラスはアーチャー。錬鉄の英霊。爛れた正義の代行者の姿は黒く、赤く、そして邪悪の泥に染まっていた。

チカチカと点滅する赤の光。それがそのまま、こちらに向かってやってくる。亜音速で放たれる剣の矢。全て、マスターである藤丸を狙って放たれたもの。

「守りますっ!」

必殺の矢をどうにか弾く。その度に腕に激痛が走る。盾は砕けぬが着弾による影響は免れない。それはただ、矢を射るよりも恐ろしい破壊力を生んでいた。《壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)》。宝具に宿る魔力を暴走させ、宝具の自壊を条件に絶大な威力を発揮する禁じ手。錬鉄の英霊は己が魔術故に壊れる度に宝具を作り直し、ただ一方的に敵を屠ることを可能としていた。

「マスター、最低限お前だけ飛んでくる矢はどうにかしてやる。だからマシュとねーちゃんと共に走り抜けろっ!ここだけはあいつの独壇場だッ!」

魔術師の声と共に走り出す。前方で盾を構える彼女の背に隠れながら、全速力で。

その挑戦に応えるかの如く矢は数を増して歓迎する。雨あられの如く降り注ぐ剣に一撃でもあたってはいけない。極度の集中の中で強行突破を試みる。

「マシュ……っ!」

向こう岸まであと二十メートルという時に、弾幕は止んだ。

「……向こうは、諦めたってこと?残りは目の前の骸骨に任せる感じ?」

心配そうに話す所長。いいや、と返す魔術師。実際目の前には大量の狂骨共が行く手を塞いでいるわけだが──。

「──別に俺も詳しいわけじゃねぇよ。さっきから知っているかのように話しているが、実感のない記憶が6割だ。この特異点に切り替わってから、必要な情報だと言わんばかりに今の俺が体験したことのないモンがインストールされて頭から離れなくなった。大方、並行世界で起きた似たような聖杯戦争の中での記憶だろうよ。妙な既視感があるわけだ。コイツはあくまで遠めに見ていただけのモンだが──。最悪だな」

言うが早いか、地面に手を付け地面にルーンを刻む。焼き付いた印が輝くが先か、あるいは同時か。常人の反応速度を上回る必殺軌道が、音もなく飛翔してきた。刻まれたルーンは壁の言霊。不透明の壁が不意の狙撃を防ぐ。

「坊主──お前はセイバーがいたからいいけどよ……こっちは聖剣使いがいないどころか敵に回ってンだわ……!」

坊主、とはおそらくここにいる藤丸のことではないのだろう。クランの猛犬が回顧するのはずっと昔のように感じる偽りの輪廻の記憶。

奥歯をギリリと噛む。《矢避けの加護》はあくまで自分専用。周囲三人を守る手段はこうして動きを止めて防御に徹するしかない。逃げを捨てての《要塞建築》。待ちの姿勢はそれ即ち反撃を他者に任せることを意味していた。しかし──長距離射程という絶対のリーチ差を埋める手段をこちらは持っていない。このゲームは最初から勝利条件を付与されていない。

繋ぐ第二射も辛うじてマシュが防ぐ。彼女が肺がつぶれそうになるのを懸命に耐えている。目の焦点を取り戻すのに10秒も使ってしまった。

──キャスターが最悪だと言ったのはここからだ。自身が使用した防御のルーンは一撃で砕け、再使用にも隙がある。質に重きを置いた射撃でマシュの防御も理解した。情報と時間に差が開いた。つまり、次の一射でアーチャーは決め切れてしまえる。それを可能にする技術と宝具を、あの弓兵は持っているのだから。

──静寂が場を支配している。片方は勝利を確信し、片方は──より正確にはたった一人だけが最悪の現実を直視している。

相対する弓のサーヴァントが選んだのは《赤原猟犬(フルンディング)》。一度放たれれば幾度弾こうとも決して撃ち漏らすことなく追尾し続ける魔剣。外す事無しと謳われる一射必中をさらに高める宝具。

《鷹の瞳孔》が開く。限界まで引き絞られた弦が発射の時を待つ。いつぞやの4日間では令呪と跳躍するセイバーを相手取ったが故に敗北したが、キャスターの言う通りここに”彼女”と”彼”はいない。カウンターなど、ありえるはずもない。

10秒、魔力を込める。

20秒、さらに魔力を込める。魔力が枯渇する。

30秒、大聖杯から大量を魔力をくみ上げて片っ端からたたき込む。

全てが決着する40秒。対策なし、防御不可能、全てを破壊する鏃が放たれる。

大気を破壊するソニックブーム。音速を超えた暴力が疾駆する。音すら発さぬ、空気を切り裂く赤の剣。

41秒時点で盾の防御を抜き、マスターに死を与える。着弾と共に生じる爆発は弓兵の勝利を証明する勝鬨を上げるだろう。

──41秒。盾をすり抜け、力を持たぬ人間に打ち込まれる。

訂正40.5秒──。

魔剣は、聖剣の光帯を前に砕け散った。

視界を染め上がる黄金の輝き。どこか遠くで吠える獅子の叫び。全ては一瞬の奇跡。けれど、その一瞬の奇跡が絶体絶命を破壊した。

「遅くなって悪かった。ライダーを倒すのに手こずってしまったんだ」

泥に塗れぬ外套が翻る。金色の髪が宙を泳ぐ。発射から40.5秒前に行使された光の帯はもはや跡形もなく消え去っている。

「サーヴァント──クラスは《先導者(ナビゲーター)》。君がカルデアのマスターと、サーヴァントだね?」

第八騎目のサーヴァント。抑止の輪より来たりし人理の守人。《先導者(ナビゲーター)》のクラスを持つ隻眼の青年は、この瞬間、この膠着した世界を動かすために確かに表れた。




好きなキャラは白レンです。本当に嬉しくて発表日は仕事帰りでしたが、ずっと泣いてました。本当に生きててよかった……!白レン大好き!!!

そんな感じでぼちぼち書いていきます。基本的に第一部の展開をなぞりながら……って感じです。

あと、FGO本編を読み返して抱く違和感があれば大事にしてください。場合によっちゃオリジナルサーヴァントも出るかもしれませんね……。
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