魔女の本懐   作:羽国

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おうちを建てよう 後編

 設計者と大工に分かれて家を建てるこのゲーム。難しさを実感として共有していないと途中で詰んでしまう。

 設計者の九條さんがそこまでわかってくれてるといいけど。

 

「今回は設計者が緋真ちゃん。大工1が慎平君。大工2が瑠愛ちゃん。大工3がリナちゃんです。それじゃあ始めてください」

 琴羽さんがタイマーをスタートした。

 

「『木』を持ってる人は手を上げてください」

 設計者が話すことができる唯一の時間、情報交換フェイズ。九條さんは質問をした。

 

「俺は2枚持っています」

「はい、僕も僕も。1枚持ってます」

 俺と瑠愛さんが手を上げる。最初は持っているカードを把握する方針らしい。堅実だ。

 

「では、『鉄』を持っている人は?」

『私が2枚所持しています』

 今度はリナさんが手を上げた。俺は持っていないし瑠愛さんも同様のようだ。

 

「ふむ、では隊長。『床』か『壁』のカードを持っていますか?」

「どっちも持っています」

 

「それと……宵宮さん。あなたも『床』か『壁』を持っていますか?」

 言いにくそうに瑠愛さんに聞く九條さん。

 

「『壁』は持ってますよ」

 それを気にせず元気に答える瑠愛さん。何かあるのだろうか?

 

「わかりました。次にリナさんは『柱』か『屋根』を持っていますか?」

『両方とも持っています』

 

「わかりました。これで最初の1巡の方針が決定です」

 九條さんが仕様書を見ながら顔を上げた。

 

「隊長は『木の床』の建築をお願いします」

 最初に見たのは俺の顔。まっすぐに目を見てそう言った。

 

「宵宮さん、あなたは『木の壁』を建築してください」

 一瞬目を閉じて今度は瑠愛さんの方を見る。若干目を伏せながら。

 

「わっかりましたー」

 そんな九條さんを気に留めることなく瑠愛さんは手を上げて返事をした。

 

「最後にリナさん。あなたは『鉄の柱』か『鉄の屋根』を建築してください。

 どちらでも構いません。できてない方を2巡目にやってもらうので」

 

『承知しました』

 瑠愛さんのときと同じ。九條さんは若干ぎこちない感じでリナさんに話す。

 しかし、リナさんは意に介していないようだ。

 

「1巡目の手番はこれで問題ありません。残りの時間は持っているカードの把握に使います。隊長から順番にお願いします」

「……材料は『木』が2枚、『プラスチック』が1枚。建築は『床』、『柱』、『壁』が1枚ずつ」

 

「宵宮さんとリナさんは?」

「材料は『木』が1枚、『ガラス』が2枚。建築は『柱』が1枚、『壁』が2枚ですよ」

『私は『鉄』が2枚、『プラスチック』が1枚。建築は『柱』が1枚、『屋根』が2枚です』

 

 九條さんの進め方は悪くない。時間制限があるし建築優先で行動を確定させるのは堅実な手だ。

 今回は配られたカードにも恵まれていた。

 

「琴羽さん、大工が動く順番は固定ですか?」

「はい、固定ですよ。大工1から順番に。今回だと慎平君、瑠愛ちゃん、リナちゃんの順番ですね」

 琴羽さんは九條さんの質問に笑顔で答える。相変わらず面白がるような瞳をしている。

 

「それだと隊長は2巡目でできる建築はありませんね。『木』か『壁』を配らないといけない」

「ん?『プラスチック』と『柱』は残しておかないといけないんですか?2巡目で建築できる組み合わせはないんですよね?」

 それだと矛盾しているように思える。

 

「この建築、1階と2階で分かれています。2階は1階の建築が全部終わらないと建築できないようです」

「……なんて面倒な」

 どんどんとゲームの難しさが見えてくる。このゲームを作った人、かなりハードルを高く設定している。

 

「1階がさっき確認した四つということですか?」

「その通りです。『木の床』『鉄の柱』『木の壁』『鉄の屋根』の四つ。これらは交換なしで建築できます」

 それは運がいい。となると、後の問題は——順番か。

 

「2巡目は最後のリナさんしか建築できないのか」

 リナさんは必要な組み合わせを持っている。リナさんからカードを動かすのは得策ではない。

 となると俺と瑠愛さんはカードの受け渡し。どのカードを誰に渡すか慎重に考えないと。

 

「俺と瑠愛さんが誰に何を渡すか決めないといけません」

「そうですね、建築できる組み合わせをなるべく集めないと」

 九條さんの言葉から嫌な予感がする。建築の組み合わせだ(・)け(・)を考えていないだろうか?

 

「九條さん、3巡目で何を建築しようとしているか教えてもらえませんか?」

「構いませんが……。隊長、どうしてそこまで焦っているのですか?まだ1巡目でしょう?」

 九條さんは俺に不審な目を向けている。

 

「このゲーム、大事なのはカードの組み合わせだけじゃないんです。全体の工程を考えないと——」

「はい、タイムアップです。設計者の緋真ちゃんはそれ以上喋っちゃダメですよ~」

 

 琴羽さんの持っていたタイマーから電子音が響く。九條さんは黙って一歩引いた。

 幸い、1巡目の行動は決まっている。

 

「それでは大工さんは行動を始めてください」

 予定通り、俺が『木の床』、瑠愛さんが『木の壁』、リナさんが『鉄の柱』を建設して1巡目は終了した。

 ここまでは完璧だ。でも、ここから難易度が跳ねあがるぞ。

 

♦♦♦

 

「さあ、ゲームが楽しくなってくる2巡目ですよ~。緋真ちゃんのお口チャックを開いて、スタート!」

 琴羽さんは2回目のタイマーをスタートした。

 

「隊長、さっきの続きですが全体の工程とはどういうことでしょうか?」

「このゲームは目先の組み合わせを優先しているとむしろ詰んでしまいます。カードの枚数や大工の行動順も含めてカードを渡さないといけないんです」

 

「……最後の手番のリナさんにカードを固めると、隊長が動けなくなって詰んでしまう?」

「その通りです」

 

 ババ抜きと同じような感覚でいると詰んでしまう。それがこのゲームのトラップだ。

 かなり高度な段取りと対話のゲーム。それが『おうちを建てよう』の正体だ。

 

「そうなると2巡目で建築をしているリナさんにカードを集めた方がいいということですか?」

「いえ、リナさんは最後の手番です。カードがなくなったとしても、ゲームオーバーまでにクリアすればいい。1組分のカードが少ないのは大した問題じゃありません」

「では何を警戒しているんですか?」

 九條さんの顔に再び疑問の色が出る。ここが正念場だ。

 

「カードを渡すということはバランスが崩れます。材料か建築、どちらかしか渡せません。一度渡したら、カードを貰うかさらに渡すかで帳尻を合わせるのが基本なんです」

 

 例えばこの状況で俺が誰かに材料カードを渡すとする。すると、材料カードが1枚、建築カードが2枚になる。

 こうなると誰かから材料カードを貰うか建築カードを渡して枚数を揃えなきゃいけない。

 

「……なるほど、理解しました。つまり、隊長は帳尻合わせの方を懸念しているのですね」

「その通りです」

「ご指摘ありがとうございます」

 

 九條さんは頭を下げた。時間を食ってしまったが、それだけの価値はあった。

 ゲームの本質を理解してもらうことができた。

 

 2巡目の大枠は決まっている。これならまだなんとかなる。

 

『お二つとも、お話は終わりましたか?』

「すみません、放置してしまって」

 

 リナさんに肩を叩かれる。振り返ると瑠愛さんも少し不満げな様子だ。

 必要なことはいえ、かなりの時間放置してしまった。

 

『それは構いませんが、もう半分を切っていますよ』

 リナさんがキッチンタイマーを見せつける。タイマーは残り4分半。

 かなりピンチだ。

 

「リナさん時間を計ってくれてたんですね」

 琴羽さんがタイマーで計っているけど残り時間はわからない。それがわかるのはありがたい。

 

『魔術とメモは禁止です。しかし、タイマーの使用禁止は言われていません』

 自発的にタイムキーパーをしてくれていたようだ。頼りになる。

 

「九條さん、俺と瑠愛さんが何を誰に渡したらいいか決めましょう」

「わかりました。隊長は『プラスチック』と『壁』を2階で使います。なので、残り2枚のどちらかを渡さないといけません」

 

「だったら3巡目の俺の行動は固定されています。俺が渡した相手の手札で建築の組み合わせができていれば大丈夫。この状況ならどっちに渡しても枚数的に大差ありません」

「確か隊長はもう1枚『木』を持っていたんですよね?だったら『屋根』持っている方に渡してください」

『ならば私ですね。私が佐伯さんから『木』のカードを受け取ります』

 

 リナさんが手を上げた。時間をくってしまったこの状況だといいカバーだ。

 これで俺の動きが一気に決まる。残りは瑠愛さん。

 

「ええと、それで僕は何をすればいいの?」

 ここで九條さんとばかり話していた弊害が出る。瑠愛さんがゲームの基本的な動きを把握できていない。

 

「瑠愛さんが今持っているカードは何だった?」

「ええと、残りは『ガラス』が2枚。『柱』と『壁』が1枚ずつ」

 瑠愛さんはかなり混乱している。何を残して何を渡すか把握できていない。

 

「九條さん、残しておきたい組み合わせはありますか?」

 なるべく単純化しないといけない。瑠愛さんがミスをしないように。

 

「『ガラス』と『柱』です。残りの中だとガラスを——」

「はい、そこまで。情報交換終了で~す。緋真ちゃんのかわいい声はお預け~」

 琴羽さんが終了を宣言した。

 

 前回と違って今回は指示の途中。これは痛い。

 

 俺は『木』をリナさんに渡す。リナさんは『鉄の屋根』を建築する。

 ここまでは決まっている。

 

 でも瑠愛さんは未確定だ。『ガラス』をどっちに渡すか決まっていない。

 

「ええと、慎平さんどうしよう?」

「……俺に『ガラス』を渡してくれ」

 おそらくそれが最善手だ。

 

『どういった根拠でしょうか?』

 瑠愛さんの代わりにリナさんが問う。おそらく、瑠愛さんと違ってゲームを把握しているんだろう。

 

「九條さんはカードを偏らせてはいけないと把握しているはずです。それで『ガラス』を動かすというのなら、材料が少なくなっている俺の方になるはずだ」

『だから、私と佐伯さんの2択ならば佐伯さんの方だと?』

「はい」

 

 リナさんは既に俺から『木』を貰うのが決まっている。リナさんが材料カードを貰うとカードが偏る。

 リナさんが最後の手番だからカードを集中させようってこともない筈。

 

「とりあえず、僕は慎平さんに『ガラス』を渡せばいいんだよね?」

「それで大丈夫」

 

 心配そうに見つめる瑠愛さんに虚勢を張ってうなずいた。

 多分そうだろうという自信はある。でも、不安は拭えない。

 

 大丈夫だ。カードを渡す回数は全員まだまだ残っている。

 リカバリーはできるはずだ。

 

 2巡目は不安を抱えたまま行動した。

 

♦♦♦

 

「それではゲームもそろそろ佳境。3巡目、スタート!」

 再び琴羽さんが開始を宣言した。固唾を飲んで九條さんの顔を見つめる。

 

「どうですか、九條さん」

「隊長のおっしゃる通りです。フォローいただきありがとうございました」

 九條さんは俺に頭を下げる。その様子を見て俺はほっと胸をなでおろした。

 

『ならば残りは仕様書を見なくてもわかります。佐伯さんの手元に2組、瑠愛さんと私の手元に1組ずつ建築の組み合わせが揃っているので』

 リナさんはかなり先まで見えている。俺も完全に同意だ。

 

「そうですね。俺の手札は全部使って『プラスチックの壁』と『ガラスの柱』を建築するだけ。あとは瑠愛さんが『ガラスの柱』、リナさんが『木の屋根』を建築するんですね?」

『おっしゃるとおりです』

 

「となると瑠愛さんは建築カード、リナさんは材料カードが余っているので——」

『余った私の『プラスチック』を次の手番で瑠愛さんに渡したら、4巡目で全員が建築して丁度終了です』

 これで恐らくゲームクリアだ。

 

「……リナさんの言う通りです。2階は『プラスチックの壁』が二つ、ガラスの柱が二つ、『木の屋根』が1つ。それで仕様書通りの家ができます」

 九條さんも太鼓判を押した。その言葉はどこか悔しそうだった。

 

『それでは手早く終わらせてしまいましょうか』

 そこから3巡目と4巡目はリナさんの言葉通りに行動をした。やることが単純すぎてもう間違えようがない。

 そうして俺たちはゲームをクリアした。

 

♦♦♦

 

「おめでとうございます!一発クリアできるだなんて思ってなかったですよ~」

 琴羽さんが大きな拍手で褒め称えてくれる。なんだか、運動会のリレーで1位になった気分だ。

 

「葵ちゃんナチュラルに鬼畜ゲー作りますからね~。2回か3回は遊ぶつもりだったんですけど」

「琴羽さん、なかなか厳しいですね」

 

 今回クリアできたのは運が良かった。最初の手札が良かったし、九條さんの理解が早かった。

 そうでなかったら初回クリアは無理だっただろう。

 

「琴羽さん、このゲームを通して私に伝えたいことが?」

「……そこまで大したことを考えてたわけじゃないんですけどね。緋真ちゃん、二つのこと軽く見てたでしょう?」

 

「…………」

 九條さんは黙っている。しかし、それが肯定の沈黙だと一目瞭然だ。

 

「慎平君がフォローしてくれなかったらゲームオーバーになっちゃってた。瑠愛ちゃんやリナちゃんとおしゃべりすることを避けてた。違いますか?」

「おっしゃる通りです」

 琴羽さんは厳しく追及する。九條さんは重々しい口調でそれを認める。

 

「緋真ちゃんだけの問題じゃありません。慎平君、瑠愛ちゃんが蚊帳の外って気づいていたでしょう?」

「はい、九條さんの理解が先だと思ってしまいました」

 

「それが悪いとは言いませんけど、途中ピンチになってましたよね?」

「その通りです」

 九條さんとの会話に集中して情報交換の途中でタイムアップしてしまった。リナさんがタイムキーパーをしていなかったら、あんなに上手く行かなかっただろう。

 

「瑠愛ちゃん、難しいことはリナちゃんにぜ~んぶ丸投げしているでしょう?今回も割って入るのが面倒くさくなって、リナちゃんに任せたんじゃないですか?」

「ええと、その……はい」

 瑠愛さんは気まずそうに答える。図星のようだ。

 

「リナちゃんも瑠愛ちゃんの実力の一部。それは否定しません。でも、嫌いなことから全部逃げちゃダメですよ」

「わかりました」

 瑠愛さんは怒られた子供のように返事した。

 

「自分の身体を思った通りに動かすのは簡単です。でもこれがチームになると難しさが別物になっちゃいます。

 それを生き死にの世界じゃないところで知って欲しかったんです。回りくどいことしてごめんなさいね」

 

「いいえ、ありがとうございます琴羽さん」

『ありがとうございます』

 九條さんに引き続き、俺たちも頭を下げた。

 

「君たち全員私よりずっと強くなれる素質を持った魔術師です。隣の子と切磋琢磨しながら立派に成長してくださいね」

 琴羽さんはわざとらしくそう締めた。

 嫌われ役だってわかってるのに。いい人だな。

 

「さてさて、チームワークの大事さがわかったと思うので、これからしばらく葵ちゃんのコレクションをやってもらいますよ~。

 残りは14個。全部クリアするまで次には進みませんからね」

 

「え?」

「それは……」

「大変だ~」

『本当に厳しいお方ですね』

 

 宣言通りに15種類全部やらされた。クリアするのに1週間ちょっとかかった。

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