『スタァ――――トッ!!!!』
――グポーーーン!
そんな間抜けな音とともにレースの火ぶたが切られた。
合図と同時にスロットルを押し込み、Gシリウスのブースターを一気に全開まで上げる。
「――ッ!」
本当なら感じるはずもない加速感とともに、白い機体がスタートラインから飛び出した。
周囲でも、ほぼ同時に何十機ものガンプラが一斉に走り出す。
どうやら出遅れずに済んだみたい。
念のため、位置をレーダーで確認すると、私はどうやら先頭集団の後方にいるようだった。
(よし、とりあえずスタート上々って感じ、アスカは……)
周囲を確認するとアスカも少し後方から追ってきていた。
どうやら出遅れてしまったようだ。
『出遅れちゃったぁぁぁぁあ!おひげのカートだとミスったことないのに!』
――通信じゃないな……。
隣のバトルシステムから直接聞こえてきた。
(ふふ、アスカらしいっちゃらしいな)
思わず笑ってしまった。
時を同じくして、近くのバトルシステムから別の絶叫が聞こえた。
『何故だぁぁぁぁっっっ!何故動かんっっっ!』
『安全装置が作動しています。最大出力設定のまま起動したから!』
『何故止めた、マイト!』
『止めたのは機体側です!設定を規定値まで戻してください!』
後ろを確認する。
ヅダの人は――出遅れたというより、まだスタート地点から動いていなかった。
(……変なもの見ちゃったな。とりあえず、この位置で前方集団の出方を見るか・・・。)
そんなことを考えながら建物が立ち並ぶエリアに入る。
ここは通常の市街地フィールドよりも、建物が高層かつ密集しており、かなり狭いエリアだ。
(多分グフの人とかはここでかなり前に出るはず……居た!けどかなり速い!)
前方を見るとやはりビルをうまく躱し進んでいくグフカスタムが見えた。
そんな時だった。
『こんなの飛んで越えちまえば楽勝だぜ!ヒャッハー!』
そんな声が聞こえ、何機かが地形より上空を飛んでいくことにしたようだった。
(先頭のあれは、多分アッシマーベースかな?忘れてるようだしご愁傷様……)
次の瞬間。
|上空へ飛び出した機体群へ、四方からビームが殺到した。 《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》
『嘘だろろろろろぉぉぉぉ!』
一機。
二機。
次々と火球になって落ちていく。
(やっぱり……)
そこでは――
複数機のバイアラン・カスタムが獲物を狙うカラスのように旋回していた。
レース前、ミネハから聞いた説明が頭をよぎる。
『第一区画はトリントン基地をモデルにしてるらしいです!一応どこを通ってもいいんですけど、あんまり高く飛ぶと――確か、ばいあらん?って機体に攻撃されちゃうらしいですよ』
あの時は随分物騒なギミックだと思ったけど。
(いやいや! やりすぎでしょ……!)
そう思ったのもつかの間、アッシマーの撃墜をみて急いで下降しようとする機体たちを狙ったビームやミサイルの流れ弾が飛んでくる。
(くっ……!危ないじゃない!)
機体を左右へ不規則に振り、飛来する火線を躱しながら前へ出る。
後方で爆発するのを確認しつつ一応アスカの様子も確認しようとすると。
『ぎゃぁぁぁぁぁ!今度は何!何なの!!!』
案の定横から巻き込まれたであろうアスカの悲鳴が聞こえた。
(あーあ、やっぱりか……)
ただ凄いのは、アスカ自身も無茶苦茶な動きをしながらも一応被弾せず着実に前に出てきていたところだった。
やっぱりアスカには操縦の才能があるみたいだ。
(やっぱりアスカは凄い、こっちもうかうかしてらんないな!)
私自身気づかないうちにワクワクしてきていたのか不思議と口角が上がっていた。
◇
どうにか建物のエリアを抜けると今度は森林のエリアに入ったようだ。
巨木が何本も立ち並び、一本一本がモビルスーツを簡単に覆い隠せそうな太さをしている。
おまけに暗いしコースを知らなかったら迷ってしまいそう。
先ほどとは違い、上空を飛んでいくこと自体も難しそうだ。
(確か第二区画は森林だったな、ここのギミックは確か……。)
そんな時、横から銃撃が飛んでくる。
ミネハの説明を思い出す。
『第二区画は森林のエリアです!ここは08小隊?とかジャブロー?をモデルにしているとのことで、森林の戦場を駆け抜けるコンセプトらしいです!なので、レーダー精度が落ちたり倒木やぬかるみがあったり、時折流れ弾も飛んでくるんだとか』
(聞いてはいたけど、かなり凄いな。)
そんな感想を抱きつつ横から飛んできたシュツルムファウストを避けようとする。
そこにネモが抜かそうと加速してきた。
『お先に失礼!』
「あ。」
そのまま運悪く私の横を抜かそうとした他の人に直撃した。
『ぎゃぁ!』
そのまま、被弾した彼の機体が木に激突して爆散する。
(……。悪いことしちゃったな。)
心の中で合掌しつつ、加速しなおして先に進んでいく。
前方では目立った選手だとキャプテンさんとノリスケさんのグフとザクが競っているようだ。
お互い牽制攻撃を行いつつ進んでいる。
(やっぱりあの二人は早いな、地上戦に慣れているみたいだ)
そして後方も確認する。
少し遠く後方にはアスカの機体が見えた。
どうやら流れ弾がいつ飛んでくるのかわからないからか珍しく慎重な動きをしている。
(ふふ、アスカらしいな。ちなみに他はっと……。)
他の選手も流れ弾に当たったのか火を噴いていたり、すす汚れている機体がいくつも見えた。
そんな中、一体が飛び出してくる。
甲高い推進音。
「え?」
うっそうとした木々や草を突っ切って
その姿は、まるでラグビー選手の如き迫力だった。
クリスさんから通信が入る。
『レイちゃんだったよね?お先失礼!』
流れ弾が直撃しているがびくともしていない。
(なるほど直前にチョバムアーマーを着せたのか!)
Gシリウスにもチョバムアーマーを作ろうかな……なんて考えながら抜かれてしまった分を取り返そうと、私はよりスピードを上げていった。
(アスカは大丈夫かな……?)
――そんなことを思いながら。
◇
かなり進んだところで、ついに森林地帯を抜ける。
そこには、一面の荒野と大きな岩山がそびえたっている地帯に出たようだ。
『やるね!レイちゃん!でもここからは
「!まさか!」
そんな通信が聞こえた後、私はGシリウスをアレックスから離す。
次の瞬間、チョバムアーマーがはじけ中からアレックスが飛び出して加速していった。
ウェイトだったアーマーを脱いでここからが高機動型の本番といったところのようだ。
ここは確かギアナ高地のエリアだったっけ。
ミネハの説明を思い返す。
『第三区画は荒地と高地のエリアです!ここはギアナ高地をモデルにしているらしく、岩山の上や荒野の開けた場所ではライバルからの攻撃が、高い岩山地帯では迷ったりすると行き止まりで戻ることになったりしちゃうんです!ここから次のエリアへの入り口であるここの軌道エレベーターを目指す感じですよ~』
言っていた通りだ。
先ほどから近くで戦闘音が聞こえる。
後方からも複数の参加機が追ってきているようで、こちらも攻撃が始まった。
とりあえずは、いったん温存して戦闘を避けるか……。
そう思いビームシールドを展開しつつ防御や回避をしていると
《DANGER》
――なんか嫌な予感がする……!
◇
アスカは迷っていた。
森林エリアでは慎重になってしまったのか追っていたレイが見えなくなり、
ついでにコースもよくわからなくなってしまった。
「あ~、もうどうしよぉ……。」
そんな風に項垂れながら進んでいると後ろからかわいらしいシルエットが見えた。
「あ!チハちゃん!」
そこには、泥だらけになりながらもなんとかやってきたチハのチビッガイXの姿があった。
チハから通信が入る。
『あ……。アスカさん……ですよね……?』
「そうだよ!チハちゃんも迷っちゃったの?」
『うん、迷っちゃった……。これからどうしよう……。』
うーんと悩んでみるもなかなか思いつかない。
レーダーも使えないしほかの選手がどこにいるかもわからない。
気づけば
木々で気づかなかったがどうやら夜の森を進んでいたようだ。
こんな時、レイだったらどうするんだろと考えていると、ふとチビッガイの背中が目に入った。
ふとサングラスの彼のセリフがよぎった。
「!?そ、それだぁぁぁっっ!」
『……?』
アスカはチハに思いついたとっておきの作戦を伝えるのであった。
――
◇
警告音が鳴り響く。
範囲はかなり広い直線のようだ。
「何?!この範囲ってまさか!」
急いでどこか回避先を探す。
幸いにも渓谷を進んでいたようで下に川が見えた。
――ギリギリならどうにかなるか!
一か八かの賭けで急降下し川に沿って仰向けにビームシールドを構える。
警告音を無視してなのか後方が攻撃をしてくるがもう遅かった。
先ほどまで居た地点に大きなビームの閃光が走り、後方で私をねらっていた機体たちを焼き払う。
「やっぱり!サテライトキャノンか!」
対コロニー用の決戦兵器、その膨大な熱量がフィールドを一直線に貫く。
(ビームシールドとギリギリの距離だったから助かったけど危なかった……)
再浮上して先ほどの射線の部分を確認する。
貫かれた部分は一直線のトンネルを作っていったようだ。
――ここを使えばかなりショートカットになりそうだな。
そう思いトンネルをくぐっていく。
ふと後ろの方から、音が聞こえた。
見ると後ろからチビッガイをおんぶしたジウが一直線に加速してきていた。
『あ!レイ!やっと追いついたよぉ……』
『あ……どうもレイさん』
アスカとチハから通信が入る。
「なるほどっていうか、やっぱりっていうか……」
アスカらしい作戦だと思った。
『よぉし、こっから追い抜かしてみせる!って言いたいんだけど……』
『うん……。レイさんお願い。軌道エレベーターまで一緒に行こ』
なるほど、さてはこいつら迷ってたな……。
道がわからないから私についてきたいということか。
「はぁ……、まぁ一旦休戦って感じで次のチェックポイントまでね」
(別に協力禁止ってルールでもないし)
しぶしぶだが、私は彼女たちと一緒に行くことにした。
◇
「それにしても、ハマノ。なかなかいい子たちを見つけたようだな」
「……うるさいぞ大尉。奴らはただの客に過ぎん。」
「はっはっはっ、そう恥ずかしがらんでもいいだろう」
そう言いながらラルは、楽しんでいるレイやアスカを見つめる。
その瞳にはかつて、彼が見てきた何人かの姿がかぶって見えた。
(あの頃の少年たちを思い出す……いかん、感傷に浸るとはワシも歳だな)
「……おい、急に黙るんじゃない。」
「おお、すまんな。ハマノ。
しかし、あの白い機体……妙だな」
「気づいたか、大尉」
「まだ何か隠しているように見える」
「本人も知らぬものをな」
(特にあの全身のクリアパーツとバックパック……おそらくだが粒子関係のギミックか……?)
ハマノはGシリウスを見つめたのち、意識をレース全体の観覧に戻した。
「ちなみにこの月餅、なかなか美味いな。」
「はぁ……、あんまり食べ過ぎると太るぞ……大尉どの。」
◇
やっとのことでトンネルを抜けるとそこはもう軌道エレベーターの近くだった。
天高くそびえる大樹のように天に向かって伸びている。
『やっとついたぁ!やったねチハちゃん!レイ!』
『うん……!アスカちゃんもありがと。ここからは自分で行ける』
『わかった。ってああぁ。』
ジウの背中からぴょんと飛び降りリフレクターで浮遊を始めたのかふよふよ飛んでいる。
――おい、こらそこの
アスカがあからさまにがっかりしている。
そんなこんなで近づいていくと、何やら先を走っていたであろう人たちが広場に集まって何かしていた。
『どけどけ!ビーム撃ち込むぞ!』
『やっぱミサイルもダメか』
『全然崩れないんだけどッ!』
『バズーカあったよ!』
『『『でかした!!』』』
そんなことをオープン回線で騒ぎながら何かガレキに対して攻撃していた。
(一体どうしたんだろ……?)
少し離れたところでノリスケさんとクリスさんが集まって何か話しているようだった。
私たちも近づいて話を聞いてみることにした。
「クリスさん、ノリスケさん、これは一体?」
『あ、レイちゃん達も着いたのね』
『それについてはこちらを見た方が早いかもしれませんな』
そういってグフが何かを指さす。
見るとガレキに紛れて軌道エレベーター入り口と書いてあった。
近くの天井に何か大きな攻撃がかすったのだろう、
大きく崩落している部分があった。
「あー、なるほど……」
どうやらさっきのサテライトキャノンが当たり崩落、運悪く入口を塞いでしまったらしい。
『そんなわけで一時休戦、みんなでガレキを退かそうとしてんだけどかなり硬くってね』
『全然びくともせんというわけだ』
クリスさんとノリスケさんは、説明や確認係
キャプテンやカリマさんなどはガレキ撤去で色々打ち込んでいるようだ。
アスカが小声で尋ねる。
『……これってアタシたちのせい?』
「……多分」
『ごめんなさい……』
チハがチビッガイ越しでもわかるくらいしょんぼりしている。
「……事故だし。今は通れるようにする方が先でしょ」
私はそんな風に慰めつつ、どうしようか考えてみることにした。
このレースでは区画の中でも天気や時間帯がバラバラのようだ。
軌道エレベーターの近くは夕方なのか月と太陽がギリギリ両方とも見えていた。
「あ」
ふとピンと閃いた。
「チハさん、アスカさっきのを、弱めにもう一回やればいいんじゃない?」
『もっかいって、
「こんだけいろいろ打ち込んでいるのに壊せない建材を、崩落させられたってことはサテライトキャノンくらいの威力なら破壊可能なんだと思う。」
見たところ今回はレースということもあり、大質量兵器を持っている人はほかに居なかった。
『……わかった、キャプテンさんとかクリスさんたちに話してくる!』
『あ!アタシも行くよ!やっちゃったのはアタシ原因だし』
そういってアスカとチハは作戦を伝えに行った。
そんなこんなでサテライトキャノンによるガレキ撤去ということになり、
その場から離れ、アスカとチハは準備に入っていた。
(なるほど、チビッガイだと体格的に撃てないんじゃって思ったけどアスカが支えて撃ったのか……。)
やっと追いついたのか遅れていた後方集団組がやってきた。
私は事情を伝えると納得してくれたようだ。
ふと、後方集団の何機かの機体が目に入った。
(パチ組かな?結構ゲート跡が残っちゃってる……初心者かな?
そう思ったとき、なにか強烈な違和感を感じた。
(
今まで作業していた別の機体たちも目に入った。
塗装やミキシングなどされて作られてた機体たちの中に、
オーヴェロン、ザンスバイン、そして
――|どれもゲート跡が残っていたり、塗装などといった加工がされていないにもかかわらず。《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》
「……!?」
その時、今朝のアスカの話が頭をよぎった。
――「レイ、これ見てよ」
――「何?」
――「昨日からちょっとバズってるやつ」
―― SNSの画面をこちらへ向けてくる。
―― そこに映っていたものを見た瞬間、私は思わず眉を寄せた。
――「……ボルトガンダム?」
◇
「ラル大尉、気づいたか?」
「さすがに気づく、しかし発売していないはずの機体の素組とは……」
ハマノは自分が思い立った推理に思わず眉をひそめる。
「……あれは一体、
その視線の先には一体の機体が居た。
◇
『おい!動け、動けってんだよ!』
ジオによく似たオーヴェロンのアーマー形態を使っていた参加者が叫ぶ。
『オーヴェロン!何故動かん!』
動かなくなった機体を無理やり動かそうとする。
その機体の姿がどんどん歪んでいく。
装甲が垂れ、水をかけた出来の悪い絵のようになっていく。
『な!なんで……!』
周りも異常事態に気づいたのかざわめきだす。
他の未発売キットの機体たちも同じように溶けている。
機体自体は沈黙しているが腕の関節は伸び、フレームが露出し顔やアンテナは溶けた氷細工のようだ。
(なにが……起きてるの……?)
この状況に戸惑っていると一体の目がいきなり光る。
『俺!う、動かしてないのに!!!!』
――次の瞬間、何の機体だったのかもわからないくらいほど
◇
ハマノ達も最初はシステムの異常かと思っていたが、いよいよ異常事態に気づいた。
「いかん!ハマノ!」
「運営に緊急停止をかけさせろ!」
「既に動いておる!だが現場が混乱して、まだギミックと勘違いしている!今行っても追い返されるぞ!」
「チッ、一体何が起きているのだ……?」
(おそらく、擬きだけがあのような姿になっているのか……?)
ハマノ達二人はどうすることもできなかった。
◇
私は思わず叫んでいた。
「皆逃げて!!」
その声に呼応するかのように溶けてゾンビのようになったガンプラ達が襲い掛かってきた。
「くそっ!何なのこれ!」
襲い掛かってくるガンプラ擬きのボディを腕部ビームサーベルで切り裂く。
グシャっという音とともに落ちる。
(ガンプラじゃない!そうだ!アスカたちは!)
アスカたちのほうを見るとそこには異形の姿たちが集まってきてた。
地面に散らばっていた腕や脚が、半ば溶けた断面同士を押しつけるように絡み合っている。
接着したというより溶けた素材同士が、そのまま一つに融着してしまったようだった。
腕を四足のようにして歩いている。
『レイ!!!!!何なのこれキモイんだけど!!!!!助けて!!!!』
アスカが悲鳴を上げている。
(学校で虫を見かけたときの反応と一緒だ。)
ってそんなこと考えている場合じゃない。
さっきまでのガレキの撤去で試していたからなのか多くの参加者は持っていてもビームサーベルといった近接武器しか残ってないようだ。
どうにか応戦しているが……。
とりあえずアスカに近づいていた
『うわぁぁぁぁぁん、気持ち悪かったよぉぉぉぉ!』
アスカのジウがチハのチビッガイを抱え駆け寄ってくる。
『ねぇ!これって何なの?!?!』
「……私もわかんない、何が起きてんの?」
見たところ海賊版の機体だけがあんな姿になっているようだった。
「とりあえず!今はみんなを助けないと!アスカ行ける?!」
『うん!……でもやっぱ気持ち悪いね……。』
「チハさんは隠れてて!」
『わかった……!気を付けて……。』
私とアスカは化け物に向かっていった。
◇
『おい!こいつ切っても死なねぇぞ!』
『きっしょ!デビルガンダムかっつぅの!』
『ゾンビやんけ!!!!』
『これもレースの一部なのか?!』
『あかん!やられ千葉ぁッ!』
ガンタンクを使っていた男がそういって爆散する。
『『『リュウさ――――ん!!!』』』
他の参加者は、未だにレースの一部だと思っているのか、ふざけながらも応戦しているが着実に追い詰められていた。
周りの反応も薄い、おそらく運営の人もギミックと思っているようだ。
「助けに来ました!」
『大丈夫ですか?!皆さん!』
アスカと私がガンプラ擬きに割って入り応戦する。
(やっぱり正規のガンプラは破壊されたら復活してないみたい、やっぱり擬きだけか!)
『……おいこれ、本当にイベントのギミックなのか?』
今までふざけていた参加者も徐々に事態に気づき始めた。
運営もさすがに気づいたのかアナウンスがこちらに流れる。
『全参加者へ! レースを一時中断します!』
『現在、システム上の異常を確認しています! 各参加者は――』
『そんなこと言われてもこいつら止まらねぇぞ!』
そんな中、ノリスケさんのグフカスタムがヒートサーベルで擬きの首を刎ねながらこちらに通信を飛ばしてきた。
『皆の者!奴らの弱点は首というか首の付け根部分だ!破壊すると停止する!』
『了解!』
やっぱり歴戦の猛者なだけあり、キャプテンやノリスケさん、クリスさんとかが奮戦している。
『ジオン公国に栄光あれ――!!!』
カリマさんのギラズールが擬きに向かっていく。
『あかん!坊ちゃん!それはあかん!フラグやッ!』
◇
かなりの数を倒したとき、アスカが何か気づいた。
『ねぇ!レイ!一人おかしいやつがいる!』
「どこ?!」
アスカが示した先。
一機のゲム・カモフ擬きだけが、こちらへ向かってこない。
軌道エレベーターへ向かって、ひたすら走っている。
しかも――
近くの擬きが、そいつを守るようにこちらとの間へ割り込んだ。
(……違う)
(あいつだけ、目的が違う……!)
「アスカ! あいつを止める!」
急いで近づこうとするが擬きたちに阻まれてしまう。
(くそっ!あと少しなのに)
ゲム・カモフは勝ち誇ったかのようにガレキを登っていく。
(今から向かっても間に合わない!)
その時だった。
『弱点は首の付け根――聞こえていたぞ!』
青い閃光がゲム・カモフの首を刎ねる。
『待たせたな!ひよっこども!』
『あ、あれって……!』
「うそでしょ……」
そこに居たのはあのヅダだった。
(あれだけ出遅れてたのに、もう追いついた!?)
『ご無事でしたか?お二人とも』
通信越しにマイトの声が聞こえる。
『技術中尉!』
『その呼び方はやめてください、アスカさん』
「でもどうして?ヅダの加速でもここまでは……」
『これが彼の執念なんですよ……』
マイトが溜息をつく。
『それと……イズハルさん』
『何だ!』
『今の加速は、設定値を超えています。エンジンカットが間に合わなかったらどうするつもりだったんですか?』
『ひよっこどものためだ!致し方ない!』
『はぁ、そうですか……記録はしておきます』
外から声が聞こえてくる。
――すっげぇ!ヅダってあんなにかっこいいんだ!
観戦していた子供たちの中でヅダの株が上がっているようだ。
ゲム・カモフの首が落ちた後。
周囲の擬きたちの動きが、一斉に鈍った。
「……え?」
さっきまで暴れていた一体が、その場で痙攣するように震える。
次の瞬間、内側から膨らむように装甲が弾けた。
一機。また一機と連鎖するように、擬きたちが次々と動きを止めていく。
(……ゲム・カモフを倒したから?)
(それとも――)
◇
「ふう、どうにかなったか」
中継カメラの映像を見てラルは一息つく。
その時、一人の男がぶつかる。
「こら、小さい子に当たったら危ないではないか!」
注意をする声を無視して走っていく男。
そこにハマノが走ってくる。
「大尉!奴だ!今、ゲム・カモフの操縦システムから離れた!」
「なんだと?!」
二人して追いかける。
男が音響設備の脇を強引に抜ける。
その足が一本のケーブルを引っかけた。
――ブツッ。
だが、誰もその小さな音には気づかなかった。
そのまま運営の音響設備の隙間から逃げられてしまった。
「……。俗物め……!」
「仕方ない。ハマノ、とりあえずワシらも戻るとしよう。」
何が目的だったのか、何のためだったのかわからないまま彼ら二人はレース再開を待つため席に戻ることにした。
ただ一つ、BGMを流すためのコードが抜けていることに気づかないまま。
◇
【現在、システムを点検しています。しばらくお待ちください。】
私たちは一度、ガンプラとシステム自体の整備時間という名目で待機所に集まることになった。
店長、ラルさんが心配してきてくれたりミネハがお詫びにとお茶と月餅を持ってきてくれたりと、束の間の休憩を過ごしていた。
(もっとも店長は心配というわけではないって否定してたけど。)
ガンプラ擬きを使っていた選手は失格となってしまったらしく、
最初はしょげていたがプラ板を持ったベテランたちにフルスクラッチを布教され、
最終的には、今度は自分でゼロから作ると言っていた。
今回は被害者なだけで、ガンプラが大好きなビルダーたちだ。
いつか本物を作り上げるんだろうと感じた。
偽ガンプラは回収されたらしいが、やはり重要なところはわからずただ粗悪なプラスチックが使われていたことだけがわかったらしい。
今後についてはニールセンラボというところに持って行って調べるんだとか。
レースはというと軌道エレベーターの入り口前から仕切り直しになった。
【システムメンテナンスが終了しました。参加ファイターはガンプラをセットし直して下さい】
ようやく終わったのか、私たちは再びレースに戻る。
「今度こそ全力勝負、勝っても負けても恨みっこなしだよ」
アスカが挑戦的な目線をしながら話しかけてくる。
「そっちこそ、負けても言い訳はなしだからね」
そういって自然と笑いが出てくる。
さっきまでの反動なのか、こうしたやり取りが居心地よく感じた。
ガンプラをセットしスタートを構える。
『では改めまして!』
――むんぞ〜くんの桃色の瞳が、ゆっくり、明るくなっていく。
『スタァ――――トッ!!!!』
――グポーーーン!
◇
結論から言うと、その後の宇宙区間では多くの機体が脱落していった。
軌道エレベーターを抜けた先は、当然ながら無重力。
ここまでの地上区間を重視して調整していた参加者も多かったらしく、急な姿勢制御の変化に対応できず、壁やデブリへ突っ込んでいく機体が続出した。
『『『し、しまったぁぁぁぁっっっ!!!』』』
『む、無念……』
そうして参加機体の数を一気に減らしながら、私たちはコロニー近郊、戦闘宙域を抜け――
ついに最後の区画、小惑星帯へと突入していた。
「アステロイドベルトか……私のシリウスなら何の問題もない!」
『アタシだって行け!メイガス・ジウ!』
私たちやクリスさんが競っており、その後ろからカリマさんが猛攻を仕掛けてきている。
だが、一番の先頭を走っていたのはヅダだった。
『はっはっはっ!ついに来たぞ!ヅダの時代だ!!!!』
(やっぱり速い!土星エンジンとスーパーバーニアの組み合わせがこんなに速いなんて……!)
そしてそのカラーは最初に見た時とは違い鮮やかな水色を放っていた。
(……やっぱり、あの水色の装甲。PS装甲だったんだ!)
彼のヅダは恐るべき速度で後続の私たちは追いつこうとするのが精いっぱいの状況だった。
何よりも厄介だったのが、ヅダに搭載したフェイズシフト装甲だった。
こちらからの攻撃だけでなく、宇宙空間での高速移動時にぶつかるデブリなどのダメージをことごとく軽減し、ただ走ることだけに集中できる機体になっていたのだった。
『ジオニックのアホもこれでようやく本来選ばれるべき機体がわかるだろう!!』
『ヅダはゴーストファイターなどではないと!』
イズハルさんもご機嫌な様子で勝利を確信しているようだ。
一方聞こえてくるマイトさんの声はどんどん焦ったものになっていた。
『ダメです!これ以上の加速はエンジンカットが間に合わない!このままキープしてください!』
そして小隕石帯を抜け、ゴールが見えた。
はるか先にハロとむんぞ~くんが書かれたゴールの輪が見える。
(勝ちたい!まだ勝ちたい!)
「負けてたまるかぁぁぁぁぁ!」
ヅダに追いつこうと加速していく。
『アタシだってぇぇぇぇぇ!!!』
アスカも同様に加速し私と並ぶ。
『気概のあるひよっこどもだ!本気の加速を見せてやろう!』
突然、ヅダのスーパーバーニアが展開する。
ヅダはこの瞬間誰にも追いつけない、傑作スピードファイターとなったのだ。
◇
マシマは焦っていた。
昼休憩ということもありレースをスレに実況していたがうっかり充電がないことに気づいたのだ。
「ま、まずい!このままでは実況ができないではないか!」
どこかに充電コードはないかと探していると、音響スペースにType-Cケーブルが落ちていた。
「た、たすかった……!」
そこに急いでスマホを挿し充電を行おうとした。
その時だった。
偶然か、神のいたずらか
マシマは本日のイベントスタッフ故に一度音響テストでスマホをつないでいた。
そのためか、有線接続が絶たれた音響機器にBluetoothが接続され、今朝聞いていた曲が流れ始めたのだった。
◇
[消えゆく星の
「え?」
いきなり音楽が流れだした。
というかこれって……
[胸に寄せる血潮に~耳を澄ましている~♪]
『ねぇ……レイこれって……』
アスカも気づいたようだ。
[仰ぎ見たはるかな
『『『
会場が絶叫してる……。
時を同じくして、かのヅダにも異変が起きていた。
スーパーバーニアを展開してからヅダの警告音が鳴りやまないのだ。
『イズハルさん!急いでエンジンカットを!!!』
『いや、まだだ!あと少しなんだッ!』
『しかし!!』
[遠い世界きみはカナシミ越えて 旅立つよ~♪]
(なぜだろう、この曲をきいているとエンジンカットをする気が起きない!)
イズハルの心にはただヅダへの感謝のみがあった。
[その手に余る
「ありがとう!やはりヅダは――」
[未知をたどる~♪]
私たちの前を駆けていたヅダにひびが入っていく。
だがそんな姿になりながらも、加速していくその背にはゴーストファイターと呼ばれながらも戦い抜いた、ツィマットの誇りを感じたのだった。
ヅダの機体に走っていた亀裂が、一気に全身へ広がる。
次の瞬間――爆発による白い閃光が広がる。
それと同時に、会場に流れていた曲までぶつりと途切れた。
「……」
『……』
そうして亡霊は商店街を疾け抜けたのだ。
爆炎の横をシリウスとジウが駆け抜ける。
「この勝負!私の勝ちだぁぁぁぁぁ!」
『アタシが勝つんだぁぁぁぁ!』
―――ゴールリングが目前まで迫る。
「行けぇぇぇぇっ!」
『行っけぇぇぇぇぇっ!』
二機の機首が、ほとんど同時に光の輪をくぐった。
《GOAL》
《2PLAYER WINNERS》
『「……え?」』
◇
『表彰を行う!』
ギレン氏が壇上に立ち表彰式を行う。
『1位!同着!レイ!アスカ!二名!』
私たちは彼の前に立つ。
『今回、優勝賞品については同着のため折半とする!』
そう言うと、こちらに向き直って一言。
『おめでとう!よき健闘だった!』
そんなこんなで私たちのレースは同着という形で幕を閉じたのだった。
◇
逃げおおせた男は急いで電話を掛ける。
――プルルルル
――もしもし?
「もしもしじゃねぇよ!依頼はもっと簡単だったはずだろ?!なんでお前らのプラモが負けてんだ!」
――さて、なんのことかな?
「しらばっくれやがって!ライバル潰して賞金を得て、ついでにヤシマのメンツ潰すのが目的じゃねーのかよ??!!」
――君のことは我々とは関係ないことだ。我々としてはメンツや賞金などどうでもいい
「なに?!」
――我々の目的は達した。君に利用価値はもうない。
「おい!何のことだ!」
――では、二度とかかることもないだろうがな。
「おい!待て!おい!」
そこには無情な電話の切れた音だけが流れていた。
次回予告
みなさんお待ちかねぇ!
大騒ぎのガンプラレースも無事に終了!
レイとアスカは同着優勝、ゴールデンウィークのムンゾ商店街にも、ようやく平穏が戻ってきました!
……ところが!
「あれ? 坊ちゃんって、もしかして……」
一方、レースを騒がせた謎のガンプラ擬き。
回収された残骸を調べるハマノたちは、その異常な素材に違和感を覚えます。
「これはただの粗悪品ではないな」
「ああ。誰かが、意図的にこの場へ持ち込んだと考えるべきだろう」
祭りは終わった。
けれど――あの“亡霊”が残したものは、まだ消えてはいません!
次回、
ガンダムビルドファイターズ STARS
第8話『祭りの果てには?』
にぃ――
レディィィィ、ゴォォォォ!!