ガンダムビルドファイターズ STARS   作:JOE596

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第1話「ガンダム、もう一度……」

カーテンの隙間の光がやけにまぶしくって目が覚める。

なんだか優しくって懐かしい夢を見てたような……。

デジタル時計は、8時を少し回ったところを示していた。

「…………。」

数秒、思考が止まる。

「……まっずい!」

バタバタとベッドから降りて支度を始める。

入学式早々遅刻は、第一印象最悪だ。急いでカバンに荷物を詰めていく。

「……ハンカチ持った。生徒手帳持った。大丈夫だな」

机の上の写真立てが目に入り、一瞬だけ足が止まる。

「……行ってきます」

返事はない。

私は鞄を掴んで部屋を飛び出した。

 

 

     ◇

 

 

「はぁ……はぁ……案外、人間頑張ればどうにかなるな……」

集合時間ギリギリで到着した私は、すでに疲れきった頭でそんなことを考えながらクラスへと向かっていた。

クラスでは、先に到着していた大多数の生徒たちが話をしており、すでにグループのようなものが形成されつつあった。

「カミユイ……カミユイ……あった」

窓際の最後尾席に私の名前があった。

「……主人公席じゃん。ラッキー」

私はそんなグループたちを横目に、日当たりのいい窓際席が当たったことを喜びながら、いそいそと席に向かった。

(まぁ、ギリギリで来たのは自分が悪いし、初っ端からミスったかなぁ。まあ、みんな知らない子だしいっか)

と能天気に考えながら結局誰とも話さないまま時間は過ぎていった。

 

入学式が終わり、各自教室へと戻る最中、

フラフラと学校を歩いていると掲示板が目に入った。

部活動の広報掲示板のようだ。

『来たれ! ガンプラバトル部!』

SDザクがこちらへ指を突きつけている。 足が止まった。

気づけば、ポスターへ手を伸ばしていた。

「…………。」

指先が紙に触れる、その寸前。 私は手を引いた。

「……もう、やってないし。」

誰に言うでもなく呟いて、その場を離れた。

 

教室に戻りぼんやりと外を見ていると、突然横から声が聞こえた。

「ねぇ!そのかばんのって!」

「……?」

声がする方に目を向けると派手な髪の子が私の鞄を指さして聞いてきた。

「それ!ガンダムじゃない!?」

彼女は私のキーホルダーのSDデザインのG3ガンダムのことを聞いているらしい。

「……そうだけど?」

「やっぱり! 見たことあると思ったの! でも、なんか色が薄くない?」

「……これはRX-78-3、通称G-3ガンダム。小説版だと大破した2号機からアムロが乗り換える機体で、MSVだとマグネット・コーティングのテストベッドって設定。色が違うのはグレーと薄紫を中心にしたロービジ塗装だからで――」

そこまでを一息で話してしまった後で、マズイと気づいた。

(マズい、久しぶりにガンダムの話を振られたせいで早口に……。終わった……これはドン引かれたな……。)

そんなことを考えて恐る恐る相手を見る。

「そうなんだ!だからあたしが知ってるのとは色が違うんだ!」

(うそでしょ……引かれていない……?)

「あたし、最近ガンダムにハマっていろいろ見てるんだ!メッチャガンダム詳しいんだね! 色々教えてほしいな!」

私は面食らってしまった。

過去こうなった私への返答は『はは……』という苦笑いだけだったのに、なんだこの聖人は……?

「あたし、シュトウ・アスカ!あなたは?」

「私は、レイ。カミユイ・レイ」

「そっかレイっていうんだ。これからよろしく!」

「……よ、よろしく。そういえばどうしてシュトウさ「アスカでいいよ!」……あ、アスカはガンダムにハマったの?」

私は内心この圧が強い少女のペースにのまれながらも、素朴な疑問を聞いたのだった。

「ん~と、最初はあたしが好きなアーティストがコラボしてて、それで曲から入ってアニメを見たのが最初かな」

なるほど、確かに最近の作品だとこういう入り口もあるのか。

「あたし最初、ロボットが戦うアニメ?ってくらいに思ってたんだけどさ」

「……うん」

「見たらちょ~おもしろくってさ」

その言葉に、私はつい聞いてしまった。

「どこが?」

「え?」

「アスカはどこが好きになったの?」

「えっと……めっちゃ話が深いから……とか?」

「……ッンフフ」

予想以上に真面目に考えてくれたことがなんだか面白くなって、つい笑ってしまった。

「何、その顔!」

「いや……フフ……もっと具体的なのかなって思ったから」

「あたし、初対面なのにディスられた!?」

思わずガーンという音が聞こえてくるようなそんな表情のアスカの顔を見て、私は久しぶりに笑った。

「逆にレイはガンダムは何が好きなの?」 仕返しとばかりにアスカが尋ねる。

「全部」

「全部?全部ってどういうこと?」

「ストーリーもさることながらキャラクターデザインも、機体デザインも、演出や設定、武装の作中での使われ方も────」

質問したアスカに対して、私は堰を切ったようにガンダムへの愛を語ってしまった……

「ごめん……って、何その何か言いたげな表情。」

内心またやらかしたと思う私にアスカが口を開いた。

「……レイって、ガンダムの話してるときめっちゃ明るいね!」

「……そう、かな。」

「うん!最初なんか孤高って感じの雰囲気だったから少し怖かったけど、あたしレイのその感じのほうが好きだな!

 ねぇ、あたしと友達になってよ!」

「……まぁ、いいけど」

つい気恥ずかしくなって、ちょっとそっけない態度を取った私に、アスカは満面の笑みを浮かべていた。

 

     ◇

 

放課後、帰りの支度をしているときにアスカが尋ねてきた。

「そういえば、ガンプラバトルとかはレイはやらないの?」

私はその単語を聞いて少しだけ動きが止まった。

「……昔は、やってた」

「昔は?」

「長いことやってたんだけど受験の時に辞めたんだ。その……いろいろあって」

「そっか、レイだったら聞いたらわかるかなって思ったんだけど……」

「相談くらいなら乗れると思うよ。」

「ありがと!じゃ、これ見てほしいんだけど!」

そう言うと、スマホの画面を見せてきた。

そこに映っていたのは、“彼女用にカスタムされた”ガンプラだった。

「……!」

思わず目が輝く。

「キャリバーンをベースに、下半身をルブリス、バックパックは改修型エアリアル、肩はたぶんルブリス・ジウだよね?」

「え、ぱっと見でわかるの?」

「わかるよ」

「凄……あたし、最初は全部同じに見えちゃって大変だったよ……」

「でも、ここ」

「?」

「足の付け根は少し補強したほうがいい」

「そんなに変かなぁ」

「変っていうか、戦闘の時に負荷が────」

無意識に、自分だったらどこを狙うかを考え、操作するように手を動かしてしまう。

「そっか、だから動きがなんかぎこちないんだ。すごい! 相談する前に答えちゃうなんて。

やっぱり経験不足なんだなぁ……(ガックリ)」

「ガンプラバトルしたことあるの?」

「うん……って言ってもまだ二回くらいだけどね……。そうだ!ならレイがあたしに教えてよ!」

その言葉に、一瞬迷った。自分はバトルに戻っていいのかと。 だけど、

「……まぁ、久しぶりになってもいいならいいけど」

と、少し照れつつもうっかり請け合ってしまった。

 

そんなこんなで次の休みに教える約束をした後、

「でもさ、ガンプラって自分一人で作ったり楽しむだけのものじゃないんだね」

ふと、アスカがそんなことを言った。

「……どうして?」

「だってこんな風に相談したり話したりするのが楽しいなんて知らなかったし!」

「…………そうだね」

私はその言葉を聞いて何か思い出しそうになったけど、思い出さないことにした。

 

     ◇

 

「――ずいぶん楽しそうな話をしてるじゃないか」 「え?」

突然、後ろから声をかけられた。

振り返ると、教室の入口に二人の男子生徒が立っていた。

二人とも私たちとはネクタイの色が違う。上級生だ。

一人は落ち着いた雰囲気で、もう一人はその隣でどこか人を食ったような笑みを浮かべている。

それだけなら、たまたま通りかかった先輩だと思っただろう。

 

けれど、二人のジャージについている文字には見覚えがあった。

「あ、ガンプラ部!」  

私より先にアスカが声を上げた。

「正確にはガンプラバトル部が正しいがね」  

こちらに近づきつつ、背の高い方の先輩が訂正する。

「まあ、好きに呼んでくれて構わないけどね。ね、兄さん?」

もう一人がそう言いながら、アスカのスマホへ視線を向けた。

「それ、キャリバーン?」

「あ、はい!」

アスカが嬉しそうに答える。

「でもそのままじゃないな。ルブリスに、エアリアル改修型……肩はルブリス・ジウか」

「すごっ! レイと同じこと言ってる!」

「そりゃあ、もちろんそのための部だからな」

それを聞いた兄さんと呼ばれた先輩が苦笑する。

モノの数秒で和気あいあいとした雰囲気ができてしまった。

アスカはどうやら、話せる相手なら誰とでもすぐ仲良くなれるらしい。

「俺たちは、君たちの思っている通りガンプラバトル部所属さ。俺はオリハ・シモコオリ。こっちが兄さんのシキヤさ」」

「ほう、この機体は君が作ったのか?」

シキヤというらしい先輩は、アスカのガンプラの写真を見るなりそう尋ねた。

「はい!最初だけはお父さんにも手伝ってもらったんですけど」

「へえ」

シキヤもオリハに続いてスマホを覗き込む。

「随分好き勝手に混ぜてるな。」

「褒めてます?」

「褒めてるさ。ガンプラは自由だからね」

「あ、それ知ってます!」

アスカが勢いよく反応した。

「ガンプラはどんな自由な発想で作ってもいいんですよね! なんだっけ……『ガンプラは! 自由だ!』ですよね!?」

「……そのセリフはちゃんと知ってるんだ」

思わず口から出た。さすが名人.....。

「”そのセリフは”って何!?」

アスカがこちらを向く。

「私、ちゃんとガンプラのこともガンダムのことも知ってるもん!」

「じゃあ宇宙世紀の順番言える?」

「…………。」

うっ、と言葉に詰まるアスカ。

「言えないんだぁ~」

「レイのいじわるッ!今のガンダムファンにそれ必須科目なの!?」

「別に必須じゃないけど」

「じゃあ聞かないでよ!」

そんなプンプンと怒るアスカがかわいく見えてしまい少し意地悪してしまった。

そんな私たちのやり取りを見て、先輩二人が笑った。

「随分と仲がいいんだな」

「今日会ったばっかりです!」

アスカが即答する。

「今日?」

意外と思ったのか先輩たちの表情が少し変わった。

「それで、もうガンプラ見せ合ってるのか」

「席が隣だったんで!」

「……それだけで?」

「それだけです!」

胸を張ることでもないと思う。

「なるほど」

シキヤが呟く。

それから私を見る。

「さっき、彼女の機体について話してたな」

「……聞いてたんですか?」

「俺たちも聞くつもりはなかったんだけどね。廊下まで聞こえてたよ」

オリハが兄に続いて話す。

「そんなに大声だったかなぁ?」

アスカがこちらに聞いてきた。

「主にアスカがね」

「ええっ!?そんなことないと思うんだけどなぁ」

「それより」

シキヤが私の手を指さした。

「君、さっき手を動かしてたな」

「手?」

 

「彼女の機体の関節について話してた時だ」

「…………。」

言われて気づく。

無意識にやっていた。この機体が(メイガスキャリバーン)が目の前にいたら、どう動くか。

どう攻めるか。 どこを狙うか。 頭の中でシミュレーションしていた。

「ファイターの癖だな」

シキヤはそう言った。

「君は経験者かな?」

オリハが尋ねてくる。

「……昔、少しだけ」

「少しだけってレベルじゃなさそうだけどな」

不審そうに先輩二人が見てくる。

「レイ、長いことやってたって言ってたよね?」

「ちょっとアスカ!」

「え、言っちゃダメだった?」

「まぁ……別にいいけど……」

(面倒なことになりそうだったしできれば知られたくなかった……ッ!)

内心そんなことを思っていると、オリハが尋ねる。

「どのくらいやってたのかい?」

「……大体九年くらいやってました」

そう言うと、先輩二人が顔を見合わせ不敵な笑みを浮かべる。

「九年か」

「それなら、ちょうどいい」

なんだか嫌な予感がする……。

「何がですか?」

「一戦やってみないか?」

「…………。」

やっぱり。

「俺たちもちょうどバトルしようと思ってたところなんだ」

「いいんですか!?」

アスカが食いつく。

「アスカ」

「だってレイ、教えてくれるんでしょ?」

「次の休みにって話でしょ」

「予習だよ!予習!」

「実戦は予習って言わない」

「じゃあ実習!」

「もっと違う!」

私はため息をついた。

「……すみません。今日はやめておきます」

「レイ?」

「教えるとは言ったけど、私は……」

言葉が止まる。

足元の鞄が、急に重くなったような気がした。

中には――”彼”がいる。

 

今日だって、どうして持ってきたのか自分でもよく分からない。

 

「……まだ、自分がバトルに戻るつもりはないので」

「そうか、それは残念だな」

妙に暗い顔をする姿を見たからか意外にも先輩はあっさり引いた。

「まぁ、俺たちも無理強いするつもりはないよ。そうだろ、兄さん」

オリハも兄に同調するように声をかける。

「誘ってもらったのに、すみません。」

「残念極まりないな。ただ――」

シキヤが言った。

「少し惜しいな」

「何がですか?」

「君たち、案外MAV戦向きかもしれないと思ったのだがな」

「まぶ?」  

アスカが首を傾げた。

「何ですか、それ?」

(MAV……? ジークアクスじゃあるまいし)  

先輩は少し意外そうな顔をした。

「知らないのか?」

「最近はガンプラバトルから完全に離れてたので」

「なるほど。じゃあ知らなくても無理はないか」  

先輩は二本の指を立てた。

「二対二?」 (……ああ。そういうMAVか!)

「そう二人一組で戦う。片方が前衛、片方が後衛なんて決まりもない。互いの動きを見ながら、その場で役割を変える。どちらかが相手を引きつけて、もう一人が仕留めてもいい。

ここ1年で加わり本年度の大会規定ルールにもなった新方式さ。」

(なるほど、まさしくジークアクスに登場したMAV戦術になぞらえているからMAV戦か!)

案の定、アスカの目が輝いた。

「面白そう!」

「そうだな。ただ――」

先輩の視線が私へ向く。

「”一人で全部やろうとするファイター”(独りよがり)には、あまり向いてない」

「…………。」 何故か引っかかる言い方をされた。

「それ、私のことですか?」

「さあ」

シキヤは肩をすくめた。

「私は一般論を言っただけだ」

「だったらこっち見ながら言わないでください。」

「でもレイ、ちょっとそういうところありそう。」

「アスカまで!?」

(さっきの仕返しか、こっちをちくちく刺してきてるッ……)

「だってさっきも、あたしが聞いてないところまで全部説明してたし」

「あれはアスカが――」

「それに」

こほんと咳払いをしながら、オリハが口を挟む。

「君一人なら、かなり強そうだ」

「…………。」

「九年もやっていたなら、多少鈍っても強いだろうね」

そこで視線がアスカへ移し、 「でも――」 そう言って再び、私を見る。

「二人では弱そうだ」

ぴくり。 自分でも分かるくらい、眉が動いた。

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

「あたしがレイの足を引っ張るってことですか?」 アスカが自分を指差す。

「そうではないよ」

「でもアスカはまだ二回しか――」 言いかけて止まる。

……違う。

アスカが弱いかどうかなんて、まだ分からない。

そもそも私は、この子のバトルを一度も見ていない。

「MAVは二人で戦う競技だ」 先輩が言う。

「一人だけが強くても勝てない。それこそ“ニュータイプ”でもない限りね」

そう苦笑するオリハ。

「…………。」

「ましてや、一人で二人分戦おうなんて考えているうちは絶対無理だろうな。」

そう言うと、二人の先輩が笑う。

 

――やめておけばいい。

分かっている。

こんな安い挑発に乗る必要なんて、どこにもない。

 

それでも。

 

――カチン。

 

その一言で私の心は決まった。

 

私はカバンの中に入れていた”ケース”を取り出す。

「レイ?」

それを机の上へ置き、留め具に指をかけた。

カチリ。 ケースを開く。

 

そこに眠っていた白い機体を見た瞬間、二人の先輩から笑みが消えた。

 

白い装甲。 胸部を走る青。 赤と黄色のアクセント。

そして全身に散りばめられた、淡い青のクリアパーツ。

 

昔。 「一番かっこいいガンダムを作る」 そう言った少女がいた。

 

その答えが――ここにある。

”私たち”が作った、最高の愛機(ガンダム)。

 

――G(ガンダム)シリウス――

 

「それが、君の機体か」

「はい」

私はGシリウスを持ち上げ先輩に突きつける。

「MAV戦?でしたっけ」

「ああ」

「一人だけが強くても勝てないって言いましたよね?」

「確かに言ったな」

「だったら――」

自分でも、かなり子供っぽいことを言っている自覚はあった。

でも、売られた喧嘩をそのままにするほど私は大人じゃない。

「私が二人分倒せば問題ないですよね?」

 

一瞬。 教室が静かになった。

「……レイ」 アスカが呟く。

「何?」

「意外と煽り耐性ないね」

「……うるさい!」

先輩は怒らなかった。

むしろ、少し楽しそうな笑みを浮かべていたのだった。

「その考え方がMAVに向いてないって言ったんだけどなぁ。ね、兄さん?」

「ああ、その通りだ。」

「…………。」

また腹が立った。

もしかして、この人たち。分かってやってるんじゃないだろうか。

「ただし」 先輩が続ける。

 

「君一人とは戦わんよ。」

「はっ!? どうしてですか?」

「どうしても何も、二対二だからだ」

「私は一対二でも構いません」

「こっちが構う。そんなものはMAV戦じゃないさ」

「だったら――」

二連戦でもこっちは構わない!なんて啖呵を切ろうとしたとき、 「はい!」

横から勢いよく手が上がった。

「…………」 嫌な予感がする。

「あたしがやります!」

(やっぱり..... )内心呆れる。

「アスカ」

「それなら二対二でしょ?」

「あなた、さっき自分でバトル二回しかしたことないって言ったよね?」

「うん!」

「なんでそんな自信満々なの」

「今日で三回目になるじゃん!」

「一回増えただけ!」

「大丈夫!」

「何を根拠に!?」

「ガンダムだって最初は大地に立つところから始まるんだから!」

「意味が分からない!」

(あのサブタイトルはそういう意味じゃないだろ!)

「まずやってみることが大事ってこと!」

「絶対今考えたでしょ!」

アスカは机の横へ置いていた鞄を開いた。

中からハードケースを取り出す。

「それ……」

「実は持ってきてたんだ!」

「だったら最初から実物見せてよ!」

「いやあ、学校でいきなりガンプラ出すのもどうかなって」

「スマホで延々ガンプラの写真見せるのはいいんだ……」

「細かいことは気にしない!」 ケースが開く。

そこには、さっきまで写真で見ていた機体が収められていた。

 

 ガンダム・メイガスキャリバーン。

 

実物を見ると、やっぱり写真とは印象が違う。

塗装面が少し粗い。

ゲート跡だって初心者にしては少ないけど、まだ残っている。

左右で微妙にパーツの表面処理も違う。

写真じゃ見えなかったけど私だったら直したいところがいくつもある。

 

だけど。

 

――好きで作ったんだろうな。

 

それだけは、一目で分かった。

 

アスカがメイガスキャリバーンを持ち上げる。

「ね、レイ」

「何?」

「やってみようよ」 笑っていた。

「さっき、教えてくれるって言ったじゃん」

「それは……」

「それにさ」

アスカは自分のガンプラを、私のGシリウスの隣に並べた。

「一緒にやった方が、もっと楽しいかもしれないし!」

「…………。」

 

――楽しい。

また、その言葉だ。 どうしてこの子は、そんなにも簡単に言えるんだろう。

ガンプラを作るのも。 誰かと話すのも。 バトルするのも。 全部同じように。

 

「…………分かった」

「ほんと!?」

「ただし」 私は先輩二人を見る。

「やるからには勝つ!」

「もちろん!」

何故かアスカが答えた。

「アスカに言ってない」

「いいじゃん、気分的にはもう同じチームなんだから!」

「まだ組んで一分も経ってないけど」

「それなら今からチーム結成一分記念!」

「何それ……」

思わず、少し笑ってしまった。

 

「なら、場所を変えよう」 先輩が言った。

「ここじゃ今日はバトルはできないからな」

「ガンプラ部の部室じゃないんですか?」

「今日は入学式ゆえにな。学校から使用禁止されていて部室が使えない。それに――」

二人は顔を見合わせた。 シキヤが、少し意味ありげに笑う。

「君たちを見せたら、面白そうな人がいる」

「……誰ですか?」

「会えば分かるさ」

その言い方が、妙に気になった。

 

     ◇

 

「で」

学校を出てから数分。 私は隣を歩くアスカに聞いた。

「MAVについて、どこまで理解した?」

「うーん。二人で戦う?ってことくらいかな!」

スマホでルールを確認していたアスカは元気よくこちらを見て答えた。

「…………。」

呆れて何も言葉が出ない。

「何その顔!?」

「いや、まぁ間違ってはいないけど」

「じゃあ百点じゃん!」

「三点くらいしか合ってないでしょ」

「採点厳しくない!?」

私はため息をつく。

「いい? このルールを基に考えるなら、まず役割を決めた方がいい」

「役割?」

「私が前に出る。アスカは後ろ」

「えー」

「えー、じゃない。経験差を考えたらその方が合理的だから」

「でも二人で戦うんでしょ?」

「だからアスカには援護してもらう。敵が私を狙っている間にアスカのバリアブルロッドライフルで狙撃。

私が合図したら移動。無理に攻撃しなくていい。危なくなったら下がって」

(アスカの機体ベースはキャリバーン、機動性に優れているしこの方法ならアスカが先に撃破される可能性をだいぶ下げられるはず……)

「…………。」

アスカはレイをじっと見つめる。

「あと、私が右って言ったら――」

「ねえレイ」

「何?」

「あたし、何すればいい?」

「だから今説明してるでしょ」

「いや、そうじゃなくて」

「?」

「……ふーん、まあいっか!」

「何、その顔」

「別にー」

少し前を歩いていた先輩二人が、小声で何か話している。

「兄さん」

「ああ」

聞こえてきたのは、それだけ。

何が「ああ」なのか。

何故か無性に腹が立った。

「……絶対勝つ」

「燃えてるねえ」

「アスカも戦うんだからね」

「任せて!」

「だからまず私の指示を――」

「着いたぞ」

先輩たちが立ち止まった。

 

そこは、一見すると妙に小洒落れた見た目の模型店だった。

中に入ると、模型店らしからぬ雰囲気と商品棚がミスマッチに感じる。

店内のガラスケースには新作から古いキットまで、所狭しと並んでおり、

さながら高級店のショーケースのような趣を出していた。

(なんかジオン系の機体が多くない……?)

「……あ」

そんな中、思わず足が止まる。

商品棚の奥。

そこに、今ではほとんど見かけなくなったキットがそこにはあった。

「『HGUCシュツルム・ディアス』……うそ。これ再販してたの……?」

気づけば箱を両手で持っていた。

「レイ」

「何?」

「顔」

「……何」

「めっちゃ楽しそうだね」

ニマニマと、こちらを見るアスカ。

「…………。」

私は無言で何事もなかったかのように、泣く泣く棚に戻した。

「誤魔化した!」

 

     ◇

 

「店長!居るだろうか!」

先輩がカウンターの奥の誰かに声をかけた。

「至急、バトルスペースを借りたい」

「断る!」  

店奥からの即答だった。

「早っ!?」

アスカがついツッコんだ。

カウンターの奥から、一人の女性が姿を現す。

 

鋭い目。 整った顔立ち。 何というか――怖い。

別に怒っているわけでもないのに、怒られている気分になる。

そこには白いキュベレイが似合いそうな女性が立っていた。

 

「今日は初心者教室用に使うと言ったはずだぞ、俗物ども」

「そこを何とか」

「断る!」

取り付く島もない。

「お願いします!」

アスカが突然頭を下げた。

「アスカ!?」 店長の目がこちらへ向く。

「……誰だ、貴様は」

「シュトウ・アスカです! 今日初めてMAV戦やるんです!」

「初めてか」

「はい!」

「で、相手がこれらか」

 店長が先輩二人を見る。

「はい!」

「……そうか」

何故だろう。

ほんの少しだけ、店長が先輩たちを見る目が冷たくなった気がする。

「10分だ」

「え?」

「初心者教室が始まるまでの10分間だけ貸してやる。それ以上は駄目だ」

「ありがとうございます!」

「くれぐれも設定は勝手にいじるな」

 

「店長、俺たちが頼んだ時と態度違うと思わないかい?兄さん.....。」

「そうだな.....。」

「気のせいだ」

「絶対違――」

「口を閉じろ、俗物ども!」

「「はい……。」」

(怖ぁ.....この人には逆らわないようにしよう……。)

私は内心、そう心に決めた。

「じゃあ、始めるとするか」

先輩二人がケースを開いた。

「――!」

思わず目を見開いた。 赤黒い、悪魔のようなシルエット。 特徴的な腕部。

そして、もう一機。 重厚な機体に、巨大なクロー。

「ヴァサーゴに.....アシュタロン.....!」

(やっぱり、かなり完成度が高い.....!)

「へえ」  

先輩がこちらを見る。

「さすが詳しいね」

「当たり前です」

「ヴァサーゴ? アシュタロン?レイ、何それ?」

「あとで説明する。」

「またあたしだけの知らないやつ!」

「だからあとで!」

 

「こいつらを見てもやる気は変わらない?」

「むしろ――」

私はGシリウスを取り出す。

「燃えてきました」

「いい顔するじゃないか」先輩達が不敵に笑う。

「レイ、なんかキャラ変わってない?」

「変わってない」

「レイってガンダムバトルのことになると変わるんだ……」

私はGシリウスをバトルシステムへセットしようとして、 「――待て」

冷たくよく通る声。

ピタッと手が止まる。

さっきの店長さんだった。

「……何ですか?」

「そのガンプラ」 店長が近づいてくる。

Gシリウス(私の機体)を見ている。

さっきまでの人を圧倒する目ではない。

何かを見定めるような、そんな目で私の機体を見ていた。

「名前は?」

「Gシリウスです」

「そうか」店長の視線が機体をなぞる。

頭部。 胸部。

肩。 脚。 そして――背中。

「…………。」

そこで初めて、店長の目が僅かに細くなった。

「……面白い作りをしている」

「え?」

「何でもない」

店長は踵を返した。

「早く始めろ」

「ちょっと待ってください」

「何だ」

「今、なんで言ったんですか?」

「何がだ?」

「面白い作りって」

「面白い作りだから、面白いと言っただけだ」

「説明になってませんけど」

「知りたければ自分で考えろ」

「は?」

「お前のガンプラだろう」

「…………。」

なんなの、この人……。

「レイー!」 アスカが呼んでいる。

「準備できたよー!」

「……今行く!」

その言葉に引っ掛かりながらも、私はバトルシステムに向かった。

 

『────Please set your GP Base.』

GPベースアプリを起動したスマホをセットする。

『Beginning Plavsky Particledispersal.』

光が広がり、戦場が形成される。

『Field 5 “City”.』

『Please set your Gun-Pla.』

Gシリウスをスタンバイさせる。

アスカの前にはメイガスキャリバーン。

 

白と青のGシリウス。 白とオレンジのメイガスキャリバーン。

今日会ったばかりの二機が、初めて同じ場所(戦場)に並ぶ。

――CITY。 つまり今回は市街地戦。

(ランダムとはいえ、よりによって市街地戦.....! 重力下じゃキャリバーンにはつらいフィールドになる……!)

 

「アスカ」

「何?」

「最初は私が前に出るから、アスカは後ろで――」

「分かった分かった!」

「本当に分かってる?」

「大丈夫!あたし理解早いから!」

ノリノリのアスカに対して不安が募っていく。

(ほんとに大丈夫か不安だ……)

「その大丈夫が一番信用できないんだけど」

「ひどい!」

 

久しぶりの感覚。

コントローラーを握る手に、じっとりと汗が滲む。 心臓がうるさい。

緊張している?

――違う。 この感覚を、私は知っている。

バトルが始まる直前。 自分のガンプラが、これから戦場へ立つ。

あの瞬間にしか感じられない――

 

「ねえ、レイ」

「何?」

「あたし、対人戦これで三回目だね!」

「…………。」

一瞬、全部吹っ飛んだ。

「それ今言う!?」

「記念に伝えとこうって思って!」

「さっきも聞いたよ!」

「そうだけど!」

「でも、あたしたち二人ともMAVは始めてだね!」

アスカが楽しそうに笑った。

その言葉に少し元気をもらえた気がした。

「サクッと勝っちゃお、レイ!」

アスカが前を向く。

初めてのMAV。

三回目のバトル。

相手は経験者二人。

普通なら、もう少しくらい怖がってもいいはずなのに。

なのに。

その顔を見ていると――。

「……うん」 自然と口元が緩んだ。

「勝とう、アスカ」

「もちろん!」

 

「カミユイ・レイ、Gシリウス!」

「シュトウ・アスカ、メイガスキャリバーン!」

「「行きます!」」

 

そして――。 久しぶりに、私のガンダムが立ち上がった。

 

 

 




――次回予告――
久しぶりの戦場に降り立ったレイ。
愛機Gシリウスの性能をもって、二機のガンダムを圧倒するレイであったが――それは、巧妙に仕組まれた罠であった。
ヴァサーゴとアシュタロン。
兄弟のごとく連携する二機を前に、一人で戦おうとするレイは次第に追い詰められていく。
一方、戦場に放り出された初心者、アスカ。 戦歴わずか二戦。
作戦、よく分からない。 MAV、もっと分からない。
それでも少女は――笑っていた。
「だってこいつ、あたしから離れないんでしょ!?」
アスカの無謀な一手が、膠着した戦場を動かす。
果たしてレイは、その意図に応えることができるのか。

次回、ガンダムビルドファイターズ STARS
第2話『二人だけの戦場』
 ――君たちは、生き延びることができるか。
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