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第2話 「二人だけの戦場」
「勝とう、アスカ」
「うん!」
「カミユイレイ、Gシリウス!」
「シュトウアスカ、メイガスキャリバーン!」
「「行きます!」」
2機のガンプラが大地に降り立つ。
周りには廃墟と化した街並みが広がっていた。
「パッと見た感じ、08小隊の震える山のマップかな……」
「そうなんだ。あたしまだ08小隊は見てなくって……」
アスカが申し訳なさそうに答える。
「そっか、今度見てみるといいよ。ガンプラバトルだと作品知識で有利になることも多いし。」
「うん!見てみる!ちなみに先輩達はどこにいるんだろ?」
「どうだろ、ヴァサーゴとアシュタロンだから地上よりは上空から来そうだけど。」
二人で周囲を警戒しながら大きな建物の陰に身を潜め、私は作戦を伝える。
「私が二人を誘い出すから、とりあえずアスカは物陰に隠れてて」
「え?でもそれじゃあ……」
「大丈夫。二人とも倒そうってわけじゃないよ」
「いや、そうじゃなくて。あたしも――」
「アスカ」
「な、なに?」
「さっき、ガンプラバトルはこれで三回目って言ってたよね?」
「うん……」
「だったら、まずは相手の動きを見た方がいいと思う」
「相手の動き?」
「うん。ヴァサーゴは火力が高いし、多分アシュタロンは変形して空から攻めてくるはず。二機同時に狙われたら、今のアスカじゃ対応できないと思う」
「うっ……」
痛いところを突かれたのか、アスカが言葉を詰まらせる。
「だから、まずは私が相手をする。大丈夫、アスカはその間に二人の動きを見てて」
「……レイは大丈夫なの?」
「二人相手でも、逃げるだけなら問題ないよ」
(まぁ、逃げるつもりはないけど……。)
Gシリウスのビームライフルを構えなおす。
それに――。
相手がどれくらいの腕なのか分からない以上、初心者のアスカまで前に出す必要はない。
まず私が戦って、相手の癖を見つける。
その後でアスカに指示を出せばいい。
それが一番安全で、確実だ。
「じゃあ、行って――」
その時、甲高い警告音が鳴り響いた。
「――!」
考えるより先に、見上げる。
廃墟と化したビル群。
そんな隙間から見える青空と穏やかな雲。
そのさらに向こう――。
黒い影が、こちらへ向かって急速に接近していた。
「来る!」
「ほえ?!」
「アスカ、隠れて!」
「え、どこに!?」
「どこでもいいから早く!」
「どこでもって――」
その瞬間、雲の切れ間から’’2機’’の影が飛び出した。
横に大きく広がったシルエット。
両腕から伸びる巨大なクロー。
「アシュタロン……!」
MA形態へと変形したガンダムアシュタロン。
けれど、目を引いたのはそこじゃない。
「……え?」
アスカが驚く。
その背中に、もう一機。
赤と黒を基調とした異形のガンダムが乗っている。
「えっ!? ガンプラの上にガンプラ乗ってる!?」
「やっぱりか!!来るよ、アスカ!」
アシュタロンが市街地上空へ侵入する。
速い。
MA形態の機動力を利用して、一気に距離を詰めてくる。
私は狙いを合わせる。
けれど――。
「……?」
向かってこない。
アシュタロンはGシリウス達の上空を通過するように機首を上げた。
何を――。
「!」
その背中から、ヴァサーゴが跳んだ。
アシュタロンを蹴るようにして空中へ飛び出す。
悪魔のような羽を広げ宙を舞い、そのまま近くにそびえる高層ビルの屋上へと降り立った。
一方、アシュタロンはそのまま上昇。
高層ビルの上にヴァサーゴ。
さらにその上空にアシュタロン。
「――まずい!」
「え? 何が?」
「アスカ、もっと奥に隠れて!」
「だから何が――」
ヴァサーゴの腹部が開く。
中央に収められた砲口へ、眩い光が集まっていく。
「メガソニック砲!」
「なにそれッー?!」
次の瞬間。
赤黒い閃光が市街地を貫いた。
「くっ!」
アスカのキャリバーンを左に逃がし、Gシリウスを右へ跳ばす。
さっきまで隠れていたビル群が一瞬で光に飲み込まれ、爆発した。
「うわっ!?」
「アスカ!」
「だ、大丈夫!こっちもなんともないよ!」
「そのまま隠れてて!」
「う、うん!」
まずは一発。
あの火力の直撃は避けたい。
でも、撃つ瞬間は分かりやすい。
砲口へのチャージを見てからでも十分――。
’’ピピピピピッ!’’
「――!?」
警告。
(メガソニック砲にしては早すぎる。だとしたら――!)
上。
見上げると同時に、上空を旋回していたアシュタロンから無数の光弾が降り注いだ。
「っ!」
Gシリウスを急加速させる。
さっきまで居た地点のアスファルトが次々と弾け飛ぶ。
左へ。
さらに右へ。
「クッ……さすがに見逃がしてくれないか!」
アスカの声が通信から聞こえる。
「レイ!そのままだと危ないかも!狙われちゃってる!」
「ッ!もしかして!」
(誘いこまれた……?!)
再び警告音。
「また!」
ビルの屋上。
ヴァサーゴの腹部が再び輝いている。
「アスカ、ちょっと黙ってて!」
「えっ、あ、はい!」
メガソニック砲が放たれる。
迫る射線を、機体をねじるようにして間一髪でかわす。
閃光がすぐ横を通過。
そして――。
「次は上!」
定石通りアシュタロンから射撃が来る。
予想通り。
シリウスのスラスター出力を上げ、ビルの陰へ飛び込む。
直後、光弾が壁面を穿った。
「なるほど……」
ヴァサーゴの大火力で逃げる方向を限定する。
そこへ上空のアシュタロンが攻撃。
逆にアシュタロンへ注意を向ければ、ヴァサーゴのメガソニック砲が飛んでくる。
一機一機が別々に攻撃しているんじゃない。
二機で、私の逃げ道を潰している。
「これが……MAVって……ことかッ……!」
『ご名答』
「!」
通信にシキヤの声が割り込んだ。
『さすがだな。やはり気づくのが早い』
「そりゃどぉも!」
ビームライフルを構える。
でも――。
仕組みが分かれば、やりようはある。
「レイ?」
「アスカ、そのままそこにいて」
「え?」
「次で崩すから」
「崩すって……」
三発目のメガソニック砲。
ヴァサーゴの腹部に光が集まり始める。
「……来た」
砲口を向ける先はGシリウス。
なら――。
「3、2……」
『レイ!?』
――1!
メガソニック砲が放たれた。
同時に、Gシリウスを加速させる。
ただし、今までとは逆。
攻撃から逃げるんじゃない。
「こっちから行く!」
ヴァサーゴへ向かって一直線に突っ込む。
「ええっ!?」驚くアスカをよそに突貫していく。
赤黒い閃光が迫る。
直撃寸前。
「っ!」
Gシリウスが瞬間的に位置を変える。
その直横をメガソニック砲が通過した。
そのままヴァサーゴの居るビルの直下にとりつく。
(ここなら射線が切れる!この一瞬が勝負!)
スラスター全開。
壁を駆け上がるように飛び立つ。
ピピピピピッ!
「上から来るのも――」
アシュタロンの射撃。
「もう”読めてる”!」
降り注ぐ光弾の間を縫うように、シリウスが跳ぶ。
「まずは――」
左手でビームサーベルを引き抜き加速する。
屋上。
目の前にはヴァサーゴ。
「まずは高いところから降りてもらう!」
『――ッ速い!』
振り下ろす。
ヴァサーゴもビームサーベルを抜いた。
二本の光刃がぶつかり合う。
「はぁぁぁっ!」
『くっ……!』
シリウスが押し込む。
(機体推力ならメガソニック砲の反動がない分こっちに分がある!)
ヴァサーゴが押される。
「レイ、やっぱすごっ!」
アスカの声。
その瞬間。
『兄さん』
オリハが兄に確認する。
『ああ』
それだけだった。
「……?」
何が――。
背後から警告音。
「っ!」
振り返る。
さっきまで振り切っていたはずのアシュタロンが、こちらへ向かって急降下していた。
飛行中にその姿を変えていく。
MA形態からMS形態へ。
巨大なクローがGシリウスへ迫る。
「やっぱ挟む気!?」
ヴァサーゴとの鍔迫り合いをあえて押し込み、そのまま切り払いながら後方へ跳んだ。
さっきまで居た場所目掛け巨大なクローが空を切る。
「まだ!」
空中でライフルを構える。
アシュタロンに向け数発打ち込む。
しかし、
(やっぱり空中だと狙いが定まらない…!)
回避しながらの決死の射撃はアシュタロンに防がれてしまう。
「ならヴァサーゴだけでも!狙い撃つ!」
狙いを急いで変え、先ほどの鍔迫り合いでよろけているヴァサーゴに向ける。
ビームがヴァサーゴの肩を掠めた。
『おお……』
『すごいね、兄さん』
『ああ、予想以上だ。』
シリウスを地上へ着地させ、ビル群の陰に機体を隠す。
(――やれる。)
二人とも強い。
それに、連携も上手い。
でも――。
(戦える)
九年ぶりだろうと。
二対一だろうと。
不思議と笑みがこぼれる。
「……ふふっ」
『レイ?』
「え?」
『今、笑ってなかった?』
「笑ってない!」
『いーや、絶対笑ってたよ!』
「うるさい!いいからアスカは隠れてて!」
『はーい』
再びライフルを構え次の機会を考える。
でも――なんだ。
やっぱり――。
楽しい。
頭で考えた通りに
相手が仕掛けてきた攻撃を読み、それをどう崩すか考える。
次はどう来る?
だったら私はどう返す?
ヒリつくような読み合いの連鎖。
久しぶりの感覚。
久しぶりの――ガンプラバトル。
「……やっぱり私、好きなんだ」
小さく呟く。
その声は、誰にも聞こえなかった。
――一方。
『やはり強いな』
『うん。思ってたよりずっと強いね、兄さん』
『ブランクがある動きじゃない』
『……でも』
『ああ』
二人の視線が、戦場の片隅へ向く。
崩れかけたビルの陰。
そこには、言われた通り身を隠しているメイガスキャリバーン。
『兄さん』
『ああ』
『そろそろ?』
『頃合いだな』
ヴァサーゴとアシュタロン。
二機の動きが、
「……?」
それまで隙を見ては続いていた攻撃が急に途切れる。
「急に何が……?」
私はシリウスのライフルを構えたまま、周囲を見渡す。
ヴァサーゴが一歩後退しながら移動する。
アシュタロンも変形し飛び立つ。
(仕切り直す気?だったら好都合――!)
『レイ!』
「どうしたの?」
『なんか……赤いのがあたしの方見てない?』
「え?」
アスカの言葉に、二機を見る。
ヴァサーゴとアシュタロン。
向かっている先は――。
(まさかッ!)
「――アスカ!」
『え?』
瞬間、アシュタロンのスラスターが爆発的な光を放ち、一気にアスカへ迫る。
「逃げて!!」
『何から!?』
「上!!」
『上!?』
メイガスキャリバーンが顔を上げる。
急激な速度で近づくアシュタロンの姿が見えた。
『きゃあああああああああっ!?』
「アスカ!!」
『こっち来ないでぇぇぇッ!!』
恐ろしい速度で近づくアシュタロンに悲鳴を上げながら走って逃げるキャリバーン。
さながらその姿は、飛べなくなった箒をかかえて走る魔女のようだった。
『本当に初心者のようで、少し心苦しいけど狙わせてもらう!』
『先輩の鬼畜!!鬼!!悪魔!!』
『悪魔由来の機体だからごもっともだ!』
そう言うと、オリハはシザースビームキャノンをキャリバーンへ撃ち込む。
『た”す”け”て”ぇ”ぇ”ぇ”!!』
アスカが必死に逃げる。
「アスカッ!ロッドのクアドラ・スラスターで距離をとって!」
「クアドラ・スラスター!?」
「ロッドの後ろについてる推進器!」
『あ!これのこと!?』
アスカが慌てて操作する。
メイガスキャリバーンが抱えているバリアブルロッドライフル。
その後部に接続された推進器「クアドラ・スラスター」が展開する。
『で!これでどうするの!?』
「推進器があるでしょ! それを使って――」
『どれ!?』
半泣きになったアスカが情けなく叫ぶ。
「さっき教えたでしょ!」
『さっきだけじゃわかんないよぉ!』
「なんでもいいから早く!」
『無茶言わないでよぉ!!』
アスカが叫びながら、手当たり次第に操作する。
次の瞬間。
『わわっ!?』
ロッドの推進器が一斉に火を噴いた。
キャリバーンがロッドに引きずられるように前方へ飛ぶ。
直後、その背後をアシュタロンの巨大なクローが掠めていった。
『た、助かったぁ……!』
「安心するのはまだ早いよ! そのまま右!」
『右!?どっちから見て!?』
「機体から見て右!」
『先に言ってよぉ!!』
アスカが半泣きで叫ぶ。
「次、上!」
『今度は何!?』
「アシュタロン!」
『だから名前覚えてないって!』
「さっきから追いかけてきてる方!」
『どっちも追いかけてきてるじゃん!!』
「もうっ!カニみたいな奴のこと!」
キャリバーンの後ろをアシュタロンが追う。
その進行方向の先をヴァサーゴが的確に狙っていた。
(まずいッ!このままじゃ!)
「アスカ、止まって!」
『え!?』
「早く!!」
メイガスキャリバーンが急停止する。
その目前を、メガソニック砲の閃光が焼き払う。
『ひいぃっ!?』
「アシュタロンが来てるよ!次、そのまま左のビルに――」
その時、警告音が鳴り響く。
「――ッ!切替早過ぎッ!」
今度は私の番ってわけか!
ヴァサーゴの腕部から放たれたビームの雨が、シリウスへ向かってくる。
「くっ!」
機体を反転させ回避行動を取ろうとする。
――しまった!タイミングがッ!!
「っ……!」
光弾がGシリウスの右肩を掠めた。
装甲表面が少し焼き焦げる。
『レイ!?』
「大丈夫!それより自分の心配してッ!」
おかしい。
さっきまでなら、こんな攻撃――。
『レイ! 次どうすればいいの!?』
「ほえ?!」
『またカニみたいなのが追ってきてるよぉぉ!』
「アスカは――」
警告音が思考を遮ってくる。
ヴァサーゴ。
アシュタロン。
アスカ。
自分。
一度に四つの情報が思考へ飛び込んでくる。
「アスカは右へ! その後ライフルを構えて――」
そういいながら、ビームシールドを展開しヴァサーゴからの直撃を避ける。
『今のは分かった!』
「次右!ヴァサーゴを撃って!」
『ヴァサーゴってどっち!?』
「悪そうな方!」
『両方悪そうじゃん!!』
「羽がッ――って、もういい! 正面の赤い方!」
『正面!?』
その時だった。
『兄さん』
『ああ』
たった一言。
それだけの会話だった。
「……?」
『パターンBだ』
『了解、兄さん』
それだけで――。
二機の動きが変わった。
「――!」
ヴァサーゴが私へ向かってくる。
「こっち!?」
(正面にアスカが居たのにどうして……?!)
ライフルを構え距離を取りつつ応戦する。
(ヴァサーゴの得意な近距離に持ち込む?でもなんで?)
その時、視界の端にアスカの姿が映り、私は気づいた。
違う、これは牽制だ。
あいつら、
「まずい、アスカ!そっちにアシュタロンが――」
『え!?あれ!いつの間にか赤いのが居なくなってるけど!』
正面を見ていたキャリバーンが思わず振り返る。
だがもう遅い。
巨大なクローが眼前に迫っていた。
「左!!」
『左!?』
「避けて!!」
『だからどっちの――』
巨大な
――ガシャン!
『きゃあっ!?』
「アスカ!!」
アシュタロンのクローに、メイガスキャリバーンの両腕が捕らえられていた。
『つ、捕まったぁ!!』
「アスカ!大丈夫!?」
『腕が動かないよぉぉ!』
「早く振り払わないとッ!ロッドで撃って!」
『だから腕が挟まれて狙えないよぉ!』
そういってキャリバーンがじたばた足で蹴るがビクともしない。
(考えろ――!)
何か。
何かある。
私ならどうする。
この状況なら――。
そんな中でもヴァサーゴからの攻撃は止まない。
私も避けるだけで精一杯だ。
その時、気づいてしまう。
違う。
あれを動かしているのは私じゃない。
あれを動かしてるのは――。
『レイ』
「待って、今考えてる!」
『レイ!』
「大丈夫! 絶対助けるから!」
『違う!』
「え?」
『逃げて!』
アスカの声に顔を上げる。
さっきまで近づいてきていたはずのヴァサーゴ。
しかし気づくと高層ビルの上へいつの間にか移動していた。
(しまったッ!途中からのストライクシューターの射撃はブラフ!
考えることに意識を割きすぎて気づかなかった!)
腹部が開いている。
光が集まっていく。
メガソニック砲。
その砲口が狙っているのは――。
「……嘘」
アシュタロン。
その腕に捕らえられた、メイガスキャリバーン。
「待って……!」
『こっちは準備できたよ!兄さん!』
『よくやった。』
「待って!!」
さながら磔にされた魔女のように、ヴァサーゴの射線上に掲げられるキャリバーン。
急いでGシリウスを翔る。
だが、届かない。
間に合わない。
「アスカ!逃げて!」
『動けないの!』
「だったら、だったら――!」
どうする。
どうすればいい。
私が。
私が何とかしないと――。
『そっか……!』
アスカが何かに気づく。
『……ねえ、レイ』
「何!?」
なぜか妙に落ち着いたアスカの声。
『
「え?」
『今はあたしから離れないんだよね?』
「何言って――」
メイガスキャリバーンのセンサーが、メガソニック砲を構えるヴァサーゴをとらえる。
『だってこいつ――』
アスカがコントローラーを握り直す。
『あたしを捕まえとかなきゃいけないんでしょ!?』
「――!」
一瞬。
何を言っているのか分からなかった。
でも。
次の瞬間には――分かった。
「アスカ!」
『なに!?』
「そのまま!」
『――!』
「絶対に離れないで!!」
『了解!!』
動かせる両脚で、アシュタロンの胴体を挟み込む。
『はっ!?』
意外そうなオリハの声。
『な、何して――』
『離さないんでしょ!? だったら――』
掴まれてなお手放さなかったロッドをヴァサーゴへ向け、その推進器を加速させる。
『一緒に食らえばいいじゃん!!今度は一緒に来てもらうよ!』
『はぁぁっ!?』
『オリハ!』
『分かってる!どうにかするから!兄さん!』
『しかし!』
ヴァサーゴのメガソニック砲。
その光が消える。
「今!!」
私は一直線にシリウスを加速させる。
アスカが作ってくれた、この数秒があれば届く!
狙うのは――ヴァサーゴ。
『しまっ――』
「はぁぁぁぁっ!!」
ビームサーベルを振り抜く。
ヴァサーゴが咄嗟にストライククローを伸ばし、迎撃する。
その時、光刃が左腕部を切り裂いた。
『くっ!機体が……!』
「もう一発!」
追撃、これで――!
『させるか!』
「!」
アシュタロンがクローでキャリバーンを振りほどこうとする。
『うわわわわっ!?』
「アスカ!」
反射的に意識をそちらへ向ける。
その一瞬。
ヴァサーゴが距離を取った。
「っ……!」
逃がした。
でも――。
『レ、レイ! こいつ暴れてる!』
「今行く!」
『来なくていい!』
「え?」
『いいからそっち倒して!』
「でも――」
『こっちはあたしに任せて!』
少し震えていたアスカの声。
怖がっている。
敵の懐にいるんだから当然だ。
まだバトルにも慣れていなくて、不安なはずなのに。
なのに――!
(『こっちはあたしに任せて!』)
「…………」
一瞬だけ迷う。
アシュタロンを見る。
そのクローに捕まったメイガスキャリバーン。
今までなら――。
助けに行った。
私のほうが上手いから。
でも。
それでも――!
「……分かった」
『え?』
「そっちは任せた!」
ほんの一瞬、通信が静かになった。
『……うん!任せといて!』
その声を聞いて、私はヴァサーゴへ向き直った。
ヴァサーゴが残った右腕でビーム砲を構える。
私のシリウスも構える。
『いいのか?』
「何がです?」
『助けに行かなくて』
「……行きたいですよ」
『なら――』
「でも」
シリウスが照準を合わせる。
「アスカが任せてって言ったから」
『――なるほど』
「だから――」
スラスターが火を噴く。
「私はあなたを倒します!」
その瞬間、ヴァサーゴに迫る。
ヴァサーゴの初弾を避けビームライフルを放つ。
ヴァサーゴも避け距離を保とうとする。
互いの射撃が幾度も交錯する。
さっきまでの戦いと似ている。
でも――
さっきとは全く違う。
アスカを見なくていい。
いや――。
見なくてもいい。
―――だって背中を任せたから。
「はぁっ!」
ヴァサーゴの射撃を避け、距離を詰める。
『やはり速い!』
「今度は逃がさない!」
ライフルを的確に狙われるのを利用しヴァサーゴへ投げつける。
その隙にビームサーベルを引き抜く。
ヴァサーゴも距離を詰められることを読み、ビームサーベルで受け止める。
再び互いの光刃がぶつかりあう。
一方――。
「このぉぉぉぉ!!カニみたいなくせに!!」
メイガスキャリバーンがアシュタロンのクローの中でもがいていた。
『だから暴れるな!』
「先輩が離してくれればいいじゃん!」
『それじゃ勝負にならんだろ!』
「じゃあ――」
手首をひねり、ロッドの推進力を利用して二機の上下を入れ替える。
アシュタロンを下側にしたまま、その勢いで地上へ向かった。
地上スレスレでキャリバーンの脚が、アシュタロンの胴体を蹴る。
瞬間アシュタロンが地面に引きずられる。
「いい加減!離せぇぇぇ!!」
『痛たたたたっ! いや痛くないが!』
「気分的に!?」
『そう、気分的にだ!』
アシュタロンの拘束が僅かに緩む。
『今だ!』
ロッドを上に向け至近距離で推進器の出力を上げた。
『うわっ!?』
至近距離でいきなり推進器を全開にされた反動で、ついにキャリバーンがクローから抜け出す。
「やった!」
『アスカ!』
「無事脱出成功!」
思わず画面に向かってピースをした。
『ナイスだよ!アスカ!』
――
『無事脱出成功!』
そういってピースするアスカをみて思わず笑ってしまう。
本当に。
何をするか分からない。
でも――。
だから面白い。
『兄さん!』
『ああ!』
先輩二人の声が重なる。
満身創痍のヴァサーゴがシリウスから距離を取る。
一方、地面に埋まりかけていたアシュタロンも起き上がり、キャリバーンから離れる。
二機が並ぶ。
「……来る」
『え?』
「アスカ、気をつけて。多分ここから――」
ヴァサーゴとアシュタロン。
二機が同時に構える。
『――決めに来る』
『マジか!あたし大丈夫かなぁ?!』
「多分!アスカならやれる!多分だけど!」
『確証じゃないんだ!!』
『聞こえてるぞ。まさかこれほどの実力とは恐れ入った。』
シキヤが答える。
『初心者だからって舐めないでよね!!』
アスカも随分乗ってきたみたいだ。
『そうだな、初心者相手でも容赦せん!』
『決めよう!兄さん!』
一瞬の静寂が戦場を包む。
勝負は次の瞬間に決まる。そんな確信が、全員の中にあった。
――来る。
『行くぞ』
『やろう、兄さん』
それだけ。
アシュタロンが変形し飛び立つ。
MA形態となり上空へ。
それにヴァサーゴも飛び乗り空へ向かう。
――最初と同じ。
「アスカ!」
『うん!』
メガソニック砲。あの様子なら、おそらく撃ててもあと一回が限度のはず――
『『これで終わりだ!』』
私たちの上空で二機がばらけ同時に攻撃する。
アシュタロンから射撃。
「アスカ!―――」
『分かってる!』
行動を言おうとしてアスカが先に動く!
メイガスキャリバーンが自分から機体を捻った。
光弾をかわす。
あれはさっきの私の動き……!
「……!」
『今度は見えてるよ!』
「アスカ……」
『三回目なんだから、ちょっとくらい成長するって!』
「そっか!」
思わず笑みがこぼれる。
なら。
私も――。
ヴァサーゴが機体の制動を捨て、直下へメガソニック砲を放つ。
でも当たらない。
アシュタロンが急降下。
キャリバーンのもとへ。
「アスカ!」
『うん!』
今度は細かく言わない。
キャリバーンがアシュタロンのクローを難なくかわし、
そのままロッドから撃つ。
『クソッ!動きが変わってる!』
オリハは悪態をつきながらも、アシュタロンを上昇させ、ヴァサーゴを回収する。
「……できてる」
『え?』
「なんでもない!」
でも。
先輩たちの方が、まだ上。
アシュタロンの上で立て直したヴァサーゴが吶喊する。
狙いは――アスカ。
「!」
反射的にシリウスを動かす。
「アスカ!」
『え?』
ヴァサーゴの伸長したストライククローの強襲に割り込んだ。
「くっ!!」
シリウスのビームシールドへの直撃。
ビームシールドで威力を軽減しているとはいえ、機体も無傷では済まない。
「くっ!」
『レイ!!』
「……っ」
『レイ、大丈夫!?』
「大丈夫……!」
立ち上がる。
ビームシールドは――。
――だめだ、基底部がやられた。
もう使えない。
『なんで……』
「え?」
『なんで庇ったの!?』
「なんでって――」
『あたし避けられたかもしれないじゃん!』
「でも、もし当たったら――」
『だからって!』
アスカの声が少しだけ強くなる。
『あたし、守ってもらうためにここにいるんじゃないよ!』
「……!」
『二人で戦うんでしょ!?』
言葉が出ない。
二人で。
戦う。
『レイ!』
「……うん」
コントローラーを握りなおす。
「ごめん、任せるって言ったのに。」
『え?』
「今度は――」
前を見る。
二機の悪魔がやってくる。
ヴァサーゴ。
アシュタロン。
「ちゃんと、二人で戦おう」
『……うん!』
先輩二人が再び動く。
アシュタロンが巨大なクローを突き出して突貫する。
その背にはヴァサーゴ。
さっきの攻撃と全く一緒。
近距離での破壊力を重視した攻撃。
でも――。
今度は違う。
私はアスカを見る。
メイガスキャリバーンがビームサーベルを構える。
アスカも、こちらを見る。
「アスカ」
『なに?』
言いかける。
右へ行って。
ヴァサーゴの攻撃を避けて、
アシュタロンへ切りつけ。
頭の中には、いくつもの指示が浮かぶ。
でも。
全部、飲み込んだ。
「――合わせて」
一瞬。
『……ふふっ』
「何?」
『いや、やっとそれ言ったなって』
「え?」
キャリバーンが翔ける。
『了解!行くよメイガス!』アスカが笑いながら言う。
私も笑みをこぼし、
「行こう、Gシリウス!」
愛機に呼びかけた。
二機が同時に加速する。
ヴァサーゴのクロー。
アシュタロンの射撃。
私たちに言葉はない。
私は
アスカは――
別々の方向へ散る。
『兄さん!』
『ああ!』
先輩たちも対応。
ヴァサーゴがGシリウスへ。
アシュタロンがメイガスキャリバーンへ。
――分かれた。
(今だ。)
「アスカ!」
『分かってる!』
その時、それぞれ敵の真横をくぐり抜け、二機が交差する。
その瞬間、
「――!」
ここに言葉はない。
でも――お互いがするべきことを理解していた。
Gシリウスは――アシュタロンへ。
メイガスキャリバーンは――ヴァサーゴへ。
『『入れ替わった!?』』
「アスカ!」
『いっけぇぇぇ!!』
メイガスキャリバーンがヴァサーゴの背中へビームサーベルを振り下ろす。
アスカの剣筋は――まだ甘い。
本来なら、真正面では避けられる。
でも――。
今、ヴァサーゴの意識は――私に向いている。
その意識外からの攻撃は実力以上に通る!
『兄さん!』
アシュタロンがヴァサーゴを庇おうと、変形しながら反転する。
でも。
「させるかぁぁぁっ!!」
シリウスが、その変形中の隙を切り裂く。
「「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!」」
二つの閃光が――。
ヴァサーゴとアシュタロンへ向かって、同時に駆け抜けた。
―――Battle Ended―――
戦いが終わり、システムからプラフスキー粒子の光が消えていく。
激闘により崩れたビルも。
ビームに焼き払われた道路も。
戦いの空気さえも。
全部が夢幻のように消えていく。
そして、バトルシステムの上には四機のガンプラだけが残された。
「…………」
私はしばらく何も言えなかった。
Gシリウスを見る。
装甲のあちこちが煤汚れ、ところどころに戦いの痕跡を残していた。
その背中にはメイガスキャリバーン。
こっちも無傷とは程遠い。
それでも、ちゃんと立っていた。
「…………勝った…の?」
隣から声がする。
見ると、アスカが呆然と立ち私を見つめていた。
「……うん。」
「…………。」
「勝ったんだよ、私たち」
「…………!」
アスカがゆっくりこちらを見る。
そして――。
「っやったああああああああ!!」
「うわっ!?ちょっと何ッ?!」
いきなり抱きつかれた。
「やった!やったよレイ!あたしたち勝ったんだ!」
「ちょっ、わ、分かった!分かったから!ちょっと離れて!」
ハグされることに慣れていないからか、顔が熱くなるのを感じる。
「だって私たち初めて二人で戦って勝ったんだよ!?」
「分かったって!」
なんとかアスカを引き剥がす。
……まったく。
さっきまであんな戦いをしていたとは思えないような喜び方だった。
「ねえレイ!」
「今度は何?」
「最後のあれ!すれ違ってズバッてするやつ!」
アスカが興奮したままメイガスキャリバーンを指差す。
「あたし、すごくない!?」
「自分で言っちゃうんだ……」
「だってさ! レイも何にも言わなかったじゃん!」
「……まあね」
「なのに、なんていうか……」
アスカは少し考えてから、
「『こうだ!』って分かったの!」
「…………」
「なんて言えばいいんだろ。レイなら絶対こっちに来るっていうか……」
こういう時、ガンダムの世界ならニュータイプ的な感覚とでもいうのだろうか。
でも、あの時感じたのは間違いのないたった一つの確信だった。
アスカならやってくれるって。
「……私も」
「え?」
「私も、アスカなら絶対にやってくれるって思った」
「…………」
最後の瞬間。
私は細かい指示を出さなかった。
いや――。
出さなくてもいいと思った。
標的の位置も、
何をするかも、
そんなことを言わなくても。
――アスカなら分かる。
そう思ったから。
「これが……
つい声が出てしまう。
「え?」
「二機で戦うってことは、そういうことなのかも」
まだ分からない。
今日初めて組んだばかりの私たちが、お互いを本当に読み合えていたなんて思わない。
それでも――。
少しだけ分かったような気がした。
「……そっか」
アスカが自分のガンプラを見る。
そして嬉しそうに笑った。
「じゃあ、あたしたち
「…………。」
「何その間!?」
「いや、調子乗るの早いなぁって思って」
「ひどい!?」
がーんという音がしそうなほどがっかりしているアスカを見て、思わず笑ってしまう。
……でも。悪くない。
ふと、そう思った。
「――全く……我々の完敗だな」
「!」
声に振り向く。
シキヤが、破損したヴァサーゴを手に取っていた。
「まさかMAV初心者の二人に、俺たちの連携を崩されるとはな……」
「兄さん……」
隣で弟の方もアシュタロンを回収している。
そして、二人の視線が――アスカへ向いた。
「え……なに?あたし?」
「特に最後の動きだ。」
「最後?」
「あれは彼女の作戦か?」
シキヤがレイに目を向ける。
「……違います」
「そうか……」
シキヤは上を見上げ少しだけ笑った。
そして私たちに向き直り、
「覚えておこう」
それは、私たちの戦いに対する賞賛の言葉だった。
「……!」
「そして次に戦う時まで、その動きを忘れるなよ」
そう言うと、二人はガンプラをケースへしまい店を後にする。
「…………。」
(少し変なところはあるけど戦って気持ちのいい人たちだったな……。)
そう思いながら横を向くとアスカが固まっていた。
「ちょっとアスカ?」
「……今って、」
「ん?」
「今って、あたしたち褒められてた?」
「多分」
「…………。」
アスカが拳を握る。
「よっしゃ!」
改めて喜びを表現するアスカ。
「だから調子乗るの早いって」
「いいじゃん! 今日くらい!」
まあ……。
初めてだし、今日くらいならいいか。
私も少しだけ、そう思った。
「――随分と嬉しそうだな」
「「!」」
いつの間にいたのか、バトル室の入り口で店長が腕を組んでこちらを見ていた。
「て、店長!見ました!?あたしたち初めてなのに勝っちゃいました!」
「たわけが、店のバトルシステムを使っているのだから嫌でも目に入る」
「ですね!えへへ」
「……アホ」
「レイ今アホって言った!?」
「言ってない」
「言った!」
そんな私たちを見て、店長はやれやれと小さくため息をついた。
「まあいい。即席にしては及第点といった戦いだ。」
「ですよね!」
「だが、まだ甘い。気を抜くなひよっこども――」
それだけ言って、店長は店の奥へ戻っていった。
◇
「フフフ~ン♪フフ~ン♪」
帰り道。
戦いの余韻がまだ冷めないアスカは、上機嫌に鼻歌を歌いながら歩いていた。
(なんで選曲が、plasmaなんだろ……)
そんなことを思いながら今日の戦いを思い出す。
――やっぱり、私ガンプラバトル好きだな。
1年離れていただけなのに遠く感じていた感覚がよみがえってくる。
戦いの高揚も、刹那の緊張感も、忘れようとしていた家族との思い出さえも。
私、もう一度戦いたい。戦い続けたい。戦い続けなきゃ。
過去の亡霊のように、そんな忘れるべき信念が小さいながらも私に戻りつつあった。
そんな中、二人帰路を歩いているとアスカが急に声をかけてくる。
「レイはさ、今日どうだった?」
「……いきなり何?」
「あたし、今日すっごく楽しかったんだ!今までなかったくらい!」
「うん……私も楽しかったよ」
「そっか!だったらさ!もっとやろうよ!」
アスカが私の前で手を広げる。
「もっと、もっと!いろんな人と!私たち二人で!」
その言葉に、希望を抱いてしまう。
この子となら、行けてしまうかもしれない。
”かつて願ったあの約束の舞台まで”
「うん、いいね。やろうか、私たち二人で」
「うん!」
アスカの純粋な喜びに隠れるようにして、私の中の想いも再び光を取り戻し始めていた。
「でもその前に、まずはガンプラ修理しないと。」
「……あ」
「アスカのキャリバーン、ボロボロじゃん」
「レイぃ……明日から直し方教えてぇぇ……」
さっきまでの勢いはどこへやら、アスカの声はすっかり情けないものになっていた。
そんなこんなで彼女たちの初めての二人での戦いは幕を閉じた。
一人は、二人の戦いに可能性を見出した。
一人は、二人の戦いそのものに楽しみを見た。
二人ならどこまでも行けると。
次回予告
勝った! 勝ったけど――ガンプラがボロボロ!?
シモコオリ兄弟との激戦を終えたレイとアスカ。
初めて二人で掴んだ勝利に大喜び!
……なんだけど。
「レイぃ……これ、直る?」
「直すの。というかアスカも直すんだよ」
「アタシ、直せるのかなぁ!?」
戦ったら、壊れる!
壊れたら、直す!
今度の戦場はバトルフィールドじゃなくて、作業机!?
アスカ、初めてのガンプラ修理に大苦戦!
ところが――
「ふっ……実にいい!」
「……誰?」
「ガンプラを愛し! ガンプラに愛される者! その名も――」
「うるさいぞ、マシマ」
「店長!? まだ名乗っている途中です!」
アクシズホビーに現れた、ハンマ・ハンマを愛する一人の騎士!
その名は、マシマ・セロ!
果たして彼は、頼れる先輩なのか!?
それともただの変な人なのか!?
「レイ、あの人どっち?」
「……変な人」
「即答!?」
次回、ガンダムビルドファイターズ STARS!
第3話「アクシズの騎士」
ガンプラバトルだけが、ガンプラじゃない!