ガンダムビルドファイターズ STARS   作:JOE596

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第5話『目覚める翼』

 

ミカムラ・レナとの対決から、数日が経った。

 

大破したメイガスキャリバーンも結局私が手伝いながらひとまずの形には戻っていた。

だが、それからというもの、アスカは授業中まで何かを熱心に書き続けているようだった。

 

『.....ねぇ、アスカ。アスカってば』

授業中なのに、見るからに上の空で何かを書いているアスカが気になり、小声で声をかける。

『アスカ.....ちゃんと授業聞いてる?』

『.....んあ?うん、聞いてる聞いてるって』

私の声にアスカは生返事を返したが、すぐにまたノートへ視線を落としてしまった。

(こりゃあ後でノート見せてあげないとダメかな.....。)

そんなことを思いながら、黒板に向き直る。

今は国語の時間だった。

(確か、女みたいな名前がコンプの主人公の話だったはず……。って、なんか他人事じゃない名前だな)

思わず、心の中でツッコミを入れてしまった。

 

「――この部分では、自身の名前を女性の名前と勘違いされた主人公の心情について。じゃあそこ。」

教科書の内容について説明していたエマ先生がアスカをさす。

「シュトウさぁーん。この時の主人公の心情を答えてください」

「……ん、えっ、あっ! はい!」

アスカが勢いよく立ち上がった。

慌ててノートを隠したせいか、持ち上げた教科書は上下逆さまだった。

「えーっと……推力について考えてました!」

「……私は心情について聞いています」

「あっ」

(やっぱり聞いてなかった)

私はアスカに耳打ちする。

『アスカ!今国語の時間だよ!』

『やばっ!なんも聞いてなかったよ~』

アスカが不安そうにこちらを見る。

「まったく.....。ちゃんと授業を聴かないと後で知りませんからね。じゃ代わりに、コバヤシさん―――」

先生はあきれた様子で別の人を当て、授業に戻ったようだ。

『ふー、助かったぁ.....』

アスカが先生にペコペコ頭を下げつつ席に戻る。

『アスカ、最近ずっとそんな感じだよね?何書いてんの?』

先生に聞こえないよう声を落とし、アスカの手元を覗き込む。

『あー、うん。さすがにわかっちゃうよね.....。昼休み、ちょっと聞いてもらってもいい?』

アスカは少し恥ずかしそうにノートを隠しながら、そう言った。

(アスカが隠すなんて珍しい。……まさか恋愛系とか?)

柄にもなくそんなことを考えてしまう。

(.....いや、ないか)

私は小さくうなずいて、再び黒板へ視線を戻した。

 

        ◇

 

昼休み。

 

授業が終わってすぐに、アスカが声をかけてくる。

「レイ!ご飯食べながらなんだけど聞いてもらってもいい?」

そういって机をこちらに寄せる。

「ん、いいよ。」

「ありがと、これなんだけどさ」

そういってアスカは熱心に書いていたノートを見せてくる。

表紙にはデカデカと、

〈メイガスキャリバーン 大改造案!!!〉

と書かれていた。

「.....。もしかしなくても、これって―――」

アスカのほうを見る。

「――そう。アタシこの前レナさんと戦って思ったんだ!もっと強くなりたいって」

そういうアスカの目には強い決意を感じた。

「んで、アタシ自身の経験だけじゃなくってもっとメイガスをアタシに合わせていきたいなって思ってさ!」

そういって、ノートをめくりスケッチを見せてくる。

(結構アスカ、絵がうまいな.....。)

そこには、メイガスの改造案らしいスケッチがびっしりと描かれていた。

私はページを一つ一つ確認していく。

そうしてめくっていく中で一つのページで止まる。

「―――!アスカこれって.....!」

「.....うん、そこを相談したくってさ.....。」

そこには、ベース機を変更した場合の案(・・・・・・・・・・・・・)が書いてあった。

今のメイガスはキャリバーンを中心に組んでいる。

けれど、そのページに描かれた機体は違った。

中心に据えられているのは――ルブリス・ジウ。

水星の魔女の機体からは変わらないものの、大規模な変更になる案だった。

「でも、アスカ。どうしてこの案を?」

私は少し不安になりアスカに尋ねる。

「アタシ思ったの。この前の戦いのとき、どんどん動きを見る中で、少しずつメイガスとの感覚がずれていく感じがしててさ」

そういって、アスカはスケッチをなぞる。

「それで最後さ。二本あるのは分かってたんだよ」

アスカは、ノートの上で二本の線を指でなぞった。

「ガーベラ・ストレートも見えた。避けられた」

「でも、その瞬間にもう一本が頭から抜けちゃったっていうか……見えてたはずなのに、追えなくなったんだよね」

「だからさ」

「もっと、アタシが見たものとか、考えたこととかを、そのままメイガスに伝えられないかなって」

「今のメイガスって、最初は“カッコいい!”って思ったパーツをいっぱい付けたじゃん?」

「だから今度は、アタシがどう戦いたいかを先に考えて作ってみたい」

(なるほど。今のメイガスは、好きなパーツを組み合わせて作った機体だ。だからこそ、アスカ自身の戦い方を基準に組み直す余地は大きい―――)

 

そんな中、私はアスカの言葉を聞いて、疑問がわく。

「でもさ、なんでルブリス・ジウに変えるの?」

「ジウってさ、なんか“自分の手で戦ってる”感じ強いじゃん?

 それに、こっちの方が周りを見るためのセンサーとかも増やせそうだし、

 もっとこう……メイガスと一緒に動いてる感じにできないかなって」

そういって、スケッチを指さす。

(身体感覚に近い操作性と、認識範囲の拡張……か)

私は少し考えこむ。

(しかもルブリス・ジウか。確か、GUNDによる身体拡張をより強く意識した機体だったはず)

「とりあえず、ジウを中心にしてみようかなって」

「キャリバーンのパーツも残したいし……」

「あとは、もっと動けるようにして……」

「ここから先が分かんない!」

(なるほど、確かにそれならアスカの戦い方に合ってる気もする。でも―――)

アスカがどうにも無理をしているように聞こえてしまった。

 

「ねぇ、アスカ。本当はどうして変えるのか教えてくれない?」

「.....ッ!」

アスカはそれを聞いて図星を突かれたように反応した。

「.....。ほんとはね。もう今のメイガスは戦わせたくないんだ。」

アスカがうつむき、つぶやく。

「ボロボロにして、直して、また戦って……なんかさ」

「もう“最初に作ったガンプラ”ってだけじゃなくなっちゃって、残しておきたいなって思ったんだ.....。レイはどう思う?」

アスカが不安げにこちらを見る。

その気持ちは、少しだけ分かる気がした。

戦わせるために作ったはずなのに。

傷ついてほしくないと思う機体がある。

私にも、一機だけ心当たりがあった。

同じように悩んだことを思い出す。

 

「――いいと思うよ」

「メイガスを残して、新しい機体を作る。それだってアスカの選び方でしょ」

そして何より、

「ガンプラは戦うだけじゃないし、なにも間違いはないと思うよ」

私はアスカのノートをもう一度こちらへ引き寄せた。

「じゃあ、一緒に考えよっか」

「……いいの?」

「なんで私に聞くの?」

「だってレイ、こういうの大事にしそうだし……」

「大事にはするよ」

私は机の上のノートを見る。

「だからって、同じ機体で戦い続けなきゃいけないわけじゃないでしょ」

「ガンプラは、戦うためだけのものじゃないんだから」

「……うん!」

アスカの顔が一気に明るくなる。

「じゃあ放課後、店行こう!」

「最初からそのつもりだったでしょ」

「バレた?」

「授業中ずっとそれ書いてた人が何言ってるの」

 

気がつけば、昼休み終了のチャイムが鳴っていた。

ノートの上には、まだ名前もない新しいメイガスの姿が、少しだけ増えていた。

 

        ◇

 

放課後。

 

終礼が終わるなり、アスカは教科書を机の中へ押し込み、勢いよく鞄を肩に掛けた。

「レイ!早く行こ!」

昼休み以降、余計に熱が入ったようでかなりテンションが高かった。

「そんなに急がなくても、お店は逃げないよ」

「でも今日中に、ちょっとでも方向性決めたいじゃん!」

あれだけ話したというのに、もう頭の中は新しい機体のことでいっぱいらしい。

私は苦笑しながら鞄を持ち上げる。

「はいはい。じゃあアクシズホビーに――」

「――まったく、やっと出てきたな」

教室を出たところで、聞き覚えのある声がした。

廊下の壁際に、二人の男子生徒が並んで立っている。

そこにいたのはシモコオリ兄弟だった。

「……うげ」

アスカが、分かりやすく嫌そうな声を漏らした。

オリハがわずかに眉を上げ引きつり気味になる。

「随分と嫌われたものですね、兄さん」

「気にすることはない、オリハ。俺たちは以前、少しばかり手荒く歓迎してしまったからな」

「あれが“少しばかり”で済むと思ってんですか!?」

即座にアスカが噛みつく。

シキヤは悪びれた様子もなく肩をすくめた。

「だが、最終的には楽しんでいただろう?」

「どこ見てそう思ったの!?」

「兄さん――」

弟が静かに口を挟んだ。

「彼女たちは、まだ俺たちを警戒しているようですよ」

「そのようだな」

二人の視線が、ほとんど同時にこちらへ向く。

相変わらず妙に息が合っている。

そして相変わらず、少しだけ癪に障る。

「で、今日は何ですか?」

私が尋ねると、兄弟は一度だけ視線を交わした。

「うちの部長がお呼びだ」

「君たちに話があるそうですよ」

「部長?」

アスカが首を傾げる。

「君たちは、まともに話すのは初めてだろうが」

「あー……もしかしてあの、すごく怒ってた人かな?」

「聞こえているぞ」

背後から鋭く響く声が飛んできた。

「ひゃっ!?」

アスカが跳ねる。

振り返ると、腕を組んだ女生徒が立っていた。

おそらく制服から見て、この先輩が部長なんだろう。

「お前ら。余計な前置きはいい」

「だが、ナタル――」

「俺たちはただ――」

「いいと言っている!」

ぴしゃりと言われ、二人が揃って口を閉じる。

……普段から苦労しているんだろうな。

なんとなく、そんなことを思った。

「カミユイ・レイ、シュトウ・アスカだな」

部長が私たちを見る。

「少し時間をもらいたいのだがいいかな?」

 

        ◇

 

私たちの教室から離れた部室棟にその部はあった。

〈星海高等学校ガンプラバトル部〉

デカデカと書かれた看板にはニッパーやガンダムの各組織のマークなどが書かれていた。

(近くは通ってたけど、学校の部室ってなんだかんだ初めてだな.....)

そう思いながら、中に入る。

「.....なんか思ってたよりちゃんとしてるね。」

きょろきょろと見まわしながら、アスカがつぶやく。

壁際には工具棚や塗料、予備パーツが整然と並び、中央にはいくつもの作業机。奥にはバトルシステムまで置かれている。

一角にはトロフィーや写真が飾られており、かなり実績がある部のようだった。

「……確かに。」

私も、てっきり部活だからそんなに大した設備はないかと思っていた。

「兄さん。彼女たちは我が部を随分小さく見積もっていたようだね」

「まったく、嘆かわしい限りだ」

わざとらしくヤレヤレとした演技をしている。

アスカはそれを見て少し引き気味にしているようだった。

私はそんなやり取りを横目に、部室の中を見回す。

(部員も、思っていたより多いな.....)

 

机に向かって黙々とパーツを削っている人。

何人かでバトル映像を見ながら議論している人たち。

何かを見ながらパーツを塗っている上級生。

そして――。

部屋の一番奥。

二人の部員が、並んで機体を整備していた。

二人とも見た目はこの中で一番地味に見えた。

その手元には緑を基調とした同型機。

(多分、スタークジェガンかな?)

派手な改造は見当たらない。

そのはずなのに。

なぜか目に留まった。

彼らの整備を見ているとお互いが何を必要としているのかを分かっているかのように、

無言で工具や、紙やすりを手渡している。

(……言葉もないのに、次に必要な工具が分かってる?)

そう思えてしまうほど、彼らの間に言葉はなかった。

(.....バトルでも、あんな風に動くのかな?)

私はその作業風景につい見入ってしまった。

 

「何見てんの?」

アスカに声を掛けられ、私は視線を戻した。

「いや、別になにも」

ふーん、と言うアスカと一緒に部室の一角に案内される。

彼らの応接用のブースのようだ。

部長が目の前に座る。

「挨拶が遅くなってすまない。改めて私はナタル、この部の部長をやらせてもらってる」

綺麗な姿勢のまま会釈をしてきたので私たちもつられて会釈をした。

(なんか軍人みたいな人だな.....。)

「今日呼び止めたのは二つ理由がある」

ナタル部長が話を続ける。

「まず、先日の件だ」

そう言って、近くにいるシモコオリ兄弟へ視線を向ける。

兄弟そろって視線をそらした。

「あいつらが新入生相手に必要以上に熱くなった件についてだ。入学早々申し訳ないことをした」

「熱くなったって……」

アスカが小さく呟く。

ナタル部長は構わず続けた。

「そもそも入学したばかりの生徒に対し、上級生としての立場を忘れ、容赦のない戦い方をしたのは事実だ」

兄の方が静かに口を開いた。

「俺たちなりに、最大の敬意を払ったつもりだがな」

「――兄さん!」

不服そうな兄に対しオリハが制するように呼ぶ。

ナタル部長の眉がわずかに動いた。

「シキヤ」

「なんだ?」

「口を挟むな」

「……承知した。もう何も言わん」

ふてくされたのか口を閉じたようだ。

ナタル部長は改めて私たちへ向き直る。

「部の責任者として謝罪する。すまなかった」

「いやいや、そこまでしなくても大丈夫ですッ!」

アスカが慌てて手を振った。

「まぁ、私たちが勝ったんで」

「ちょっ!レイってば!」

「――そうか」

ナタル部長は苦笑交じりに頭を上げ、それ以上引っ張らなかった。

「なら、二つ目だ。お前たち――」

一拍。

「ガンプラバトル部に興味はないか?」

「「……え?」」

アスカとほとんど同時に声が出た。

「私たち?ですか?」

「そうだ」

ナタル部長は迷いなく答える。

「先日の戦いを後から見させてもらった。カミユイ。もしかしなくても君は経験者だな?」

「……まぁ、昔は」

「そしてシュトウ。君は経験こそ浅いが、咄嗟の判断は悪くない」

部長に褒められうれしいのかアスカの表情が少し明るくなる。

「え、褒められ――」

「ただし粗い。そこはまだ初心者だな」

「ですよね……」

アスカがガックリと肩を落とす。

「だが――」

ナタル部長は続ける。

「粗いことと、見込みがないことは別だ」

必要以上に持ち上げない。けれど、見るべきところはちゃんと見ている人のようだ。

「この部には見ての通り、設備もあり、練習相手も多いから学べることは多いだろう」

そういって、部員たちに視線を向ける。

さっきのジェガンの二人が目に入る。

「……それに」

ほんの少しだけ、口調が変わった。

「うちには、シモコオリ以外にもまだまだ癖の強い連中がいる」

アスカも奥へ視線を向ける。

「……あの人たちも?」

「さあな」

シキヤが、不敵な笑みを浮かべる。

「まぁ、返事は今すぐでなくていい。あくまでも君たちを勧誘しているだけだからな」

そういって穏やかな顔でこちらに視線を戻す。

「だが」

だが急に視線が鋭くなる。

「私とて、君たちのような優秀なファイターを逃す気はない」

まるで標的を狙うかのような目だった。

「……はい」

アスカが少し圧倒されながら返事をする。

私は少し考えてから、

「考えてみます」とだけ返した。

 

        ◇

 

その後、ナタル部長にまた来るといいと見送られ部室を後にした。

私たちは、アクシズホビーに向かいながら話していた。

「ねぇ、レイ。さっきの話どうしよっか」

校門を出てしばらくしてから、アスカが聞いてきた。

「あー、部活のこと?」

「うん」

「……まだ分かんないかなぁ」

「ね、アタシもそんな感じ~」

アスカも同じらしい。

しばらく歩いてから、アスカが振り返る。

「でも、なんか凄そうな人いっぱいいたね」

「そうだね」

「あのオペ中みたいな二人とか」

「アスカも見たの?」

「レイが見てたから、ちょっと気になってみてたんだ~」

「……そういうところだけは(・)鋭いね」

「ふふーん!.....ってだけはってレイ!どゆこと~!」

途中で私のいじわるに気づいたのか問い詰めてくる。

(……アスカ相手だと、つい言いたくなるんだよな)

ごめんごめんとアスカに適当に謝る。

「じゃあとりあえず、今日はアスカの新機体を固めたいね」

「うん!あ~早く作りたいっ!とりあえず早くいこ!レイ!」

駆けだすアスカに「ちょっと待って」と言いながら後を追う。

 

放課後になると、自然に二人で足が向く。

そんなことが、少しずつ当たり前になってきていた。

 

        ◇

 

 

「店長ー! 来たよー!」

アクシズホビーの扉を開けるなり、アスカが店の奥へ向かって声を張り上げた。

「聞けば分かる。いちいち叫ぶな!」

間髪入れず、カウンターの向こうから冷たい声が返ってくる。

「まだ何もしてないのに!?」

「入ってきた瞬間から騒いでいて、何を言うか」

「ぐぬぬ……」

アスカが頬を膨らませる。

私はその横を通りながら、軽く頭を下げた。

「こんにちは」

「フッ――。よく来たな」

店長は私たちを一度見たあと、アスカが抱えているノートへ視線を落とした。

「……また何か企んでいる顔だな」

「企んでるっていうか、新しい機体を作ろうと思って!」

「ほう――」

店長の目が、ほんの少し細くなる。

その声を聞きつけたのか、少し離れた作業台でガルスを調整していたマシマさんが勢いよく顔を上げた。

「新たなる機体だと!?」

「うわっ!!」

急な大声で驚き、思わずアスカが転びそうになる。

「フフフ……ついに来たか!」

マシマさんは立ち上がると、妙に芝居がかった仕草でこちらへ歩いてくる。

「敗北を糧とし、新たなる力を求める若き勇士.....!実に結構! 実に素晴らしい!」

「なんか話、大きくなってないですか.....?」

アスカが若干引き気味に言う。

「何を言う!」

マシマさんは胸を張った。

「敗北とは終わりではない! 次なる勝利への――」

「喧しい!」

店長の一言が飛ぶ。

「ハマノ様!?」

「接客の邪魔だ、席に戻れ」

「し、しかし、私は激励を――」

「邪 魔 だ」

「くっ……相変わらず容赦がない.....が、そんな姿もお美しい.....!」

私とアスカは小さく笑い合いながら、いつもの作業台へ向かった。

アスカも鞄から昼休みに見せてくれたノートを取り出し、机の上へ広げる。

「で、さっそくこれなんだけどさ――」

昼休みの時より、さらに線が増えていた。

キャリバーンを中心にした胴体。

ルブリスジウを頭部と四肢に使ったパーツ構成。

そして背中には、まだ輪郭だけの大きな何かが描かれている。

翼――にも見えた。

「……増えてる」

「今日の授業のあと、ちょっと思いついて」

「終礼まで考えてたでしょ」

「えへへ、バレた?」

「バレバレ」

アスカがえへへっと笑う。

「でもさ、まだ全然まとまってないんだよね」

そう言って、ノートの上を指でなぞる。

「とりあえず動きやすさ中心にして、キャリバーンのパーツも残して……」

そこまで言って、指が止まった。

「それで……」

少し困ったように笑う。

「ここから先が分かんない」

昼休みに聞いた時と同じだった。

作りたい方向は見えている。

でも、それをどういう形にすればいいのかは、まだ見えていない。

「ふむ、なるほど」

横からノートを覗き込んでいたマシマさんが、顎に手を当てた。

「察するに、求めるものは速さではない。己と機体、その二つを一つとする感覚……ということか?」

「そうそう!そうなんだよ!」

アスカが勢いよく頷く。

「アタシが右って思ったら右!左って思ったら左!みたいな!」

アスカが身振り手振りで伝えるべくバタバタする。

「もっとこう……考えた瞬間に、メイガスも一緒に動いてくれる感じ!」

「なるほど!」

マシマさんが深く頷く。

「つまり――」

一拍。

「……」

ドヤ顔のまま、固まってしまう。

 

そして、おもむろにスマホを取り出した。

「少し!待て!」

「やっぱ分かってないじゃん!」

「違う!違うぞ!」

誤解だというように、マシマさんが大きく手を振る。

「私はちゃーんと理解しているとも!」

そしてこちらを見て話す。

「だが、より正確を期すならば、専門家の意見も聞くべきだ!

 己一人の思い込みに固執する者は二流だ!」

「急にそれっぽいこと言って誤魔化してない.....?」

思わずつぶやく。

「断じて違う!」

そう言いながらマシマさんは気にせず、スマホを操作し始めた。

「こういう時こそ、彼の知見を借りよう!」

「彼?」

アスカが首を傾げる。

「技術中尉殿だ!」

(……すごい呼び方の人が出てきたなぁ)

内心、あきれていた。……また濃い人が出てくる、と。

「知り合いなんですか?」

そういって私が尋ねると、マシマさんは妙に誇らしげに胸を張った。

「無論!その通りだとも!」

「以前、この店で知り合った男でな。その時は、随分と細かい技術マニアだと思っていたのだが――」

そういってスマホでどこかに打ち込んでいく。

「後になって、同志の中では“技術中尉”などと呼ばれていると知った!」

「なんで中尉なの?」

アスカが聞く。

「それについてはとても長くなる!」

「じゃあいいや」

アスカは興味がないようにノートに向き直る。

「待て!少しは興味を持て!」

マシマがアスカにツッコむ。

 

そんなやり取りを横目に、私も、もう一度アスカのノートへ視線を戻した。

身体感覚に近い操作性。

認識範囲。

反応。

アスカがレナさんとの戦いで感じた問題を、少しでも機体側から埋めようとしている。

(……アスカが変えるなら)

ふと、別の考えが浮かんだ。

私は机の端に置いていたGシリウスのケースへ目を向ける。

ケースを開け、Gシリウスを取り出す。

「レイ?どうしたの?」

マシマをほったらかして、アスカが尋ねる。

「ちょっと、ね」

手に取ったのは、今まで使っていたビームライフルだった。

 

これまでの性能に不満があったわけじゃない。

射程もある。

命中精度も悪くない。

私一人で戦うなら、これで十分だった。

でも。

(アスカがもっと近距離へ入るなら……)

同じ戦い方のままでは噛み合わない。

アスカが前へ出る。

私は少し後ろから、それを支える。

敵が二機いるなら、アスカが一機に食いついている間、もう一機を自由にさせない。

必要なのは、遠くから撃ち抜くための銃じゃない。

もっと近い距離。

もっと速く、すぐに手を出せる距離。

そう考えて、一体のMSを思い出す。

(……ちょうどガンダム(RX-78-2)のような中近距離仕様か)

「レイ?」

もう一度呼ばれ、顔を上げる。

「今度は何?」

「いや、いきなりどうしたのかなって思って.....。」

私はライフルを机の上へ置いた。

「私も、少し弄ろうかなって」

「Gシリウスを?」

「うん」

アスカがぱっとこちらへ寄ってくる。

「どこ変えるの!?」

「まだ決めてない」

「えー!」

「今、考え始めたばっかりだから」

私はもう一度ライフルを見る。

「でも、今より近い距離で使いやすくしたい」

「近い距離?」

「アスカが前に出た時に、すぐ援護できるくらい」

一瞬。

アスカが黙った。

「……それって」

「ん?」

「アタシに合わせて?」

「……まあ」

なんだか照れくさくなり、少しだけ目を逸らす。

「..........相棒(MAV)なんだから、そのくらい普通でしょ」

アスカの口元が、見る見るうちに緩んでいく。

「へへ……」

「何」

ニヤニヤするアスカをジッと見る。

「別にー?」

ちょっとムカついてきたので、アスカの頬を両指で挟む。

「ちょ.....ごめんってば!」

アスカがアヒルの口のようになりながら笑いつつ謝る。

そんなやり取りを、ほっとかれ横で聞いていたマシマさんが、突然大きく頷いた。

「なるほど!」

「互いに機体を変え、互いを補う!まさに信頼によって結ばれた――」

「マシマさん」

「なんだ?」

「静かにして」

「なにぃ!?」

それを見ていた店長が鼻で笑う。

「言われているぞ、俗物」

「ぐぬぬ……!」

私は改めてGシリウスへ視線を戻した。

ライフルは、今より短く。

取り回しを良くして、遠距離精密射撃は切り捨てる。

それで連射性と瞬間火力を上げよう。

でも、その代わり連射時の熱と消費は大きくなる。

長距離から撃ち続ける武器ではない。

アスカが戦っている、その少し後ろで使う。

(あとは――)

Gシリウスの左腕へ目を向ける。

「盾……」

「え?」

「シールド、追加してもいいかも」

今まで、Gシリウスには最低限の防御しか持たせていなかった。

避ければいい。

当たらなければいい。

そう考えていたから。

でも、アスカの援護もやるなら、避けるだけでは足りない。

時には、敵の射線へ自分から入る必要もある。

「普通の盾?」

アスカが聞く。

「それだけじゃもったいない」

私はノートの端を借りて、簡単に形を描いてみる。

「ここに小型ミサイルを付ける」

「ミサイル?」

「そう、普通の弾だけじゃなくて、煙幕とかにも換えられるようにする」

「煙幕?」

「アスカが接近する時に視界を切れる」

線を足していく。

「それに、相手がもう一機いるなら牽制にも使える」

話しているうちに、少しずつ形が見えてきた。

「ライフルで中距離から押さえて、

 必要ならミサイルで動きを止める」

敵に見立てた丸の視界範囲にバツを入れる。

「その間にアスカが近距離へ入る」

アスカが目を輝かせた。

「.....!!!なんか!めっちゃプロっぽい!」

「まあ、そのために考えてるからね」

「じゃあ煙の中からアタシがバァーン!って出てくるとか!」

「それ、撃たれない?」

「そこはレイが何とかして!」

「急に雑」

私が苦笑すると、アスカもつられて笑った。

 

        ◇

 

そんなやり取りをしていると――。

「――考え方としては、間違っていないと思います」

聞き慣れない声がした。

私たちは同時に振り返る。

いつの間にか、店の入口に一人の男が立っていた。

工具用のケースを片手に持った、オールバックの金髪の男性がそこに居た。

(顔立ち的にハーフの人なのかな.....?)

その時、マシマさんがぱっと顔を上げる。

「おお!」

そして嬉しそうに手を上げた。

「これは奇遇だな、技術中尉殿!」

男の眉間に、わずかに皺が寄る。

「その呼び方は、ここではやめてください」

「相変わらず固い男だな!」

「あなたが面白がっているだけでしょう」

「ハハハ!そうかもしれん!」

二人のやり取りを見る限り、やっぱり以前から知り合いらしい。

アスカが小声で私に聞く。

「……この人?」

「多分」

「思ったより普通だね」

「聞こえています」

私たちの近くの工作スペースに荷物を置くと男はこちらを見た。

「何を想像していたんですか」

「もっとこう……軍服とかスーツとか?」

「普通、模型店に軍服や礼服では来ません。彼(マシマ)みたいな人以外は.....。」

小声でマシマに嫌味を言うが気づいてないようだ。

マシマさんが満足そうに腕を組む。

「紹介しよう!」

「こちらが――」

「自分で名乗ります」

「む、そうか.....。」

男は私たちの方を向いた。

「オリバ・マイトです。以後、お見知りおきを。私でよければ模型と機構関係の相談でお力になれるかもしれません」

「アタシ、シュトウ・アスカ!こちらこそよろしくです!」

「カミユイ・レイです」

簡単に挨拶を交わす。

オリバさんの視線が、まずアスカのノートへ向いた。

次に、机の上のGシリウス。

そして最後に、マシマのほうを見る。

「……なるほど」

アスカに目線を戻す。

「先ほどの相談は、あなたのことだったんですね」

アスカの背筋が伸びる。

「はい!私です!」

「そうですか」

そう言うと、近くの椅子へ座り彼自身の手帳を開く。

「では」

アスカを見る。

「まず、どういう機体を作りたいかではなく」

少し間を置く。

「前の機体で、何ができなかったのかを聞かせてください」

アスカが目を瞬かせる。

「え?」

「そこが分からないと、改善なのか、単なる変更なのか判断できません」

「速くすればいいのか。見える範囲を増やせばいいのか。

 操作の反応速度を変えるべきなのか。

 全部、別の問題です」

そこには、技術者としての誇りを持ったビルダーが居た。

(この人も、相当なガンプラバカ(私たちと同じ)の人だ.....)

私は失礼にもそんな印象を持っていた。

アスカは少し考えてから、ゆっくり口を開いた。

「前の戦いで……。相手が剣を二本持ってるのは分かってました」

そう言って、アスカはあの時を思い出す。

「一個目も見えたし、避けられた。避けられたはずだった.....。」

「――でも」

指先をぎゅっと握る。

「避けたって思った瞬間、もう一本が頭から抜けちゃって」

声にくやしさがにじんでくる。

「気づいた時には遅くて」

オリバさんは黙って聞いていた。

途中で口を挟まない。

「だから」

アスカは続ける。

「もっとこう……見たものを、そのまま動きにできたらって」

そしてノートの方に視線を移す。

「思った感覚通りに、機体が動いてくれたらって思ったんです」

しばらく沈黙が落ちる。

やがてオリバさんが口を開いた。

「では」

指を一本立てる。

「認識する」

もう一本。

「判断する」

さらに一本。

「入力する」

そして最後に。

「機体が反応する」

四本の指を立てたまま、アスカを見る。

「あなたが縮めたいのは、この間にある時間ですね」

アスカの目が大きくなる。

「それ!多分、それです!」

「そうですか.....」

オリバさんは小さく頷いた。

「なら、まずそこを軸に考えればいいでしょう」

「えっと……じゃあ、どうすれば?」

その問いに、オリバさんは首を横に振った。

「それは、あなたが考えてください」

「えっ」

(.....え?)

私もてっきり何か改善案を出すのかと思ってあっけにとられる。

「私は問題点を整理しただけです」

アスカのノートを見る。

「これは、あなたの機体でしょう」

「……!」

「どう作るかまで私が決めたら」

ほんの少しだけ、口元が緩む。

「あなたの機体ではなくなります」

アスカは一瞬ぽかんとして、

それから、小さく笑った。

「……そっか」

「うん」

そして今度は、はっきりと頷く。

「分かりました!」

その顔は、昼休みにノートを見せてきた時より、少しだけ晴れていた。

答えをもらったわけじゃない。

でも、進む方向は見え始めている。

私も同じだった。

机の上には、ルブリス・ジウを中心にした、まだ名前もない新しい機体。

その隣には、少し短く描き直されたGシリウス用のビームライフル。

さらに、小型ミサイルを備えた新しいシールド。

どれも、まだ完成には程遠い。

それでも。

少し前までなら、誰かと並んで機体を弄るなんて考えもしなかった。

アスカは隣で、楽しそうにスケッチへ線を足している。

マシマさんは何か言おうとして、店長に睨まれていた。

オリバさんは、いつの間にか何かをノートへ書き留めている。

アスカのノートでは、昼には曖昧だった背中の線が、少しずつ翼らしい形になり始めていた。

私はもう一度、Gシリウスを見る。

(……父さん、私やってみるよ)

そう思いながら。

私も、新しい線を一本だけ紙の上へ引いた。

 

 




次回予告

ゴールデンウィーク。
新たな機体を完成させたアスカと共に、束の間の日常を過ごすレイ。
しかし、アクシズホビーに現れた一人の少女が、レイを新たな戦場へと誘う。
赤い機体。
驚異的な速さ。
そして、まるで戦いそのもののようなファイター。
「速い……!」
レイの予測をかわし、常識さえ置き去りにする彼女の戦い。
果たしてレイは、赤き強敵を捉えることができるのか。
そして、この出会いは二人に何をもたらすのか。
一方、華やかな連休の陰で、怪しい者たちもまた動き始めていた。

次回、
ガンダムビルドファイターズ STARS
第6話「星の落ちる日」
彼女たちは、まだ本当のガンプラバトルを知らない。
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