ガンダムビルドファイターズ STARS   作:JOE596

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やたら長くなってしまったので前後編になります。
また今回登場する赤い彼女の来歴はこの作品での独自設定になります。


第6話『星の落ちる日』前編

 

 

アスカの相談から数日。

 

今日からゴールデンウィーク。

私たちは、いつものようにアクシズホビーにいた。

この数日の間だけでも、変わったことが二つあった。

一つは――アスカの機体が完成したことだった。

 

「できたぁぁぁぁぁっ!!」

アクシズホビーの作業スペースに、アスカの声が響いた。

その手には、数日前までノートの上にしかなかった機体がある。

「やっと完成したね」

「やっとだよぉ! ほんと手伝ってくれてありがと! レイ!」

感極まって涙ぐんだアスカが、こちらにお礼をしてくる。

アスカはこの数日間、寝る間を惜しんで新機体を作っていたせいか、学校ではもっぱら居眠りをしていた。

そのたびに私が誤魔化したりノートを見せたりしていたわけだが、どうやらその甲斐はあったようだ。

「無事できたようだな!」

店の手伝いで作業スペースを掃除していたマシマさんが、声をかけてくる。

「うん! マシマさんも手伝ってくれてありがと! これがアタシの新しい相棒っ!」

「――メイガス・ジウ!」

そこには、全体的に白を基調として、オレンジ色のアクセントを加えた機体が立っていた。

『メイガス・ジウ』と名付けられたその機体は、これまでのメイガスキャリバーンとは大きく異なっている。

二丁拳銃のように装備したビームライフル、小さな羽のように見える背部スラスター。そして何より、ルブリスシリーズとキャリバーンを組み合わせ、スラスター数を増加させた脚部が特徴的だった。

アスカ曰く、コンセプトは『一人で飛べる魔法使い』とのことだった。

イメージとしては、SFチックな魔法少女らしい。

正直、アスカの感性はよく分からないままだったけど、嬉しそうな顔を見ていると不思議と私まで笑みがこぼれた。

(とりあえず、アスカの機体も完成したし、本格的にMAV戦の練習もできそうだな……)

そんなことを考えていると、横から声をかけられた。

「完成したんだ! うわ! めっちゃかっこいいね!!」

「うん! やっとできたよ~! ミネハちゃん、もっと褒めて~」

目を輝かせながらメイガス・ジウを見る少女に対して、アスカはさらなる賞賛を求めているようだ。

この子が、変わったことの二つ目。

ゴールデンウィークの少し前、アクシズホビーに新しいバイトの子が入ったと店長から突然言われ、紹介された。

名前はササヒ・ミネハさん。私たちと同じ高校一年生らしい。

どうやら私たちとは別のお嬢様学校に通っているらしく、立ち振る舞いもどこか上品だ。

そのうえかなりの美人だったので、最初は少し緊張したけど、色々あって、アスカのコミュ力にも助けられ、今ではこうして普通に話せるようになっていた。

「アスカ、ミネハに甘えすぎ」

「もー、少しくらいいいじゃん……ケチ!」

「誰がケチだ」

そんなやり取りを見て、ミネハが小さく笑う。

「しかし、今回はかなり思い切って別の機体にしたのだな」

マシマさんが、さっきまで持っていたモップを脇に置き、メイガス・ジウをじろじろと眺めていた。

「そうなの! もっと自由に空を泳ぐみたいに動きたいなって思ってさ!」

「そうか! 早く戦ってみたいものだ!」

マシマさんがそう言って笑っていると、後ろから冷たい声が響いた。

「私の店でサボりとは良い度胸だな、マシマ」

怒られているのはマシマさんなのに、私とアスカまで思わず背筋を伸ばしてしまう。

(なんてプレッシャーなんだッ! 確かにこれは様付けされるよ)

以前、マシマさんから聞いた店長への周囲の評価を思い出す。

ふとマシマさんの方を見ると、有り得ないくらい怯えていた。

「は……ハマノ様……も、申し訳ございません……!」

そう言って、慌てて掃除へ戻っていく。

振り返ると、そこには店長が立っていた。

「ミネハ、もう少ししたらレジが混みだす。準備しておいてくれるか?」

「あ、はい! じゃあ二人とも、また後でね!」

そう言って、ミネハもレジへ向かっていった。

店長に見つめられ、私たちは緊張しながら互いに目を合わせる。

店長はアスカの機体へ目を向けた。

「……ほう、それが貴様の新しい機体か。悪くない。が、実戦でも使えるか確認しておけ」

そう言うと踵を返し、店の奥へ戻っていった。

一気に緊張の糸がほぐれる。

「やっぱ店長って怖いね……」

アスカがビビっている。

「だね。店長は怒らせないようにしよ……」

私もそう言って、一息つく。

 

アスカが何かに思い出したような顔をした。

どうも、先ほど店長に言われたことを思い出したらしい。

「……テストしなきゃね。技術中尉にも『完成したらまず動かして確認してください』って言われてたの忘れてたよ……」

「だね。もうちょっとしたらテストプレイしてみようか」

先日からマイトさんのアドバイスを度々受けていたこともあって、彼とも随分親しくなった。

(マシマさんのせいで、アスカが完全に技術中尉って呼んじゃってるけどね……)

「じゃ、アタシ利用の申請してくる! 多分空いてると思うし」

「分かった。私、先にバトルスペースへ行って準備してるね」

「おっけ~」

そう言ってアスカは、「マシマさ~ん、バトルスペース使いたいんだけど~」と手続きをしに行った。

作業スペースのすぐ隣に、バトルスペースはある。

「さてと、私も準備するか」

私は自分のGシリウスのチェックを始める。

(この前作ったショートビームライフルも、シールドも大丈夫そう……)

そうしてシステムの方も準備しようとしたところで、アスカとマシマさんがやってきた。

「待て待て! それなら私が準備しよう!」

私に代わるようにシステムの準備を始めながら、マシマさんが胸を張る。

「今日は一応、店員だからな!」

「一応なんだ……」

「一応とはなんだ!」

思わず口から出た言葉に、マシマさんが食いついてくる。

「この私が手伝う以上、完璧な環境を用意してみせよう!」

「口を動かす前に早く準備しろ!」

店の奥から、店長の声が飛んできた。

「……承知しております、ハマノ様……」

一気に声が小さくなる。

(ほんと、店長には弱いなぁ……)

アスカも隣で小さく笑っている。

ふと、今さらながら気になっていたことをマシマさんへ尋ねた。

「そういえば、どうしてマシマさんバイトしてるの?」

システムの起動を終えたマシマさんが答える。

「それはだな! ミネハ様が入ってまだ店に慣れていないとのことでな! この私が、ハマノ様のために説明役兼臨時要員として志願したのだ!」

「そうなんですね。じゃ、頑張ってください」

「聞いておいてそれはひどくないだろうか!」

聞いておいてなんだが、さっきから見ている限り、逆にミネハから説明されている姿をちょくちょく見かけていたので、あまり信用はなかった。

 

「よし!」

マシマさんが操作パネルの前で腕を組む。

「システム、問題なし!」

なんだか妙に手際がいい。

「マシマさん、こういうのちゃんとできるんだ」

「失礼な! これくらいできるとも!」

アスカの失礼な感想に、マシマさんが胸を張る。

「私はただ騒がしいだけの男ではない!」

「自覚はあるんだ……」

「レイ君まで!?」

「……プッ、あはははは!」

近くで聞こえていたのか、ミネハの笑い声まで聞こえてきた。

「ミネハ様まで!?」

そんなこんなで、バトルシステムの準備は完了した。

今回はあくまでテストなので、念のためダメージ設定も無効にしてもらっている。

本格的なバトルというより、アスカの新機体(メイガス・ジウ)の操作感や反応を見るためのものだ。

ガンプラバトルは、実際に動かしてみなければ分からないことも多い。

特にアスカが求めていたのは、運動性と操作性の向上。

そこを確かめることが一番の目的だった。

「最初は軽めでいいよね?」

「うん。いきなり全力で来られたら泣くよ」

「え、それは私も嫌だな」

「ほんとにお願いだからね!?」

「分かってるって」

そんなやり取りをしながら、バトルシステムにガンプラをセットしようとした、その時。

――カラン。

店の扉についたベルが鳴った。

      

      ◇

 

「いらっしゃいませー!」

レジの方からミネハの声がする。

今日は普段より客入りも多いから、誰かが入ってくること自体は不思議でもない。

それなのに、何となく私はそちらへ目を向けた。

たった今、一人の少女が店へ入ってきたところだった。

年は、私たちとそう変わらないように見える。

まず目に入ったのは、綺麗なブロンドの髪と赤い服だった。

服装そのものは、派手というほどではない。

ゴシック風の衣装にロングスカート。

昔の貴族の令嬢を思わせるような、そんな風格を漂わせていた。

手には小さめの鞄を持っている。

(あんな綺麗な子もガンプラするんだ……)

私はそんな印象を持った。

ブロンドの少女がカウンターへ向かう。

「店長はいるかな?」

ミネハも一瞬見惚れていたのか、反応が僅かに遅れた。

「……あ! はい、店長ですね!」

そうしてミネハが店長を呼ぼうとした時、ちょうど店の奥から本人が出てきた。

「久しぶりだな。何の用だ、シヤ」

「何の用ってひどいな……」

少女は、慣れたように答えた。

そのやり取りに、私は少しだけ眉を上げる。

(知り合いなんだ。シヤ……さん? って名前か……)

店長相手に、あれだけ普通に話せる人はここでも珍しい。

少なくとも、私にはまだ無理だ。

「相変わらず、ここは変わらないね」

「変える必要がないからな」

「それもそうか」

少女が店内を見回す。

その目が一瞬だけ、作業スペースに並ぶガンプラへ向いた。

けれど、すぐに店長へ戻る。

「もう一度聞く。なぜ来た?」

「近くを通ってね。ちょっと見に来ただけだよ。面白いものがあれば(・・・・・・・・・)、だけど」

「貴様は相変わらずだな、シヤ」

店長が鼻で笑った。

「褒め言葉として受け取っておくよ」

(……なんだろう)

会話の内容自体は普通なのに、妙に堂々としている。

まるでこの場所にいることが当然みたいな、不思議な余裕があった。

「レイー! 早くやろうよ~!」

後ろからアスカの声が飛んできた。

「あ、ごめん! 今セットする!」

私はもう一度だけ、少女の方を見る。

向こうと、一瞬だけ目が合ったような気がした。

けれど、特に何かを言われるわけでもない。

(気のせいかな)

そう思いながら、私はGシリウスをバトルシステムへセットした。

 

      ◇

 

今回は、障害物の少ないコロニー傍の宇宙ステージにしてもらった。

アスカの機体の動きを見るにはちょうどいい。

少し遅れて、メイガス・ジウも宙へ上がる。

準備ができたのか、アスカから通信が開かれた。

『うわ……!』

アスカの声が響く。

『すっご……!』

メイガス・ジウが小さく旋回する。

前の機体より軽い。

というより、明らかに反応が速い。

『レイー! 見てよ! すっごいよこれ!』

「見てるよ」

メイガス・ジウは左右へ軽快に機体を振ったかと思うと、そのまま一気に上昇し、頂点で鋭く反転した。

間を置かず今度は急降下へ移り、さらに姿勢を立て直して再び水平飛行へ戻る。

(やっぱり。前より反応が速い)

でも、それだけじゃない。

アスカが操作してから機体が動き始めるまでの、一瞬の引っかかりがほとんどない。

前の機体では、アスカが「こう動きたい」と思ってから、機体がそれについてくるまでに僅かな間があった。

けれど、今は違う。

まるで考えた瞬間に、機体がその意図を汲んで先へ進んでいるように見える。

『やば! 今までと感覚がぜんぜん違う!』

アスカが嬉しそうに声を上げた。

メイガス・ジウはさらに加速し、大きく弧を描きながらこちらの頭上を飛び越えていく。

(これが、アスカの欲しかった動きなんだ)

単純に速いだけじゃない。

自分が動きたいと思った方向へ、そのまま機体がついてくる。

以前のキャリバーンでは推進力をバリアブルロッドライフルに頼っていたけど、今は脚部と背部のスラスターだけでも十分な機動ができる。

その分、姿勢制御も細かく、小さな切り返しに対してもすぐ反応していた。

(……じゃあ、次は)

「アスカ。ちょっと撃つよ」

『え、ちょっ、ちょっと待って!』

「テストなんだから、避けてもらわないと意味ないでしょ?」

『そうだけどさ! 心の準備ってものが!』

私はライフルを構える。

最初のビームをメイガス・ジウの右側へ流すように放つと、アスカはすぐに機体を左へ滑らせた。

その回避方向へ少し先回りするように次の射線を重ねると、今度は逆方向へ鋭く切り返す。

さらに上方へ射撃を送れば、メイガス・ジウは迷うことなく降下し、その直後に正面へ重ねたビームも横へ機体を滑らせてかわしてみせた。

『うわわっ!』

多少慌ててはいるものの、すべて避け切っている。

『……って、あれ?』

アスカ自身が驚いている。

『思った通りに避けれてる!』

「うん」

思ったよりいい。

反応そのものは、ほとんど問題ない。

(ただ……)

私は少しだけ目を細めた。

今の回避を見ていて、一つ気になるところがあった。

攻撃そのものは全部避けられている。

けれど、一度避けるたびに必要以上に機体を大きく振っている。

それに、一度加速を始めると減速へ移るまでが少し遅い。

機体の反応が良くなった分、アスカ自身がその速さにまだ慣れていない。

(……もう少し見てみよう)

「アスカ!」

『なに?』

「今度は追いかけながら、私に攻撃してみて!」

そう言って、Gシリウスを反転させる。

『よっしゃ! 今度はアタシの番だね! なんだったら倒してやる!』

メイガス・ジウがすぐに追ってくる。

さっきまでの試運転とは違い、私という明確な目標が出来た瞬間、さらに速度が上がった。

背後からビームが続けざまに飛んでくる。

私はGシリウスを僅かに横へ滑らせ、最初の射線を避ける。その先へ重ねられた攻撃にも機体を振って対応しながら、モニター越しにメイガス・ジウの動きを追った。

(射撃も悪くない)

さらに攻撃をかわしながら加速を続ける。

それでも、少しずつ距離が詰まってきた。

(やっぱり)

Gシリウスだって、速度には自信がある。

そう簡単に追いつかれるつもりはない。

それでも、メイガス・ジウは確実に距離を詰めてきている。

けれど、さっきから一つだけ変わっていない。

アスカは速度が上がるほど、前しか見なくなっている。

それに、減速を始めるタイミングも遅い。

(この速度なら……)

私は周囲を確認する。

少し先に、大きなデブリが浮いていた。

位置は十分。

(いける)

Gシリウスの速度を僅かに落とす。

『あれ?』

当然、アスカはさらに距離を詰めてきた。

私は機体を横へ振って進路を変える。

メイガス・ジウも、それを追って同じ方向へ軌道を曲げた。

続けて反対側へ切り返してみても、やはりアスカは迷わずついてくる。

ここまでで十分だった。

アスカは今、完全に私だけを見ている。

「アスカ」

『なに?』

「ちょっと速すぎ」

『へ?』

私はGシリウスを急反転させ、そのまま正面からメイガス・ジウへ向かった。

『えっ!?』

アスカが慌てて進路を変えようとする。

けれど、その判断が僅かに遅い。

「機体はついてきてる。でも、アスカの方が追いついてない!」

『ちょ、ちょっと待っ――』

衝突する直前、私はGシリウスを横へ逃がした。

そのすぐ脇を、メイガス・ジウが勢いよく通り過ぎていく。

急いで減速しようとしているのは分かる。

けれど、もう間に合わない。

『止まっ――』

ドンッ!

勢いを殺し切れないまま、メイガス・ジウはデブリへ突っ込んだ。

『いたたた……ちょっと! 危ないでしょ!!』

「だからテストなんだって」

私はデブリへ引っかかったメイガス・ジウの前へ回り込み、ビームライフルを向ける。

「はい、私の勝ち」

撃つ真似だけして、ライフルを下ろした。

『ぐぬぬ……! 思った通りに動けてたのに……!』

「うん。機体はちゃんと思った通りに動いてたよ」

私はモニター越しに、デブリへ引っかかったメイガス・ジウを見る。

「でも、思った通りに動くからこそ、アスカの方がその速さを扱えないとダメなんだと思う」

『うぅ……』

「前よりずっと良くなってるよ。だから今度は、その“思った通り”をちゃんと使えるようにならないとね」

『……はい、先生』

「誰が先生だ」

『だって言い方が先生なんだもん』

思わず苦笑する。

でも、テストとしては十分だった。

メイガス・ジウは、ちゃんとアスカの考えについてきている。

後はアスカ自身が、その反応と速度に慣れればいい。

 

その時だった。

『……へえ』

知らない声が聞こえた。

「え?」

アスカとの通信ではない。

私は反射的に視線を上げる。

バトルスペースの外で、さっき店長と話していたあのブロンドの少女が、腕を組んだままモニターを見ていた。

ただ、その視線の先にあるのは、デブリへ引っかかったメイガス・ジウではない。

その手前に浮かんでいる、Gシリウスだった。

いや――モニター越しに機体を見ているというより、その向こうで操作している私自身を見られているような気がする。

少女はしばらく何も言わなかったが、やがて興味を隠そうともせず、こちらへ声をかけてきた。

「今の」

「え?」

「最初から、あの子をデブリへぶつけるつもりだったのかい?」

突然聞かれ、私は少しだけ戸惑った。

「最初からじゃないよ」

「なら、いつ決めた?」

「追いかけてもらってから。何回か動きを見てたら、加速した後に減速へ移るのが少し遅いって分かったから」

彼女の青い瞳が、僅かに細くなる。

「それで?」

「アスカが途中から私しか見てなかったから。進む方向をこっちで誘導すれば、速度を落とす前にあのデブリまで連れていけるかなって」

答えてから、私は自分でもさっきの流れを頭の中でなぞった。

メイガス・ジウそのものの性能を知っていたわけじゃない。

アスカがどんな操作をするのかも、最初から決めつけていたわけではない。

何度か動きを見て、そこで見つけた癖を使っただけだ。

彼女は数秒ほど黙ったあと、ふっと口元を緩めた。

「……面白いね」

「何が?」

「君が」

「……私?」

「正確には、君とその機体かな」

少女はバトルスペースの縁まで歩み寄り、モニターに映るGシリウスを改めて眺めた。

店長と話していた時にも余裕のある笑みを浮かべていたけれど、今は少し違う。

笑い方そのものは穏やかなのに、目だけが明らかに楽しそうだった。

「最初から作戦を決めていたわけじゃない。戦いながら相手の癖を見つけて、その場で勝ち筋を組み立てたんだろう?」

「まあ……そうだけど」

「相手を見てから答えを作る。私は、そういう戦い方は好きだよ」

「……どうも」

褒められているのだとは思う。

でも、素直に喜んでいいのかは少し迷った。

彼女の言い方には、誰かを褒めているというより、珍しいものを見つけて観察しているような雰囲気があったからだ。

 

「うぅ……なんかアタシまで身体ぶつけた気分……」

後ろから聞こえた声に振り返ると、メイガス・ジウを回収したアスカがこちらへ戻ってきたところだった。

「ガンプラがぶつかっただけなのに、何でアスカまで痛がってるの」

「気分だよ、気分! それより見てよ!」

文句を言いながらも、アスカは腕の中のメイガス・ジウを見て嬉しそうに笑っていた。

「やっぱすごいよ、この子! 本当にアタシが動きたいって思った方に、すぐ動いてくれる!」

「うん。さっきも言ったけど、機体の反応そのものはかなり良かったよ。あとはアスカが速度に慣れて――」

「ああ。その機体は悪くないね」

不意に少女が会話へ入ってきた。

アスカが驚いたように目を丸くする。

「え、アタシの?」

「推力にはかなり余裕があるし、操作への反応も良い。君自身がまだ機体の速さについていけていないところはあるけれど、それも慣れれば変わるだろう」

「そ、そう? へへ……ありがと!」

さっき私に褒められた時とはまた違う反応だった。

知らない相手から評価されたことが嬉しかったらしく、アスカの顔がぱっと明るくなる。

少女もその様子を見て、小さく笑った。

「君も悪くないよ」

そこで一度言葉を切り、今度は私へ視線を戻す。

「ただ――今は、君より彼女の方が面白そうだ」

「……え?」

アスカが瞬きをする。

「アタシより?」

「ああ」

少女は悪びれる様子もなく頷いた。

「そっかぁ。まあ、レイ強いしなぁ」

アスカ本人は、それほど深刻には受け取っていないらしい。

少し残念そうではあっても、傷ついたようには見えなかった。

それくらい、私にだって分かっている。

それでも、私はその言葉を簡単に聞き流すことができなかった。

この数日間、ずっとアスカを見ていたからだ。

授業中までノートの隅に設計案を書いて、家に帰れば遅くまで作業を続け、寝不足になって学校では何度も舟を漕いでいた。

それでも本人は、ずっと楽しそうだった。

今日、ようやく完成したメイガス・ジウを初めて動かして、「思った通りに動く」とあんなに嬉しそうに笑っていた。

その姿を見た直後に、

『悪くはない』

『でも、こっちの方が面白い』

そう値踏みされたように聞こえてしまった。

「……何それ」

自分でも驚くくらい、低い声が出た。

「レイ?」

アスカがこちらを見る。

少女も僅かに首を傾げた。

「何がだい?」

「今の言い方」

「?」

「アスカじゃ、アンタの相手には物足りないってこと?」

「えっ、ちょっとレイ!」

アスカが慌てて私の袖を掴んだ。

「アタシは別に、そこまで気にしてないから!」

「私はそんなことは言っていないよ」

少女は相変わらず落ち着いていた。

その余裕が、今は妙に腹立たしい。

「でも、そう聞こえた」

「それは、君がそう受け取っただけだろう?」

「……何それ」

「彼女の機体を悪いと思っているわけじゃない。むしろ、面白いと思っているよ」

少女は一度アスカへ目を向けてから、再び私を見る。

「ただ、今この瞬間に私が一番戦ってみたいのは君だ。それだけさ」

「レイ、本当にアタシは平気だから」

アスカがもう一度止めようとしてくる。

分かっている。

アスカ本人が怒っていないことくらい。

私が勝手に腹を立てていることだって、分かっている。

それでも。

「私は嫌」

「レイ?」

「アスカがせっかく作った機体を見て、あんな言い方されるのは嫌」

言ってから、アスカを見る。

本人は少し困った顔をしていた。

でも、それと同時に、ほんの少しだけ嬉しそうにも見えた。

少女はしばらく私とアスカを交互に眺めていたが、やがて何かに納得したように小さく頷いた。

「なるほど」

「何?」

「君は、彼女のことになると随分熱くなるんだね」

「悪い?」

「いや」

少女はまた笑った。

「ますます面白いと思っただけだよ」

「……またそれ?」

「気に障るかい?」

「かなり」

「なら――」

少女が一歩だけこちらへ近づいた。

「私の見方が間違っていると、君が証明すればいい」

「…………」

「彼女が君の言う通りのファイターなら、その隣にいる君も、それなりに面白いんだろう?」

さっきまでより、言葉に僅かな挑発の色が混ざっている。

多分、わざとだ。

この人は、私が怒っていることを分かった上で、さらに押してきている。

「レイ、絶対乗せられてるって」

隣でアスカが小声で言う。

「分かってる」

「分かってるの!?」

分かっていても、ここで引く方がもっと嫌だった。

私は手元へ戻ってきたGシリウスを持ち上げる。

「……いいよ」

「レイ!?」

「やろう」

その瞬間だった。

少女の表情から、それまで浮かべていた余裕がほんの僅かに消えた。

代わりに現れたのは、欲しかった答えをもらった子供みたいな、隠しきれない喜びだった。

「そう来なくてはね」

……やっぱり気に入らない、この人。

けれど、私たちがそのままバトルスペースへ向かおうとしたところで、ふと気づいた。

私はこの人のことを、店長が『シヤ』と呼んでいたことしか知らない。

向こうだって、アスカが私を呼んでいるのを聞いただけのはずだ。

これから戦うのに、それではさすがに変だ。

どうやら、同じことを考えたらしい。

少女も一歩進んだところで足を止め、こちらを振り返った。

「そういえば」

「何?」

「まだ、ちゃんと名乗っていなかったね」

「あ」

確かに。

少女は改めて私へ向き直ると、先ほどまでの挑発するような笑みを少しだけ収めた。

「キヨラ・シヤ」

「……キヨラ?」

「ああ。キヨラ・シヤ。それが私の名前だ」

店長が呼んでいた『シヤ』は、やっぱりこの人の名前だったらしい。

今度はシヤがこちらを見る。

「君は?」

「カミユイ・レイ」

「レイ、か」

シヤは一度確かめるように私の名前を口にしたあと、微笑んだ。

「覚えたよ」

「こっちも」

「それなら改めて――よろしく、レイ」

戦う前の挨拶に『よろしく』が正しいのかは分からない。

でも。

「……よろしく、シヤ」

私も同じように返した。

すると、横で黙って見ていたアスカが小さく息を吐く。

「なんか今さら急にちゃんとしたね、二人とも」

「うるさい」

「アスカが普段ちゃんとしてなさすぎるだけでしょ」

「なんでアタシが怒られるの!?」

シヤがそれを見て、声を立てずに笑った。

 

      ◇

 

「それじゃあ、準備を――」

シヤがバトルスペースへ向かいかけたところで、ふと足を止める。

私とアスカを見て、それからバトルスペースのモニターや、何となくこちらを気にしている周囲の客たちへ視線を巡らせた。

「……せっかくだし」

「何?」

「配信しようか」

「……はい?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「このバトルを。ライブで」

「何で!?」

隣でアスカまで声を上げる。

けれどシヤは、私たちがどうしてそこまで驚いているのか分からないというように首を傾げた。

「駄目かい?」

「駄目っていうか……どうして急にそうなるの」

「そうだな……」

少し考えるように視線を上げたものの、本気で理由を探しているようには見えなかった。

「なんとなく」

「なんとなく!?」

「今の君を見ていたら、残しておいた方が面白そうな気がしたんだ」

また。

面白そう。

この人、本当にそれしか判断基準がないんじゃないだろうか。

「嫌ならやめるけど」

そう言われると、少し迷った。

人に見られながら戦うのは、正直あまり好きじゃない。

それにGシリウスには、出来るだけ人前で見せたくないものもある。

でも、ここまで来て配信だけ断るのも、何となくシヤから逃げたようで癪だった。

「……別にいい」

「レイ!?」

「ここまで来て断る方が嫌」

「なら決まりだね」

シヤは満足そうに頷くと、ちょうど近くにいたマシマさんへ声をかけた。

「店員さん」

「む?」

「ここ、バトルのライブ配信って出来る?」

「可能だ!」

即答だった。

「早っ」

思わず口から出る。

マシマさんは得意げに胸を張りかけたものの、そこで何かに気づいたらしく、急に真面目な顔になった。

「……いや、待て。店の設備を使う以上、私の一存では決められん」

「あ」

そこはちゃんとしている。

「少し待ってくれ。――ハマノ様!」

「聞こえている」

店の奥から店長の声が返ってきた。

いつから見ていたのか、店長は腕を組んだまま私たちのところまでやってくる。

まずシヤを見て、次に私へ目を向けた。

「双方が了承しているなら配信自体は構わん。ただし、客を勝手に映すな。映像はバトル画面を中心にしろ。操作席を映す場合も、周囲が入らないよう画角には気をつけろ」

「承知しました!」

「音声も同じだ。必要以上に店内の声を拾うな」

「はい!」

「それから、配信に夢中になって仕事を忘れるな」

「…………はい」

最後だけ、マシマさんの声が露骨に小さくなった。

シヤがその様子を見て、不思議そうに瞬きをする。

「随分、店長に弱い店員さんなんだね」

マシマさんの肩が、目に見えて跳ねた。

「そこは言わないであげて」

思わず口を挟む。

「レイ君!?」

「本当のことでしょ」

「君まで!?」

アスカが横で吹き出した。

 

      ◇

 

「しばし待つんだ!」

マシマさんは、先ほどアスカのテストに使ったシステムを確認すると、配信用の端末と補助カメラを手際よく準備し始めた。

バトルシステムから直接映像を取り出し、カメラの画角を操作席だけに合わせ、店内の音を余計に拾わないよう音声レベルまで調整していく。

普段の言動を見ていると忘れそうになるけれど、こういう作業は普通にできるらしい。

「あれ?」

隣でアスカが、感心したように呟いた。

「マシマさん、ちゃんと出来るんだ」

「失礼だぞ!」

「聞こえてた」

「私は一体どういう評価をされているのだ!?」

「声が大きい人」

アスカが即答した。

さすがに少し可哀想になってきた。

そんなやり取りをしていると、シヤが何かを思い出したように、手にしていた鞄へ視線を落とした。

「ああ、そうだ」

「何?」

「君のGシリウスは、さっきもう見せてもらっただろう?」

シヤがケースのロックを外す。

「それなのに、私だけ機体を隠したまま戦うのは不公平だ」

ケースの中から現れたのは、鮮烈な赤だった。

「これが私の機体」

シヤが静かに機体を持ち上げる。

「ルベリオン」

「……」

 

思わず見入った。

最初に頭へ浮かんだのは、百式だった。

頭部や胴体をはじめ、全体の骨格には確かにその面影がある。

けれど、大きな肩や太い脚、装甲の重なり方にはサザビーを思わせる重厚さが混ざっていて、単純な百式系の改造機には見えない。

そして何より目を引くのが、背中に取り付けられた大型のバックパックだった。

「……大きい」

「そっちが気になる?」

「うん」

赤と黒を基調としたバックパックは、機体本体以上に存在感がある。

百式を軸にしながら、シナンジュのような高機動機の方向性を足したようにも見える。

ただし、あれだけ大きければ当然重量も増えているはずだ。

「重そうだと思っているね」

「……そんなに顔に出てる?」

「君は案外分かりやすいよ、レイ」

名前を覚えたばかりなのに、もう自然に呼ばれている。

「余計なお世話」

「それで、実際どう思う?」

私はもう一度ルベリオンを見る。

見た目だけなら、やっぱり重そうだ。

でも、ここまでのシヤを見ていると、そんな単純な機体をわざわざ自信満々に持ち込むとは思えない。

なら。

「……動けば分かる」

「そう」

シヤの青い瞳が、嬉しそうに細くなる。

「いい答えだ」

 

      ◇

 

マシマさんが最後の接続を確認している間、ふと何かを思い出したようにスマートフォンを取り出した。

「そういえば、せっかく配信するのだ。いつものスレにも――」

画面を見る。

そのまま動きが止まった。

「…………」

何度か指を動かし、もう一度画面を確認する。

それから、シヤを見る。

再び画面を見る。

「……なんだとぉぉぉ!?」

「うわっ!」

突然の大声に、アスカと一緒に肩を跳ねさせた。

「何!?」

マシマさんはスマートフォンの画面とシヤを交互に見ながら、明らかに動揺していた。

「マシマさん?」

「……アスカ」

「う、うん?」

「少し」

アスカだけを手招きし、二人で少し離れた場所へ移動する。

何かを小声で話しているらしい。

聞き取れたのは、アスカが息を呑む音くらいだった。

「…………え」

次の瞬間、アスカが大声を出しそうになり、マシマさんが慌てて制した。

「声が大きい!」

「いや、だって……!」

何の話をしているんだろう。

やがて、マシマさんがこちらを振り返った。

「レイ君にも――」

言いかけて、止まる。

「?」

その時、向こう側にいるシヤと目が合った。

さっきまでと同じ、余裕のある目。

でも今は、それだけじゃない。

まだシステムも動いていないのに、もうバトルが始まっているような目でこちらを見ている。

私も、目を逸らさなかった。

そのまま数秒ほど経って。

マシマさんが、小さく息を吐いた。

「……やめておこう」

「何を?」

「いや! 何でもない!」

「さっきから何なの……」

アスカがこちらへ戻ってくる。

なぜか、さっきとは打って変わって妙に真剣な顔だった。

「レイ」

「何?」

「……頑張って」

「何で急にそんな重いの?」

「いいから!」

意味が分からない。

でも、今はそれ以上聞く気にもならなかった。

 

      ◇

 

「よし!」

マシマさんが操作パネルから顔を上げた。

「準備完了! 通常のシングル戦設定、ダメージ判定有効、制限時間も標準設定だ!」

さっきまでのアスカとのテストとは違う。

今度は、本当に勝敗を決めるバトルになる。

「ライブ配信も問題なし!」

店内のモニターには配信の待機画面が表示され、画面の隅にはまだ消灯したままの『LIVE』表示が見える。

私はGシリウスを手に、バトルシステムの前へ立った。

向かい側では、シヤがルベリオンをセットしようとしている。

「それじゃあ、改めて」

シヤがこちらを見る。

「よろしく、レイ」

今度の言葉には、さっき名乗り合った時よりも、はっきりとした戦意が混じっていた。

「……うん」

私はGシリウスをセットし、コントローラーへ手を置く。

「よろしく、シヤ」

シヤが笑う。

余裕のある、少し気取った笑い方。

でも、その青い瞳だけはまるで違っていた。

早く始めたい。

私がどう動くのか見たい。

そして、自分も早くルベリオンを動かしたい。

そんな感情が、隠しきれずに滲んでいる。

その顔を見た瞬間、さっきまで感じていた苛立ちとは別のものが胸の奥に湧いてきた。

この人がどんな戦い方をするのか。

ルベリオンがどう動くのか。

あの大きなバックパックに、何があるのか。

私も、それを知りたくなっていた。

 

マシマさんが配信開始の操作へ手を伸ばす。

「それでは――ライブ配信開始!」

モニターの隅に、赤い『LIVE』の文字が灯った。

続いて、バトルシステムの起動音が店内へ響き始める。

 

私はコントローラーを握り直した。




後半に続く
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