それはあまりにも突然始まった。
「以下の内容により、被告を有罪と認める。」
何者かが仕組んだあり得ぬ罪。
「ち…違う! 僕は違います! 僕はそんなことしていない!
神の名に誓い宣言します!」
その叫びは誰にも届かず
「まさかあの人が…ねぇ。」
「あんなに立派な人だったのに…まさか犯罪者に成り下がるなんて…」
飛んでくるは第三者の冷めた批評と罵詈雑言
「このクズ野郎が! 俺たちの期待を裏切りやがって!」
「そうよ! あんたなんか地獄に落ちてしまえ!」
「犯罪者! サイテー!」
「優しい顔だけしてれば誰でも思い通りにできると思ってたんでしょ!?」
彼を擁護するものは
「本当に…違う! 僕じゃない! 信じてください! お願いします!」
誰一人としていなかった
「地獄に落ちろ! この犯罪者が!」
「死ね! 死んでしまえ!!」
「死ねーーー!!!」
『冤罪を着せられた被告、さて、彼は自分の無実を証明することができるのでしょうか?
連続朝ドラマ「ヒマワリの涙」また明日も見てくださいね。
ではここからニュースの方に入りたいと思います。
昨夜、突如空に現れた謎の光…人々はUFOの飛来ではないかと噂しています…』
「ふぅん、UFOねぇ…一般大衆の噂話を報道するなんて
テレビ局も質が落ちたわね…」
そんなことをボヤきながら自室で朝食のサラダをつついている女性が一人。
彼女の名は小西 彩(こにし あや)、赤山大学という所に通う大学一年生だ。
ただいまの時刻は午前8時、赤山大学の一限目の授業が始まる時間は午前8時半、彼女の家からはどんなに急いでも大学まで片道40分かかる。
本当ならばこんな所でのんびりとテレビを見ながら呑気にサラダをつついている暇などないのだがそれにはれっきとしたわけがあった。
今、大学は春休みの真っ最中なのである。
…まぁ厳密に言うとあと2日で終わってしまうのだが。
その為彼女は午前8時という時間を迎えながらもこんなに
のんびりとした朝を過ごしているのだ。
まぁ、春休みがどうとかは特に特筆すべきことではないため一旦隅っこに置かせていただく。
「それにしても今回の朝ドラなんかストーリー重たいな…もっと笑えるような内容にしてよ、もう…」
テレビ相手にそう愚痴る姿は彼氏いない歴=年齢そのものでありその全身から惨めさと哀れさが滲み出ている。
明らかに寝起きですと言わんばかりのそのボッサボサの頭、全身黒のスウェット姿、胡座をかきながら千切っただけのサラダをつつくあまりの哀れさ。
あぁ、何て哀れなのか…せめて彼女に彼氏がいれば…
「…何だろう、すっごい馬鹿にされてる気がする。 無性に腹が立つ。」
おっと、黙っていよう。
そんなことをしながらぼーっとテレビを見ていると気づけば時刻は9時50分回ろうとしていた。
テレビの時計を見た後、ふと自室に飾ってあるカレンダーを見るや否や「あっ」と小声を上げ、急いで自室の箪笥を開けた。
「やばい、そうだった…今日病院行かなきゃいけなかったんだ…すっかり忘れてた…」
そう言いながら急いで身なりを全て整え、食器を流しに置き、戸締りをし貴重品を持ちその他諸々をして彼女は家を出発した。
彼女が今住んでいる家は築2年程の新しいマンション、そこで一人暮らしをしている。
もともとは実家の方から大学に通っていたらしいが距離が遠いことと別の要因が重なり一人暮らしをすることになったらしい。
マンションの階段を降り、歩行者用道路へ飛び出す。
空は春独特の柔らかい青さを持ち、雲は一つたりもと見当たらなかった。
しかしそんな景色には目もくれず彼女は走っていた。
彼女の通っている病院は個人経営で営んでいる小さな病院だが院長や看護婦の人当たりの良さと確かな腕によりかなり繁盛しており時間を問わず人が多い。
その為早く行って予約しておかないとかなり待たされることになるのだ。
彼女の家から徒歩10分、病院の始まる時間は10時きっかり。
このままのペースで急げば間に合うはずだ。
「はーい、次でお待ちの小西様、どうぞー。」
「…はーい」
ただいまの時刻、午前11時12分。
彼女は有に1時間12分も待たされてしまった。
それもそのはず、今日はいつも以上に人が多くその殆どが推定3歳未満の子供と推定70歳以上の老人ばかりなのだ。
一応彼女は病院が始まる前に着くことはできたのだがその時点で大勢の人が並んでおり、正直に言うと歩いても歩かなくてもそんなに待ち時間は変わらなかったのである。
少し複雑な思いを抱えながら彼女は診察室へ
入っていった。
「その後、体の調子はどうですか?」
と、医者が聞く。
「お陰様で大分楽になりました。」
と、彼女が答える。
その答えに医者は少し嬉しそうな顔をして「夜寝付けないことはありますか?」とか「ご飯はちゃんと食べていますか?」などということを聞いていた。
彼女はその全ての問いに肯定と否定を繰り返しながら答えていた。
その何度かのやりとりが終わった後、医者はこう言った。
「この様子なら薬はもう飲まなくても良さそうですね。」
「本当ですか?」
「はい、再発も見られませんし何より意識もはっきりしている。
もう大丈夫ですよ。」
その言葉に彼女はホッと胸を撫で下ろし、診察室を後にした。
ふと窓の方を見ると先程までの青空とは一転して灰色の分厚い雲が空を覆っていた。
その光景を見て少しだけ嫌に気分になり、顔をしかめる。
その後は受付の看護師に自分の名前を呼ばれるまで携帯をいじっていた。
「うーん、なんか雨降りそう…」
そう呟きながら病院からの帰り道を歩く。
空は先ほどよりも暗く、そして一層分厚くなったような気がし、近々雨が降るような気配を感じさせた。
彼女は少し早歩きで家を目指した。
その時である。
ドオオオオオオン!!!!
「!!!??」
空気を引き裂くような鋭い音、あたりを一瞬覆い隠すほどの閃光…どうやら相当近くに雷が落ちたらしい。
「これ…本格的にやばいわね、さっさと帰らないと…」
そう言いながら少し焦った表情で空を見上げると、遠い方で再び空が光った、一度ではない何度もだ。
その光景を暫く見つめていたがはっと我に返り次は小走りで家路に向かった。
天候のせいでかあたりには誰もいなかった。
動物の一匹する見当たらなかった。
彼女はそんな道をただひたすらに小走りしていた。
…ポツリ、と頬に何か冷たい感触。
それと同時に雨が降る。
最初は小雨だったが段々と激しくなり彼女の体を叩く。
「これはまずい」そう思うや否や小走りを本格的な走りに変えて家まで急いでいた。
そんな時、
「…みゃぁ…」
耳に届いた弱々しい声、彼女は思わず声のした方に顔を向けてしまった。
…そして、思わず目を見開き立ち止まってしまった。
そこには一匹の子猫がいた、捨てられたのだろうか、その体は雨には濡れているが汚れてはおらず体を震わせながらこちらを見て鳴いている。
その姿は正にか弱い小動物そのもので心の優しい人ならばすぐに拾って家に持って行ってしまうだろう。
だがしかし別に子猫が一匹いるくらいなら立ち止まったりしなかった、悪いとは思うがそのまま家まで走り去っていただろう。
彼女が…小西彩が思わず立ち止まり、目を見開いてしまった原因は他にあった。
子猫がおそらく足場代わりに乗っかってる「原因」、
それは、誰がどう見ても間違いなく…
「…ひ…と…?」
人と思われる「それ」はこの豪雨の中、仰向けになりながら猫の足場となり気絶していた。