停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第11話 戦争が止まると、困る人たち

地球。

 

停戦は続いていた。南極では連邦とジオンの代表者が毎日のように話し合っている。

独立は決まらない。自治も決まらない。軍事問題も決まらない。

それでも戦闘は再開されなかった。

 

◇

 

地球連邦軍の基地。

 

一人の士官が報告書を読んでいた。

「今週も戦死者はゼロか」

「少なくとも、この管区では」

 

「負傷者は?」

「事故によるものが数名。戦闘による負傷者はいません」

「そうか」

 

士官は報告書を机に置いた。戦死。負傷。行方不明。艦艇喪失。これまで並んでいた数字が、今はない。

 

「前線は?」

「哨戒任務を予定どおり継続しています」

 

「物資は?」

「弾薬消費が大幅に減っています」

 

「燃料もか」

「はい」

 

士官は椅子にもたれた。

「……暇になったな」

「良いことでは?」

「そうなんだが」

 

士官は少し笑った。

「軍人が暇であることが、これほど良いことだとは思わなかった」

 

◇

 

別の場所では、違う会議が開かれていた。

 

連邦政府の官僚たちが資料を前にしている。

「停戦が長期化した場合、軍需生産計画を見直す必要があります」

「どの程度だ」

 

「弾薬、航空機、艦艇については、現在の生産量を維持する必要性が低下します」

「しかし、正式な和平ではない」

「その通りです。生産能力そのものを失うわけにはいきません」

 

別の官僚が口を挟む。

「工場を止めれば失業者が出ます」

「だから全部止めろとは言っていない」

「では、どうしろと……」

 

一人が資料をめくった。

「復興です」

「何?」

「戦争で破壊された都市、交通網、発電設備、宇宙港。修復しなければならないものはいくらでもあります」

 

「軍需工場の一部を民需へ転換するのか」

「すぐには無理でしょう。しかし、段階的には可能です」

「雇用を維持しながら?」

「その方が現実的です」

 

会議の議題が変わった。

兵器を何個作るかではない。停戦が続いた場合、何を作るか。

 

◇

 

しかし、全員が停戦を歓迎しているわけではなかった。

「冗談ではない」

 

別の会議室で、男が言った。

「このまま停戦が続けば、契約はどうなる」

 

軍需企業の幹部だった。

「現在発注済みの分については――」

「その後だ」

「……大幅な縮小が予想されます」

 

男は机を指で叩いた。

「工場はどうする。設備はどうする。従業員は?」

 

誰も答えない。

「我々は政府の要請で生産能力を拡大したんだぞ」

 

一人の幹部が顔を上げた。

「では、戦争を続けろと?」

「そうは言っていない」

「しかし、そういう意味になります」

 

部屋が静かになった。

「我々の売上のために兵士に死ねと言うのですか?」

「そんなことは言っていない!」

「では、停戦が続くことを前提に会社をどう変えるか考えるべきでしょう」

「簡単に言うな」

「簡単ではありません」

 

その幹部は資料を見る。

「だから今から考えるのです」

 

◇

 

同じ頃。

 

サイド3。

 

ギレンは軍需工場を視察していた。

 

ギレンが尋ねる。

「軍需生産を縮小?」

「現時点では縮小ではありません。停戦が長期化した場合に備えた検討です」

 

ギレンは資料を見る。モビルスーツ。艦艇。弾薬。補修部品。

「工場を閉鎖する必要はない」

「はい」

「では何を作る」

 

担当官が資料を切り替える。

「復興用の重機、宇宙施設の建設機材、輸送機器などへの転換が考えられます」

「モビルスーツの技術を建設に?」

「はい。駆動系や制御技術の一部は、民間の作業機にも転用できます」

「面白い」

 

ギレンは資料を読み進める。

「失業者を出すな」

 

担当官が少し驚いた。

「は?」

「戦闘を止めた結果、何十万人も職を失ったとなれば、国内で和平への反発が起きる」

「はい」

「軍需産業を潰すのではない。仕事を変えさせろ」

「承知しました」

 

「兵器を作っていた者には、今度は壊れたものを直させればいい」

「復旧に回すのですか?」

「そうだ」

 

そこでギレンは少し考えた。

「仕事には困らんかもしれんな」

 

担当官が苦笑する。

「破壊されたものが多すぎますので」

「笑えん話だ」

「失礼しました」

「いや」

 

ギレンは資料を閉じた。

「だからこそ、直す必要がある」

 

◇

 

ギレンが自宅へ戻ると、猫が窓の近くで寝ていた。

「お前は失業の心配がなくていいな」

 

猫は寝ている。

「そもそも仕事をしていないか」

 

猫が目を開けた。

「ニャア」

 

ギレンは机に戻った。

 

◇

 

その夜。

 

南極では、翌日の会談に向けた準備が続いていた。

 

マ・クベの机には、新しい資料が置かれていた。

『地球連邦制度の改革案』

各サイドの自治権。代表制度。税制。通商。安全保障。

 

資料の一番上には、短い文章があった。

『独立を認めるか否かではなく、何をもって自立とするのかを協議する』

 

マ・クベはその文章をしばらく見ていた。

 

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