停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
南極。
会議室の机には、新しい資料が並んでいた。
自治。代表制度。税制。通商。復興。
宇宙航路。資源。安全保障。
◇
マ・クベが口を開いた。
「昨日まで、我々はジオンの独立について何度も話してきました」
「そして結論は出ていません」
「はい」
「ですから今日は、少し質問を変えたいと思います」
「質問を?」
「はい」
マ・クベは資料を閉じた。
「ジオンを独立させるべきか、連邦に残すべきか。それをいったん横に置きましょう」
連邦側がざわめいた。ジオン側からも視線が集まる。
「では、何を話すのです?」
「宇宙に住む人々が、何を望んでいるのかです」
会議室が静かになる。
「我々が求めているものは、単に国旗を変えることなのでしょうか。国名を変えることなのでしょうか」
誰も答えない。
「私は、そうではないと思います」
「自分たちが暮らす場所について、自分たちで決めることができる。自分たちが選んだ代表が政治に参加できる。地球に住んでいるか、宇宙に住んでいるかによって扱いに差をつけられない」
一度、言葉を切る。
「それが我々の求めていたものではないでしょうか」
連邦側の一人が尋ねた。
「つまり、独立要求を撤回するということですか?」
マ・クベは即答した。
「いいえ。独立するかどうかを決める前に、独立によって何を実現したかったのかを話したい、と申し上げています」
◇
連邦側の文官が資料を見る。
「仮に各サイドへ自治権を拡大するとして、どこまでを想定していますか?」
マ・クベは少し考えた。
「まず行政かと思います」
「各サイドに政府を?」
「名称は何でも構いません。重要なのは、現地のことを地球からすべて決める必要をなくすことです」
「税制は?」
「それも議論いたしましょう」
「軍事は?」
「それもです」
「結局、全部ではありませんか」
「はい、和平交渉ですから」
◇
連邦側の代表が尋ねた。
「政治的な平等とは、具体的には何です?」
「そこが重要です」
マ・クベは資料を開いた。
「地球と各サイドが、それぞれ代表を出す議会を設けるのも、一案です」
連邦側がざわめいた。
「各サイドから代表を?」
「はい」
別の連邦代表が口を挟む。
「現在の連邦議会とは別に、ということですか?」
「そうです」
「二つの議会を置くのですか?」
「一案です」
連邦代表は資料を見る。
「その議会で、何を決めるのです?」
「地球圏全体に関わる問題です。通商、宇宙航路、資源、安全保障。そのような問題について、地球と各サイドの代表が話し合う場を設けます」
「簡単には決められませんね」
「承知しております」
マ・クベは資料を閉じた。
「今日決める必要はございません」
「また明日ですか」
「はい、決めることが増えていきます」
◇
ジオン側の担当者が口を開いた。
「……一つ、相談したいことがあります」
マ・クベが担当者を見る。
「何でしょう」
担当者は少しためらった。
「……医薬品が不足しています。一部の原料を、地球からの輸入に依存していたためです」
担当者は資料を確認した。
「現在は備蓄で対応していますが……この状態が続けば、不足する地域が増える見込みです」
少し間を置いた。
「それで……現地からは、連邦側から医薬品、あるいは原料を送ってもらえないかという要請も来ています」
マ・クベが連邦側を見る。
「医薬品を供給していただくことは可能でしょうか」
連邦側の担当者が資料を確認した。
「医薬品そのものはあります。しかし、ジオンへ供与するとなると……難しいでしょう」
「そうですか」
少し沈黙した。
ジオン側の担当者が口を開いた。
「あの……」
皆が担当者を見る。
「一方的な供与ではなく……物資交換という形ならどうか、という意見も出ています」
連邦側の代表が担当者を見る。
「物資交換?」
「はい。連邦側で不足している物資があれば、こちらから供給して……その代わりに医薬品を送っていただくという形です」
今度は連邦側の担当者が資料を確認した。
「こちらでは、月から供給されていたレアメタルの一部が不足しています。戦争で採掘や輸送が止まった地域がありますので」
マ・クベがジオン側の担当者を見る。
「供給できるものはありますか」
「いくつかあります。ただ……軍事転用の可能性があります」
マ・クベが言った。
「それは問題ですね」
担当者は資料を見る。
「そのため……軍事転用のおそれがないレアメタルに限定してはどうか、という意見も出ています」
連邦側の担当者が尋ねた。
「具体的には?」
「……そこまでは、まだ。専門家に確認しないと分かりません」
連邦側の担当者もうなずいた。
「こちらも技術部門に確認する必要があります」
マ・クベが言った。
「では、双方で交換可能なレアメタルを調べましょう」
連邦側の代表は少し考えた。
「難しいとは思います。ただ、検討はできるでしょう」
◇
その夜。
サイド3。
ギレンは南極から送られてきた速報を読んでいた。
「物資交換?」
側近が答える。
「はい。まだ決定ではありません。双方で交換可能な物資があるか確認するとのことです」
「連邦と?」
「はい」
ギレンは資料を読む。
「マ・クベめ」
側近が少し緊張する。
「問題でしょうか」
ギレンはしばらく資料を読んでいた。
「いや」
資料を机に置く。
「好きにやらせろ」
「よろしいのですか?」
「交渉は一任している」
◇
仕事を終え、ギレンは帰宅した。
猫が歩いてきた。
「ニャア」
ギレンが見る。
「今度は物を交換するそうだ。昨日まで殺し合っていた相手と、必要な物を交換するらしい」
猫は机の上に乗った。ギレンは置いてあった資料を横へ移した。
ギレンは猫を見る。
「お前と交換する物はないな」
「ニャア」
ギレンは資料に戻った。