停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第12話 明日のための交渉

南極。

 

会議室の机には、新しい資料が並んでいた。

 

自治。代表制度。税制。通商。復興。

宇宙航路。資源。安全保障。

 

◇

 

マ・クベが口を開いた。

「昨日まで、我々はジオンの独立について何度も話してきました」

「そして結論は出ていません」

「はい」

「ですから今日は、少し質問を変えたいと思います」

「質問を?」

「はい」

 

マ・クベは資料を閉じた。

「ジオンを独立させるべきか、連邦に残すべきか。それをいったん横に置きましょう」

 

連邦側がざわめいた。ジオン側からも視線が集まる。

「では、何を話すのです?」

「宇宙に住む人々が、何を望んでいるのかです」

 

会議室が静かになる。

 

「我々が求めているものは、単に国旗を変えることなのでしょうか。国名を変えることなのでしょうか」

 

誰も答えない。

 

「私は、そうではないと思います」

 

「自分たちが暮らす場所について、自分たちで決めることができる。自分たちが選んだ代表が政治に参加できる。地球に住んでいるか、宇宙に住んでいるかによって扱いに差をつけられない」

 

一度、言葉を切る。

「それが我々の求めていたものではないでしょうか」

 

連邦側の一人が尋ねた。

「つまり、独立要求を撤回するということですか?」

 

マ・クベは即答した。

「いいえ。独立するかどうかを決める前に、独立によって何を実現したかったのかを話したい、と申し上げています」

 

◇

 

連邦側の文官が資料を見る。

「仮に各サイドへ自治権を拡大するとして、どこまでを想定していますか?」

 

マ・クベは少し考えた。

「まず行政かと思います」

「各サイドに政府を?」

「名称は何でも構いません。重要なのは、現地のことを地球からすべて決める必要をなくすことです」

 

「税制は?」

「それも議論いたしましょう」

「軍事は?」

「それもです」

 

「結局、全部ではありませんか」

「はい、和平交渉ですから」

 

◇

 

連邦側の代表が尋ねた。

「政治的な平等とは、具体的には何です?」

「そこが重要です」

 

マ・クベは資料を開いた。

「地球と各サイドが、それぞれ代表を出す議会を設けるのも、一案です」

 

連邦側がざわめいた。

「各サイドから代表を?」

「はい」

 

別の連邦代表が口を挟む。

「現在の連邦議会とは別に、ということですか?」

「そうです」

 

「二つの議会を置くのですか?」

「一案です」

 

連邦代表は資料を見る。

「その議会で、何を決めるのです?」

「地球圏全体に関わる問題です。通商、宇宙航路、資源、安全保障。そのような問題について、地球と各サイドの代表が話し合う場を設けます」

 

「簡単には決められませんね」

「承知しております」

 

マ・クベは資料を閉じた。

「今日決める必要はございません」

「また明日ですか」

「はい、決めることが増えていきます」

 

◇

 

ジオン側の担当者が口を開いた。

「……一つ、相談したいことがあります」

 

マ・クベが担当者を見る。

「何でしょう」

 

担当者は少しためらった。

「……医薬品が不足しています。一部の原料を、地球からの輸入に依存していたためです」

 

担当者は資料を確認した。

「現在は備蓄で対応していますが……この状態が続けば、不足する地域が増える見込みです」

 

少し間を置いた。

「それで……現地からは、連邦側から医薬品、あるいは原料を送ってもらえないかという要請も来ています」

 

マ・クベが連邦側を見る。

「医薬品を供給していただくことは可能でしょうか」

 

連邦側の担当者が資料を確認した。

「医薬品そのものはあります。しかし、ジオンへ供与するとなると……難しいでしょう」

 

「そうですか」

 

少し沈黙した。

 

ジオン側の担当者が口を開いた。

「あの……」

 

皆が担当者を見る。

「一方的な供与ではなく……物資交換という形ならどうか、という意見も出ています」

 

連邦側の代表が担当者を見る。

「物資交換?」

 

「はい。連邦側で不足している物資があれば、こちらから供給して……その代わりに医薬品を送っていただくという形です」

 

今度は連邦側の担当者が資料を確認した。

「こちらでは、月から供給されていたレアメタルの一部が不足しています。戦争で採掘や輸送が止まった地域がありますので」

 

マ・クベがジオン側の担当者を見る。

「供給できるものはありますか」

 

「いくつかあります。ただ……軍事転用の可能性があります」

 

マ・クベが言った。

「それは問題ですね」

 

担当者は資料を見る。

「そのため……軍事転用のおそれがないレアメタルに限定してはどうか、という意見も出ています」

 

連邦側の担当者が尋ねた。

「具体的には?」

 

「……そこまでは、まだ。専門家に確認しないと分かりません」

 

連邦側の担当者もうなずいた。

「こちらも技術部門に確認する必要があります」

 

マ・クベが言った。

「では、双方で交換可能なレアメタルを調べましょう」

 

連邦側の代表は少し考えた。

「難しいとは思います。ただ、検討はできるでしょう」

 

◇

 

その夜。

 

サイド3。

 

ギレンは南極から送られてきた速報を読んでいた。

「物資交換?」

 

側近が答える。

「はい。まだ決定ではありません。双方で交換可能な物資があるか確認するとのことです」

「連邦と?」

「はい」

 

ギレンは資料を読む。

「マ・クベめ」

 

側近が少し緊張する。

「問題でしょうか」

 

ギレンはしばらく資料を読んでいた。

「いや」

 

資料を机に置く。

「好きにやらせろ」

「よろしいのですか?」

「交渉は一任している」

 

◇

 

仕事を終え、ギレンは帰宅した。

 

猫が歩いてきた。

「ニャア」

 

ギレンが見る。

「今度は物を交換するそうだ。昨日まで殺し合っていた相手と、必要な物を交換するらしい」

 

猫は机の上に乗った。ギレンは置いてあった資料を横へ移した。

 

ギレンは猫を見る。

「お前と交換する物はないな」

 

「ニャア」

 

ギレンは資料に戻った。

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