停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
一隻の輸送艦が、ジオン宙域へ向かっていた。積荷は連邦政府が用意した医薬品だった。
「前方に艦影」
乗員たちが緊張した。
「識別は?」
「ジオン艦です」
艦はそのまま近づいてくる。通信が入った。
「こちらジオン軍。登録番号を確認した」
「こちら連邦軍輸送艦。事前通告どおりです」
「確認した。ここから我々が護衛する」
乗員が窓の外を見る。少し前まで敵だった艦が、輸送艦の横についた。
「……予定どおり護衛している」
「……妙な感じだな」
連邦軍の輸送艦とジオン艦は、そのまま並んで進んだ。
◇
輸送艦は目的地へ到着した。港では作業員たちが待っていた。コンテナが次々と降ろされる。
一人の作業員が箱を見る。
「……本当に連邦から来たんだ」
「そうだ」
「敵の物を使うのか……」
「薬に連邦もジオンもあるか?」
「まあ、それもそうか……」
作業員たちは箱を運び始めた。そのうちの一人が、箱に書かれた製薬会社の名前を見る。
「……これ、昔も来ていたな」
「知ってるのか?」
「戦争前は、よく扱っていた。まだあったのか……」
「会社がなくなるわけじゃないだろう」
箱はトラックへ積み込まれた。
◇
病院。
医薬品を積んだトラックが到着した。職員たちが箱を運び込み、医師が中身を確認する。
医師が一つの箱を手に取った。
「懐かしいな……」
「知っているんですか?」
「戦争前は、これを使っていた」
看護師が箱を見る。
「連邦製ですね」
「……当時は、そんなことを気にしていなかった」
「不足していた薬です。すぐに使えます」
「では、各病棟へ回してください」
看護師たちは箱を運んでいった。
◇
逆方向にも輸送艦が出る。
ジオン政府が用意したのは、取り決めたレアメタルだった。港では積み込みが続いていた。
一人の作業員が積荷を見る。
「このレアメタル、戦争前も地球へ送っていたな……」
「そうなのか?」
「ああ。同じ港からだ」
別の作業員が言った。
「結局、昔に戻るだけか」
「全部が戻るわけじゃないだろう」
「まあな」
レアメタルを積んだ輸送艦は、出港の準備を進めていた。
◇
その話を聞いた一人の商人がいた。戦争前、地球との貿易をしていた男だった。昔の航路は知っている。取引先も残っている。ジオンでは、物資が不足している。連邦には、物がある。
商人は考えた。
「連邦で買い付けて、ジオンで売る」
少し考えた。
「……大儲けだな」
今なら儲かる。しかし、停戦が破れれば、船も積荷も失う。大損だ。
「……危険だな。やめた方がいい」
だが、誰もやっていない。それなら、最初に始めた者が一番儲かる。
「いや、だから儲かるのか」
だが、まだ民間の貿易は認められていない。
「問題は許可か……」
商人には役所に昔からの知り合いがいた。少し金を渡せば、便宜を図ってくれるかもしれない。
その夜、商人は知り合いの役人を港の外れにある古い酒場へ呼び出した。
店の奥で、二人が向かい合っていた。
「久しぶりだな」
「わざわざこんな所に呼び出して、何の用だ?」
「ちょっといい話がある」
「その言い方をするときは、大抵ろくな話じゃないな」
「失礼だな。今回は本当にいい話だ」
「何だ?」
「連邦との貿易だ」
役人が商人を見る。
「まだ認められていないぞ」
「知っている。昔の航路も取引先も残っている。船も用意できる」
「それで?」
「そこを何とかするのが、お前の仕事だろう」
「私の仕事ではない」
「そう言うな。もちろん、ただとは言わない」
役人の表情が変わった。
「待て」
「まだ金額も言ってないぞ」
「そういう問題じゃない」
商人が黙った。役人が言った。
「もしかして、自分だけが思いついたと思っているのか?」
「……違うのか?」
「同じような問い合わせが、かなり来ている」
「…………」
「政府でも通商再開の準備をしている」
「準備中?」
「ああ。正式に決まるまで待て」
商人は少し考えた。
「どのくらい来ている?」
「言えない」
「多いのか?」
「多い」
「……みんな考えることは同じか」
「そういうことだ」
「分かった。正式に始まったら、すぐ教えてくれ」
「普通に発表を見るように」
「そこを少しくらい早く――」
「駄目だ」
役人に渡すつもりだった金は、そのまま商人の懐に残った。