停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
戦闘が止まった地域では、少しずつ日常が戻り始めていた。警報もない。負傷者を運ぶ姿もない。損傷した施設では修復作業が始まり、店には少しずつ商品が戻ってきた。
戦争が終わったわけではない。それでも、人々は和平条約が完成するまで生活を止めているわけにはいかなかった。
◇
ジオン軍では、兵士たちの休暇が増えていた。
「やっと、自分の休暇の番ですね?」
「そうだ」
「しかし、自分の部隊は……」
「副長に指揮を代行させる」
「連邦軍が攻めてきたら?」
「現有兵力で対応できる」
「大丈夫でしょうか」
「副長だって子供じゃないだろう」
「はい、優秀です」
「なら大丈夫だ」
兵士が笑った。
「では、帰ります」
「そうしろ。ゆっくりしてこい」
◇
宇宙港。
休暇を取った兵士たちが次々と民間船へ乗り込んでいた。
一人の兵士が売店の前で足を止める。
「母親への土産、何がいいと思う?」
「花でも買えば?」
兵士は少し迷ってから花を買った。
◇
数時間後。
コロニーの住宅街。玄関の前で、その兵士は立っていた。
呼び鈴を押す。扉が開いた。母親が立っている。
二人とも、しばらく何も言わなかった。
「ただいま」
母親は息子を見る。
軍服を着ている。怪我はない。自分の足で立っている。
「……おかえり」
兵士は持っていた花を差し出す。
「これ」
「どうしたの?」
「土産」
母親が花を見る。そして笑った。
「あなたが花?」
「悪いか」
「いいえ」
母親は花を受け取った。
「入って。ご飯は?」
「まだ」
「じゃあ、すぐ用意するわ」
「頼む」
◇
その日の南極会談。
連邦側から新しい提案が出た。
「停戦が今後も維持されるのであれば、双方の前線兵力を段階的に削減できるのではないでしょうか」
ジオン側の軍人が尋ねる。
「撤退という意味ですか?」
「まずは戦闘兵器を後方へ移します」
「連邦だけが兵器を残す可能性は?」
「同じことを我々も心配しています」
マ・クベが言った。
「では、互いに確認できる方法を考える必要があります」
「簡単ではありません」
「承知しております」
◇
サイド3。
ギレンは南極からの報告書を読んでいた。
「前線の兵器を減らす?」
「協議中です」
「問題は?」
「相手が約束を守ったか、確認する方法です」
ギレンはしばらく考えた。
「問題は多い。引き続き検討させろ」
◇
仕事を終え、ギレンは帰宅した。猫が椅子の上で寝ていた。
ギレンが見る。
「お前は帰る場所がないのか」
「ここが家か?」
猫が目を開けた。
「ニャア」
ギレンはしばらく猫を見ていた。
「では、私が帰ってくる場所でもあるな」