停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド3。
戦争が止まってから、ギレンの仕事は変わった。以前なら毎日のように届いていた戦況報告は減った。
代わりに届くのは、停戦協議、捕虜交換、物資交換、通商規則。
その日、ギレンの机の上に、見慣れない書類が一枚置かれていた。
写真、経歴、年齢、家族、学歴。
軍事報告ではない。
「……これは、何だ?」
側近が答えた。
「総帥のお見合いです」
ギレンは書類を見る。
「……私が?」
「独身ですので」
「それは理由になっていない」
ギレンは書類を机に置いた。
「却下だ!」
「デギン公王からです」
◇
夕方。ギレンはデギンに呼び出された。
なぜか妹のキシリアもいる。
「ギレン、見合いをしろ」
「お断りします」
即答だった。
「まだ何も説明しておらん」
「お断りします」
「相手の名前も聞かんのか」
「必要ありません」
デギンがため息をついた。
「お前は昔から、そういうところがあるな」
「国家運営と私生活は別です」
「その私生活が何もないから言っておる」
ギレンは話を戻した。
「父上。現在も連邦との和平交渉は継続中です」
「交渉はマ・クベに一任したのだろう」
「はい。地道に進んでいます」
「前線は?」
「停戦が続いています」
「捕虜交換は?」
「担当部署が進めています」
「通商は?」
「規則を整備中です」
「では、何が問題なのだ」
デギンは続けた。
「兵士に休暇を与えた」
「はい」
「その兵士たちは、家族のもとへ帰っているそうではないか」
「……はい」
デギンは息子を見る。
「お前も、少しは自分の人生を考えろ」
「……」
今度はキシリアが口を開いた。
「私は兄上が結婚されるかどうか自体には、それほど興味はありません」
ギレンが見る。
「ならば黙っていてくれ」
「しかし、後継問題は別です」
ギレンの表情が変わった。
キシリアは淡々と続ける。
「兄上はジオン公国の総帥です。国家の最高指導者の一人である以上、後継問題を完全に私事として扱うことはできません」
「私が今すぐ死ぬとでも?」
「その可能性を考えなかったのですか?」
「…………」
正論だった。
「現在は停戦しています。しかし、将来何が起こるかは分かりません。兄上が国家の長期的な安定を考えるのであれば、ご自身の後継について考えることも不自然ではありません」
ギレンはしばらく黙っていた。
「分かった」
デギンはすぐにうなずいた。
「それでよい」
◇
ギレンはキシリアを見た。
「ただし、条件がある」
「何です?」
数秒してから。
「キシリアも見合いをしろ」
キシリアが止まった。
「兄上!」
「何だ」
「今の話と私に何の関係があるのです」
「お前も独身だ」
「それは理由になっていません」
「……」
キシリアも黙った。
デギンがうなずいた。
「それが良い」
キシリアがデギンを見る。
「父上?」
「ギレンだけというのも不公平だろう」
「公平、不公平の問題ではありません」
デギンはキシリアを見る。
「お前も国家の重要な地位にいる」
「だから何です」
「先ほど自分で、後継問題は国家の安定に関係すると言ったではないか」
こうして、ギレンとキシリアのお見合いが決まった。