停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
南極。
マ・クベが資料を置いた。
「以前に、お話ししたことについて考えをまとめました」
連邦側の代表も、その意味を理解していた。
「ジオンの独立ですか」
「はい」
部屋の空気が少しだけ重くなった。
マ・クベが言った。
「我々が戦争を始めた目的は、連邦を滅ぼすことではありません。スペースノイドの自立、そして、地球に住む者と宇宙に住む者が、対等な立場に立つことです」
連邦側の代表が腕を組んだ。
「独立を認めることは、連邦政府として簡単ではありません」
「承知しております」
「では、どうします?」
マ・クベは静かに続けた。
「以前に政治的な平等についてお話ししました。次は、実際に自分たちのことを自分たちで決められる仕組みを作ればよいかと」
「高度な自治を認めろと?」
「独立か自治か、名称は後で決めればよろしいかと存じます」
連邦側の代表が苦笑した。
「また後回しですか」
「今日決められないことで、今日できることまで止める必要はありません」
いつの間にか、それは南極の交渉団でよく聞く言葉になっていた。
◇
サイド3。
ギレンの机に、南極から新しい報告書が届いた。
『ジオンの地位に関する暫定案』
ギレンは読み進める。
内政上の広範な自治。独自の議会と行政制度。
連邦政府への代表参加。相互通商の保障。
宇宙移民に対する制度上の差別の撤廃。
そして最後に、
『最終的な国家的地位については、将来の協議に委ねる』
ギレンの視線が止まった。
「独立を先送りするのか」
側近が緊張する。
ギレンはしばらく報告書を見ていた。そして、机に置いた。
「マ・クベらしい」
「修正を命じますか?」
「いや。交渉を続けさせろ」
ギレンはもう一度、最初から報告書を読み始めた。
南極では、国家の独立を今日決めないことになった。自分の結婚も猫の名前も決まっていない。
決まらなければ、話し合えばいい。明日でもいい。来月でもいい。必要なら一年かけてもいい。その間、誰も撃たなければいい。
ギレンは南極からの報告書に署名した。
◇
南極。
前線に配備している兵力を、後方へ移す案について、協議が進んでいた。
連邦側の代表が言った。
「問題は、相手が本当に兵力を移したか確認できないことです」
ジオン側の将官が言った。
「査察する方法もあります。しかし、軍が認めるかどうか……」
それまで黙って聞いていたマ・クベが口を開いた。
「我々はあなた方を信用していない。あなた方も我々を信用していない」
「……」
「事実かと思います」
「では、どうします?」
「信用しなくても守れる仕組みにすればよろしいかと」
マ・クベは資料を閉じた。
「具体的な方法については、双方の軍と協議しましょう」
◇
その夜。
ギレンが帰宅すると、猫はいつもの椅子で寝ていた。
ギレンは猫を見る。
「お前は独立とか考えたことはあるか」
猫は目を開けた。
「ニャア」
「まあいい。お前は隠すものはないな」
猫はまた目を閉じた。