停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド3。
ギレンは市街地の小さなレストランにいた。
店は警備のため貸し切られている。
「では、私は外で待機しております」
「待て。お前も同席しろ」
「総帥。本日はお見合いですので、私は席を外した方がよろしいかと」
「そうか」
「何かございましたら、すぐにお呼びください」
側近は一礼して去った。
ギレン・ザビは一人になった。
次の会議の準備が、まだ終わっていない。
◇
しばらくして、女性が入ってきた。
二人は向かい合って座った。
「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
「いえ……」
「…………」
「…………」
料理が運ばれてきた。二人は黙って食事を始めた。
女性が口を開いた。
「趣味は?」
「ない!」
ギレンはナイフを置いた。また聞かれた。
女性はギレンを見た。
「総帥は怖い人だと聞いていました」
「そうでしょう」
再び食事が始まった。
「でも、聞きました。猫を飼っているそうですね」
「飼っている」
「灰色で貫禄があると聞きました」
「そうだ」
「机にも乗ります?」
「乗る」
「書類の上にも?」
「重要書類だ」
「怒らないのですか?」
「怒る」
「降ります?」
「降りない」
女性が笑った。
「名前は?」
「まだない」
「呼ぶときは?」
「猫だ」
「それで来るのですか?」
「来るときもある」
「来ないときは?」
「私が行く」
女性がまた笑った。
「総帥の椅子にも乗ります?」
「昨日も占領された」
「どうしたのですか?」
「私が床に座って、南極からの報告書にサインした」
「床で?」
「仕方ないだろう。寝ているのだから」
女性が笑いながらグラスを置いた。
「猫が椅子に座ると、動かせないですね」
「そうだな。よく寝ていた」
「かわいいですか?」
「…………」
「かわいいですよね?」
「まあ、そうだな」
◇
同じ頃。
別のレストランでは、キシリアも見合いをしていた。
「現在の部署には何年?」
「三年になります」
「直属の上司は局長?」
「……はい」
「政治的には誰と近い?」
「……はい?」
「軍、財界、旧ダイクン派。あるいは連邦」
「そこまでは……」
「最近、連邦関係者と接触しましたね」
「和平関連の会議です」
「それ以外には?」
「ありません」
男性は困った顔でキシリアを見る。
「キシリア閣下」
「何です?」
「……これはお見合いでしょうか。それとも尋問でしょうか」
「お見合いです」
「そうですか……」
この尋問――ではなく、お見合いは、一時間ほど続いた。
◇
ギレンの食事は終わりに近づいていた。
女性が尋ねた。
「戦争は、本当に終わるのでしょうか」
ギレンの表情が変わった。
「父が軍におります。今は休暇で帰っています」
「そうか」
「半年ぶりでした。また戦争が始まれば、父は戻らなければなりません」
女性は少し迷ってから言った。
「終わってほしいと思っています」
ギレンは何も言わなかった。しばらく沈黙が続いた。女性も、何も言わなかった。
ギレンはテーブルの上に目を落とした。そして、静かに口を開いた。
「交渉中なので、明日がどうなるかは分からない」
少し間を置いた。
「だが、少なくとも今日までは、誰も死んでいない」
女性はギレンを見つめた。しばらく、何も言わなかった。
「ありがとうございます」
◇
食事が終わった。
店の外で側近が待っていた。
「総帥。いかがでしたか?」
「食事をした」
「それは分かります。もう一度お会いになりますか?」
「…………」
ギレンは少し考えた。今日決められないことは、明日また話せばいい。
「もう一度会ってから考える」
「承知しました」
◇
その夜。
ギレンが部屋へ戻ると、猫が待っていた。
「ニャア」
「お前の話をしてきた」
「ニャア」
「笑われた」
「名前を付けた方がいいらしい」
「ニャア」
「…………これは後でいい」
和平交渉も、独立問題も、猫の名前も、結婚も。今日すべてを決める必要はない。
そして今日も、誰も撃っていなかった。