停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第17話 総帥、お見合い中です

サイド3。

ギレンは市街地の小さなレストランにいた。

店は警備のため貸し切られている。

 

「では、私は外で待機しております」

「待て。お前も同席しろ」

「総帥。本日はお見合いですので、私は席を外した方がよろしいかと」

「そうか」

「何かございましたら、すぐにお呼びください」

 

側近は一礼して去った。

ギレン・ザビは一人になった。

 

次の会議の準備が、まだ終わっていない。

 

◇

 

しばらくして、女性が入ってきた。

二人は向かい合って座った。

 

「本日は、お時間をいただきありがとうございます」

「いえ……」

 

「…………」

「…………」

 

料理が運ばれてきた。二人は黙って食事を始めた。

 

女性が口を開いた。

「趣味は?」

「ない!」

 

ギレンはナイフを置いた。また聞かれた。

 

女性はギレンを見た。

「総帥は怖い人だと聞いていました」

「そうでしょう」

 

再び食事が始まった。

「でも、聞きました。猫を飼っているそうですね」

「飼っている」

「灰色で貫禄があると聞きました」

「そうだ」

 

「机にも乗ります?」

「乗る」

「書類の上にも?」

「重要書類だ」

 

「怒らないのですか?」

「怒る」

「降ります?」

「降りない」

 

女性が笑った。

「名前は?」

「まだない」

「呼ぶときは?」

「猫だ」

 

「それで来るのですか?」

「来るときもある」

「来ないときは?」

「私が行く」

 

女性がまた笑った。

「総帥の椅子にも乗ります?」

「昨日も占領された」

「どうしたのですか?」

「私が床に座って、南極からの報告書にサインした」

「床で?」

「仕方ないだろう。寝ているのだから」

 

女性が笑いながらグラスを置いた。

「猫が椅子に座ると、動かせないですね」

「そうだな。よく寝ていた」

 

「かわいいですか?」

「…………」

「かわいいですよね?」

「まあ、そうだな」

 

◇

 

同じ頃。

別のレストランでは、キシリアも見合いをしていた。

 

「現在の部署には何年?」

「三年になります」

「直属の上司は局長?」

「……はい」

「政治的には誰と近い?」

「……はい?」

「軍、財界、旧ダイクン派。あるいは連邦」

「そこまでは……」

「最近、連邦関係者と接触しましたね」

「和平関連の会議です」

「それ以外には?」

「ありません」

 

男性は困った顔でキシリアを見る。

 

「キシリア閣下」

「何です?」

「……これはお見合いでしょうか。それとも尋問でしょうか」

「お見合いです」

「そうですか……」

 

この尋問――ではなく、お見合いは、一時間ほど続いた。

 

◇

 

ギレンの食事は終わりに近づいていた。

 

女性が尋ねた。

「戦争は、本当に終わるのでしょうか」

 

ギレンの表情が変わった。

 

「父が軍におります。今は休暇で帰っています」

「そうか」

「半年ぶりでした。また戦争が始まれば、父は戻らなければなりません」

 

女性は少し迷ってから言った。

「終わってほしいと思っています」

 

ギレンは何も言わなかった。しばらく沈黙が続いた。女性も、何も言わなかった。

 

ギレンはテーブルの上に目を落とした。そして、静かに口を開いた。

「交渉中なので、明日がどうなるかは分からない」

 

少し間を置いた。

「だが、少なくとも今日までは、誰も死んでいない」

 

女性はギレンを見つめた。しばらく、何も言わなかった。

「ありがとうございます」

 

◇

 

食事が終わった。

 

店の外で側近が待っていた。

「総帥。いかがでしたか?」

「食事をした」

「それは分かります。もう一度お会いになりますか?」

「…………」

 

ギレンは少し考えた。今日決められないことは、明日また話せばいい。

 

「もう一度会ってから考える」

「承知しました」

 

◇

 

その夜。

ギレンが部屋へ戻ると、猫が待っていた。

 

「ニャア」

「お前の話をしてきた」

「ニャア」

「笑われた」

 

「名前を付けた方がいいらしい」

「ニャア」

「…………これは後でいい」

 

和平交渉も、独立問題も、猫の名前も、結婚も。今日すべてを決める必要はない。

 

そして今日も、誰も撃っていなかった。

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