停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド3。
会議室には各方面の将官や基地司令官が集まっていた。
会議は、最初から紛糾した。
「反対です」
「連邦軍人を我が軍の基地に入れるなど認められません」
「査察する場所を限定すればいい」
「基地の位置、規模、警備体制。それだけでも情報になります」
「見せる場所を事前に指定すればいい」
「問題はそれだけではありません」
別の将官が言った。
「民間での交流とは話が違います。ここは我々の軍事基地です」
「連邦側も同じだ」
「だからこそ、双方とも簡単には受け入れられません」
さらに別の将官が口を開いた。
「基地に入れば、査察対象以外のものも目に入ります。部隊の配置、艦艇の状態、物資の量。それだけでも軍事情報になる」
「査察区域を限定すればいい」
「移動経路から分かることもあります。完全に隠すことはできません」
「ならば、必要な場所だけ見せればいい」
「必要範囲を誰が決める?」
「南極で詰めればいい」
「連邦がこちらの条件を受け入れる保証はない」
意見はまとまらなかった。
◇
やがて、一人の将官が言った。
「問題は、連邦軍人を直接基地に入れることではありませんか」
別の将官がそちらを見る。
「第三者を使う案か?」
「それは、すでに検討した」
「民間人、あるいは中立勢力です」
「民間人に軍事施設を査察させるのか?」
「軍事知識のない者に、兵力移動の確認ができるのか」
「ならば軍事知識のある者を選べばいい」
「軍事知識のない者でも確認できるようにすればいい」
「そんな都合の良い方法があるか」
「それを含めて検討する必要があります」
別の将官が言った。
「どこの人間を使う?」
「中立勢力から選ぶ方法があります」
「中立だから信用できるとは限りません」
「それを言えば、誰も信用できなくなる」
「だから人選が重要なのです」
議論は続いた。
「一勢力に任せるのは危険だ」
「複数の中立勢力から出させればいい」
「人数を増やせば、機密漏洩の危険も増す」
「では少人数にする」
「少人数で十分な査察ができるのか?」
今度は別の将官が資料を見ながら言った。
「第三者でも機密の問題は残る」
「査察区域は限定すべきだ」
「記録についても制限が必要だ」
「写真や映像を自由に撮らせるわけにはいかない」
「持ち込み機材にも制限が必要だ」
次々と条件が増えていった。
ギレンはそれまで黙って聞いていた。やがて議論が途切れたところで、口を開いた。
「ほかに意見は?」
一人の将官が言った。
「相互査察には問題が残ります。ただし、第三者による査察なら検討の余地はあります」
別の将官もうなずいた。
「誰を選ぶか、どこまで見せるか。その二つが決まらなければ判断できません」
「ほかには?」
しばらく待ったが、新しい意見は出なかった。
ギレンが言った。
「それを含めて南極で詰めさせよう。方向性はこれでいい」
「承知いたしました」
「では、南極に伝えろ」
「はっ」
会議は終わった。
◇
その夜。
ギレンが帰宅すると、猫はいつもの椅子で寝ていた。
ギレンは猫を見る。
「お前を査察する必要はないな」
「ニャア」
「調べることがない」
猫は動かない。
「お前の名前も決まっていないな」
「ニャア」
ギレンは猫を見る。
「まあ、それは後でいい」
◇
翌日。
執務室。
側近が資料を出した。
「総帥、民間通商について報告があります」
「問題か?」
「いえ。予想以上に取引が増えています」
「どの程度だ?」
「貨物船の便数を増やす必要が出ています」
ギレンが資料を見る。
「始めたばかりではなかったか?」
「はい。民間企業からの申請が増え続けています」
「そうか。問題がないなら続けろ」
「承知しました」
「総帥。それから、キシリア閣下の方ですが……」
「どうした」
「現在、調査中とのことです」
「……何をだ?」