停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第19話 査察

サイド6から派遣された査察団が、ジオン軍基地に到着した。

連邦とジオン、双方が認めた第三者による最初の査察だった。

 

正面のゲートで身分証を確認する。

「査察団五名、確認しました」

 

ジオン軍の担当将校が言った。

「予定どおり、格納庫と補給施設をご案内します」

「お願いします」

 

担当将校は資料を確認した。

「その前に、もう一度確認します。指定された区域は厳守してください」

「承知しています」

「指定区域から外れた場合、何が起きるか、我々にも保証できません」

 

査察員たちの表情が少し固くなった。

「それから、基地内では常に我々と同行してください。予定以外の行動は一切行わないでください」

 

査察団は担当将校たちとともに基地内へ入った。

通路の向こうから、数人の兵士が歩いてきた。兵士たちは査察団を見る。査察員たちも彼らを見た。誰も何も言わなかった。

 

担当将校が言った。

「こちらです」

 

査察団はそのまま後についていった。

 

◇

 

格納庫の扉が開いた。中には、数機のモビルスーツが残っていた。

 

以前はモビルスーツが並んでいた場所も、今は空いている。大部分は、すでに後方の基地へ移されている。

 

査察員が手元の資料を見る。

「現有モビルスーツは四機ですね」

「そうです」

 

査察員たちは一機ずつ確認した。

「四機。間違いありません」

 

ジオン軍の担当将校が書類を差し出した。

「では、確認のサインをお願いします」

 

査察員は内容を確認し、署名した。

 

査察員が資料を見る。

「次は第五格納ブースですね」

「はい。こちらです」

 

第五格納ブースには、何もなかった。査察員たちは中に入り、空であることを確認した。

「問題ありません」

 

担当将校は、空になった格納ブースを見た。

かつては兵器が足りないことを恐れていた。今は、兵器がないことを確認してもらっている。

 

査察員は入口に一枚の紙を貼った。

 

『使用禁止』

 

その下には、『ジオン・連邦合同停戦査察団』と書かれていた。

 

担当将校が紙を見る。

「しかし、こんなものは、ただの紙でしょう」

 

査察員が答えた。

「そうです。ただの紙です」

 

査察員は、その下に書かれた文字を示した。

「ここに『ジオン・連邦合同停戦査察団』と名前があります。これを破ることの意味はお分かりですよね」

 

担当将校はもう一度、紙を見た。兵士たちは、この紙を毎日見ることになる。

「……分かりました」

 

「では、サインをお願いします」

 

担当将校は書類を確認し、署名した。

 

残り十二か所の格納庫についても、同じ作業を繰り返した。中を確認し、記録と照合し、使用禁止の紙を貼り、確認の署名をする。査察には、思っていた以上に時間がかかった。

 

格納庫を出る途中、一人の査察員が通路の先を見た。

「こちらは?」

「査察対象外です」

「分かりました」

 

それ以上は聞かなかった。

 

補給施設でも、査察員たちは決められた項目だけを確認した。物資の量を確認し、記録と照合する。

問題はなく、査察は予定どおり終了した。

 

◇

 

担当将校が時計を見る。

「そろそろ昼食の時間です。普段、我々が食べているものですが、昼食を用意しました」

「我々の分も?」

「はい。専用の部屋を用意しましたので、そちらでお取りください」

「ありがとうございます」

 

査察団は担当将校に案内され、用意された部屋へ移動した。

しばらくして、食事が運ばれてきた。

 

査察員の一人がシチューを口にする。

「先日の連邦軍基地でも、シチューが出ました」

 

担当将校がそちらを見る。

「連邦軍の基地でも食事を?」

「ええ。あちらでも普段の食事をいただきました」

「どうでした?」

「悪くありませんでした」

 

担当将校が尋ねた。

「では、どちらが美味いです?」

 

査察員はもう一口食べた。

「こちらの方が、少し薄味ですね」

「そうですか」

「ところで、これも査察項目ですか?」

「いや。個人的な質問です」

 

◇

 

南極。

 

マ・クベと連邦側の代表は、秘書から次回の会議日程について報告を受けていた。

 

「次回の会議は、水曜日の十四時からとなりました」

「議題は?」

「査察の結果と、次の兵力移動についてです」

「分かりました」

 

話は終わった。連邦側の代表が立ち上がろうとして、ふと止まった。

「マ・クベ閣下」

「何でしょう」

「我々、まだ戦争中なのですよね」

 

マ・クベも止まった。

「……停戦中なので、形式上は戦争中だと思われます」

「そうでしたね」

 

「しかしながら、ある意味では、もう敵ではないと言えるかもしれません」

 

「では、いつから味方になるのでしょう」

「味方ですか。味方になる必要まではないかと思います」

「……」

「敵でなければ、当面は十分かと思います」

 

◇

 

サイド3。

 

ギレンは査察の報告書を読んでいた。

『重大な違反なし』

 

連邦側の基地についても、同様の報告が届いている。

「問題はなかったか」

「ありません」

 

側近が少し間を置いた。

「ただし、査察団から基地の食事について感想がありました」

「何だ」

「先日訪れた連邦軍基地より、こちらのシチューの方が少し薄味だ、と」

「…………」

「正式な査察報告書には記載されておりません」

「当然だ」

 

「それから、猫の名前も相変わらず決まっていません」

「またその話か」

 

側近が資料を取り出した。

「キシリア閣下から報告です」

「何だ」

「先日のお見合いについて、調査が終了したとのことです」

「……調査が終了?」

 

「勤務先の部署で派閥争いが起き、局長を転属させるそうです」

「……そっちなのか」




すみません、設定ミスで22:30に投稿してしまいました。
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