停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド6から派遣された査察団が、ジオン軍基地に到着した。
連邦とジオン、双方が認めた第三者による最初の査察だった。
正面のゲートで身分証を確認する。
「査察団五名、確認しました」
ジオン軍の担当将校が言った。
「予定どおり、格納庫と補給施設をご案内します」
「お願いします」
担当将校は資料を確認した。
「その前に、もう一度確認します。指定された区域は厳守してください」
「承知しています」
「指定区域から外れた場合、何が起きるか、我々にも保証できません」
査察員たちの表情が少し固くなった。
「それから、基地内では常に我々と同行してください。予定以外の行動は一切行わないでください」
査察団は担当将校たちとともに基地内へ入った。
通路の向こうから、数人の兵士が歩いてきた。兵士たちは査察団を見る。査察員たちも彼らを見た。誰も何も言わなかった。
担当将校が言った。
「こちらです」
査察団はそのまま後についていった。
◇
格納庫の扉が開いた。中には、数機のモビルスーツが残っていた。
以前はモビルスーツが並んでいた場所も、今は空いている。大部分は、すでに後方の基地へ移されている。
査察員が手元の資料を見る。
「現有モビルスーツは四機ですね」
「そうです」
査察員たちは一機ずつ確認した。
「四機。間違いありません」
ジオン軍の担当将校が書類を差し出した。
「では、確認のサインをお願いします」
査察員は内容を確認し、署名した。
査察員が資料を見る。
「次は第五格納ブースですね」
「はい。こちらです」
第五格納ブースには、何もなかった。査察員たちは中に入り、空であることを確認した。
「問題ありません」
担当将校は、空になった格納ブースを見た。
かつては兵器が足りないことを恐れていた。今は、兵器がないことを確認してもらっている。
査察員は入口に一枚の紙を貼った。
『使用禁止』
その下には、『ジオン・連邦合同停戦査察団』と書かれていた。
担当将校が紙を見る。
「しかし、こんなものは、ただの紙でしょう」
査察員が答えた。
「そうです。ただの紙です」
査察員は、その下に書かれた文字を示した。
「ここに『ジオン・連邦合同停戦査察団』と名前があります。これを破ることの意味はお分かりですよね」
担当将校はもう一度、紙を見た。兵士たちは、この紙を毎日見ることになる。
「……分かりました」
「では、サインをお願いします」
担当将校は書類を確認し、署名した。
残り十二か所の格納庫についても、同じ作業を繰り返した。中を確認し、記録と照合し、使用禁止の紙を貼り、確認の署名をする。査察には、思っていた以上に時間がかかった。
格納庫を出る途中、一人の査察員が通路の先を見た。
「こちらは?」
「査察対象外です」
「分かりました」
それ以上は聞かなかった。
補給施設でも、査察員たちは決められた項目だけを確認した。物資の量を確認し、記録と照合する。
問題はなく、査察は予定どおり終了した。
◇
担当将校が時計を見る。
「そろそろ昼食の時間です。普段、我々が食べているものですが、昼食を用意しました」
「我々の分も?」
「はい。専用の部屋を用意しましたので、そちらでお取りください」
「ありがとうございます」
査察団は担当将校に案内され、用意された部屋へ移動した。
しばらくして、食事が運ばれてきた。
査察員の一人がシチューを口にする。
「先日の連邦軍基地でも、シチューが出ました」
担当将校がそちらを見る。
「連邦軍の基地でも食事を?」
「ええ。あちらでも普段の食事をいただきました」
「どうでした?」
「悪くありませんでした」
担当将校が尋ねた。
「では、どちらが美味いです?」
査察員はもう一口食べた。
「こちらの方が、少し薄味ですね」
「そうですか」
「ところで、これも査察項目ですか?」
「いや。個人的な質問です」
◇
南極。
マ・クベと連邦側の代表は、秘書から次回の会議日程について報告を受けていた。
「次回の会議は、水曜日の十四時からとなりました」
「議題は?」
「査察の結果と、次の兵力移動についてです」
「分かりました」
話は終わった。連邦側の代表が立ち上がろうとして、ふと止まった。
「マ・クベ閣下」
「何でしょう」
「我々、まだ戦争中なのですよね」
マ・クベも止まった。
「……停戦中なので、形式上は戦争中だと思われます」
「そうでしたね」
「しかしながら、ある意味では、もう敵ではないと言えるかもしれません」
「では、いつから味方になるのでしょう」
「味方ですか。味方になる必要まではないかと思います」
「……」
「敵でなければ、当面は十分かと思います」
◇
サイド3。
ギレンは査察の報告書を読んでいた。
『重大な違反なし』
連邦側の基地についても、同様の報告が届いている。
「問題はなかったか」
「ありません」
側近が少し間を置いた。
「ただし、査察団から基地の食事について感想がありました」
「何だ」
「先日訪れた連邦軍基地より、こちらのシチューの方が少し薄味だ、と」
「…………」
「正式な査察報告書には記載されておりません」
「当然だ」
「それから、猫の名前も相変わらず決まっていません」
「またその話か」
側近が資料を取り出した。
「キシリア閣下から報告です」
「何だ」
「先日のお見合いについて、調査が終了したとのことです」
「……調査が終了?」
「勤務先の部署で派閥争いが起き、局長を転属させるそうです」
「……そっちなのか」
すみません、設定ミスで22:30に投稿してしまいました。