停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
停戦交渉は、二日目を迎えていた。
交渉はマ・クベに一任されていた。連邦側も複数の代表を送り込み、双方は朝から議論を続けている。だが、話はまとまらなかった。
連邦側の代表が言った。
「ジオンの独立は認められない」
マ・クベはしばらく考えた。
「では、今は認めなくても結構です。後ほど話し合えばよろしいかと存じます」
連邦側が少し戸惑った。
「……自治権についても合意できません」
「それも後ほどでよろしいかと」
「軍縮についても、約束することはできません」
「承知しました。それも後ほど話し合いましょう」
連邦代表は困ったようにマ・クベを見る。
「では、今日は何を決めるのです?」
マ・クベは答えた。
「撃つのをやめることです」
「しかし、それでは何も解決していない」
「その通りです。何も解決していません」
あっさり認めた。
「独立も自治も、何も解決していません。しかし、それらを今日中に決めなければならない理由もありません」
連邦側から反論が出る。
「問題を先送りしているだけでは?」
「その通りです。問題を先送りしております」
また認めた。
「しかし、今日決められない問題を無理に決めようとして交渉を決裂させ、明日からまた殺し合うよりは良いでしょう」
会議室が静かになった。マ・クベ自身も疲れていた。初日から何時間も話し続け、今日も朝から同じような議論を繰り返している。そして、おそらく連邦側も同じだった。
◇
マ・クベは椅子の背にもたれた。
「私は疲れました。早く家に帰りたいです」
突然の言葉に、連邦側の代表者たちが顔を見合わせた。
「皆さんも、本当はそう思いませんか」
誰も答えない。
「連邦が勝つのか、ジオンが勝つのか。それを決めるために、あと何人死ななければならないのでしょう」
マ・クベは続けた。
「今日決められないことは、明日また話せばいい。自治も、独立も、連邦の制度も、時間をかけて話し合えばいい」
そして、会議場を見渡した。
「でも今日は、とりあえず撃つのをやめませんか」
一呼吸置く。
「家に帰りましょう」
誰も何も言わなかった。
しばらくして、マ・クベが尋ねた。
「皆さんはどう思います?」
また沈黙が続いた。
連邦側の文官の一人がマ・クベを見た。
「……私も帰りたいです」
緊張が少しだけ緩んだ。
政治的な結論は出なかった。しかし停戦は、もう一日延長された。
◇
数日が過ぎた。
南極では相変わらず交渉が続いていた。
独立について話す。
まとまらない。
自治について話す。
まとまらない。
軍備について話す。
やはりまとまらない。
マ・クベは急がなかった。決まらない問題は保留にした。そして一日の会談が終わるたびに、双方が確認する。停戦を継続する。それだけは毎日決まった。
奇妙な状態だった。和平は成立していない。戦争も終わっていない。しかし、戦闘も起きていない。前線では防衛に専念し、不必要な行動を控えるようになった。戦争中でありながら、戦場が静かになっていった。
全軍をいつまでも最高度の戦闘態勢に置き続ける必要はない。ジオン軍上層部で、この問題が議題になった。
「停戦が長期化しています。前線からも、今後の勤務について問い合わせが来ています」
「警戒は維持すべきだ」
「もちろんです。しかし、全員を配置しておく必要はありません」
「どうする?」
「交代で休ませます」
会議室の視線が集まった。
「一定数は警戒任務を続けます。残りの将兵には順次休暇を与え、休暇が終われば交代します」
◇
サイド3。
ギレン総帥は報告書に目を通した。
「戦力の低下は?」
「交代で一割程度の将兵に休暇を取らせます。防衛に必要な戦力は常に確保します」
「交渉決裂時は?」
「休暇中の将兵に帰還命令を出します」
ギレンはしばらく考えた。
「よかろう」
毎日、1話を投稿予定
第一話投稿後、44時間で「1000UA」達成、ありがたや。