停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
南極。
停戦が長引き、前線基地では兵士の仕事が減ってきた。双方とも余剰の兵士を帰したい。その点では一致している。
「兵士を帰還させることには賛成です。しかし、停戦が続くとは限りません」
マ・クベが尋ねる。
「戦闘が再開する可能性がある、ということですか?」
「はい。その場合、兵士を再び前線へ戻す必要があります」
ジオン側からも声が上がる。
「こちらも同じです」
連邦側の担当者が資料を配った。
「そこで、軍籍を残したまま、復興事業に従事させる案が出ています」
「軍籍は残すのですか?」
「はい。戦闘が再開した場合には、元の部隊へ戻します」
マ・クベは資料を見る。
「問題ないと思われます」
◇
ジオン側の担当者が別の資料を出した。
軍で輸送車両を扱っていた者なら輸送業務で働ける。工兵なら道路や橋、建物の復旧。整備兵なら工場や交通機関。通信兵なら通信網の復旧。
「復興には人手が必要です」
「帰ってくる兵士がいます」
「双方にとって都合がいいですね」
「では、その方向で進めましょう」
担当者が説明を続けた。
「しかし、現在の復興部門には一つ問題があります」
「どのような問題でしょうか?」
「復興部門は事業を管理する部署であり、実際に復興作業を行う部署ではありません」
「何か対応策はあるのでしょうか?」
「民間企業に軍人を派遣する制度が提案されています」
連邦の担当者が尋ねた。
「派遣ですか? 復興作業を行う部署を新設すればよいのでは?」
「それも検討されました。しかし、組織が肥大化し、官僚的な弊害が生じるおそれがあります。そのため、民間企業への派遣が望ましいとの報告です」
マ・クベは資料を見る。
「まずは、民間企業との協議が必要かと思います」
◇
連邦側の担当者が言った。
「しかし、帰る家のない兵士もいます」
戦争によって住宅を失った者。家族を失った者。故郷そのものが戦場になった者。そして宇宙では、帰るべきコロニーそのものを失った者もいる。
マ・クベは資料を見た。
「……そうですか」
しばらくして、ジオン側の担当者が言った。
「住宅建設を、復興事業の最優先事項の一つにしてはどうでしょうか」
マ・クベが尋ねる。
「兵士だけではありませんね?」
「はい。戦争で住む場所を失った人は大勢います」
「では、まず帰る場所を作る必要がありますね」
連邦側の代表がうなずいた。
「住宅建設を、復興事業の最優先事項の一つにしましょう」
◇
サイド3。
ギレンのところにも、新しい提案が届いた。
『前線兵力削減に伴う復興事業への人員活用』
ギレンは資料を読む。民間企業への人員派遣。住宅建設。インフラ復旧。
「認めろ」
「よろしいのですか?」
「金は使うためにある。兵器を作って壊すために使うよりは、家を建てた方が残る」
側近がもう一つの資料を出した。
「それと、通商拡大についての計画書がまとまりました」
「そうか」
「民間企業からの申請も増えています」
ギレンが資料を見る。
「税は取れるのか?」
「もちろんです」
「上手くいけば、ここにも金を回せるな」
「はい」
ギレンは復興事業の資料を指した。
「ならば進めろ」
◇
その日の仕事を終え、ギレンは帰宅した。
猫がいつもの場所で寝ていた。
「今日は家を作る話だった」
猫が目を開ける。
「帰る家がない兵士もいるらしい」
「ニャア」
ギレンは猫を見る。
「お前には、ここがあるな」
猫はまた目を閉じた。