停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第21話 面白い人だったのに、残念ね

サイド3。

 

キシリアは二度目のお見合いに来ていた。

 

側近が言った。

「閣下。公王陛下から、今回のお見合いについて改めてお言葉がありました」

「何です?」

 

「政治、軍務、相手の勤務先や交友関係について、必要以上にお尋ねにならないようにとのことです」

「前にも聞きました」

「念のため、お伝えするよう申しつかっております」

「そうですか」

 

◇

 

相手の男性は、大企業を経営していた。

 

最初の挨拶を終えると、男性が尋ねた。

「趣味はありますか?」

「趣味……」

 

キシリアは少し考えた。

 

男性が言った。

「では、好きなことや、やってみたいことは?」

 

キシリアはしばらく考えた。

「そうですね……例えば、ギレン総帥を失脚させることですね」

 

「…………」

 

「総帥府の警備体制は把握している。警備が交代する24時が狙い目ね。そこから……」

 

キシリアが男性を見る。

「どう?」

 

「そのような物騒なことは、よした方が良いかと……」

 

「つまらない人ね」

 

「自分の手を汚す必要はありません。私なら、弱点をつきます」

 

キシリアの目が輝いた。

「弱点!」

 

「総帥は軍人であり政治家です。だからこそ、金の怖さを知らない」

「金の怖さ?」

「軍と政府には強い基盤を持っています。しかし、財界の基盤が弱い」

「なるほど」

「そして、そのことの意味を理解していない」

 

キシリアが男性を見る。

「続けてください」

 

「まず、総帥と距離のある企業に利益を誘導します。そうして利益を得る企業を増やしていけば……」

 

「反総帥に誘導するのですか?」

「こちらから誘導する必要はありません。一方にだけ利益を与えれば、自然に反総帥になります。そうなると、あとは財界の方で勝手に動きます。企業同士の関係もありますから……」

 

「資金については?」

「複数の会社を経由させます。表向きは通常の取引にしておけば……」

 

「なるほど」

「会社の数を増やせば、資金の流れはさらに分かりにくくなります。例えば……」

 

男性はいくつかの会社名を挙げた。

 

キシリアが男性を見る。

「ずいぶん具体的ですね」

「仕事柄、そういう会社には詳しいのです」

 

キシリアは少し考えた。

「……失脚までやりますか?」

 

男性は即答した。

「やります」

 

キシリアは黙って男性を見た。

 

「金に取り込まれた人間は、地獄の果てまで行きます。世論操作、暗殺、反乱、金のためなら何でもやります」

 

男性はグラスに手を伸ばした。

「しかし、金とは恐ろしいものです。金に取り込まれて帰ってこなかった人間を、私は何人も見ています」

 

キシリアは男性から目を離さなかった。

「あなたは?」

 

男性はグラスを置いた。

「金には近寄りすぎず、離れすぎず。どこまで近づいて、どこで離れるか。その見極めが大切です」

 

少し間を置いた。

 

「そうやって、私は生き延びてきました」

 

キシリアは男性を見る。

「あなた、面白い人ね」

 

その後も二人の会話は続いた。クーデター、政府転覆、秘密資金、企業の利用、要人の取り込み。話題は次々と広がっていった。

 

二時間後、キシリアは満足して店を出た。

 

◇

 

「閣下。いかがでしたか?」

側近が尋ねた。

 

「今回は面白い人でした」

「それは何よりです。どのようなお話を?」

「クーデター、政府転覆、秘密資金などについてです」

「…………」

 

側近の表情が固まった。

「公王陛下から、政治の話は控えるようにとのお言葉があったかと」

「政治の話ではありません」

「では、何のお話だったのでしょうか」

「趣味の話です」

「…………」

 

◇

 

南極。

 

マ・クベはキシリアから通信で話を聞いていた。

「今回は、なかなか面白い人でした」

「それは結構です」

「特に、企業を使って資金を動かす話は興味深かったですね」

 

マ・クベの表情が変わった。

「……どのような方法です?」

「複数の会社を経由させるそうです。いくつか具体的な会社名も挙げていました」

「会社名まで?」

「ええ」

 

マ・クベは少し黙った。

「その会話の録音データは残っていますか」

「もちろん」

「企業名を含めて、こちらへ送っていただけますか」

「……やはり、そう思いますか」

「少々、具体的すぎます」

 

「途中から私もそう思いました。怪しいところに話を振っておきましたよ」

「さすが、お話がお上手ですね」

 

◇

 

数日後。

 

キシリアにマ・クベから緊急連絡があった。

「閣下。先日のお見合い相手ですが、逮捕されました」

「あいかわらず仕事が早いわね」

 

「想像していたより大規模でした」

「そう」

「お見合い相手の男だけではありません。関係者も多数逮捕されています」

「全員?」

「確認できた範囲では」

 

マ・クベは続けた。

「地球連邦の企業まで関係していました」

「連邦まで?」

「はい。それについては、地球連邦の警察と連絡を取っています」

「向こうも動くの?」

「すでに捜査を始めています」

 

キシリアはしばらく黙った。

「……面白い人だったのに、残念ね」

 

「…………」

 

「でも、今回のお見合いは成功ですね」

「失敗かと存じます」

 

「犯罪組織を一つ潰しました」

「お見合いとしては失敗かと」

 

「成果は出ています」

「そういう問題ではございません」

 

マ・クベが言った。

「次のお見合いでは、もう少し普通のお話をなさってください」

「普通とは?」

「たとえば猫の話です」

「兄ではありません」

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