停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド3。
キシリアは二度目のお見合いに来ていた。
側近が言った。
「閣下。公王陛下から、今回のお見合いについて改めてお言葉がありました」
「何です?」
「政治、軍務、相手の勤務先や交友関係について、必要以上にお尋ねにならないようにとのことです」
「前にも聞きました」
「念のため、お伝えするよう申しつかっております」
「そうですか」
◇
相手の男性は、大企業を経営していた。
最初の挨拶を終えると、男性が尋ねた。
「趣味はありますか?」
「趣味……」
キシリアは少し考えた。
男性が言った。
「では、好きなことや、やってみたいことは?」
キシリアはしばらく考えた。
「そうですね……例えば、ギレン総帥を失脚させることですね」
「…………」
「総帥府の警備体制は把握している。警備が交代する24時が狙い目ね。そこから……」
キシリアが男性を見る。
「どう?」
「そのような物騒なことは、よした方が良いかと……」
「つまらない人ね」
「自分の手を汚す必要はありません。私なら、弱点をつきます」
キシリアの目が輝いた。
「弱点!」
「総帥は軍人であり政治家です。だからこそ、金の怖さを知らない」
「金の怖さ?」
「軍と政府には強い基盤を持っています。しかし、財界の基盤が弱い」
「なるほど」
「そして、そのことの意味を理解していない」
キシリアが男性を見る。
「続けてください」
「まず、総帥と距離のある企業に利益を誘導します。そうして利益を得る企業を増やしていけば……」
「反総帥に誘導するのですか?」
「こちらから誘導する必要はありません。一方にだけ利益を与えれば、自然に反総帥になります。そうなると、あとは財界の方で勝手に動きます。企業同士の関係もありますから……」
「資金については?」
「複数の会社を経由させます。表向きは通常の取引にしておけば……」
「なるほど」
「会社の数を増やせば、資金の流れはさらに分かりにくくなります。例えば……」
男性はいくつかの会社名を挙げた。
キシリアが男性を見る。
「ずいぶん具体的ですね」
「仕事柄、そういう会社には詳しいのです」
キシリアは少し考えた。
「……失脚までやりますか?」
男性は即答した。
「やります」
キシリアは黙って男性を見た。
「金に取り込まれた人間は、地獄の果てまで行きます。世論操作、暗殺、反乱、金のためなら何でもやります」
男性はグラスに手を伸ばした。
「しかし、金とは恐ろしいものです。金に取り込まれて帰ってこなかった人間を、私は何人も見ています」
キシリアは男性から目を離さなかった。
「あなたは?」
男性はグラスを置いた。
「金には近寄りすぎず、離れすぎず。どこまで近づいて、どこで離れるか。その見極めが大切です」
少し間を置いた。
「そうやって、私は生き延びてきました」
キシリアは男性を見る。
「あなた、面白い人ね」
その後も二人の会話は続いた。クーデター、政府転覆、秘密資金、企業の利用、要人の取り込み。話題は次々と広がっていった。
二時間後、キシリアは満足して店を出た。
◇
「閣下。いかがでしたか?」
側近が尋ねた。
「今回は面白い人でした」
「それは何よりです。どのようなお話を?」
「クーデター、政府転覆、秘密資金などについてです」
「…………」
側近の表情が固まった。
「公王陛下から、政治の話は控えるようにとのお言葉があったかと」
「政治の話ではありません」
「では、何のお話だったのでしょうか」
「趣味の話です」
「…………」
◇
南極。
マ・クベはキシリアから通信で話を聞いていた。
「今回は、なかなか面白い人でした」
「それは結構です」
「特に、企業を使って資金を動かす話は興味深かったですね」
マ・クベの表情が変わった。
「……どのような方法です?」
「複数の会社を経由させるそうです。いくつか具体的な会社名も挙げていました」
「会社名まで?」
「ええ」
マ・クベは少し黙った。
「その会話の録音データは残っていますか」
「もちろん」
「企業名を含めて、こちらへ送っていただけますか」
「……やはり、そう思いますか」
「少々、具体的すぎます」
「途中から私もそう思いました。怪しいところに話を振っておきましたよ」
「さすが、お話がお上手ですね」
◇
数日後。
キシリアにマ・クベから緊急連絡があった。
「閣下。先日のお見合い相手ですが、逮捕されました」
「あいかわらず仕事が早いわね」
「想像していたより大規模でした」
「そう」
「お見合い相手の男だけではありません。関係者も多数逮捕されています」
「全員?」
「確認できた範囲では」
マ・クベは続けた。
「地球連邦の企業まで関係していました」
「連邦まで?」
「はい。それについては、地球連邦の警察と連絡を取っています」
「向こうも動くの?」
「すでに捜査を始めています」
キシリアはしばらく黙った。
「……面白い人だったのに、残念ね」
「…………」
「でも、今回のお見合いは成功ですね」
「失敗かと存じます」
「犯罪組織を一つ潰しました」
「お見合いとしては失敗かと」
「成果は出ています」
「そういう問題ではございません」
マ・クベが言った。
「次のお見合いでは、もう少し普通のお話をなさってください」
「普通とは?」
「たとえば猫の話です」
「兄ではありません」