停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第22話 平和の商売

サイド3。

 

側近が資料を机に置いた。

「地球との民間取引が、想定を上回る速度で増加しています」

「問題があるのか」

「輸送施設が不足しています」

 

ギレンは資料を見る。

 

貨物船の入港数は増え続けていた。それに伴い、宇宙港の発着枠、貨物倉庫、検査設備の不足が目立ち始めている。

 

「増設すればいい」

「予算が必要です」

「それくらいなら出せるだろう」

「可能です。ただし、今後も取引が増加するのであれば、継続的な整備が必要になります」

 

側近が別の資料を差し出した。

「それに、民間企業の利益もかなり増えています」

 

ギレンは数字を確認した。

「……ずいぶん儲けているな」

「はい。特に初期から参入した商社は、大きな利益を上げています」

 

「これだけ利益を上げている企業のために、政府が予算を増やすのか」

「しかし、施設を整備しなければ取引そのものが停滞します」

「分かっている」

 

必要な予算ではある。だが、このまま政府が負担を増やし続けるのも問題だった。

 

ギレンは資料を閉じた。

「連邦側でも同じ問題が起きているはずだ」

「確認しますか?」

「南極へ送れ。通商制度の問題として協議させろ」

「承知しました」

 

◇

 

南極。

 

マ・クベと連邦側の代表の前に、双方の通商担当者が集まっていた。

 

連邦側の担当者が資料を開く。

「こちらでも同様の問題が発生しています。港湾施設、倉庫、貨物検査設備の処理能力が不足しています」

「こちらも同じです」

 

マ・クベが言った。

「施設を増設すること自体は可能です。しかし、民間取引の拡大に合わせて政府支出を増やし続けるのは問題があります」

 

通商担当者の一人が資料を差し出した。

「その点についてですが、そろそろ取引から税を徴収するべきとの提案が出ています」

 

マ・クベが資料を見る。

「その時期が来ましたか」

「はい。これだけの利益が発生している以上、その一部を税として徴収することは可能です」

 

連邦側の代表も資料を確認した。

「輸入に1割の関税をかけます」

「それが最も分かりやすいのではないでしょうか」

 

「そうなのですが、問題があります。関税という名称ではジオンを独立国として扱うことになってしまうとの指摘が出ています」

「一理あります。ならば、何か良い名称を決めればよろしいかと存じます」

 

マ・クベが言った。

「しかし税には企業側から反対が出ると予想されます」

「当然、反対はあるでしょう。しかし、現在の利益率であれば、一定の負担を求めても取引そのものが成立しなくなる可能性は低いと考えます」

 

別の担当者が言った。

「徴収した税収を、宇宙港や倉庫、貨物検査設備の整備に充てることもできます」

 

連邦側の代表が資料を見る。

「商取引から得た税収で、商取引に必要な施設を整備する」

「はい」

 

「施設が整備されれば、輸送量をさらに増やせる」

「取引量が増加すれば、税収も増加します」

「その税収で、さらに施設を整備する」

 

マ・クベが言った。

「悪くありません」

 

通商担当者が続けた。

「さらに、税収の一部を戦災復興へ充当することも可能です」

 

連邦側の代表が顔を上げた。

「戦災復興に?」

「はい。道路、港湾、輸送施設など、戦争によって被害を受けた地域の復旧です。物流網の復旧は、結果として民間取引にも利益をもたらします」

 

マ・クベが言った。

「復興と通商を同じ資金の流れに組み込むということですね」

「そうなります」

 

◇

 

地球。

 

宇宙港では、貨物船が入港を待っていた。

 

港湾職員が資料を見る。

「入港は八時間後になります」

「またですか」

「現在、三隻待っています」

 

商社の社員が時計を見る。

「先月より混んでいませんか?」

「貨物船が増えていますから」

 

別の貨物船からは、サイド3で製造された精密部品が降ろされていた。その隣では、地球産の食料品や日用品が積み込まれている。

 

「ところで、次から税金がかかることになります」

「聞いています」

「また費用が増える」

「その代わり、貨物区画を増設するそうです」

「本当ですか?」

「この入港待ちが減るなら、その方が助かります」

 

社員は港の向こうを見る。

 

新しい貨物区画の工事が始まっていた。

 

◇

 

数日後。サイド3。

 

側近が新しい経済報告書を持ってきた。

「通商による税収が、早くも当初の予想を上回る勢いです」

「そんなに見込めるのか」

「取引量そのものが増えています」

 

ギレンは資料を見る。

 

宇宙港の拡張。貨物倉庫の増設。検査設備の増強。航路の安全確保。

さらに、戦災地域の復旧にも一部を充てる計画だった。

 

「企業の利益は?」

「依然として増加しています」

「税を取ってもか」

「はい」

 

ギレンは次の資料を見る。

「商人というのは、よく儲けるものだな」

「利益が出なければ参入しませんから」

 

「不満は出ていないのか」

「税そのものへの不満はあります。ただ、港湾施設の改善については評価されています」

 

途切れていた商売と金の流れが、広がっていた。

 

◇

 

仕事を終え、ギレンは帰宅した。

 

猫が歩いてきた。

「ニャア」

「何だ」

 

戦闘を再開すれば、船は止まる。商売も止まる。税収も止まる。復興も遅れる。

 

猫は机の上に乗った。ギレンは置いてあった書類を横へ移した。

 

ギレンは猫を見る。

「お前は順番待ちはないな」

 

「ニャア」

 

ギレンは書類に戻った。

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