停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
南極。
交渉は続いていた。軍縮、相互査察、通商については、少しずつ合意が積み上がっている。しかし政治については、大きな問題が残っていた。
連邦側の代表が言った。
「ジオンの完全な独立は認められません」
「では、戦争前の状態に戻れとおっしゃるのですか?」
「それも現実的ではないでしょう」
マ・クベは資料を見る。連邦側が提示したのは、大幅な自治権の拡大だった。
独自の議会。
独自の行政。
独自の税制。
連邦政府への代表参加。
そして、サイド3内部の政策には連邦政府が原則として介入しない。
「かなり譲歩されましたね」
「これ以上は連邦議会を通りません」
「しかしながら、この内容では、独立国家として認められたことにはならないかと……」
マ・クベはもう一度、資料を見る。
「……ですが、実際のところ、独立国家と大きな違いはないと存じます」
◇
サイド3。
ギレンの前にも、同じ案が置かれていた。
「連邦は、我々を独立国家とは認めない」
「はい。しかし内政については、ほぼ完全な自治を認める案です」
ギレンは条項を読む。戦争前とはまるで違う。少なくとも地球から命令されるだけの存在ではない。
だが、独立ではない。
「国民は納得するか?」
「そこが問題です」
側近が別の資料を差し出した。世論調査だった。
完全独立を求める者。
高度自治で十分だと考える者。
とにかく戦争を再開してほしくない者。
意見は分かれていた。
「総帥。どうされますか?」
ギレンはすぐには答えなかった。
「議会に出せ」
「よろしいのですか?」
「これは私一人で決める問題ではない」
◇
ジオン議会。
久しぶりに、本当の意味で政治的な議論が始まった。
「独立は戦争目的だった。ここで放棄すれば、犠牲になった者に何と言うのか」
「では、そのためにもう一度戦争をするのか」
「高度自治では、将来また連邦に権限を奪われる可能性がある」
「ならば自治権を簡単に変更できない制度にすればいい」
議場では意見がぶつかった。
ある議員が言った。
「我々が求めたものは、独立という言葉でしょうか。それとも、自分たちの未来を自分たちで決める権利でしょうか」
議場が静かになった。答えは、まだ出なかった。
◇
南極。
マ・クベがジオンから届いた報告書を読んでいると、連邦側の代表が不思議そうに話しかけた。
「ジオンでは、議会が本格的に動き始めたのですね」
「はい、しかし結論は出ておりません」
「議論は、まだ続けるのですか?」
「もちろん、続けます」
連邦側の代表が資料を閉じた。
「戦争中は、一人が命令すれば何万人でも動きました。今は一つのことを決めるのに、何百人も話している」
「非効率ではあります」
「それでも、議会で決めるのですね」
「はい、待ちましょう」
連邦側の代表が少し笑った。
◇
ギレンは議会からの報告を受けていた。
「結論は出なかったか」
「はい。独立を求める意見と、高度自治を受け入れる意見が拮抗しています。明日も審議を続けるとのことです」
「そうか」
ギレンは議事録を見る。
賛成、反対、修正案。
議員たちは好き勝手なことを言っている。
中には、ギレンの方針を公然と批判する者までいた。
「ずいぶん時間がかかるものだな」
「議会ですから」
「私が決めれば、一時間で終わる」
「はい」
「だが、それでは自治を求めておきながら、国民には私の決定に従えと言うことになるか」
側近は少し驚いた。
「その通りかと」
ギレンはもう一度、議事録を見る。
「面倒だな」
「はい」
「だが……悪くない」
「続けさせろ。私の意向を理由に結論を急がせるな」
「承知しました」
◇
ギレンは帰宅した。
猫は机の上で寝ていた。
「ニャア」
「お前ならどうする」
猫がギレンを見る。
「独立か、自治か」
「ニャア」
「どちらでもいいか」
「そうだな。お前には関係ない」
猫はその場で丸くなった。
「お前の名前も、まだ決まっていなかったな」
「ニャア」
「こちらは議会に諮る必要はないだろう」
猫は目を閉じた。