停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第23話 独立という言葉

南極。

 

交渉は続いていた。軍縮、相互査察、通商については、少しずつ合意が積み上がっている。しかし政治については、大きな問題が残っていた。

 

連邦側の代表が言った。

「ジオンの完全な独立は認められません」

「では、戦争前の状態に戻れとおっしゃるのですか?」

「それも現実的ではないでしょう」

 

マ・クベは資料を見る。連邦側が提示したのは、大幅な自治権の拡大だった。

 

独自の議会。

独自の行政。

独自の税制。

連邦政府への代表参加。

そして、サイド3内部の政策には連邦政府が原則として介入しない。

 

「かなり譲歩されましたね」

「これ以上は連邦議会を通りません」

「しかしながら、この内容では、独立国家として認められたことにはならないかと……」

 

マ・クベはもう一度、資料を見る。

「……ですが、実際のところ、独立国家と大きな違いはないと存じます」

 

◇

 

サイド3。

 

ギレンの前にも、同じ案が置かれていた。

「連邦は、我々を独立国家とは認めない」

「はい。しかし内政については、ほぼ完全な自治を認める案です」

 

ギレンは条項を読む。戦争前とはまるで違う。少なくとも地球から命令されるだけの存在ではない。

だが、独立ではない。

「国民は納得するか?」

「そこが問題です」

 

側近が別の資料を差し出した。世論調査だった。

完全独立を求める者。

高度自治で十分だと考える者。

とにかく戦争を再開してほしくない者。

意見は分かれていた。

 

「総帥。どうされますか?」

 

ギレンはすぐには答えなかった。

「議会に出せ」

「よろしいのですか?」

「これは私一人で決める問題ではない」

 

◇

 

ジオン議会。

 

久しぶりに、本当の意味で政治的な議論が始まった。

 

「独立は戦争目的だった。ここで放棄すれば、犠牲になった者に何と言うのか」

「では、そのためにもう一度戦争をするのか」

「高度自治では、将来また連邦に権限を奪われる可能性がある」

「ならば自治権を簡単に変更できない制度にすればいい」

 

議場では意見がぶつかった。

 

ある議員が言った。

「我々が求めたものは、独立という言葉でしょうか。それとも、自分たちの未来を自分たちで決める権利でしょうか」

 

議場が静かになった。答えは、まだ出なかった。

 

◇

 

南極。

 

マ・クベがジオンから届いた報告書を読んでいると、連邦側の代表が不思議そうに話しかけた。

「ジオンでは、議会が本格的に動き始めたのですね」

「はい、しかし結論は出ておりません」

「議論は、まだ続けるのですか?」

「もちろん、続けます」

 

連邦側の代表が資料を閉じた。

「戦争中は、一人が命令すれば何万人でも動きました。今は一つのことを決めるのに、何百人も話している」

「非効率ではあります」

「それでも、議会で決めるのですね」

「はい、待ちましょう」

 

連邦側の代表が少し笑った。

 

◇

 

ギレンは議会からの報告を受けていた。

 

「結論は出なかったか」

「はい。独立を求める意見と、高度自治を受け入れる意見が拮抗しています。明日も審議を続けるとのことです」

「そうか」

 

ギレンは議事録を見る。

賛成、反対、修正案。

議員たちは好き勝手なことを言っている。

中には、ギレンの方針を公然と批判する者までいた。

 

「ずいぶん時間がかかるものだな」

「議会ですから」

「私が決めれば、一時間で終わる」

「はい」

「だが、それでは自治を求めておきながら、国民には私の決定に従えと言うことになるか」

 

側近は少し驚いた。

「その通りかと」

 

ギレンはもう一度、議事録を見る。

「面倒だな」

「はい」

「だが……悪くない」

 

「続けさせろ。私の意向を理由に結論を急がせるな」

「承知しました」

 

◇

 

ギレンは帰宅した。

 

猫は机の上で寝ていた。

「ニャア」

「お前ならどうする」

 

猫がギレンを見る。

「独立か、自治か」

「ニャア」

「どちらでもいいか」

「そうだな。お前には関係ない」

 

猫はその場で丸くなった。

「お前の名前も、まだ決まっていなかったな」

「ニャア」

「こちらは議会に諮る必要はないだろう」

 

猫は目を閉じた。

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