停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
南極。
マ・クベの前には、新しい資料が積み上がっていた。
「これは何でしょうか?」
「各サイドから届いた意見書です」
「かなりの量があります」
「ジオン側が、すべてのサイドに高度自治を認めるべきだという話を始めたからですよ」
マ・クベは一番上の資料を開いた。
『高度自治そのものには賛成。ただし、独自の治安部隊を認めてほしい』
別のサイドは、自治権の拡大には賛成するが、防衛は引き続き連邦軍に任せたいという。
さらに別のサイドは、自治権よりも税負担の軽減を求めていた。
「各サイドで見事に意見が違いますな」
「はい。しかし、予想の範囲内かと思われます」
「意見の中で共通している部分はありますか」
「自分たちの権限を増やしてほしい、というところかと思います」
「そこは明確ですね」
マ・クベは次の資料を取った。
「では、共通する部分から話を進めれば――」
「その前に問題があります」
「問題ですか?」
「地球側です」
連邦側の代表が資料を指さした。
「地球上のいくつかの地域から、自分たちにも同じ自治権を認めるよう要求が出ています」
マ・クベの手が止まった。
「……地球側まで、ですか?」
「宇宙だけ自治権を拡大するのは不公平だ、と」
マ・クベはあごをさわった。
「……そこまでは、想定しておりませんでした」
「こちらもです」
「これは、簡単には収まりません」
「ええ」
◇
問題は、それだけではなかった。
連邦側の代表が尋ねた。
「各サイドに自治政府を認めるとして、軍隊も認めるのですか?」
「軍隊については、慎重に考える必要があります」
「ジオン軍も同様ですか?」
「はい、そこが問題かと思います」
「ジオン軍だけを残せば、他のサイドが反発する。しかし、すべてのサイドに軍隊を認めれば、サイド同士で戦争になる可能性がある」
マ・クベは少し考えた。
「各サイドに自治軍は必要かと思います」
「しかし、どこまでの軍備を認めるのです?」
「問題は、現時点でジオンは軍隊を持ち、他のサイドには独自の軍隊がないことです」
「出発点がまったく違いますね」
連邦側の代表がうなずいた。マ・クベは質問した。
「税制については、どうなっておりますか?」
「揉めています」
「連邦議会の議席については?」
「もっと揉めています」
「宇宙航路は?」
「それもです」
マ・クベはペンを置いた。
「以前より難しくなっていませんか?」
「なっています」
「もっとも、和平交渉とは、進めるほど問題が増えるものです」
「今回は、そちらの提案から始まった問題です」
マ・クベは否定しなかった。
◇
サイド3。
ギレンは南極からの報告を受けていた。
「戦争を終わらせるための交渉が、いつの間にか連邦全体の制度改革になっているな」
「最初はジオンの独立についての話でした」
「どれくらいかかる?」
「分かりません……」
「見当もつかないのか?」
「各サイドだけなら、ある程度は予想できました。しかし地球側まで含めるとなると……」
「……」
側近が尋ねた。
「交渉を急がせますか?」
「いや」
ギレンは少し考えた。
「これだけのことを決めるのだ。急いで間違える方が困る」
「では?」
「話せるところから話せ。決まらないところは後に回せ」
側近はうなずいた。
「南極にも、そのように伝えます」
「それと各サイドにも参加してもらえ。自分たちの制度について、我々と連邦だけで決めるわけにはいかん」
「さらに人数が増えますが……」
「……そうだな」
◇
数日後。
南極の会議室には、新しい机が運び込まれていた。
マ・クベが作業員を見ながら尋ねた。
「何脚ほど増やす予定ですか?」
「とりあえず十二脚です」
「とりあえず、ですか?」
連邦側の代表が答えた。
「各サイドの代表が来ます。その後、地球側の代表についても検討します」
マ・クベは会議室を見渡した。
「この部屋で足りるでしょうか?」
「分かりません」
連邦側の代表も、机が増えた会議室を見渡した。
「和平が遠くなった気がします」
マ・クベは少し考えた。
「しかし、戦争からは以前より遠くなったかと存じます」
会議室には、また一つ机が運び込まれた。