停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
会議は次の議題へ進むはずだった。ところが、誰も資料をめくらない。
ギレンが顔を上げた。
「どうした?」
側近が困った顔をしている。
「……医務局から苦情が来ています」
「苦情?」
「……総帥、定期検診を受けていただきたいのです」
「必要ない」
「上司である総帥が受けないことで、業務に支障が出ていると苦情が上がっています」
「私は健康だ」
「そのように言って定期検診を受けない幹部が多数いるとのことです」
「二時間で済みますから、お願いします」
「二時間もかかるのか」
「受けていただかないと、医務局長との会議になります」
「……」
「その方が時間がかかります」
「……分かった」
◇
検査は普通のものだった。血圧、心電図、血液検査。肝機能、腎機能、体重、視力。その他、必要な検査が一通り行われた。長期間の激務が続いていたため、医師は過労や睡眠不足についても詳しく確認した。
医師は検査結果を確認してからギレンに告げた。
「総帥、大きな問題はありません」
「そうか」
ギレンは立ち上がろうとした。
「ただし、休養してください」
「……」
「重大な異常があるという意味ではありません。過密な勤務が続いています。必要なことです」
「戦争中だ」
「現在は停戦中です」
「交渉は続いている」
「マ・クベ閣下に一任されていると聞いています」
「国内の政務がある」
「一定期間、決裁権を委任してください。緊急案件だけ連絡を受ければよいでしょう」
「…………」
診察室を出ると、側近が待っていた。
「総帥、困ったことになりました」
ギレンが顔を上げた。
「今度は何だ」
「総帥が健康診断を受けることが、人事部に伝わりました」
「それがどうした」
「なぜ健康診断は受けるのに、休暇は取らないのかと」
「……」
「『人事部は医務局より下なのか』と言っています。前々から部長と局長の仲は悪かったのですが、これで決定的になりました。このままでは派閥争いになります」
「くだらん」
ギレンは無言になった。
「……何日だ」
「規則では二日間です」
二日間の休暇が二週間にも感じられた。
「緊急案件については?」
「当然、ご報告します」
「重要な政治案件は?」
「代理決裁できないものだけ、ご報告します」
「軍事上の重大事態が発生した場合は?」
「即座にお知らせします」
問題はなかった。
「……分かった」
側近がわずかに安堵した。
「では、明日から二日間の休暇ということで」
「明日から?」
「はい」
「少し急ではないか」
「予定を確認しましたが、私の方で対応できる案件ばかりでした」
ギレンは答えなかった。