停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド6。
シャア・アズナブル少佐は新聞を読んでいた。
『各サイド代表、南極会議への参加を表明』
『ジオン議会、自治案の審議を継続』
『ギレン総帥、議会の決定を尊重すると表明』
シャアは記事を最後まで読み、新聞を置いた。
「ずいぶん変わったものだ」
部下が振り向く。
「何がです?」
「ジオンだよ」
少し前まで、ギレン・ザビの決定に異議を唱える者はほとんどいなかった。今では議会が政策を議論し、新聞がそれを批判し、総帥自身が議会の判断を尊重すると言っている。
シャアには、困った問題だった。ザビ家を許したわけではない。父ジオン・ズム・ダイクンの死後、ザビ家が権力を握ったことも忘れてはいない。復讐するつもりだった。そのはずだった。
だが、状況が変わっている。デギンは和平を支持している。キシリアまで連邦軍人と会っている。
シャアは新聞をもう一度手に取った。
『全サイドへの自治権拡大を検討』
そこで手が止まる。
スペースノイドが自分たちの政治を自分たちで決める。それは父が求めていたものだ。問題は、それを進めているのがザビ家だということだった。
部下が再び声をかける。
「少佐?」
「いや。少し予定が狂ったと思ってな」
「作戦ですか?」
「もっと長い予定だ」
◇
シャアは窓の外を見た。
もしザビ家を倒した結果、和平が崩れたらどうなる。再び連邦とジオンが戦争を始めれば、それは父の理想に近づくことなのか。答えは出なかった。
シャアは新聞を畳んだ。
「復讐というものは、相手が変わらないことを前提にしているのかもしれんな」
「何かおっしゃいましたか?」
「独り言だ」
◇
その頃、連邦軍ではレビル将軍が資料を見ていた。
副官が尋ねる。
「次のお見合いですか?」
「ああ」
レビルは資料を一枚めくり、手を止めた。
「次は、この男にしよう」
「どなたです?」
レビルが資料を渡した。
『スレッガー・ロウ中尉』
副官が顔を上げた。
「本気ですか?」
「本気だ」
「スレッガー中尉ですよ?」
「知っている」
「…………」
レビルは資料を閉じた。
「ブライトは説教になった。ワッケインは軍事会談になった」
「はい」
「なら、今度は違うタイプを試してみよう」
「違いすぎると思いますが」
「だからだ」
副官はもう一度、スレッガーの資料を見た。
「キシリア閣下には、どう説明します?」
「そのまま紹介すればいい」
「そのまま?」
「連邦軍の優秀な中尉だ」
「間違ってはいませんが」
「なら問題ない」
レビルは次の書類を手に取った。
副官は嫌な予感しかしなかった。
第38話で完結予定、最終回が近づいています。