停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
あるサイドの宇宙港。
一隻の輸送船が、ゆっくりとドックへ入ってきた。船体にはジオンの企業名が書かれている。
港の職員が書類を確認した。
「積荷は?」
「工業用部品と精密機械です」
「武器は?」
「ありません」
「軍用品は?」
「ありません」
「本当に?」
「三回目です。その質問」
職員は書類をめくった。確かに、どこにも武器はない。
停戦前なら、ジオンの船が連邦側の港へ入ること自体が問題になった。しかし今は違う。停戦が続き、民間船については少しずつ航路が開かれていた。
「帰りの積荷は?」
「医療機器と食料プラントです」
「食料プラント?」
「サイド3で売れます」
「ジオンで?」
「モビルスーツより需要がありますよ」
職員は少し考えた。
「時代が変わったな」
「商売はもっと早く変わります」
◇
港の倉庫では、連邦側とジオン側の商人が価格について話していた。
「この部品は高すぎる」
「戦争中に生産設備が壊れましてね」
「こちらだって同じだ」
「では一割引きで」
「二割」
「一割五分」
「それでいい」
交渉は五分で終わった。
近くにいた港湾職員が感心した。
「早いですね」
連邦側の商人が答えた。
「何がです?」
「南極では何週間も話し合っています」
「あれは政治でしょう」
「こちらも交渉ですが」
「こちらは値段が決まれば終わりです」
ジオン側の商人もうなずいた。
「独立でも自治でも、部品は必要ですからね」
「それはそうだ」
「必要なところへ売る。それだけですよ」
「政治も、値段だけ決めればいいんですがね」
「まったくだ」
◇
翌日の新聞には、二つの記事が並んでいた。
『南極会議、自治権を巡り各代表の意見まとまらず』
その下には、
『連邦・ジオン間の民間交易、停戦後最高を記録』
と書かれていた。
記者が編集長に尋ねた。
「これ、同じ日の記事ですよね?」
「そうだ」
「和平交渉は進んでいないのに、取引は増えているんですか?」
「そうらしい」
「大丈夫なんでしょうか」
「何が?」
「まだ和平条約もありませんよ」
「商人に言ってみろ」
記者は窓の外を見た。港では、また一隻の輸送船が荷物を降ろしていた。
◇
南極。
マ・クベは新聞を机に置いた。
『連邦・ジオン間の民間交易、停戦後最高を記録』
連邦側の代表も記事を読んでいた。
「我々より進んでいますな」
「そのようです」
マ・クベは別の書類を見る。
自治権、税制、議会の議席、航路管理、各サイドの治安組織。決めなければならない問題は増える一方だった。
「こちらは今日も自治軍の扱いですか」
「その予定です」
「昨日も同じ話をした気がしますが」
「昨日は自治軍を認めるかどうかです」
「今日は?」
「認めた場合、どこまで武装を許可するかです」
「明日は?」
「指揮権かと思います」
マ・クベはため息をついた。