停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
サイド3側で新しい案が出されたので南極の会議は人員が不足していた。
ギレンはサイド3を長期間離れることができない。そのため、地球で行われる会議にはキシリアが出席することになった。
会議を終えたキシリアのもとに、スレッガーから連絡が入った。
「飲みに行かないか?」
以前は、スレッガーがお見合いのためにサイド3までやって来た。今度はキシリアが地球にいる。キシリアは少し考えた。
「いいわ。でも日程は合わせてもらいます」
◇
店の中では、連邦兵たちが酒を飲んで騒いでいた。扉が開き、キシリア・ザビが入ってきた。後ろには銃を持った護衛がいる。
皆がキシリアを見た。
「…………」
「…………」
「…………キシリア・ザビ?」
「なんでここにいるんだ……?」
「本人なのか?」
何人かがスレッガーを見る。スレッガーは何でもないことのように手を上げた。
「紹介するよ。キシリアさんだ」
「…………」
連邦兵の一人が小声で聞いた。
「閣下とか付けなくていいのか?」
「今日は仕事じゃないから付けない」
「……本気か?」
連邦兵の一人が隣の男に小声で言った。
「スレッガー、本当に連れてきたのかよ……」
◇
キシリアが席についた。後ろに護衛が立っている。連邦兵たちは明らかに緊張していた。
「お、お酒は?」
「少しなら」
「食べ物は?」
「何でも」
「趣味は?」
「美術」
「…………」
会話が続かない。別の兵士がスレッガーを見るが、スレッガーは知らん顔をして酒を飲んでいた。
キシリアが口を開いた。
「ところで連邦軍内部では和平について――」
「政治禁止」
「つまらないわね」
キシリアはグラスを手に取った。
◇
しばらくすると、少しずつ会話が始まった。一人の若い連邦兵が言った。
「自分は、ジオンのザクに撃墜されかけたことがあります」
「そう」
「本当に死ぬかと思いました」
「戦場だから、そういうこともあるでしょうね」
別の兵士がグラスを置いた。
「私の友人は、ジオンに殺されました」
空気が変わった。
スレッガーも黙った。キシリアも、すぐには答えなかった。
「こちらにも、連邦軍に家族や友人を殺された者が大勢いるわ」
「……はい」
しばらく沈黙した。誰も話さなかった。
キシリアが言った。
「だから、もう戦争はやめた方がいいわね」
また少し、沈黙があった。
スレッガーがグラスを持ち上げた。
「じゃあ、乾杯だ」
キシリアもグラスを上げる。
「停戦に」
兵士たちもグラスを上げた。
「停戦に」
グラスが触れ合った。
◇
それからしばらくすると、酒の力もあって連邦兵たちの緊張はかなり消えていた。
「キシリア閣下」
「何?」
「スレッガーのどこがいいんです?」
「…………」
「おい!」
スレッガーが兵士を見る。
「だって気になるだろ!」
「本人の前で聞くな!」
「本人がいるから聞けるんだろ!」
キシリアは少し考えた。
「私に遠慮しないところかしら」
一瞬、静かになった。
「おおおお!」
兵士たちが一斉に声を上げた。
「おい、本当に答えたぞ!」
「スレッガー!」
「やったな!」
「何がだ!」
スレッガーがキシリアを見る。
「そんなこと言えるようになったんだ」
「あなたのせいでしょう」
◇
一方、サイド3では、ギレンのもとに報告が届いた。
「キシリアが連邦兵と飲んでいるそうだ」
ギレンが顔を上げる。
「護衛は?」
「ついております」
「なら問題ない」
大柄なドズル・ザビ中将が勢いよく立ち上がった。ギレンとキシリアの弟で、ジオン軍の宇宙攻撃軍司令官である。
「俺も今度行くぞ!」
ドズルが机を叩いた拍子に、書類が散らばった。
ギレンはドズルを見る。
「お前は駄目だ」
「なぜだ!」
◇
翌朝、新聞の一面には一枚の写真が大きく掲載されていた。
『キシリア・ザビ、連邦兵と乾杯』
その下には、
『「停戦に」――元敵同士が同じテーブル』
と書かれていた。
デギンは新聞を見た。
「……いい写真だ」
◇
レビルも同じ記事を読んでいた。
「いい写真ですな」
◇
ギレンも新聞を開いていた。
「一面か」
「かなり大きく扱われています」
ギレンは写真を見る。
「悪くない」
そして新聞をめくった。二面にもキシリアの記事があった。
『キシリア・ザビ「スレッガーの遠慮しないところがいい」』
「…………」
側近が言った。
「こちらもかなり読まれているそうです」
ギレンは新聞を閉じた。
「一面だけでは済まなかったか」