停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

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第36話 一勝一敗

サイド3で、連邦とジオンの会談が行われていた。出席しているのはデギン、ギレン、レビルをはじめとする両陣営の代表者たちだった。

 

南極での交渉は続いている。自治権、軍の制限、通商、捕虜交換。以前なら一つだけでも大問題になった議題が、今では同じ机の上に並んでいる。

 

意見が一致しているわけではない。それでも会談は続いていた。

 

やがて休憩に入った。レビルはコーヒーを飲みながら、向かいに座るギレンを見た。

「総帥。白髪が増えましたな」

 

ギレンが眉を上げた。

「将軍に近づいています」

「確かに」

 

レビルは自分の髪に触れた。

「戦争をしていれば、白髪も増えます」

「お互い、生き残っただけでも幸運でしょう」

 

「髪も残りました」

 

ギレンはレビルの頭を見る。レビルもギレンの頭を見る。

 

そこへデギンが歩いてきた。

「何の話をしているのだ?」

 

レビルはデギンを見た。

 

「…………」

 

連邦側の側近が、その視線の意味に気づいた。

「将軍」

「何だ?」

「……言わないですよね」

「なぜだ?」

 

レビルはもう一度、デギンを見た。

 

会議室の空気が、凍りついた。

 

「公王。戦争ではまだ決着がついていませんが……髪なら私の勝ちですな」

 

連邦側の側近が固まった。ジオン側も、誰一人として口を開かない。

 

言った。

 

本当に言った。

 

ジオン側の側近はデギンを見る。誰もが、その反応を待っていた。

 

デギンは何も言わない。ゆっくりと自分の頭に手をやった。

「…………」

 

レビルも黙って待っている。

 

やがてデギンが口を開いた。

「……これは反論できませんな。この件については、私の敗北を認めましょう」

 

レビルがわずかに笑った。

 

デギンは続けた。

 

「しかし将軍、あなたは髪で勝った。私は負けた。ならば戦争まで勝とうというのは、少々欲張りではありませんかな」

 

「…………」

 

今度はレビルが自分の髪に触れた。

「参りました」

 

「ほう?」

 

「髪では私の勝ちですが、会話では惨敗です。敗北を認めましょう」

 

「では、これで一勝一敗ですな」

 

レビルはデギンを見る。

「戦争の勝ち負けも、これで済ませませんかな」

 

デギンが笑った。

「それが一番、犠牲の少ない決着ですな」

 

「これでお互いに勝ったと言うことができます」

「これで終わりにしましょう」

 

レビルも笑った。

 

しかし、二人以外は固まっていた。連邦側の議員が周囲を見る。ジオン側も誰も笑っていない。

 

戦争をしていた両陣営の最高幹部が、「これで終わりにしましょう」と言って笑っている。

歴史的な快挙だ。普通なら戦争終結の大拍手だ。

 

でも「髪で勝った」だ。

 

拍手はどうする。誰も動けなかった。

 

デギンが周囲を見た。

「なあギレン」

「はい」

「ここは笑って拍手するところだろ」

 

ギレンが父を見る。

「私がですか?」

 

「そうだ、偉い人が最初にやらないとダメだろう」

「…………」

 

ギレンは立ち上がり、拍手を始めた。

「では、笑わせていただきます。ハハハハ……」

 

拍手もしている。声も出している。

だが、顔は笑っていない。蒼白だ。

 

近くにいたジオンの将官がギレンを見る。総帥が笑っている。いや、笑っていない。

 

「ハハハハ……」

 

まだ続いている。将官は目をそらした。見てはいけないものを見た気がした。

 

隣の将官が小声で聞く。

「笑った方がいいのか?」

「私に聞くな」

「しかし総帥が笑っている」

「あれを笑っていると言っていいのか?」

 

「では、どうすればいい?」

「拍手だけにしておけ」

 

二人は拍手を始めた。それを見た別の議員も拍手を始める。

 

連邦側からも拍手が始まった。やがて会議室全体が拍手に包まれた。誰も笑っていない。デギンとレビルだけが笑っていた。

 

そしてギレンだけが、蒼白な顔でまだ笑っていた。

「ハハハハ……」

 

デギンがギレンを見る。

「この程度のこともできないと公王になれないぞ」

「…………」

 

デギンはレビルを見た。

「将軍、若い者は、まだまだですな」

「私たちは、まだ引退できそうにありませんな」

「そのようですな」

 

二人は笑っている。

 

今度は笑うべき?

拍手もするべき?

無理です。お二人には絶対に勝てません。

 

◇

 

執務室。

 

ギレンは新聞を読んでいた。

 

『レビル将軍、異例の「敗北宣言」――「会話ではデギン公王に惨敗」』

 

「…………」

 

ギレンは記事を最後まで読んだ。

 

「『レビル敗北宣言』などという見出しを付けるな。誤解を招くだろう」

 

側近が答えた。

「本文には和平会談中の冗談だと書いてあります。それに『一勝一敗』もあります」

 

「見出ししか読まない者もいる」

 

ギレンは新聞を机に置いた。

「まったく、平和になると新聞まで暇になるらしい」

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