停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
南極で、連邦とジオンの会談が行われていた。広い会議場には、両陣営の代表者たちが集まっていた。
長く続いた和平交渉も、ようやく最後まで来ている。
自治権、軍の制限、通商、捕虜交換、領土問題。
決まったこともあれば、まだ決まっていないこともある。
レビルとデギンは文書を確認していた。
『未解決問題が残っていることを理由として、戦闘を再開してはならない。』
デギンが顔を上げた。
「つまり、領土問題が一年で解決しなくても?」
レビルが答えた。
「戦わない」
「五年かかっても?」
「戦わない」
「交渉が決裂した場合は?」
「別の交渉方法を探す。戦争には戻らない」
「…………」
マ・クベは二人を見る。
「それでよろしいかと存じます」
ギレンはもう一度、文書を見た。
「……同意します」
マ・クベが口を開いた。
「では、未解決の問題については、交渉を継続することで合意といたします」
最後の確認が終わった。
レビルがペンを取った。デギンもペンを取る。
二人が文書に署名した。
拍手が起こった。
地球連邦とジオン公国の和平条約が、正式に成立した。
◇
数日後。
キシリアはまだ地球に残っていた。
副官が入ってくる。
「スレッガー中尉から連絡です」
「…………」
キシリアは顔を上げた。
「何と言っている?」
「『和平になったんだから飲みに来い』と」
キシリアは書類を見る。
「公務だ」
「和平後の連邦軍人との交流も必要だ」
副官は何も言わなかった。
◇
シャアは新聞を読んでいた。
一面には和平条約の記事が載っている。
足元を猫が走った。
部屋の端まで走り、向きを変え、また走ってくる。
相変わらず速い。
シャアは新聞を畳んだ。
「戦争は終わった」
猫が止まった。
「あれから何か考えたか?」
「ニャー」
猫は再び走りだした。
「…………」
シャアは走り回る猫を見ていた。
「私にも分からん」
◇
ギレンは執務室に戻っていた。
和平条約が成立しても、仕事はなくならない。
机の上には書類が積まれている。
軍の再編。
通商。
軍需産業の転換。
その横に、一通の手紙があった。
ギレンは手紙を見る。
『今日こそ猫を見せていただけるのでしょうね?』
「…………」
秘書が聞いた。
「どうされますか?」
「行く」
「はい」
「猫を見せるだけだ」
◇
その夜。
ギレンは見合い相手の家の前に立っていた。
「…………」
猫がギレンを見る。
「国家間の和平交渉は終わった」
「ニャー」
「領土問題は五年かかってもいい」
「ニャー」
ギレンは呼び鈴を見る。
「なぜ、こちらは今日なのだ」
「ニャー」
「…………」
ギレンは呼び鈴を押した。
しばらくして、扉が開いた。
「遅いです」
女性はギレンを見る。
「猫は?」
「この猫です」
女性が笑った。
「かわいい」
ギレンも猫を見る。
「では、中へどうぞ」
「…………」
ギレンの動きが止まった。
「どうしました?」
「いえ」
猫を見せるだけではなかったのか。
「入らないのですか?」
「入ります」
ギレンは家に入った。
扉が閉まる。
「ニャー」
地球連邦政府とジオン公国の間に和平条約が結ばれた。
しかしギレンの戦いは、まだ終わっていなかった。