停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。   作:山田 川田

8 / 10
第8話 我々は、もう勝ったのではありませんか

ギレンから通信が入った。

「交渉はどうだ」

「昨日から大きな進展はございません」

 

「停戦は?」

「維持されております」

 

ギレンは黙った。マ・クベは待った。

「昨日と同じか」

「はい」

 

また沈黙した。

「……分かった」

 

マ・クベは何も言わない。通信は切れなかった。ギレンも何も言わなかった。

 

しばらくして、ギレンが口を開いた。

 

「交渉を続けろ。結論を急ぐ必要はない」

 

マ・クベはすぐには答えなかった。

「……よろしいのですか?」

「交渉は一任してある」

 

少し間があった。

 

「恐縮です」

 

◇

 

午後。会議が再開された。軍事問題について議論が続いていた。同じ場所へ戻る。独立を認めるのか。認めないのか。

 

マ・クベは立ち上がった。

「一つ、確認してもよろしいでしょうか」

 

連邦側が静かになる。

「何でしょう」

「今日、戦闘はありましたか?」

 

突然の質問だった。

 

軍人の一人が答えた。

「我々が把握している限り、重大な戦闘はありません」

 

「昨日は?」

「ありません」

 

「一昨日は?」

「ありません」

 

マ・クベはうなずいた。

「我が軍からも同じ報告を受けています」

 

連邦代表が尋ねる。

「それが何か?」

 

マ・クベは少し考えてから答えた。

「私は、この会談が成功しているのか失敗しているのか、ずっと考えていました」

 

誰も口を挟まない。

「独立、自治、軍事問題、占領地域、どれも結論が出ていません」

 

マ・クベは机の上の資料を見る。

「何も決まっていないように見えます」

 

連邦側の一人がうなずく。

「その通りです」

「しかし」

 

マ・クベは顔を上げた。

「誰も死んでいません」

 

会議室が静かになった。

「停戦が始まってから、一人もです」

 

マ・クベは続ける。

「連邦軍もジオン軍も存在しております。どちらも降伏しておりません。でも、撃ってはいません」

 

マ・クベは連邦代表を見る。

「私は一つ、妙なことに気がつきました」

 

連邦代表がマ・クベを見る。

「何です?」

 

マ・クベはすぐには答えなかった。しばらく沈黙が続いた。

 

そして、静かに言った。

 

「我々は、もう勝ったのではありませんか?」

 

会議室が静まり返った。

 

連邦側の軍人の表情が変わる。

「どういう意味です」

「誤解なさらないでいただきたい。連邦に勝った、と申し上げているのではありません」

 

軍人は困惑した。

「では、何に勝ったというのです?」

 

マ・クベはすぐには答えなかった。少し考えた。会議室は静かだった。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「戦争に、でしょうか」

 

そして、ゆっくりと言った。

「我々には政治的な要求があり、連邦にも守らなければならないものがあります」

「しかし、そのために今日、人を殺す必要はありません」

 

会議室は静かだった。

「明日も必要ないかもしれない。その次の日も必要ないかもしれない」

 

マ・クベは机の上の資料に手を置いた。

「そうすれば、いつか我々は気づくのではありませんか」

「何にです?」

 

「もう戦争を再開する必要がなくなっていることにです」

 

◇

 

連邦側の一人が腕を組んだ。

「しかし、それでは何も解決していません」

「その通りです」

 

マ・クベは否定しなかった。

「では、勝利とは言えないでしょう」

「そうかもしれません」

 

「それでも勝ったと?」

「少なくとも、負けてはおりません」

 

何日も続く交渉で、全員が疲れていた。

「連邦も降伏していない。我々も降伏していない……」

 

今度は連邦代表がマ・クベを見る。

「つまり、双方が勝ったと?」

「それで良いではありませんか?」

 

「そんな戦争がありますか」

「なければ、我々が最初になればよいかと存じます」

 

マ・クベは続けた。

「少なくとも、国民にこう言うことはできます」

「我々は降伏していない。戦争を止めることはできた」

 

◇

 

マ・クベは全員を見た。

「ただし、一つだけ変えたいことがあります」

 

「何を?」

「これまで我々は、和平条件を決めるために停戦していました」

「……」

 

「それを、逆にしてはどうでしょう」

「逆?」

「停戦を続けることを前提にして、その中で和平条件を決めるのです」

 

会議室の空気が変わった。これまでは交渉が失敗すれば、戦争へ戻ることが暗黙の前提だった。

 

マ・クベの提案は違う。交渉が失敗しても、撃たない。翌日、また話す。それでも駄目なら、その次の日に話す。

 

「つまり」

 

連邦側の文官が言う。

「交渉の決裂と停戦の終了を、切り離す?」

「そうです」

 

マ・クベはうなずいた。

「政治家が喧嘩をしたからといって、兵士まで殺し合う必要はありません」

 

それは単純な話だった。しかし、戦争をしている国家にとっては、非常に大きな変更だった。

 

◇

 

その日の会談では、独立について何も決まらなかった。

 

しかし、新しい議題が一つ加わった。

『政治交渉の進展にかかわらず、停戦を継続するための制度』

 

連絡体制。

偶発的な衝突の調査手順。

停戦違反が起きた場合の規則。

 

これまでとは違う話が始まった。戦争を再開しないための話だった。

 

今日の会談が終了した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。