停戦の交渉をしていたはずが、なぜかギレン総帥が猫を飼い始めました。 作:山田 川田
ギレンから通信が入った。
「交渉はどうだ」
「昨日から大きな進展はございません」
「停戦は?」
「維持されております」
ギレンは黙った。マ・クベは待った。
「昨日と同じか」
「はい」
また沈黙した。
「……分かった」
マ・クベは何も言わない。通信は切れなかった。ギレンも何も言わなかった。
しばらくして、ギレンが口を開いた。
「交渉を続けろ。結論を急ぐ必要はない」
マ・クベはすぐには答えなかった。
「……よろしいのですか?」
「交渉は一任してある」
少し間があった。
「恐縮です」
◇
午後。会議が再開された。軍事問題について議論が続いていた。同じ場所へ戻る。独立を認めるのか。認めないのか。
マ・クベは立ち上がった。
「一つ、確認してもよろしいでしょうか」
連邦側が静かになる。
「何でしょう」
「今日、戦闘はありましたか?」
突然の質問だった。
軍人の一人が答えた。
「我々が把握している限り、重大な戦闘はありません」
「昨日は?」
「ありません」
「一昨日は?」
「ありません」
マ・クベはうなずいた。
「我が軍からも同じ報告を受けています」
連邦代表が尋ねる。
「それが何か?」
マ・クベは少し考えてから答えた。
「私は、この会談が成功しているのか失敗しているのか、ずっと考えていました」
誰も口を挟まない。
「独立、自治、軍事問題、占領地域、どれも結論が出ていません」
マ・クベは机の上の資料を見る。
「何も決まっていないように見えます」
連邦側の一人がうなずく。
「その通りです」
「しかし」
マ・クベは顔を上げた。
「誰も死んでいません」
会議室が静かになった。
「停戦が始まってから、一人もです」
マ・クベは続ける。
「連邦軍もジオン軍も存在しております。どちらも降伏しておりません。でも、撃ってはいません」
マ・クベは連邦代表を見る。
「私は一つ、妙なことに気がつきました」
連邦代表がマ・クベを見る。
「何です?」
マ・クベはすぐには答えなかった。しばらく沈黙が続いた。
そして、静かに言った。
「我々は、もう勝ったのではありませんか?」
会議室が静まり返った。
連邦側の軍人の表情が変わる。
「どういう意味です」
「誤解なさらないでいただきたい。連邦に勝った、と申し上げているのではありません」
軍人は困惑した。
「では、何に勝ったというのです?」
マ・クベはすぐには答えなかった。少し考えた。会議室は静かだった。そして、ゆっくりと口を開いた。
「戦争に、でしょうか」
そして、ゆっくりと言った。
「我々には政治的な要求があり、連邦にも守らなければならないものがあります」
「しかし、そのために今日、人を殺す必要はありません」
会議室は静かだった。
「明日も必要ないかもしれない。その次の日も必要ないかもしれない」
マ・クベは机の上の資料に手を置いた。
「そうすれば、いつか我々は気づくのではありませんか」
「何にです?」
「もう戦争を再開する必要がなくなっていることにです」
◇
連邦側の一人が腕を組んだ。
「しかし、それでは何も解決していません」
「その通りです」
マ・クベは否定しなかった。
「では、勝利とは言えないでしょう」
「そうかもしれません」
「それでも勝ったと?」
「少なくとも、負けてはおりません」
何日も続く交渉で、全員が疲れていた。
「連邦も降伏していない。我々も降伏していない……」
今度は連邦代表がマ・クベを見る。
「つまり、双方が勝ったと?」
「それで良いではありませんか?」
「そんな戦争がありますか」
「なければ、我々が最初になればよいかと存じます」
マ・クベは続けた。
「少なくとも、国民にこう言うことはできます」
「我々は降伏していない。戦争を止めることはできた」
◇
マ・クベは全員を見た。
「ただし、一つだけ変えたいことがあります」
「何を?」
「これまで我々は、和平条件を決めるために停戦していました」
「……」
「それを、逆にしてはどうでしょう」
「逆?」
「停戦を続けることを前提にして、その中で和平条件を決めるのです」
会議室の空気が変わった。これまでは交渉が失敗すれば、戦争へ戻ることが暗黙の前提だった。
マ・クベの提案は違う。交渉が失敗しても、撃たない。翌日、また話す。それでも駄目なら、その次の日に話す。
「つまり」
連邦側の文官が言う。
「交渉の決裂と停戦の終了を、切り離す?」
「そうです」
マ・クベはうなずいた。
「政治家が喧嘩をしたからといって、兵士まで殺し合う必要はありません」
それは単純な話だった。しかし、戦争をしている国家にとっては、非常に大きな変更だった。
◇
その日の会談では、独立について何も決まらなかった。
しかし、新しい議題が一つ加わった。
『政治交渉の進展にかかわらず、停戦を継続するための制度』
連絡体制。
偶発的な衝突の調査手順。
停戦違反が起きた場合の規則。
これまでとは違う話が始まった。戦争を再開しないための話だった。
今日の会談が終了した。