“天剣”がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:覇者

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到着 オラリオの暗黒期

 

 

 ──迷宮都市オラリオ。

 

 千年前は巨大な穴以外に何も存在しなかったこの場所は、神時代が始まって以降街が築かれ始め、今では世界の中心にして一番栄えた都市へと発展していた。

 そんなオラリオを覆う外壁の外、門の目の前に並ぶ列の中に宗次郎は立っていた。

 

 「いやぁ~、これが世界一の都市か。随分発展してるなぁ」

 

 巨大な門を見上げて感心する。宗次郎が極東からここに来るまで、様々な都市や街を通って来たが、ここまで発展していた所はなかったからだ。

 

 「次の人、どうぞ〜♪」

 

 「あぁ、はい」

 

 そうして眺めていると、宗次郎の番が回ってきた。世界一の都市に入るにしては列に並んでいる人の数が少なく、待ち時間は数分だった。

 呼ばれた宗次郎が門番の前に進み出ると、満面の笑みを浮かべた、恐らく宗次郎と同い年くらいの少女が門番として立っていた。

 

 「はじめまして〜!天真爛漫でいつも笑ってて、オラリオの門番をやってるLv3の冒険者─アーディ・ヴァルマだよ!ジャジャ〜ンッ!!」

 

 「……そうですか。何か妙に説明的だけど初対面の僕にはある意味ありがたいかな……?あぁ、忘れてました。僕の名前は、瀬田宗次郎といいます」

 

 Lv3と云えば、オラリオの上級冒険者。宗次郎からすれば特別強いとも思えない。重心、歩き方、立ち姿、どれも良いとは決して言えないが、身体能力だけは高い典型的な冒険者の動き。

 とはいえ、オラリオの重要な戦力であろう彼女を、少し変わってるなぁ─と思いつつ、名乗られた以上はと名乗り返す宗次郎。

 

 「宗次郎君!覚えたよ、よろしくねっ!!」

 

 「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 アーディも宗次郎も互いに笑顔で自己紹介。美青年美少女で、大変絵になっている。

 

 「それじゃあ、神の恩恵があるかどうか確認しなきゃいけないから、見せてもらえないかな……?」

 

 「?そうなんですか?それは個人情報だと思いますけど………」

 

 「……うん。前まではしなくて良かったんだけど、今は闇派閥が悪さをしていてね。邪神の眷属かどうかを確認しないといけないんだよ」

 

 「なるほど、そういう事ならいいですよ。どうせ僕には、恩恵なんてありませんから」

 

 神の眷属にとって背中に刻まれている恩恵は、自らの能力値を表しているもの。詮索するような真似はご法度が、全てのファミリアに共通する暗黙の了解。しかし今は、外で宗次郎が聞いていたよりも都市の状況が切羽詰まっているようで、確認が必要になっているのだ。

 だが、宗次郎には恩恵など刻まれていない為、見られても問題ない。気になって理由こそ聞いてみたが、それに納得するとあっさりと着物の上を脱いで背中をアーディに向けて晒す。

 

 「──うん、どの神の恩恵もないね!もう服を着て大丈夫だよ」

 

 「分かりました」

 

 ざっくり背中を見て恩恵がないのを確認したアーディが、服を着るよう宗次郎に促し、宗次郎が着物を整えている間に手元の書類に何やら書き込んでいる。

 

 「しっかし宗次郎君、凄い肉体してるね!!鍛え抜かれた男の体って感じ!!」

 

 書類を書いている間、服を脱いだ宗次郎の上半身を見たアーディが宗次郎の体を褒める。宗次郎の肉体は、ムキムキのゴリラみたいな体ではなく、着物を着ていると普通の好青年と変わらない。

 しかし、生で見れば一目瞭然で、引き締まった筋肉は今まで鍛えられた力を凝縮したようなものであり、冒険者達の恩恵に頼って最低限鍛えただけの肉体とは別次元にある武の達人の肉体だ。

 それくらいはアーディでも充分分かるため、褒めたのだ。だが、宗次郎の実力までは当然読み取るなど出来ず、自分と宗次郎との間にある隔絶した実力差には気付いていない。

 

 「──あはは。まぁ、鍛えてますから……。それより、これだけでいいんですか?」

 

 「あっ、うん!これで良いよ!ようこそオラリオへ!!」

 

 「ありがとうございます。それでは、また何処かで」

 

 「うん!またね!!」

 

 どんな鍛錬を──とか聞かれては話が長くなってしまう。故に宗次郎は笑って誤魔化し、審査が他にはないのかと問い掛ける。

 どうやら恩恵の確認だけの審査しかなかったらしく、歓迎の言葉で迎えられた宗次郎は礼を言い、アーディに笑顔で見送られながらオラリオに足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 「世界の中心にある一番発展してる都市にしては、随分と寂れてるなぁ」

 

 門番をしていたアーディと別れた宗次郎は、まずは都市を見て回ろうと昼まで歩いているのだが、街に活気がない。世界の中心都市でこの世界で一番発展しているのがオラリオ、それがこの世界の共通認識だ。

 しかし、今のオラリオの住民の表情には陰があり、街並みには所々壊れている箇所もある。とても世界一の都市とは思えないのが今のオラリオだった。

 

 「!!!」

 

 「ッ!物凄い爆音だなぁ……。どうやらオラリオの現状は聞いてた以上に悪いみたいだし、ちょっと見に行ってみようかな……」

 

 突如響いてきた何かが爆発したような音。その場所にこそ、今のオラリオになってしまった原因がある。そう考えた宗次郎は、現状を手っ取り早く把握するべく、爆音のした方に三歩手前の速度で駆け出した。

 

 「!おい、今のガキ消えちまったぞ!!」

 

 「何かのスキルか!?」

 

 因みにLv1、2程度の冒険者では宗次郎の三歩手前の速度すら認識出来ない。その為青年が一人、消えたとその場で騒ぎが起こったのだが、宗次郎はその時既に、騒ぎが聞こえない場所まで移動しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 残念ながら宗次郎が到着した時には殆ど終わっているようで、この騒ぎを起こしたらしき者達の最後の一人が呆然と立ち尽くしているところだった。他にも、様々な髪色をしたカラフルな少女達いた為、宗次郎はその姿が見える屋根の上に陣取り、静観の姿勢を取った。

 

 「お、お前達、まさかっ………」

 

 立ち尽くしていた男は震える指を少女達に向け、何かに気づいたように声を上げる。そんな男に、赤髪の少女は一片の曇りのない笑みを浮かべた。

 

 「あら、自己紹介が必要?それなら正々堂々たっぷりしてあげるわ!」

 

 ここぞとばかりに声を上げ、言葉に違わず名乗りを上げる。恐れず、怯まず、『悪』に立ち向かう強き意志を乗せて。

 

 「弱きを助け、強きを挫く!たまにどっちもこらしめる!差別も区別もしない自由平等、全ては正なる天秤が示すまま!」

 

 彼女の背後に控えるのは総勢十名の団員達。エルフが、ヒューマンが、小人族が、年若い少女達が、その団長の口上に──アリーゼ・ローヴェルの言葉に、それぞれの正しきの灯火を心に宿す。

 

 「願うは秩序、想うは笑顔!その背に宿すは正義の剣と正義の翼!」

 

 彼女達が身に着ける『誇り』が輝く。翼、そして天秤を模した剣のエンブレムが。女神の名の示す『正義』象徴が。

 

 「私達が【アストレア・ファミリア】よ!」

 

 ──そう、盛大に名乗りを上げた。

 そんな様子を上から見下ろしていた宗次郎は思う。なんて甘い事を言っているのだろうかと。弱きを助け強きを挫く?それはない。この世で正しいのは、弱肉強食唯一つ。でなければ、今自分がこうして生きているわけがない。それが、宗次郎の出した真実──答えだ。

 彼女達はその答えを持っているのだろうか。そんな事を考えながら、見るべきものを見た宗次郎はその場を後にした。

 

 これが、後にオラリオ史上最悪と呼ばれる死の七日間が始まる十日前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数日後。

 

 

 オラリオの中心に近い比較的治安の良い区画に宿を取れた宗次郎は今、割と深刻な事態に襲われていた。

 

 「……ハァ──。まさか恩恵がないとダンジョンに入れないなんて思わなかったなぁ……。危険だからって事らしいけど、僕からすれば皆が修行不足なだけなんだけど。………面倒だなぁ」

 

 そう、オラリオで戦いで金を稼ぐにはダンジョンに潜るのが一番だ。というより、それしかない。だが、いつ何処の誰が決めたのか知らないが、ダンジョンに入るには何処かのファミリア──つまり神の恩恵を持っていないといけないのだ。

 

 「でも、僕が恩恵なんて刻むと多分物凄く弱体化(・・・)するしなぁ……。いらないんだよね、正直」

 

 しかし、宗次郎の強さは鍛え抜かれた肉体で放つ技にある。今の宗次郎が恩恵を刻めば、技と身体能力の調律が取れず、今まで取得した縮地を含めた体技や剣技の数々。それら全てが使用不能になる。たった数時間や数日で能力が変化してしまうのだから、技が失敗するのだ。

 その最たる例が、冒険者達がランクアップした際にあるという感覚のズレ。それが日常的に起こってしまうようなもの。それに、宗次郎自身は誰かに縋ることを良しとしていないので、恩恵を受けるという選択肢はない。その為、悩まされているのだ。

 

 「手っ取り早くギルドの人達に力を示せれば良いんだけどな。……今は闇派閥とかいう人達が町中で暴れてるから、それを蹴散らせれば一番良いんだけど──」

 

 先日宗次郎が目撃したのも、都市を護る冒険者と破壊しようとする闇派閥の戦いだった。ならば解決策はそこにある。闇派閥を蹴散らしてギルドに力を示せれば、ダンジョンに入る許可も出るだろうと宗次郎は考えた為、早速闇派閥が暴れ出さないかと街を見て回るのだった。

 今日は丁度、北のメインストリートで職を失ってしまったりした者達の為に炊き出しを行うという。長く裏社会で生きてきた宗次郎は、自分ならそこを襲撃して油断している冒険者や市民を殺すだろうと考え、まずはそこで網を張ってみようと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、北のメインストリートでは既に炊き出しが行われていた。

 大鍋の前には長蛇の列ができ、熱々のスープをよそわれる度に、頬がこけた民主の顔に笑みが宿る。刻まれた果物に齧り付く子供たちも、絶えずはしゃぎ回っている。

 それは、最近の困窮と節約を忘れさせる光景だった。

 

 「炊き出しとはいえ……本当に活気がある。昨日まで沈んでいた街角とは、とても信じられない」

 

 覆面をし、警備をしていたエルフ─リュー・リオンが率直な感想を口にする。正義の眷属である【アストレア・ファミリア】の面々も既に散り、それぞれの場所で役目を果たしている。リューもその内の一人だ。

 『女神祭』──豊穣の宴を始め、都市の祭りが中止せざるをえなくなっている昨今、今日の炊き出しはそれを補うかのようだった。賑々しさと活況、何より笑顔。都市に住まう者達のために走り回るギルド職員を横目に、リューは感嘆した。

 

 「感謝をすれば人は幸せになって、感謝される方も幸せになれる!これが本当のオラリオの姿なのよ!」

 

 そんなリューの隣では、アリーゼが周囲に負けないほどの笑みを浮かべていた。かと思うと、やにわに頭上へ右腕を伸ばし、晴れ渡る蒼穹を指差す。

 

 「ずっと塞ぎ込んでいた空も今日はこんなに晴れてる!晴天も一緒にみんなと笑ってくれてるわ!だから、私達も灼熱よ!」

 

 そんな風に言葉に違わず語気を燃やしていると、そこへ一人のドワーフがやってきた。

 

 「何じゃ、やけに威勢の良い女子がおると思ったら……お主達か、【アストレア・ファミリア】。相変わらず騒がしいな、アリーゼ・ローヴェル」

 

 「あ、ガレスのおじ様!」

 

 そして彼に気付いた途端、アリーゼは憧れの勇者に出会ったような面持ちで話し掛ける。

 

 「──おっ、おじっ?おじ様っ?……【重傑】が?」

 

 そしてそして、リューは形容しがたい表情を作った。

 

 「ガレスのおじ様も炊き出しの手伝いに来たの?」

 

 「ああ。【ロキ・ファミリア】からは儂と若いのが来ておる。ま、儂に限って言えば警備が務めだがな」

 

 耳を疑って硬直するリューを他所に、アリーゼは嬉しげな様子でホイホイと話を進めていく。心なしか声が弾んでいる赤髪の少女に、ガレスは蓄えている髭をしごいた。

 

 「飯を受け取るなら、老け顔のドワーフの手より、お主等のような可憐な娘からもらった方がいいじゃろう」

 

 「もう、誰もが見惚れるスーパー可愛い美少女だなんて!おじ様は本当にお世辞が上手いんだから!」

 

 「そこまでは言っとらん」

 

 暗黒期のオラリオにあって随分と久しぶり訪れた一時の平穏。故に被害者の市民達も警備の冒険者達も、談笑に花を咲かせている。だからこそ、その平穏さに気が緩むことを、裏に生きる者達は深く理解していた。故にそこを突こうと動く闇派閥が襲撃を仕掛けるのは半ば必然であった。

 

 「今がどうしょうもねー時代で!ここは笑う暇もねぇ地獄だと!群衆どもに思い出させてやらねぇとよぉ!」

 

 その奇襲作戦の首謀者は、【殺帝】ヴァレッタ・グレーデ。生粋の殺人鬼は『悪』を扇動し、『悪』を謳歌した。

 

 「やれ、てめえ等!」

 

 「は、ははぁっ!」

 

 残忍な女の指示に、闇派閥の軍勢は一も二もなく従った。自身が亡骸に変わる前に、任務を全うする。巻き起こるのは凄まじい『爆撃』だった。

 

 「ぐああああああああああ!?」

 

 「きゃあああああああああ!」

 

 通り、商店、人々。手当たり次第に放たれる『魔法』の輝きが、崩壊と振動、悲鳴を呼び込む。血は流れ肉が焼け、石畳は弾け壁が砕け、陽だまりの光景が瞬く間に壊れていく。『血溜まりの惨劇』へと変わりゆく。

 

 「ははははははっ!『前夜祭』だぁ!騒ぎに来たぜ、冒険者どもぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 轟く女の哄笑。その悪辣な声とともに、街の叫喚は冒険者達へと届けられる

 

 「悲鳴!?それに、爆発!?まさか───!」

 

 「行くわよ、リオン!」

 

 驚愕の声を口にするが早いか、リューとアリーゼは風となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆音と悲鳴が木霊する中、頭一つ抜けた建物の屋根の上。炊き出しの現場を一望できる場所に陣取り、騒ぎが起こるかを見ていた宗次郎は、襲撃が起こった事をいち早く察していた。

 

 「やっぱり狙ってきたなぁ。それじゃあ僕も、【人斬り】として戦うとしますか……!」

 

 狙い通りの襲撃者。その姿を確認した宗次郎は屋根から飛び降り、家屋の屋根の上を伝って敵陣に向かっていく。そして敵陣のド真ん中へと飛び出した。

 

 「──ッ!?」

 

 「──なっ!貴様何者だぁ!?」

 

 飛び出した一瞬で、市民に襲い掛かっていた敵の一人を着地と同時に斬り殺す。突然血を噴いて倒れる同志を見た敵の一団は、一斉に宗次郎へと振り向き、その一人が何者だと叫ぶ。

 

 「僕ですか?僕の名前は、瀬田宗次郎。唯腕に自信のあるだけの……【人斬り】です…!!」

 

 「ふざけ────え……?」

 

 「───三歩手前、で充分かな」

 

 

 「うわあああああっ!!」

 

 「な、何だこれぇ!?同志達が……次々に!!」

 

 律儀に自己紹介したかと思えば、トントンッ!と右足を踏み、駆け出す宗次郎。ふざけんな!と叫ぼうとした男は、突然消えた事に驚き固まる。凄まじい足音と移動する際の風が吹き荒れ、不自然な足跡だけが残る。

 その一瞬に首を斬り落とし、胸を左逆袈裟で斬り裂き、頭のかち割り斬り裂いた。そして立ち止まった宗次郎が、刀を軽く振って血を落とす。それから要約、同志達が斬られた事に気付いた闇派閥の面々は、瞬く間に混乱していく。

 

 「それじゃあ、殺しますね」

 

 

 「ッ!──やれぇ!!」

 

 

 「「「うおおおおっ!!」」」

 

 

 「「「ぎゃあああああっ!!」」」

 

 

 笑顔で殺そうと向かってくる宗次郎に、一瞬怯む指揮官だったがすぐに号令を出す。そうして襲い掛かっていった者達は宗次郎の動きを見ることすら叶わず、次の瞬間には斬り殺されていった。

 

 

 

 

 




 
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