“天剣”がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:覇者
どんどん広がっていく闇派閥による市民への被害。冒険者達も必死に応戦をしているが、奇襲を受けた上に守護対象が近くに居る現状。更には、市民を守るという行為事態冒険者にはあまり馴染みのないもの。
あちこちで市民や冒険者の血が流れ、市民が逃げ惑う中、たった一箇所だけその真逆となっている区画が存在した。
「ギャハハ!死ねぇ──!!」
「──ウワァ!!!」
「──ッ!!!」
今も見るからに悪人面な男が、一般市民の男性に剣を振り下ろそうとするが、突然不自然な音が鳴って風が吹く。悲鳴を上げて目を瞑っていた男性は、いつまでも剣が当たらない事を不思議に思って目を開く。
「大丈夫ですか?」
「──あ、あんたは……?」
そこには、血の滴る刀を持ったニコニコと笑っている宗次郎が立っていた。笑って大丈夫かと聞く宗次郎が、何者かが分からず言葉が出ない男。
「僕の事よりも、目立った傷はありませんし、冒険者達の多くいる方に逃げた方がいいですよ?」
「……あ、あぁ!そうだな!誰か知らないけど、ありがとう!!」
「いえいえ」
勧められるままに礼を言い、走り去っていく男を見送った宗次郎は、次の瞬間にはその場から駆け出す。助けた市民については、最後まで自分で面倒をみるような事はしない。最終的に死んだなら、それは弱い者のせい。そう思っているからこその行動だ。
その直後に叩き付けられる剣。背後からこっそり狙っていた男が振るったのだが、当然避けられ次の瞬間血を噴き、倒れた後で斬られた事に気付き、悲鳴を上げる間もなく事切れた。
「──さて、どんどん行きましょうか!」
この場に居る襲撃者はLv1、2程度の者ばかり。そしてその場に居る者達を次々斬り裂いていき、更に敵のいる場所へと駆け出していった。
一方その頃、主犯であるヴァレッタのいる場所では、青空の下闇派閥による凶行が繰り広げられていた。
「ぐぁぁ!?」
「頭に血が登った冒険者程殺りやすいモンはねぇなぁ!ハハハハハハハハ!」
今も激昂した冒険者が飛びかかるものの、ヴァレッタの体がぶれて斬閃が走り、すれ違いざまに斬り伏せられた冒険者達が血の海に沈む。
民衆の惑乱を引き起こす恐怖の象徴として自分を立てる一方で、戦闘要員への挑発も怠らずに狩る。ヴァレッタという女はどこまでいっても冷酷で、狡猾だった。まさに見えない巣を張り巡らせる毒蜘蛛の如く。
「──外道ッッ!!」
「っ!?」
その直後、ヴァレッタの背後と頭上から木刀と細剣が繰り出される。Lv4にも匹敵しようかという高速の奇襲に、ヴァレッタは瞬時に回避の選択肢を捨てた。長剣と懐から取り出した逆手持ちの短剣、二種類の刃で防御する。
「あぁン………?【アストレア・ファミリア】か!てめー等はお呼びじゃねえんだよ、乳臭えガキども!」
「黙れ!!誰もが笑う筈だったこの場所で、よくも……!」
憤怒するリューに、背を討つ逡巡などとっくになかった。長剣に弾かれ一度は着地したアリーゼも再度斬り掛かり、緋色の怒りに満ちる。
「絶対に許さないわ!貴方はここで倒す!」
痛烈な金属音の後、木刀を短剣が、細剣を長剣が押さえ込み、鍔迫り合いを行う。得物越しに睨み合う少女達に向かって、ヴァレッタは唇を吊り上げた。
「バ〜カッ!Lv3のてめえ等が、Lv5の私に適うと思ってんのかぁ〜!?」
「──そんなに計算が好きなら、Lv5が相手を──」
「──誰も彼も、Lvとかステイタスとか……くだらない!」
「ぎっっ!?」
悪の傲慢な言葉に対し、返答しようとしたのは強烈な握り拳。しかし、その拳が届くよりも早く一陣の風が吹き、ヴァレッタの背後から声が聞こえ、刃が背中を斬る。
ステイタスの高さに任せて咄嗟に回避行動をとったものの、背中からは少なくない血を流しながら地面を転がり距離を取る。
「──何モンだてめえ!?」
「……誰?」
「見覚えがないのう」
いきなりの奇襲を受け、態勢を整えたヴァレッタは覚えのない男─宗次郎に苛立ちの表情を向ける。長くオラリオで冒険者をしているガレスやアリーゼ達も、知らない男の登場に警戒を顕にしている。
「……背後から完璧に奇襲した筈ですが……、三歩手前の速度とはいえよく避けましたね。流石は第一級冒険者というやつでしょうか……。まぁ、僕には遠く及びませんけど、それに敬意を評して名乗ってあげます」
まだまだ全力の速度ではないとはいえ、今まで宗次郎の奇襲を躱した者はそうはいない。その事に一定の敬意を持った宗次郎は、最低限の礼儀として名乗る事にした。
「数日前に極東からオラリオに来ました!瀬田宗次郎といいます。以前までは極東にて“天剣”と呼ばれ、“人斬り”の仕事をしてました」
「あァ?“人斬り”だァ?そんなのがオラリオに居るなんざ、知らねぇが……」
「えぇ、この街に来たのはつい最近なので」
宗次郎の名乗りを聞いたヴァレッタは訝しみ、自分の頭に入っていない事に疑問を持つ。そして、宗次郎はそれも当然だと言葉を返す。
「ヴァレッタ様!報告です!!」
「あァ?どうしたァ?」
「そこの瀬田宗次郎と名乗る男が次々に同志達を斬殺!既にこの場の半分以上が殺され、これ以上の作戦の続行は難しいかと!!!」
「何ィッ!?」
「何じゃと!?」
「……うそ」
「そんな……」
その後、闇派閥の伝令がヴァレッタに報告をしにきた。ヴァレッタに告げられた報告は、その場にいる宗次郎以外の者には信じられないものだった。
ヴァレッタ、ガレス、アリーゼ、リューの四人ともが、目の前でニコニコ笑っている宗次郎が何十人もの人間を斬り殺して来た後だとは、とても思えなかったからだ。
「あぁ──、もう
数十人も殺した事をあっさりと認めた宗次郎は、今までのニコニコ笑顔とは一転。口元は笑っているが、目は覚悟を持った人斬りの目特有の鋭さを宿し、持っていた刀を鞘へと収めて鞘を腰帯から外し、右手を前に半身で少し腰を落とした構えを取る。
「……あ?刀を鞘に収めたかと思えば、今度は何だその構えは。そんなポーズ取って、カッコでもつけてんのかぁ〜?」
「貴方の目にそう映っているのなら、貴方はその程度の弱者……!!ただそれだけの事ですよ?」
「…………言うじゃねぇか!!一つ言っとくが、さっき程度のスピードじゃ正面から私に通じねェ」
それは宗次郎の縮地と最も相性の良い技─抜刀術の構え。しかし、武術に関しては素人なヴァレッタにはそれが何か分からない。それ故に見当違いな挑発をする事になるが、逆にその程度だと言われる始末。
それにかなり苛立ちを顕にするヴァレッタだったが、今度は事実をついていく。実際、ヴァレッタは背後からの奇襲を紙一重で反応して躱している。よって、奇襲した時の宗次郎の速度が、最高速度ならヴァレッタには通用しない。あくまでも、最高速度ならの話だが。
「……さっさと…終わらせましょう」
「そういうところが鼻につくんだよ!クソガキがァ──!!!」
「二歩手前──」
(──速い!?だが反応出来る!終わりだガキィ!!)
叫びながら駆け出すヴァレッタだが、冷静さは失っていない。先ほどまでより速い宗次郎の速度に驚きながらも、一刀目の刃を回避して剣を振り降ろす。それが罠だと、最後まで気付かずに。
(──なっ!?鞘ァ!!?)
「ぐあぁっ!!!」
「──双龍閃…!!!」
迫るヴァレッタの剣を気にも留めず、左足の踏み込みで破壊力を上げた鞘をヴァレッタの右手の肘に叩き付ける宗次郎。肘の関節は完全に砕け、ヴァレッタの攻撃は失敗し、苦悶の表情で左横に倒れ込む。
「この抜刀術は二段構えなんですよ…!だから生憎と、一刀目を躱された後の隙は存在しない。寧ろそこを突いてくる敵の力みと油断……そこを逆に突いていく!!──肘の関節を砕いて筋を断ちました。これでもう、今はその右手を使えない……!」
「………」
「あれ?あれだけ人を殺している貴方が、今更自分の死には恐怖するんですか?」
態々宗次郎が技の説明をしたのは、気まぐれか。将又、自分の状況を分からせる為か。
ともかくとして、膝を付いたヴァレッタの頭上に刀を構えた宗次郎が後はとどめを刺すだけとなった時、顔を上げたヴァレッタを観て宗次郎はふと思った事を口にする。
その言葉は、努めて表情を変えずにいたヴァレッタの内心を的確に言い当てていた。
「───っ!!?」
「……恐怖?あの【殺帝】が……?そんな……。いや、それよりも彼は何故そんな事が……?」
その事に驚愕の表情になるヴァレッタと、その表情を見てヴァレッタが恐怖している事に、そしてそんな内心を宗次郎が当てた事に驚くリュー達。
そんな両者の様子を見た宗次郎は、ネタバラシをするべく自らの力について語り出した。
「驚いていますね……。だけど、当たっているのは当然ですよ!!僕の“心眼”は、人の心すら見透かす。貴方の恐怖、驚愕、不安それが手に取るように分かりますよ?」
「“心眼”──?」
「──っ!!!?」
「あっという間に僕にやられた事とこれから死ぬ事への恐怖、それを知られた事への驚愕、次に何を悟られるかへの不安。……全て、分かります」
聞こえて来た心眼という言葉に疑問を抱くガレス達。そして、内心の尽くを当てられたヴァレッタは、最早一言も発さずに顔を伏せる。そんなヴァレッタの頭上に構えていた刀を今度こそ降り下ろそうとした──その瞬間。
「ヴァレッタ様をお救いしろォォ───」
その場に残る闇派閥の雑兵全員が徒党を組み、宗次郎に襲い掛かってきた。それも、ご丁寧にガレス達の動きの妨害もしながら、である。
「ヌゥ……!こやつら──」
「これじゃあ、あの人の応援に行けないわ!!」
「アリーゼ、まずは速やかにここを制圧しましょう!!」
高威力の炎の魔剣で道を遮られ、複数人に囲まれた。この状況では宗次郎の手助けは無理だと三人ともが瞬時に判断し、この場に居る闇派閥の掃討に意識を切り替えた。
「魔剣か……、喰らったら大怪我だけど当てられるようなヘタを打たなければ問題なし!彼らもあの程度の連中相手なら大丈夫そうだし……それなら後は、貴方達をこの場で皆殺しにすれば、一件落着!ですね!!」
不意打ちもしっかり回避した宗次郎は、即座に周囲の状況を分析する。魔剣の威力は脅威なれど、全て回避すればいい。炎越しに見えるガレス達三人も、雑兵にやられる事はないと判断し、そっちは任せる事にしてから物騒な事を言いながらヴァレッタ達に向き直る。
「………クソがッ!てめぇら!!しっかり足止めしとけよ!?」
「はいっ!!お任せを!!」
「それじゃ私は撤退させてもらうぜっ!!………其処の優男!顔は覚えたからなァ!!次会った時は地獄を見せてやるから、覚悟しとけぇ!!!」
今の状況では撤退しかないと判断したヴァレッタは、部下達に足止めを指示した後、すぐに煙玉を取り出して地面に叩き付け、煙幕を張る。
そして、宗次郎に向けて捨て台詞を吐いた後、煙が晴れた時にはその姿を消していた。
「あちゃぁ〜、逃げられちゃったなぁ。…まぁでも、これならすぐにでも終わらせられるかな……」
「──何ィ!?」
「事実を突かれて怒らないでくださいよっ──」
ヴァレッタが撤退した以上、この場の趨勢は最早決したも同然。その為、宗次郎は逃げられた事を理解しつつも瞬時に意識を切り替える。
その時呟いた宗次郎の言葉にキレた男に、更なる挑発ともとれる言葉を返しながら神速の速度で駆け出した。
「──き、消えたっ!!」
「どこに──ギャアッ!?」
「グアァッ!!」
三歩手前の速度を目で捉えられない敵が驚いている間にも、次々と宗次郎に斬り捨てられていき、腕や足は切断され、胴体も深く斬られた死体が増えていく。
「──距離を取れ!見えない程の速さでも、距離を取って魔剣での範囲攻撃なら当てられる!!」
「おう!!」
「──おっと、考えましたね!……でも、遠距離もちゃんとカバー出来ますよ?──飛飯綱!!!」
その事態に少し頭が良い指揮官が、距離を取って包囲してから魔剣で遠距離攻撃を仕掛けようとしてくる。しかし、宗次郎にはちゃんと遠距離攻撃の手段がある。宗次郎の振るった刀から放たれた真空の刃が、魔剣の魔法を切り裂き無効化し、そのまま進んで敵を斬り裂いた。
更に続けて飛飯綱を放ち、見えない真空の刃で斬り裂かれていく闇派閥の人間達は、大混乱に陥った。
「何だこれは!?奴の刀が届く筈がないのに……斬られて……グアァッ!!!」
「どうなってる!?何かのスキルか?──ギャアァッ!!!」
その大混乱を利用し、接近した宗次郎は次々と敵を斬っていき、瞬く間に戦闘を終結させるのだった。
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