聖闘士星矢オムニバス   作:ほろろぎ

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みずがめ座:呪われた黄金聖衣

 地上の愛と正義を守るため戦う者たちがいた──その名は『聖闘士(セイント)』。

 

 聖闘士は絶大なパワーを発揮して悪を討つが、肉体はあくまでも人間のもの。

 その身を守るため、彼らは星座の力を宿した鎧──『聖衣(クロス)』をまとうのだ。

 

 

「よくきた、カミュよ」

 

 

 過酷な修業の果てに、ついに聖闘士の証である聖衣をまとうことを許された少年が一人。

 カミュ、と呼ばれた青緑の長髪が特徴の彼は、小柄な体で礼儀正しく膝をつく。

 

 

「お呼びでしょうか、教皇」

 

 

 すべての聖闘士を統括する教皇を前に、カミュはかしづくように(こうべ)を垂れた。

 

 聖闘士の多くが在籍するギリシア。

 カミュは今、ギリシアは聖闘士の総本山である『聖域(サンクチュアリ)』の教皇の間において、自分たちの代表である人物に接見している。

 教皇が、いまだ正式に聖闘士と認められていない人間を自らの前に呼び出すなど、例外中の例外である。

 

 

「うむ。お前を呼んだのはほかでもない……カミュよ、たった今からお前を──水瓶座(アクエリアス)黄金聖闘士(ゴールドセイント)に任命する」

「! わたしが、ですか……!?」

「修行の成果は私も聞きおよんでいる。わずか七歳ほどの年齢で、すでに()()()()()()()()()()()お前は、水瓶座を継ぐのに相応しい」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 地上を守る聖闘士には三つの階級がある。

 下から青銅(ブロンズ)白銀(シルバー)、そして選ばれた十二人のみしか存在しない黄金(ゴールド)

 カミュは七歳の少年の身にして、その天才的才能によってのり越えた修行の果てに、ついに最上位の黄金聖闘士の地位を得たのだ。

 

 その(かんむり)はすべての聖闘士のあこがれ。

 はやる気持ちを抑え、少年は自身にあたえられるであろう黄金聖衣(ゴールドクロス)の出現を待った。

 しかし、いっこうに教皇は聖衣を持ちだすそぶりを見せない。

 

 

「教皇、わたしの聖衣はどこに……?」

「うむ、それが問題なのだ」

「問題──と申されますと?」

「水瓶座の黄金聖衣は、現在このギリシアにはないのだ」

「なんと……では、いったいどこに」

「シベリアだ」

「我が修行の地に……黄金聖衣が」

 

 

 世界でも屈指の極寒の地、東シベリア。

 止まぬ吹雪によって、その気候はマイナス四十度をも下回るという。

 カミュの脳裏に、短くも濃密だった訓練の日々が過ぎった。

 

 

「水瓶座の黄金聖衣は、古の時代よりシベリアの地において『封印』された状態にある」

「封印ですと? なぜそのようなことを……」

「それは──かつてアクエリアスを継ぐはずだった聖闘士が、ある邪神との戦いによってその身に呪いを受けたことによる」

 

 

 教皇の言葉がいちど止まる。

 石造りの広間に、みじかくも不気味な静寂がおとずれた。

 

 

「呪いは水瓶座の黄金聖衣に伝播(でんぱ)し、のちに歴代の水瓶座の聖闘士を苦しめることとなったのだ──」

 

 

 教皇から語られたアクエリアスの逸話(いつわ)

 それはカミュ本人ですら師から教えられることのなかった話。

 おそらく聖域のなかでも、おおやけに触れることがはばかられたためであろう。

 

 

「聖闘士の目指すべき頂点である黄金聖衣が邪神の呪いに(むしば)まれているとなると、それも仕方のないことか……」

 

 

 そう独り言ちるカミュは現在、ギリシアを発って単身で東シベリアの地を踏んでいた。

 かつて訓練を積んだ懐かしの修行の地は、いぜんと変わらずきびしい吹雪で吹き荒れている。

 

 寒さから身を守るためにまとっているマントが飛ばされないよう、襟元を強くつかんで少年はシベリアの大地を進む。

 

 

「教皇の指示では、水瓶座の聖衣はシベリアのさらに東の果ての地に封じられているというが……」

 

 

 荒れ狂う吹雪は時とともに、その猛威を強めていく。

 歩き始めて数時間──。

 伝えられた聖衣のある場所には、とうにたどり着いているはずだが……。

 

 

「マズいな、道を見失ってしまったか」

 

 

 視界を真っ白に塗りつぶすほどの猛吹雪の中で、カミュは進むべき先を誤ってしまったようだ。

 シベリアの氷河の上では、標識など皆無。

 もと来た道を引き返そうにも、すでに吹雪のせいで前後不覚におちいっている始末だ。

 

 

「……こういう時は落ち着いて、冷静に対処しなければ」

 

 

 カミュは静かに、自身の中に広がる力へと意識を向けた。

 

 聖闘士の誰もがその身に宿す、不思議なパワー。

 自らの内にひろがる小さな宇宙──『小宇宙(コスモ)』を燃やすことで、カミュは吹雪に体温が奪われるのをふせいだ。

 

 同時に、少年は自分の小宇宙がなにかに引き寄せられる感覚を覚える。

 まるで生まれた時から側にある大切なものが、自身を呼び寄せているような──。

 

 

「……そうか、この感覚の先に私の聖衣があるのだな」

 

 

 道しるべを得たカミュは、ふたたび吹雪の中を歩きだした。

 そして、それは正解だった。

 

 カミュの視線のはるか先、吹雪で白くかすむ向こう側に、小さく灯った明かりが見え始めたのだ。

 

 

「あれは村の明かり……。あそこが我が聖衣が眠るという地、『ブルーグラード』か……!」

 

 

 ブルーグラード、そこは花一輪育たないといわれる北極圏の永久凍土の大地。

 この地に住まうブルーグラードの民が、代々アクエリアスの黄金聖衣を封印、監視しつづけているという。

 

 

「む? なにかおかしいぞ……?」

 

 

 違和感は村の明かりにあった。

 家々の室内を照らすそれにしては、みょうに強く、激しく揺らめいている。

 まるで、悪しきものを称える邪悪な祭りのように、禍々しい炎……そう、炎だ。

 

 

「あれは灯火ではない、村が燃えている……!?」

 

 

 カミュは大地を蹴った。

 聖闘士の並ならぬ走力は吹雪をものともせず、数百メートルの距離をあっという間に駆けぬける。

 

 

「おぉ……なんということだ──っ」

 

 

 少年は目の前に広がる光景に絶句した。

 ブルーグラードの村は、文字通り壊滅状態にある。

 

 木造の家々はすべてに火の手がかけられ、極寒の地に住む少数の村人は、すべて氷の大地の上で倒れ伏していた。

 惨殺された人々の鮮血が、氷の大地を赤く染めている。

 

 

「いったい誰がこんなことを……」

 

 

 無残にひろがる遺体の山を前にして立ちすくむカミュ。

 その背後に不穏な影がせまった。

 

 影の数は数十人の男たち。

 皆おなじデザインの、氷の彫像のような鎧をまとっている。

 

 

「クックック……まさか聖闘士が自らこの地に足を踏み入れるとはな」

 

 

 鎧の男たちの一人がそう言った。

 カミュをあざけるその様は、聖闘士がどういった存在か熟知している雰囲気がある。

 

 少年はつとめて冷静に問う。

 

 

「お前たちは何者だ?」

「俺たちは『凍闘士(フロスト)』! 吹雪と氷の神、『ボレアス』さまに使える戦士だ!!」

「邪神ボレアス……水瓶座の黄金聖衣に呪いをかけたという神か」

 

 

 かつて神話の時代──ボレアスはその邪悪なる心をもって、世界を吹雪と氷で閉ざした死の世界に変えようとしていた。

 それに対抗して立ち上がったのが、地上の愛と平和を守る戦女神『アテナ』と、彼女に(つか)える戦士──聖闘士。

 

 ボレアスに単身立ちむかった聖闘士はしかし、その身を守るプロテクターである聖衣を所持していなかった。

 彼は聖闘士でありながら守護星座にえらばれず、黄金聖闘士に匹敵する力を持ちながら、黄金聖衣を与えられなかった悲劇の戦士なのだ。

 

 原初の聖闘士である彼は、それでもくじけずに修行を積み──ついには氷の拳を極めた究極の凍気をあつかえるようになるまでにいたった。

 その力から彼は、正規の青銅、白銀、黄金に含まれない独自のカテゴリーとして、『結晶聖闘士(クリスタルセイント)』の名をいただくことになる。

 

 結晶聖闘士は聖衣にたよらず、しかし自分を選ばなかった「水瓶座の黄金聖衣」を守り、次代の聖闘士に託すため戦いをつづけた。

 そして自らの小宇宙を限界まで燃やし、ついに邪神を封印することに成功したのだ。

 

 

「しかし最後の瞬間、邪神は結晶聖闘士に呪いをかけた」

 

 

 カミュはことの顛末(てんまつ)を口にした。

 偉大なる原初の聖闘士──未来のためにつくした戦いの一説を、凍闘士(フロスト)の男たちはバカにする。

 

 

「あろうことか、その呪いを水瓶座の黄金聖衣が肩代わりしてしまったのだ!」

「聖衣すらまとえない半端者の命を救うなど」

「ましてや自分を認めなかった聖衣に助けられるなど」

「しょせん聖闘士など、夢想家の大バカもの共の集まりよ!」

 

 

 嘲笑の声が氷原の地に響く。

 が、その嗤いがピタリと止んだ。

 

 少年の──カミュの気配が変わったせいだ。

 凍闘士(フロスト)らのあいだに動揺が走る。

 

 

「な、なんだこの小僧は……!?」

「いくら聖闘士といえど、こんな小さなガキから、恐ろしいまでの小宇宙を感じるとは……!?」

 

 

 敵はカミュ一人、それに対して少年をとり囲んでいる凍闘士(フロスト)の数は何十倍にもなる。

 

 圧倒的数の有利を得ているはず、なのに仕掛けられない。

 カミュの気迫が、敵に攻撃に出ることを戸惑わせているからだ。

 

 

「我が祖でもある結晶聖闘士を愚弄した罪──その身で(あがな)うがいい──!」

 

 

 少年の体から、爆発するほどの凄まじいパワーが溢れ出る。

 こらえきれず、凍闘士(フロスト)らは一斉に飛びかかった。

 

 

「お、おのれぇーっ!!」

「たかが小僧ひとり、我らの敵ではないーっ!!」

 

 

 小宇宙がカミュの右手に収束、氷をまとった吹雪となって凍闘士(フロスト)を迎撃する。

 

 

「ダイヤモンドダスト!」

『うぎゃぁあーっ!!!!』

 

 

 まだ聖衣を授かる前の、生身のカミュが放ったたった一発の氷の拳によって数十人の敵は、吹雪に散らされる花びらのようにあっけなく蹴散らされてしまった。

 

 ドシャァッ、と宙を舞った敵の屍が氷の大地に落下する。

 カミュは凍闘士(フロスト)らに蹂躙された村人たちの遺骸に黙とうをささげる。

 

 

「これで仇がとれただろうか……。貴方たちが守った聖衣は、受け継ぐわたしがかならずや、その呪いを解いてみせる」

「フッ……それは不可能だな」

 

 

 出し抜けに声が響いた。

 声の主は二十歳くらいの青年で、やはり凍闘士(フロスト)と同様の氷のアーマーを身に着けている。

 しかしその鎧のデザインは、すでにカミュが一掃した雑兵のものとは一線を隠すシルエットだ。

 

 

「お前も凍闘士(フロスト)か。しかし、先ほどの奴らとは違うようだな?」

「一緒にしてもらっては困るな。俺は凍闘士(フロスト)をまとめる、いわばお前ら黄金聖闘士のような頂点に立つ者──」

 

 

 カミュと敵のリーダーが対面する。

 両者の間に静かな火花が散った。

 

 

「名を聞こうか」

「俺の名は、『氷結(血)(アイスバーン)のグレイシア』! アクエリアスを継ぐ男、カミュよ。お前を始末し、水瓶座の黄金聖衣は破壊させてもらう!!」

 

 

 グレイシアを名乗った男の体を、ぼんやりとした闇色のオーラがおおっている。

 

 

「貴様……邪神に憑依されているな?」

「ほう、見破ったか。小僧のくせに、さすがは黄金聖闘士に選ばれた男だけはある。たしかに私──ボレアスは、この男の体を依り代としている神よ」

「本物のグレイシアはおそらく、この村の青年だったのだろう。同じ故郷の者同士を殺し合わせるなど、さすがは邪悪なる神のおこないよな」

「そこまでお見通しとはな、知恵のまわる小僧だ。それゆえに、お前のような小僧が成長すれば、我々のような神にとっては大きな障害となるだろう……」

「ならばどうする」

「フッ、知れたことよ──」

 

 

 グレイシア──否、彼に憑依するボレアスの邪悪なる小宇宙が膨れ上がった。

 

 

「死ねい、水瓶座の黄金聖闘士! フリジッドエクステント!!

 

 

 名前の通り極寒の凍気がひろがり、カミュの体を凍りつかせていく。

 足元から這うように氷に肉体がつつまれていき、体内にまでするどく焼けるような冷気が襲いかかる。

 

 

「むぉおおおおお!?」

 

 

 氷の闘士であるはずのカミュをもってすら耐えがたい痛みに、おもわず苦悶の声が漏れた。

 このままでは凍傷によって、肉体の欠損どころか命すら危うい。

 

 少年は小宇宙を限界まで燃やす。

 立ち昇る黄金の闘気は、爆発するように内側から氷の戒めを破壊した。

 

 

「我が技から脱するとは、さすがは黄金聖闘士といったところか」

 

 

 ボレアスはグレイシアの顔でニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、すかさず追撃を放つための小宇宙を練り上げはじめた。

 

 カミュも小宇宙を高める。

 が、今度は敵の攻撃に耐えるためではない。

 腐っても神の攻撃は、生身の人間に何度も防げる易しいものではないのだ。

 

 

「我が聖衣よ……水瓶座の黄金聖衣よ……ここにきて、我が身をおおえ──ッ!!」

 

 

 ボレアスは再度、氷吹雪をもたらすフリジッドエクステントを放った。

 二度目を食らえば、さしものカミュも生身では耐えきれない。

 

 

「むぅ、これは……!?」

 

 

 グレイシアの顔がおどろきにつつまれた。

 カミュの前に、彼を守るようにして、一体の黄金造りの彫像が降り立つ。

 

 オブジェは、水瓶を頭上にかかげる乙女を象っている。

 これぞカミュが継承した『アクエリアスの黄金聖衣』だ。

 

 カシャーン!

 オブジェは弾けるように分解し、自動的にカミュの四肢にまとわれていく。

 

 全身を黄金の鎧につつまれた少年の、青緑色の頭髪が氷原を吹く風に揺れる。

 今ここに、真の黄金聖闘士──水瓶座(アクエリアス)のカミュが誕生した。

 

 

「ついにまとったか、黄金聖衣を……!」

「今こそ勝機! 食らうがいい、水瓶座の聖闘士の最大の奥義──オーロラエクスキューション!!」

 

 

 重なった両腕が水瓶の形を成し、カミュの腕の先からとうとうとほとばしる水しぶきが絶対零度に達するほどの極低温のブリザードとなって、ボレアスに向かう。

 

 氷の彫像となって文字通り処刑されたはずのボレアスは、しかしグレイシアの体を操ってその身をおおった分厚い氷をなんなく破壊して脱出した。

 これで勝負は決したと思っていたカミュも、思わぬ事態に度肝を抜かれる。

 

 

「な、なんだと……!? 我が凍技が効かないとは……!?」

「クククッ、気づかんのか? カミュよ。自らがまとう聖衣の違和感に」

「違和感……そ、そういえば……聖衣が重い──!? 黄金聖衣だというのに、まるで小宇宙を燃やせない青銅聖衣のように……この身にまとわりつくッ」

「その通り。貴様が小宇宙を燃やすほどに、その黄金聖衣は力を失う、ただの重たい(かせ)となるのだ!」

「なにぃ!? それが、邪神ボレアスが水瓶座の黄金聖衣にかけた呪いの正体だというのか……!?」

「小宇宙が燃やせなければ、貴様は絶対零度の凍気を放てない。であれば貴様に勝機はないということ──」

 

 

 グレイシアは両腕を広げ、体の中心に凝縮させた、かつてないほどの超低温のエネルギーをカミュに向けて撃ちだした。

 

 

「今度こそ終わりだ、アクエリアスよ! 貴様を始末し、水瓶座の聖闘士の血脈を絶つ! アブソリュートヘル!!

「ぐわぁああーッ!!」

 

 

 絶対零度の地獄(アブソリュート・ヘル)の世界がカミュの心身を蝕んでいく。

 辛うじて黄金聖衣の防御力が耐えているが、それもあとわずかで破られるだろう。

 聖衣をまとわないままなら絶対零度の反撃を放てるはずだが、それでは生身の肉体が敵の攻撃にさらされ命を落とすことになる。

 この矛盾を前に、カミュの思考は氷に閉ざされるように静寂に落ちていった。

 

 

──倒すのではない……ボレアスを倒すのではなく、再び封印するのだ──

 

 

 氷結の闇に落ち込んでいたカミュに声が届く。

 それは邪神の配下によって命を落とした、ブルーグラードの村人の魂の声。

 彼らは呪いをかけられた黄金聖衣を守り、邪神に抗い続けてきた人たち。

 その魂が今、窮地にある水瓶座の聖闘士を救うため、わずかな一時を借りて少年に伝えたのだ、反攻の手段を。

 

 カッ、とカミュの目が開かれた。

 邪神による絶対零度をも上回りかねない超低温の地獄の中で、カミュは静かに小宇宙を研ぎ澄ませる。

 

 

「今こそクールに徹し、冷徹な心で悪に対峙する時……我が氷の(おり)で再び眠りにつくがいい、邪神ボレアスよ──フリージングジェイル!!

 

 

 爆発させるのではなく、冷静に燃焼させる小宇宙。

 絶対零度に達せずとも限りなく近いそれをもって、カミュは束縛の技『カリツォー』と、氷の棺『フリージングコフィン』を重ね合わせた新たなる技を放った。

 『フリージングジェイル』は文字通りの、あらゆるものを凍てつかせる氷の監獄によって、グレイシアに憑りついていたボレアスの邪悪なる魂のみを封じることに成功したのだ。

 

 

「はぁ、はぁ……どうにか邪神は退けられたか。しかし……多くの犠牲をだしてしまったな……」

 

 

 氷原に、ブルーグラードの村人たちに加えて、新たにグレイシアの遺体も増えてしまった。

 もとよりボレアスに憑依された時点で、おそらく彼の命も潰えていただろうが、それでもカミュの心にはやるせない思いが通り過ぎていった。

 

 

「あらためて誓おう。この時代の黄金聖闘士として、救えなかった者たちのためにも──もっと多くの人々の命を守るため戦い続けることを」

 

 

 きっと、それが死んでしまった者への償いになると信じて。

 

 そしてボレアスは封印できたが、いまだ邪神の呪いは水瓶座の黄金聖闘士に宿ったままだ。

 小宇宙を全開にまで爆発できないという枷を負ったカミュは、これからの戦いでは常にクールに徹して、静かに小宇宙を燃焼させることを自らに戒めるのだった。




 歴代の水瓶座の聖闘士の中でカミュだけが絶対零度に達してない、一番弱いんじゃ…とよく言われるのでその理由付けみたいな話でした。
 この作品ではカミュ本人は絶対零度が出せるけど、聖衣のデバフで本領発揮できないということにしています。

 水瓶座の黄金聖衣が呪われているというネタは星矢Ωから。
 まああっちはメディアのかけた呪いなので矛盾してますけどね。
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