地上の愛と正義を守る闘士、
その中でも最強の実力を持つ
「まさか、聖闘士の任務で
「そう言うな、これもいい経験になる」
座席の窓の外にひろがる世界は真っ黒で、小さな光の粒が点々とまたたいている。
二人の後方には、彼らからは見えないがきっと──青く輝く
「聖闘士の力の根源──宇宙に、聖闘士の俺たち自身がでてくることになるとは……」
「仏、いや……
冗談めかして話すデスマスクとアフロディーテ。
彼らは今、一機のスペースシャトルの中で談笑しているのだ。
事の起こりは数時間前。
聖闘士の頂点である教皇が、突如として「邪悪なる
──『敵』がくる──
そして、その敵とは……我々が住むこの宇宙の「外側」に存在する者──。
デスマスクとアフロディーテの両名は教皇の緊急招集によって、この
聖闘士を要する地上防衛の要「
NASA──航空宇宙局のサポートをえて、二名の黄金聖闘士を宇宙にまで輸送する事態となる。
「俺ら以外のほとんどの黄金聖闘士は、まだなりたてのガキばかり……他の奴らにゃ、今回の任務は荷が重いってことか」
やれやれ、といった風に肩をすくめて納得の姿勢を見せるデスマスク。
本来の聖闘士の戦う相手は、地上に存在する様々な神々と、その先兵。
「今度の敵は、外宇宙という我々にとっても未知の領域だ。気を抜くなよ、デスマスク?」
「わかってるって。まぁどんな奴が来ようが、黄金聖闘士ふたりの敵じゃないだろうよ」
それがどのような相手だろうと、敵であるなら容赦せず葬れるのがデスマスクという男のもつ強さ。
そのことを理解しているアフロディーテは、それ以上なにも言うことはなかった。
と、シャトルの機械からけたたましい警告音が響き始める。
パイロットが慌てたように叫ぶ。
「お、おい! あんたらが言ってた
シャトルパイロットの指さす先、数十キロの先にまたたく光点が次第に大きくなっていく。
光の点がなんなのか気づいたパイロットは、さらに声を大きくした。
「ありゃ隕石じゃないか!? し、しかもデカいぞ! 百メートル以上はある!!」
「普通の隕石じゃねぇな。見るからに邪悪な小宇宙がまとわりついてやがる」
「うむ。おそらくアレは、『外なる者』の乗り物のようなものだろう」
あわてるパイロットを余所に、デスマスクとアフロディーテは冷静に状況を分析する。
隕石が乗り物であるとするなら、そこには搭乗者がいるはず……。
「おい、あんたはどっか離れたとこに避難してな」
「え、ちょっと、どうするんだい!?」
「外に出て、奴を迎撃する」
「生身でか!? 宇宙服を──」
「俺たちには必要ねぇ」
パイロットの静止を無視して、デスマスクとアフロディーテは搭乗ハッチへむかった。
共に持ち込んだ聖衣ボックスがそばにある。
箱が自動的に開かれ、眩い光と共になかから黄金のオブジェが姿を現した。
金属音と共に二つのオブジェは分解し、それぞれがデスマスクとアフロディーテの体に装着される。
「……信じられん……」
パイロットは呆然と、
「小宇宙と聖衣によって守られているとはいえ、真空で体が持つ時間はそう長くはないぞ」
「わかってるって。そんじゃあ、さっさとお仕事をはじめようかい?」
「やるのは私だがな──『ピラニアンローズ』!!」
向かってくる巨大隕石にむけて、アフロディーテは魚座のもつ技の一つを放った。
黒薔薇は、触れたものを噛み砕くように消滅させることができる。
一度に放たれた数百本の黒薔薇は、今のアフロディーテの手持ちすべて。
苗床のないこの真空の世界では、新たに薔薇を生みだすことは不可能。
「やったぜ! 黒薔薇が隕石を削っていくぞ!」
「……いや、見ろ! 中から人影が現れた!?」
はやくも任務達成かと浮かれるデスマスクだったが、アフロディーテは新たに沸き上がった邪悪な小宇宙を察知する。
砕かれた隕石の内から、一体の人型のシルエットが闇の中に浮かぶ。
それは真空の宇宙よりさらに黒く、暗い闇色の鎧をまとっていた。
「貴様らが噂に聞く、アテナの黄金聖闘士か……」
「お前は何者だ──!?」
アフロディーテの問いに、闇の人物は高らかに名乗りを上げる。
「我は混沌の眷属……『スタースポーンのゾシアン』! 地球に封印された我が主を目覚めさせるため、遥か宇宙の果ての闇黒星よりやってきた!!」
腰はタコの触手を思わせるアーマーでおおわれ、背にはコウモリのような翼が生えている
「ゾシアン……海の底で眠りについているという邪神──『
「貴様ら地球の人間は、混沌──『
「おっと、そいつは聞いちゃいねえぜ! 名を呼ばれると面倒なことになるらしいんでなぁ!!」
ゾシアンの口をふさごうと、デスマスクは宙を蹴って殴りかかる。
敵は背の翼で華麗に回避するも、移動した先にはアフロディーテが待ち構えていた。
「敵が人間でないなら手加減の必要はないな──受けよ! 致命の白薔薇、『ブラッディローズ』!!」
アフロディーテが撃ちだした一輪の白薔薇──隠し持っていた最後の一手──は、彼の手から離れたが最後、かならず相手の心臓に命中する。
そしてひとたび刺さった白薔薇は、体内の血をすべて吸い尽くすまで抜けないという。
「グッ……!?」
「ブラッディローズは必中必殺の一輪。いかに邪神の眷属といえど、抜くことはできん」
白薔薇は確実にゾシアンの心臓に突き刺さっている。
しかし……
「フッ……フハハ」
「な、なにぃ!? ブラッディローズを受けて死なんだと……!?」
「我は人ではない。つまり心臓も持たず、限りある命も持たない者──」
その者、
ピスケスの聖闘士がもつ究極の一撃ともいえるブラッディローズが通じないという事態に、アフロディーテは一瞬の衝撃に見舞われた。
その隙をゾシアンがつく。
「デモンズマリオネット!!」
ゾシアンの両手、その五指から伸びる糸がアフロディーテの体に接続される。
アフロディーテはうめきを上げながら、なぜか敵を無視してデスマスクに攻撃をしかけてきた。
「おい! どうしたアフロディーテ!?」
「無駄だ、貴様の声は届かん。ピスケスは我が『デモンズマリオネット』によって、意のままに動く操り人形となったのだ」
「なんだとぉ?」
まさに
デスマスクも、仲間が相手とあってはうかつに手が出せないのか、防戦一方だ。
「フハハ! すべての聖闘士のなかでも最も邪悪な心をもつと言われる貴様でも、身内には甘いようだな」
「ケッ! アフロごとお前を倒してやってもいいが、俺らは大事な聖戦を控えてるんでな……無駄に戦力を減らすわけにいかねぇんだよ」
それに、とデスマスクは言葉を続ける。
「手前みたいな邪神の下っ端相手に、そこまで手間をかけるほど俺らもヒマじゃねえんだよ──!」
先に嘲笑してきたゾシアンにたいして、最大限のイヤミを返すところがまさにデスマスクだ。
しかしデスマスクとアフロディーテでは両者の実力は伯仲であり、このままでは打開策にかけるのも事実……。
その時だ。
だしぬけに横合いから、大きな鉄の塊が突っ込んできたのは。
「な、なにぃ!? これは……ッ!?」
「シャトルが……!?」
デスマスクの呼びかけで退避していたはずのスペースシャトルが今、二人の窮地を見て舞い戻ってきたのだ。
パイロットはシャトルを操作して、敵であるゾシアンに体当たり。
アフロディーテにかかっていた操り糸は、操者の意識が反れたことで千切れた。
しかし──金属製のシャトルは小宇宙で守られているゾシアンの体に、直接的なダメージを与えることは叶わなかった。
対してシャトルの前面は大きくひしゃげ、パイロットの男は宇宙空間に放り出されている。
彼の頭部を守っているはずのシールドは無残に砕け……。
「フン。ピスケスを救いだすために闘士でもない男が命を投げ出すなど、なんとも愚かなものよ!」
命を落としたシャトルパイロットの勇敢な行動を理解しないゾシアンの
アフロディーテは、真空を漂う男の亡骸に黙とうをささげるように目を閉じた。
「自らの命をもかえりみず、他者を救う人間のおこない……その心こそがこの世で最も美しい、『美の究極』──」
「くだらん! 我ら神にとって命など、掃いては捨てるちり
「……それを理解できない貴様に、私たちの地上をくれてやるわけにはいかん。命を賭した彼のため──その気高き美に敬意を表して、ゾシアン! 貴様を討つ!!」
アフロディーテの体から黄金の闘気が立ち昇る。
大宙にまたたく彼の守護星座である魚座も、共鳴するように輝きを増した。
対するゾシアンは余裕の構えだ。
なぜならアフロディーテが今、武器とする薔薇を一輪も持っていないと知っているから。
「お前も気づいていよう。この真空では手持ち尽きたいじょう、これ以上薔薇を手にすることはできんと」
「侮らないでいただこう、私が薔薇にばかり頼っていると思うなど」
「なんだと……? まさか、ピスケスの聖闘士に薔薇をつかう以外に攻撃の手段があると言うのか?」
「その通りだ。受けよ、我が拳による闘技を! ピラニアンズファングバイト!!」
ピラニアの牙のように指を突き立てたアフロディーテの腕から、黄金の魚の群れのオーラが敵に向かう。
魚群はゾシアンの体にまとわりつき、その肉体を彼のまとう鎧ごと噛み砕くようにして破壊していく。
邪神の眷属とはいえ、今のゾシアンは肉体をもってこの世界に顕現している。
そのボディが、アフロディーテの放ったピラニアのオーラによって食いちぎられ、肉片が暗黒の世界に散っていった。
「むぉおおお!? し、しかしこの程度の攻撃で、我が肉体を破壊しきることはできんぞ!!」
「どうやらそのようだな。さすがは邪神の眷属だ、回復力は我々の常識を逸脱している」
アフロディーテの言うように、ゾシアンの体は破壊されながらも、噛み切られた部位から即座に再生をはじめていた。
今は拮抗しているが、やがて破壊より再生の方がいきおいを上回るかもしれない……。
「強力な生命力によって食われながらも肉体が再生していくなら、より強大な力で徹底的にぶちのめすしかない……ってことだな」
「あとは頼んだぞ、デスマスク」
アフロディーテに代わって、蟹座のデスマスクが前面に立った。
デスマスクの背後に、彼のもっとも得意とする小宇宙の技──散開星団「プレセペ」のりん気が立ち昇る。
「キャンサーの冥界波は、相手の魂を直接あの世へ送り込む一撃必殺の技と聞く……しかし命を持たぬ私にとって、冥界波はなんの意味もなさんぞ!?」
「手前みたいな面倒な相手は、冥界送りなんて優しい手はつかわないぜ」
「……では、どうするつもりだ」
「この技はあまりにも破壊力がありすぎて、地上じゃ使うなと教皇じきじきに禁じられていたんだが……
頭上につきあげたデスマスクの指、その先の空間がひずむように歪んでいく。
大きすぎる彼の小宇宙が、この世に
不吉な気配に、さしものゾシアンも体中から冷やせが出るのを止められず叫ぶ。
「なんという圧倒的な小宇宙……! 貴様、いったいなにをするつもりなのだ!?」
「手前の魂をブチ砕いてさしあげるんだよ! 受けな、積尸気
空間のゆがみから、赤黒いマグマのような燃え盛る岩塊……否、大地の一画が出現した。
大地はこの世ならざる異様なオーラをまとい、まるで亡者の
これはまさに──ゾシアンが悲鳴めいた叫びをあげる。
「ば、バカなぁ!? 貴様は……『地獄の一部』をこの世にひきずりだしたというのかぁーッ!?」
真空の宇宙を揺るがす大破壊は、邪神の眷属『スタースポーンのゾシアン』の肉体を完膚なきまでに……その魂すらも跡形もなく消滅させるに足る大技だった──。
「これにて任務完了、か。楽な仕事だったな、アフロディーテよ」
「黄金聖闘士が二人も出撃したのだ、それも当然だろう。しかし……」
「あん? どうしたってんだ?」
「『C』の復活を目論む『外なる物』は排除したが……いぜんとしてCそのものは、地球の海底で眠りについたままだ」
「……いずれCそのものが目覚める時がやってくる、ってか?」
「おそらくな。我々の
「……考えたってしょうがねえさ。とりあえず今は──」
地上に帰還できる準備が整うまでのあいだ、宇宙遊泳とでもしゃれ込もうぜ。
デスマスクはそう言って、のんびりとその身を無重力の海に漂わせるのだった。
ずいぶん前に、「デスとアフロのコンビが宇宙で隕石を迎撃する」という夢をみて、それをベースに話を考えました。